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堕ちた勇者がすくうモノ  作者: かにみそ
第一章「二人目の勇者が堕ちるまで」
6/27

王国編-6

遅くなりましたが更新です!


※1月9日 加筆修正。

アンに案内されて辿り着いたのは、一軒の武器屋だった。


「どうぞどうぞ奥に入ってください!今お茶を用意しますので!!お父さん!!ちょっとこっち来て!!」


ニコニコと満面の笑みを浮かべてアンは、店内に居た父を呼びつつ優也を店の奥へと招いた。

アンは父親に先程までのことを説明しているようだった。


店の奥は住居スペースとなっているようで、入ってすぐに八畳ほどの部屋があった。


キッチンとダイニング、そしてリビングが一緒になった部屋で手狭だが清潔感があり、好印象を持った。


「えと、そう言えばまだ名前を言ってなかったですね。私はこの武器屋の娘で、アン・グレイシスって名前です。」


背の低い綺麗な金髪を頭の後ろで一つに纏めた、見た感じ一〇代後半の少女は名乗った。


「アンさん…で良いですか?お招き頂きありがとうございます。」


「あ、頭を上げて下さい!私が無理に誘ったんですから!」


頭を下げる優也に慌ててアンは言った。続けてアンの母が頭を下げる。


「本当に助かりました。この度はありがとうございました。全くこの娘ったら誰彼構わず噛み付くものですから…。」


「だ、だって私たち何もしてないでしょ?あの筋肉ダルマが悪いじゃん!」


「それでもあのまま助けて貰えなかったら…アンだって分かってるでしょう?―――あ、それはそうと、あの、お名前を聞いても?」


「はい。私はユーヤ・コーサカと言います。」


「ユーヤさん、ですか。珍しいお名前ですね。」


アンに目を向け母が言う。


「―――もしユーヤさんがあの場に居なければ酷い目にあっていたのよ?アンにも分かるでしょう?」


「だ、だって…。」


「だってもさってもありません!誰彼構わず噛み付くのはやめなさい!」


「うっ…。」


「ユーヤさんも言ってやって下さい…。この娘ったらもう…。」


アンの母は溜め息を吐きつつ優也に言った。優也はアンに視線を向けて言う。


「アンさん。世の中どんな輩がいるか分からないのですよ?もし怪我でもして傷が残ってしまったら―――その可愛らしいお顔に傷がついてしまったら大変じゃないですか。」


「―――ッ!ご、ごめんなさい。」


目を白黒させて真っ赤な顔でアンは言った。

俯くアンを尻目にアンの父親が言う。


「あー、なんだ。世話になったな…。武器が欲しければ言え、見繕ってやる。代金は要らんぞ?今回の礼だからな。」


「ちょッ!お父さん?!ユーヤさんに対してその態度!もっと丁寧に対応してよ!?」


「い、いや…丁寧と言われてもなぁ…。」


娘の剣幕に額に汗を浮かべつつアンの父は呟いた。


「いえ、畏まる必要はないですよ。あーと…その…出来ればで良いのですが剣を一本頂ければと…代金は後日きちんと払いますので!」


「今言ったばかりだが、代金は要らねぇよ。アンタにとっちゃあ大したことじゃないかもしれんが、娘と嫁の恩人だ。ちょっと待ってろ…今倉庫からそれなりのもんを持ってくるからよ。」


「い、いえ。安価なもので充分…あ、ちょ…」


「もう!お父さん!ユーヤさんを無視するなんて!もう!―――ご、ごめんなさい。ユーヤさん。すぐに戻ってくると思うので…。」


暫くすると、三本の剣を持ってアンの父が戻ってきた。


「待たせたな。―――さて、まずはこの剣だ―――」


そう言って取り出したのは、光沢の強い刀身を持ったシンプルな形の剣。鍔の部分には深い赤の宝石が埋め込まれている。


「この剣は魔力伝道率がいいミスリルを使用していてな。この石もただの装飾じゃあないぞ?火の加護を持った精霊石だ。火を付与して扱える剣だ。」


精霊石。それは魔素の溜まりやすい土地で長い時を経ることで、その石自体に属性が生まれる現象。そしてそれにより出来る希少性の高い石のことである。


「次はこいつだ。」


そう言って取り出したのは、両刃の大剣。複雑な装飾がされた、刃先が薄黒く見える剣だった。


「こいつは曰く付きの剣なんだが、切れ味はピカイチだぜ。呪いがかかってるわけじゃあないんだが…こいつを貰った時に、この剣を振るったヤツは、どいつもこいつも漏れなく酷い目にあってるって話を聞いてな…まぁただの偶然だと思うがな。でもな、こいつは凄まじいぜ?分かるだろ?」


