21 君はどこに
「だとしたら、小暮ミクよりも川嶋コトコを先に探す必要がある」
「で、これです」
津久田は役所内の検索用パソコンではなく、外部とネットしているもう一台のパソコンを使って、自分のメールボックスに接続し、画面いっぱいにひとつの文書を表示させた。
「昨日情報屋から送られてきたテキストに添付してあった資料なんですが、」
送り主は『099』、テキスト資料の内容は一枚の契約書だった。
「キャッシングサービスの契約書?」
名前の欄を見ると、達筆な字で小暮コトコと記入されていた。
「コトコ……小暮コトコ」
「これは、藤堂の事件の三日前に作られたものです。住所も電話番号も実在はしますが、まったくあかの他人のものです。それはまぁ、警察の管轄ですからいいとして、ここ……」
津久田が指し示したのは仕事の欄であった。
エドガワ重機、電話番号は都内のものだった。
「こりゃ……中埜貿易の幹部と思われている武石とかいう男がつくった幽霊会社のひとつだな。公安がそれとわかって泳がせている……」
「これを送られてきて驚きました。それでコトコちゃんのことを思い出して、慌てて彼女のことを調べてみたら、何年か前に失踪している。だから気付いたんです。コトコちゃんは武石のところにいるってね」
「藤堂を殺したのもあるいは……」
「かも知れません」
慎重に言ってのけた。
だとしたらシナリオは最悪な方向へ向かっていることになる。中埜貿易に操られている川嶋コトコが、兄の作成した資料を組織に渡している可能性もあるのだ。
「このカード、藤堂が殺された日に一度だけ使われています。目黒の支店からです」
「あの地区のアパート、マンション、ホテル、レンタカーの利用者。10月4日以降、すべて当たってみよう」
「今、あの地区は閑静な高級住宅街ですからね。そうは多くないはずです」
小さい体で何台ものパソコンに対峙している津久田を見て、やはりこいつには俺にないものがあると実感する君国だった。足には自信があるが、足だけでやっていくのは今やオールドファッションだなと自虐的に思いながら。
それから君国は独り言のようにさりげなく呟いた。
「もし……コトコちゃんが藤堂を殺していたら……俺達はどうすべきなんだろうな」
「それは……警察の仕事ですから……」
津久田も曖昧に答えた。
彼もかつての同僚の謚について人知れず思案しているようだった。