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堕ちた勇者がすくうモノ  作者: かにみそ
第一章「二人目の勇者が堕ちるまで」
9/27

王国編-9

9話目です!


ところでブリトー美味しいですよね。

アレはまじソウルフード。


朝ブリトー、昼カップ麺、夜ブリトー。


病気になりそう…。


※1月9日 加筆修正。

その日は唐突に訪れた。

深夜いつも通りベッドに潜り込んできたアンに困り果てていると、階下から物音が聞こえた。

様子を見に下に降りると、奴らがいた。


―――黒衣の者たちが一斉に優也に襲いかかる。


「『影よッ』」


武器を持っていないことに気付いた優也は咄嗟に闇魔法を詠唱する。最早愛着すら湧いてきたワラスボモドキに頼もしさを感じつつ、黒衣の斬撃を避ける。

後方の数名が闇魔法によって腕や足に損傷を受けた。

前回対応できなかった術に対応していることを見ると、対策はとってきているようだ。

しかしそこで優也にとって不測の事態が起こる。


優也とは黒衣の連中を挟んで反対側に位置する階段より、アンが降りてきたのだ。


「ユーヤさん?何かあったの?」


眠そうに目を擦りながらアンが言うと、黒衣の者の一人がアンにナイフを向ける。


「え―――?」


「アンさん!!」


未だ状況が飲み込めていないアンに、その刃が迫る。


「『影よッ』」


優也の呟きに、黒衣を襲っていたワラスボモドキたちがピクリと反応する。そして優也は続ける。


「『転じろッ…炎と化せッ!』」


追加詠唱。実験の末に辿り着いた優也の魔法は、失われた「合成魔法」を彷彿とさせるものだった。

優也のイメージ通り、辺りに広がる赤黒い炎は店の屋内を燃やさず、黒衣の者たちだけを燃やしている。


これが通常の火属性の魔法であれば、そのイメージが具現化されることはない。

しかし優也が使った合成魔法とも言えるそれは、意思を持ち、優也が浮かべたそのイメージを忠実に再現しているのだった。


身体を舐めるように燃え続ける炎に、黒衣の者たちは苦悶の声を上げながら店の外へと逃げていった。


「怪我はないですか…!?」


直ぐにアンに駆け寄り、怪我がないことを確かめる。


「う、うん。大丈夫…、でもあの人達は…一体…?」


不安そうに疑問を浮かべるアンに、何と答えて良いか頭を悩ませる優也だった。










その後、ガイルとローラも騒ぎに気付き起きてきた。

また助けてもらったと言ったアンの言葉を聞いて、彼らは優也にお礼を言った。


―――しかし、優也は心のなかで謝罪した。そもそもこれは自分が原因なのだと。



優也は、この家を、街を出ることを決意した。








この日、優也は普通に過ごした。

アンはいつも通り優也に甘えてきたし、ガイルはいつも通りぶっきらぼうな態度でアンと優也を冷やかし笑っていた。

そしてローラもいつも通りにそれらを眺めて優しく微笑んでいた。

どこか温かい味のする夕食を食べ、シャワーを浴びると、あとは寝るだけになった。


「一緒に寝て良い?」


「ええ、いいですよ。」


いつもは勝手に潜り込んでくるのだが、今日に限ってアンは不安げな表情でそう聞いてきた。


「ユーヤさん…。」


ベッドに入るとギュゥっと優也の身体を抱いて、今にも泣きそうな表情でアンは懇願する。


「…好き、私ユーヤさんのことが好き…だから…どこにも行っちゃ嫌だよ?」


「ええ、…どこにも行きませんよ。」


「約束だよ。」


「ええ、約束です。」


それから、お父さんは酒癖が悪いだとか、筋肉ダルマ―――グスタフが最近人助けをしただとか、特に意味のないことをだらだらと話した。気付けばアンはスヤスヤと寝息を立てていた。


