40 夜の残骸 見つけた足跡
警察がひとしきりなめつくした現場に到着したのは、津久田から電話連絡を受けてすぐのことだった。ちょうど出勤するところだったのですぐさま車に飛び乗った。
午前中は弱い津久田は、ほとんどその呼吸のすべてをあくびに依存しているようだった。先刻からひっきりなしに、場を考えないあくびをかみころしている。
だいたいの状況は説明を受けないでも分かった。
現場の窓に小さな穴が開いている。その周りにクモの巣のようなひび割れ。床には数滴の血痕。
「拳銃で撃たれたんだ」
断定形で刑事が言った。ひどく無愛想だった。
こういう仕事は管轄を選ぶ。まして防衛庁の人間が出しゃばってきたら良い顔はしないだろう。
君国はできる限り誠意のあるような顔を作って尋ねた。
「撃たれた人間はどうなったんです?」
「どうもなってやしないと思うね。こんだけの出血じゃ死ぬわけはないだろう」
「思う? だろう?」
刑事は君国のほうをふり返った。
「撃たれた人間はどっか行っちまったのさ。もちろん撃った人間もね」
「じゃぁ、通報は誰が?」
「近所の酔っ払い。どうも話の要領がよく分からないんで最初はいたずらだと思ったんだが、ひとり出張ってた奴をまわしてみたらこれだ。もっとも被害届は出ないだろうから、事件としての立件はできないな。そのうえ通報人の話は要領が得ないときてる」
彼の説明の仕方はひどくぶっきらぼうだったが、説明をすること自体はさほど大儀そうでもなかった。
通報は今朝未明、この通りを通っていた酔っ払いが携帯電話からかけてきたものだった。
彼は深夜にかけて飲んでいた酔いをさましているうちに車の中で眠ってしまい、銃声で起こされたらしい。
一発目は夢うつつ、不明瞭でよくは分からなかったが、二発目は向かいのビルの窓が少し開いて、そこから銃身らしきものが見えていたという。ただ、かなり暗かったためどういう人間が撃っているかということについてはよく分からなかったらしい。
それに驚いて通報しようとしたところ、向かいのビルの入口を塞ぐように止まっていた車が「逃げるように」エンジンをかけて走り去っていったということだ。