19 消去の痕跡
「やっぱり死んでますね。すべての資料から『死亡』を理由に消去されてます」
「最後の住所は?」
「トウキョウ都内。でも、これは3年前のものですから。逃亡していたってことは自分の生きている証しを消そうとしていたってことで、そうなるとそいつが死んでから足跡たどるのは容易なことじゃないですよ」
津久田がデスクからふり返る。
「でも、藤堂と接触しようとしていたんなら少なくとも10月4日は都内にいたはずだ」
「ホテル、レンタカー、公共交通機関……あげていけば切りがないですよ」
「死亡届はどこからでている?」
「無記載です。多分、藤堂がやったんでしょう」
「中埜貿易のファイルを渡し、小暮ミクの存在を消す。何の見返りがあって藤堂は行動したんだろう?」
「藤堂が何か見返りを求めて行動するような奴にはどうしても思えないんですが。真面目を絵に書いたような奴でしたからね」
「奴に限ってとは思うが……」
君国は煙草臭い息をついた。
小暮ミクに関する情報は、通常手に入る情報以外はほとんど何もなかった。
彼女は一般人だから当然なのだが、君国は明らかに落胆していた。
「情報屋には一枚かませてあるが、こっちは今のところ何も出ない」
「私のほうはひとつ」
津久田がパソコンの画面からふり返った。
思わせ振りな口ぶりだ。
「コトコちゃんは覚えてます?」
「コトコチャン?」
「川嶋の妹です。川嶋と二人っきりの兄妹だった」
「川嶋コトコちゃん……いたな。今どうしてるんだろう」
「捜索願が出てました」
「……何だって?」
「彼女、川嶋がトウキョウに来てもついてこなくて、田舎にひとりでくらしてたんですが、川嶋が死んでからすぐに捜索願が出されています。ほら、川嶋が死んだ時コトコちゃんまだ高校生でしたからね。今後の生活について相談するために市の職員が何度も彼女の家を訪問していたんですが、ある日突然旅行に行くって言い出して、それっきり学校にも戻っていないそうです。学校のほうでは、いちおう単位もすべてとってあったし出席日数もぎりぎりあったので、卒業ということになっているそうです」
「行き先も何も?」
「誰も心当たりがないと。初めはトウキョウに行くんだと皆考えていたようですが、兄のマンションが引き払われても帰ってこないということで捜索願が出されています」
「小暮ミク、川嶋コトコ、二人ともどうしちまたってんだ?」