17 混乱と弱さの行方
トワは静かな瞳でシンヤを睨んだ。
「……何をしたの?」
コトコの向かい、柔らかなソファに深く腰をかけたシンヤは眉をしかめた。
「トワ……」
「べつに責めているわけじゃないのよ」
優しい口調で、きっぱりと言う。
シンヤは両の手を握り締めた。諦めるように視線をそらす。口ぶりは怒っているようだった。
「あなたの婚約者のことを話したの」
「モトキのこと……」
口の中で呟く。
その名前を口にするのは、いまでも少し辛い。
ティーシャツにコットンパンツ姿のトワは、今しがたシンヤによって起こされたばかりだった。突然のことに目が冴える。
夕暮れが、まるで朝焼けのように見えた。
これからの時間が一番護衛の人間にとっては緊迫する時だった。闇にしっくりとなれた体の感覚が、緩慢さを誘う時間。
自分なら今を狙う。
キョウも多分そうだろう。同じところでその技術を学んだのだから。
シンヤは少しうなだれた。
「……ごめんなさい。軽率だったわね。でも……」
トワは回りこんでシンヤの隣に座った。
彼はじっとそれを目で追い、真剣な表情で彼女を迎えた。
「でも、このまま何も言わないのは優しさじゃないと思う。井和倉キョウが動き出した以上、何もしないではいられないのよ。私達だって、自分の身を守らなくちゃならない。そういう時にコトコが何も知らないままじゃ、いつか負担になる。彼女もわけが分からないまま死ぬことになるのよ」
二人並んで座って、確かこんなことが過去にあった。
三年前。モトキが死んだ時。
その時は、シンヤがひたすら冷静になってトワを助けてくれた。
今はその逆だ。
「あんたに死んで欲しくないのよ、トワ……」