100 ヒトリボッチ
トワは車の鍵をとりあげた。
そこに絡まっていた小さな鍵が、手からこぼれ落ちる。
音もなくカーペットの上に転がり落ちたそれを、トワは拾い上げた。朝の薄暗闇の中、それを見つめる。ナンバーがついた小さな鍵。
思いたって、トワはシンヤの部屋を出た。
駆け抜ける廊下には、存在の足音さえ響かなかった。
自分の存在が悲しくて、エレベーターを待ちながら見つめる風景が滲んだ。
私は、何をしていたのだろう。
私は何故ここにいるのだろう。
生き続けることにそれほどの価値があったのか?
硝子張りのエレベーターに乗り込んで、それが完全に独立した部屋になると、夜の風景がまるで映画のように存在感を失う。
失われた重力も、生きている感覚を思い出す助けにはならない。
モトキ。
腰の拳銃の重みを確かめながら、トワは目をつむった。
戻りたい。
あの日、四人で映画を見たあの時に、戻りたい。
戻りたいよ。