何処にも行かせまいとしているかのようにギュッと優也の服を掴むアンの手を、優しく解く。


「ごめんなさい。アンさん…。約束は守れそうにありません。」


予め用意しておいた手紙を枕元に置き、優也は部屋を出た。


ふと、もしかしたらグロアラも、こんな気持ちだったのか?と残していく者の気持ちを感じて思うのだった。







階下へ行くとそこにはガイルがいた。


「行くのか…?」


「ええ、…。」


「…俺達のことを気にしてるってんなら、そりゃあ要らねえ心配だぞ?自分の家族くらい自分で守れらぁ。」


「…それでも、私は…。」


「そうか…寂しくなるな。」


「………。」


「アンのやつぜってぇに泣くぞ。」


「そう…ですかね。」


「ああ、ぜってえに泣くぜ。だからな―――。」


ガイルは優也に近づき、拳を優也の胸にトンっとぶつける。


「いつかちゃんと帰ってこいよ。そんときゃアンを嫁にくれてやる。」


ニカッと歯を出して笑うガイルに優也は震える声で礼を言った。













店を出てしばらく歩くと、街の端に大男が一人立っていた。


「水くせえじゃねえか…ガイルのオヤジに言われなきゃ見送りできねえとこだったぞ?」


呆れた顔でグスタフは言った。


「すみません。本当は誰にも言わずに去るつもりだったんですが…皆さん私の涙腺に何か恨みでもあるんでしょうかね?」


「はは。恨みはねえだろうぜ。あるのは感謝だけだ。」


「ですかね。」


「ああ、違いねえ。」


互いに笑い合った後、しばらくの間、沈黙が落ちる。


「それでは―――。」


「ああ、達者でな…あ、と、そうそう、あの一家のことは心配するなよ?俺が責任を持って守るからよ。つっても俺じゃあ心配か。」


苦笑いしつつグスタフは言った。

実のところ、それについて優也は最も懸念していたのだ。


「いえ、グスタフさんが守ってくださると言うのなら心強いです。これで懸念材料はなくなりました。」


殺された姉の為に領主を殺すほどの男だ。この男はやる時はやるだろう。


「テメェにそう言われると、俄然やる気が出てきちまうのが困ったもんだぜ…。」


続けてグスタフが唐突に聞いてくる。


「―――なぁ、テメェ、一体何をやったんだよ…そんなに強ぇのも疑問だが、あんな奴らに狙われるって―――あー、クソッ、いや、なんでもねえ…詮索はしねえよ…ただな、ぜってえに死ぬんじゃねえぞ?」


優也を睨み付けながらグスタフは言い放つ。


「テメェは俺の恩人だ。恩人を死なせたとなっちゃあ天国の姉ちゃんにドヤされちまうからな。だから―――死ぬな。死ぬんじゃねえ。んで、いつか帰ってこいよ。」


「―――ええ、分かりました。」


そして、優也は街を後にする。

再び優也が王都を訪れることになるのは、四年も後になるのだが、そのことを知る者は誰もいない。














***


アンは泣いていた。それはもう子供のように泣きじゃくっていた。


今年で一六歳になるアンは、今まで恋と言うものをしたことがなかった。


そんなアンはある日、王子様に出会った。

綺麗な服装をした軽装の青年。黒髪黒目の珍しい見た目の青年にアンは一目惚れした。

颯爽と現れ暴漢から助けてくれたあの時を思い出すと、今でも頬が熱くなる。


その青年はユーヤと名乗った。お父さんのお陰でユーヤさんは家に泊まることになった。

その晩私は一睡もできなかった。私の隣の部屋で彼が寝ていると思うと、ソワソワしてどうしても眠ることができなかった。


翌日ギルドに向かうユーヤさんを見送って、眠い目を擦りながら店の手伝いをしつつ、ユーヤさんの帰りを待っていた。

しかし何時になってもユーヤさんは帰って来なかった。

お父さんはそういうものだ、なんて言ってたけど納得できなかった。


翌朝、大通りに出ると、筋肉ダルマに担がれたユーヤさんがいた。その背中は血で真っ赤に染まっていた。

筋肉ダルマが何かしたに違いないと、直ぐに突っかかっていったが、筋肉ダルマの様子がおかしい。


どう見てもユーヤさんの身を案じているようにしか見えなかった。

とにかくまずはユーヤさんの治療が先だと思い、筋肉ダルマを連れて家に戻った。



ユーヤさんの意識が戻らない。


お父さんが持っていた薬を飲ませてから、大分状態は良いみたいだけど、不安で仕方がない。


家に運ばれてきてから二日後、やっとユーヤさんは目を覚ました。私は泣きながら喜んだ。心の底から安堵した。


―――でも翌日びっくりしたことが起きた。


ユーヤさんが魔物討伐に行ったらしい。昨日まで死にそうにしてた人がやることじゃない。

なんだか怒りを通り越して涙が出てきた。


ユーヤさんの前で泣いた。それはもう盛大に泣いた。


それからユーヤさんは家にいるようになった。

だから私はユーヤさんが居なくならないように、沢山甘えることにした。




でも、甘え方が足りなかったのかな?

―――ユーヤさんは居なくなってしまった。




ユーヤさんの残した手紙には私を心配する旨と、自分は大丈夫だと言うことが、大まかに書いてあった。


そして最後に感謝の言葉。



―――この街で、この世界でアンさんに出会えたことを、心の底から感謝します。ありがとう。




バカッ!ユーヤさんのバカ!約束したのに!!約束だったのに!!

今度会ったときは思いっきり怒って、甘えて、そして―――甘えさせてあげるんだ。


と、目を腫らしながらアンは決意するのだった。


***

読んでいただきありがとうございます!

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