29 胸騒ぎ
がんっという大きな音がした。
一拍だけ時間をおいて、それから室内に転がり込む。
シンヤの部屋と比べてトワの部屋は向かいのビルからの明かりでかなり明るかった。
照星を真っ直ぐ向けて、視線だけが部屋を巡視する。
足元に何か転がってきて、うつむいてそれを見ると、それは自分の口紅だった。その来た先を視線でたどる。
マニキュアやコロンの瓶が転がっていて、そのすべてがビルの明かりに照らされて、宝玉のように輝いている。抱え込んでいるのはベッドのスプリングマット。
それらは皆ベッドの上に転がっていて、そこにコトコはいなかった。
代わりにドレッサーの引き出しの残骸が眠っている。
それはトワがコトコの持っていた拳銃を隠しておいた上げ底の引き出しだった。
もう一度室内に視線を巡らせて誰もいないことを確認したあと、トワはベッドに近付いた。
あの日と同じように開け放たれた窓からかすかな風が吹いてきて、トワの長い髪をさらった。
引き出しの中には何も入っていなかった。コトコが拳銃を持ちだしたようだった。
拳銃を持ちだす?
嫌な予感が背筋を這って流れていく。
自殺? ……いや、そんなことは考えられない。
思い出したのか、無意識に行動しているだけなのだろうか。
だとしても、決してよい方向には進んではいない。
どこへ行ったか。
多分、私なら……
拳銃に安全装置をかけてスカートの間にはさむと、シンヤの部屋から勝手に持ってきた大きなジャケットをはおって、トワは外に出た。
シンヤのジャケットに車の鍵が入っていることを確認して、トワは駐車場におりた。シンヤは車に乗っていってはいない。
この時間にもなれば、盛り場から帰宅する人間が多く、路上もすいているだろう。
あとは路上駐車でもなんでもすればいい。
ランドクルーザーのドアを引き開けて、乱暴にトワは飛び乗った。
エンジンをかけると勢いよくアクセルを踏みこんだ。