25 記憶
あの日の感触を思い出していた。
トワのドレッサーの引き出しを開けた。採光は倦んだ近隣のビルの明かり。
引き出しにはそれほど多くない幾つかの化粧品が入っていて、私はそれをベットのマットの上に、音を立てないようにすべて空けた。
引き出しの底は上げ底になっていて、底の薄い板を外す。
ビルから入ってくる屋上の朱い光が、じんわりと引き出しの底に入っていたものを浮かび上がらせた。
大きな拳銃。
ブルーノCzM75、私が持ってきた拳銃だ。
握った時、心臓が跳ね上がるように音を立てて、一瞬だけ声を上げそうになったのだけれど、かろうじてそれを飲みこんだ。唾を飲みこむ音さえ、大きく感じる。
音を立てないように細心の注意をはらって弾倉を抜き出し、弾数を確認した。
十四発。
完全に装填すれば十六発入るはずだった。しかし、目黒のビルで襲って来た男に反撃するために二発使ってしまっていた。
確か一発は彼に当たったのを見たはずだった。二発目は空を切っただろう。
トワとシンヤのことだ。どこかに同じ大きさの弾を隠し持っているだろう。
しかし、探しているだけの余裕はなかった。
あるいはこんなものは必要ないのかも知れない。
だが、すべてのことを忘れていた時間は長い。
自分のいた組織が、私のこの行動を裏切りと受けとって始末しに来ることを警戒していた。
布団にくるんで音を消し、静かに弾を装填した。
安全装置をかけて、ズボンのポケットに入れる。
闇に目が慣れて、かすかな明かりが大きく映る。ビルの朱い光。まるで非常灯のようだ。
窓に歩み寄った自分が、同じ窓に近寄って来て対峙する。
どこへ行く?
彼女が尋ねる。
さあね、私は笑って答える。
どこに行こう。
できれば、自分のこの三年間の甘えを制裁するだけの静かな場所に行きたい。
そうできればいいね、ガラスに映った彼女が言う。
私は窓枠に手をかける。