33 反射 手を引く
どくん……
とっさに私は、差し出されたシンヤの手を引いていた。体の大きな彼を引き込む、自分でも異常だと思うほどの強い力で。
そのまま引き込んで、二人で壁の影に倒れこむ。
シンヤの下敷きになって、私は肘を床にぶつけた。熱い感触が腕を襲う。
シンヤのティーシャツの中から、反動で刃のむき出しになったナイフがこぼれ落ちた。
そのすぐ頭の後ろを銃弾が通過する。
サイレンサーをつけてあったのを見た気がしたが、ほとんど銃声は消えてはおらず、コンクリートの塊の中で大きな銃声が響いて耳を麻痺させた。
「なにっ?」
シンヤが小さく叫んだのを聞いた気がした。状況がよく分からないのはこちらも同じだった。
しかし、考えるよりも前に拳銃を胸に構えていた。
隣の部屋で、男はきっとまだこちらに銃口を向けているはずだ。初めの一発以上は連続して撃つ気がないようだった。
息をひそめる。やっと自分の鼓動が帰ってきて、今さらながら大きく私に何かを訴えかけている。
私の上から起き上がって、シンヤも腰から拳銃を取り出した。気配を消している。
私も体勢を整えた。
彼の銃口はどちらを向いていた?
私か、シンヤか。
彼はどちらを狙った?
こつこつこつ……わざとらしい足音をたてて、彼はこちらに近付く。ひとりのようだ。
私の視線は部屋の中を一巡して、出口を探す。
部屋の対角線上に、非常階段へと通じるドアがあった。多分あそこは開いている、開いていなかったら非常階段の意味がない。
ただ問題は、そこに駆け込むまでに扉のないドアの前を通り過ぎなければならないことだった。
追跡者の格好の獲物となる。