27 裸足の彷徨
ズボンのポケットに入っている拳銃は、あまりにも自分には重すぎる。
二発の弾の行方が、あまりにも自分には重すぎる。
失っていた時に得たものと、失っていない時に得たものの重みの総和が、あまりにも自分には重すぎる。
私はトワを殺そうとしていた。
私はトワを殺そうとしていた。
私はトワを殺そうとして、兄が告発しようとしていた組織に無知にも所属してしまった。何も知らないままに訓練を受け、銃の扱い方を覚えてしまった。
組織から情報を得、小暮の名をかたって近付いて、トワを触発した。
あの日、藤堂という男と会うというトワのあとについて、新橋のビルに行った。
そうして、兄が婚約していた小暮ミクであるトワを殺そうとしていた。
彼女を兄の仇だと考えていた、大いなる過ちに基づいて。
あの日。
兄の命日。
すべては起こってしまった。
私は自らが甘えによって無駄にした三年分の人生すべてを否定した。
トワが殺していないことを知り、誰がそれをやったのか悟った。
だから忘れた。すべてを忘れたような気になっていた。
エレベータのドアが開く。
私のことを解放してくれているようで、じつは単に自分の体内にとどめておくことを拒否したようでもある。
まるで慣性のように、私は無意識にそこから一歩踏みだしていた。
ロビーは薄暗い。当然のことながら、こんな夜中には誰もいない。
誰もいない。
ひとり。
ここからは暗くて長い道を歩かなくてはならない。
だが、追ってくる人間はこんな閑静な住宅街で私を殺しはしないだろう。
彼には分かっているはずだ。
私がこれからどこに行こうとしているか。
多分、彼はそこで私を殺すつもりだ。
川嶋のファイルにもう一度関わろうとしている、すべての人間への警告のために。
なにより、私を守ろうとしていたトワへの警告のために。
私には捜索願が出されているはずだ。今さらどこかで死んでいたとしても、誰も驚かないだろう。
ファイルは……誰のものになるんだろう。
秋の冷たい夜気がティーシャツの中に滲みこんでくる。
耳にかかる髪の感触。シンヤが切ってくれたんだった。
首筋に当たるはさみの感触を思い出していた。
背筋に緊張が走る。
お兄ちゃん……、
なるべく自分の時間を稼ぐようにゆっくりと歩いた。
靴のない足が痛い。
お兄ちゃん……、
繁華街までの長い道のり。
トワを殺そうとして歩いていた時よりも、ずっとずっと長く感じる。
体が重い。
頭が重い。
ただひたすらに見つめていた地面が滲む。
……?
涙があふれていた。
静かに。
こんな泣き方お兄ちゃんみたいじゃないか、そう思って笑えてきた。
ただただ静かで、涙の気配さえしんとしている。
私は笑いながら夜道を歩いた。
お兄ちゃん、
私はこれからどうすればいい?