31 近づく足音
奥の部屋に入って壁に背を向けて、闇に目を慣らす。
壁に背をつくと、冷たさが骨の芯まで滲みこむようだ。
ポケットをさぐって拳銃を出した。自分が一番初めに覚えた、大きな拳銃だった。
もう一度、弾が装填してあるのを確認して、安全装置をはずす。それを左手で握り締めた。
きっと、すぐ来る。
きっと、すぐ終わる。
心臓の鼓動が早くなる。
誰かの足音が聞こえてきた。
遠慮がない。まったく気配を消そうとしていない。
私がここにいることが分かっているんだ。
ざっざっ……、スニーカーで、わざと足音をたてているようだ。あるいは自分がここにいることを私に知らしめるかのように。
近く、この階に到着する。近い。
私は銃を少しだけ持ちあげた。でも多分撃たないであろうことは分かっていた。
近付いてくる。この部屋の壁の向こうにいる。
彼は、少しだけ壁の向こうで息をためているようだった。
しかし、あからさまにこちらに銃を向けてくると思っていた私の予想は大きくはずれた。
男は拳銃に手もかけず、静かに部屋に入ってきた。
薄暗くてよく分からない。でも後ろからかすかな光を浴びている。
私は銃を下ろすと呟いた。