28 足音を消して
風で戸が大きくゆれる音を聞いて、トワは目を覚ました。
いつの間にか眠っていた。少しだけ不快な汗をかいている。
多分、ほんの少しうたた寝をしていたにすぎないだろう。
かすかな戸の動く音。かたかたかたかた……
トワはソファから立ち上がって、滑るようにダイニングのガラス戸に近づいた。握ったままでいた拳銃の安全装置をはずして、スプレッサーのついたそれを強く握り直す。
目が冴えていた。耳も澄ました。すべての感覚を解放した。
シンヤの寝息が聞こえない。
いつもと違う不安を覚えて、拳銃を握り締める手に汗を掴む。
息を殺して、顔半分だけ出して廊下をのぞき込む。
二つの部屋の扉と玄関が見えた。朱い光が玄関の上の小さな電燈から発せられて、状況に似合わない安っぽい幻想を住人に提供していた。
すぐ前の玄関をのぞき込む。
シンヤの靴がなかった。
トワが履いていた小さなスニーカーは、そのままそこに残されていた。
かたかたかたかた……
視線を動かすと、トワの部屋のドアがゆれていた。まるで何かを恐れているように身を震わせている。
足音を消してスイッチまで近付いて玄関の光を消し、十分に目を慣らしてから、まずトワはシンヤの部屋のドアをゆっくりと開けた。
彼の部屋は真っ暗だった。もちろん誰もいない。
ほとんどもののない殺風景な部屋の中に、整頓されていないベッドがそのままになっていた。
几帳面な彼には珍しいことで、慌てて出ていったことが伺える。
窓辺に近付いてカーテンを開け外からの光を入れても、その部屋がただの箱になっている様子を知るだけだった。
トワは息をついて静かにその部屋を出ると、今度は自分の部屋に近付いた。
かたかたかたかた……
一瞬だけどうしようか迷ったが、これだけの音がすれば万が一コトコがこの部屋の中にちゃんといても起きてしまっていることだろうと判断して、大きな音をたてることを自分に許容した。
息を吸って、止める。
胸元に拳銃を構え、いつでもすぐに差し出せるように用意する。
左手でドアノブに手を当て、それからいっきに引き落としてドアを引いた。