39 長い夜の終り
私達は部屋の中から手に持って運べるだけのものを持ちだして、それをランドクルーザーに乗せた。マンションについてから出ていくまで三十分もかからなかっただろう。
朝日はまだ地面にくっついていて、人影もやっとぽつりぽつりと出て来たというところだった。
荷物はほとんどなかった。
持ちだしたもののほとんどが、トワとシンヤの仕事の特殊性から所持している、このトウキョウでは見つかってはいけないものの類で、それ以外は服であろうと食べ物であろうと、身元が分からないものはすべて置き去りにした。私は靴だけを履いた。
カードの類はナンバーを控えられているかも知れないというトワの言葉ですべて処分し、すぐに盗難届けを出して仮ナンバーのカードを作ることにした。
「さて、どこに行こう」
ランドクルーザーの運転席でトワが静かに言った。
「多分、この騒ぎを起こした後だもの、ホテルや賃貸マンションには網が張られているわね」
「いったん郊外に引っ込んだほうがいいかしら」
「そうね」
私がトワに近付くための口実として使った護衛という依頼が、ここに来て現実のものとなってしまった。
キョウは私とトワを殺そうとしている。そしてファイルを探している。
ただ、今最初と変わっているのは、私がすべてを思い出しているということだ。すべてを思い出した上で、私が兄の書いた告発文を手に入れようとしていることだ。
これは私以外誰も知らない。
この境界条件はトワとシンヤには知られていない。
警察だって犯人を捕まえるためにはマスコミに流さない情報がある。誰も知らない少しだけの優越に立つことが、これからの展開を有利にするにではと考えた。
私は拳銃を使える。トワとシンヤと同じところで訓練したのだから。
そして、まだあの拳銃を持っている。
車は南に向かっていた。どこ行くあてもないのに。
冷たい太陽が昇ってきて私達三人の横顔を照らした。ひどく長い夜がやっとのことで終わったのだと告げているようだった。