16 私は過去と繋がっている
シンヤはそのまま最後まで洗濯物をたたんでしまうと、立ち上がった。いい匂いがキッチンのほうから漂って、沈黙を埋めた。
「……トワは、綺麗よ。私とは違う」
シンヤはぽつりと言った。立ち上がってこちらをふり返っている。
「私とユニットを組んでから、誰にも手を出してはいないわ。……それが聞きたかったんじゃない?」
「……トワとシンヤは、いつこの仕事を始めたの?」
シンヤの言葉を聞き流して私は尋ねた。
突然に冷たい気持ちが吹き上がる。
何故だか、トワが人を殺したか殺していないかと言った問答は拒否したくなったのだ。
鼓動がだんだん早くなる。聞きたくない聞きたくない小さく訴えているのは誰?
シンヤはため息をついて顔を険しくした。
「三年前」
真剣な表情で。
「……あの子の婚約者が死んだの。それから私と組んだのよ」
「婚約者……」
知っている、それが誰か。でも……
いやだ……、聞きたくない。
「あなたは覚えていない?」
優しくシンヤが聞いた。優しい優しい優しい目。私に見せるために作られた目。
しかし、その手は腰に回っているじゃないか、自分の中のどこかがそう思う。
彼の腰には拳銃がある、私はそれを知っている。
トワのパートナーとして互換性がある銃。大きな大きな。
彼の指がそれに触れている。見える。いやだ。
何故私が覚えていると考える?
何故考えることを心が拒否する?
何故自分の心臓はこんなにも早く打っている?
「トワの婚約者は、川嶋……」
それは拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶……
ソファが音をたてる。何故そんな小さな音がこんなにも耳につくのだろう。
自分の中の一番原始的な部分が唾をまき散らして何か叫んでいる。
しかしその言葉は一言だって聞こえない。ただの熱い感触だ。
シンヤの驚いたような目。優しい優しい優しい……
心臓の音が聞こえる。自分の感覚を覚ませる。
ソファの音をたてたのは自分だと気付く。
二つの視線が激しく宙をさまよう。
トワ……あなたはどこにいる?
オモイダシタラコワレル。
私は、ここにいる。
ここってどこ?
倒れる。
衝撃。
闇。