確かにこの剣は凄い。剣本体から魔力を感じるのだ。この剣は魔剣だ。扱ってみないと効果の程は分からないが、魔剣自体、価格を付けられないほどの価値がある。


「最後はこいつだ。」


そう言った彼の手には、反りのある刀身に等間隔に切れ込みが入った剣が握られていた。


「こいつは蛇腹刀。扱いは難しいが…こいつは剣であって剣じゃない。剣として扱うのは当然として、扱い方次第じゃあ広範囲に向けての攻撃が可能だ。」


蛇腹刀。―――蛇腹剣が刀に転じた物か。こいつは珍しい。

蛇腹剣とは、刀身が一定間隔に別れる機構になっていて任意に刀身を蛇のように伸ばし、刃の付いた鞭のように扱うことができる剣である。

しかし扱いが難しく実用性は極めて低い、所謂ロマン武器と言った物だった。


優也は三本の剣の内、すぐに一本を選び取った。


「すみません…よろしければ、これを…貰えますか?」


「あー、ほんとにそれでいいのか?単に珍しいってだけで倉庫から持ってきたんだが…その剣は実戦向きじゃあねぇぞ?それに他の二本の方が作りもいい。」


「ええ、これが良いのです。」


優也の手には蛇腹刀が握られていた。


「まぁ、お前さんが言うならそれでいいが…。そうだな…それなら防具も付けるぞ。見たところ何も着てないだろう?」


「えと…はい。何も着てないですね。」


「灰鉄鋼の胸当てと、竜皮の籠手…あとはミスリル製のブーツも付ける。」


灰鉄鋼とは、藍色の半透明の美しい鉱石のことで、硬度の高い石のことである。その分加工が難しくなる。


「そんな!こんなに高価な装備貰えないですよ!」


「どうせ倉庫の肥やしになってんだ。アンタに使って貰った方がこいつらも喜ぶだろうよ。」


手元の装備たちを見て言った。

遠慮する優也を無視して装備を渡される。後で代金を払えばいいかと優也は思い受け取った。…払えるアテは今のところないのだが。


「あ、お手伝いします!」


着慣れない装備に四苦八苦していると、アンが優也の側に寄ってきた。


「ありがとうございます。」


「いえ、あ、ちょっと腕を上げて下さい。はい、少しそのままで、と…ここを通して…。」


小柄な金髪少女がワタワタと懸命に自分の周りで動いている様を見て、優也は今置かれた状況を忘れ癒された。


「それにしてもこれだけの装備、よくありましたね?」


店の外観を見た感じだと一見して普通の店だったが?


「ああ、別に俺の店がスゲェわけじゃあねぇよ。昔ちょっとな…だからその装備はお古なんだわ。剣の方は単に個人的なコレクションだ。」


優也の疑問にアンの父が答えた。

その後、先程絡んできた大男は、最近になってこの街にきた犯罪歴があると噂の男で、度々問題を起こし迷惑していたと言うことを聞いた。

他にも、旅に必要なアイテムが売られている店の場所や、美味しい料理屋、そしてギルドの場所も聞いた。




ギルド。それは王国直営の団体で、その団体に属することで、ギルドに寄せられた依頼を受け報酬を貰うことができる。

実績に伴いランク分けされていて、薬草採取から龍退治まで依頼の幅は広い。

他にも魔物から取れる素材や、採取した薬草、鉱石を換金することができ、旅をする者たちは皆ギルドに所属していると言って先ず間違いはない。


彼らのようなギルドに属し旅をする者たちを、冒険者、と呼ぶのであった。





「では、思わず長居してしまいすみません。お茶ごちそうさまでした。」


ドアに手をかけ頭を下げる優也に、アンの父が言う。


「なぁ、アンタ。今晩泊まるとこあるのか?と言うか金、持ってんのか?」


「え―――?」


「あー、アンタここらじゃ見かけない顔だしよ。アンから聞いた話じゃあ相当な腕前らしいが、その割に武器も防具も持ってねえ、荷物なんてその袋だけだ。宿に荷物を置いたってもさすがにそんな着の身着のままの格好でぶらつくやつはいねえ。それにそんな上等な仕立ての服着てんだ、どっかの貴族様かはたまた大商人の息子か―――。」


スラスラと優也を見て感じた違和感を上げていくアンの父。そして彼は、頭をガシガシとかいた。


「あーッ!もうまどろっこしい!!訳ありなんだろうッ?!とりあえず開いてる部屋がある、そこ使えッ!」


「え?あ、あの?」


「好きなだけ泊まってけって言ってんだよッ!」


「な、なんで…?」


「―――そんなの…なんとなくだ。ああ、なんとなくだ。」


ぶっきらぼうな彼の態度に優也は唖然として店内を見渡すと、満面の笑みを浮かべたアンに腕を取られた。


「ほら!こっちだよ!ユーヤさん!早く早く!」


「はぁ…ちょっと?ア、アンさん?」


「ほーら!ユーヤさんの部屋、案内するから!―――お父さん!ありがとう!二階の部屋だよね?」


アンの父は、頷き手を上げて答えた。










***


再び店の奥へと入っていく娘と恩人である青年の後ろ姿を見て、アンの父―――ガイル・グレイシスは思い出す。


ガイルは昔、冒険者だった。

十一歳で村をでて、ギルドに所属し採取依頼や、ゴブリンやスライムなどの下級魔物の討伐をしつつ、腕を上げていった。


村をでで五年ほど経ったある日、大きな盾を背負った少年と、ローブを着た少女が声をかけてきた。パーティを組まないかと誘わて、歳も近かったせいかすぐに意気投合したガイルたちは共に旅をすることになった。

旅の途中でもう一人魔術師の女性も仲間に加えて、時に喧嘩をすることもあったが、ガイルたちは仲良く旅を続けていた。




―――だが、悲劇は唐突に起きた。




ある日起きると、自分の武器や荷物がなくなっていることに気付いた。

テントから出て仲間に知らせようとしたが、周りには何もなかった。

しばし何が起きたか分からず呆然としていたが、まさか自分は裏切られたのかと思い、すぐにその思いを否定する。


とにかく確かめなくてはならないと、仲間を探すことにした。


無一文な上に武器もなく、あるのは胸当てと小手、そしてブーツだけだった。

襲いかかってくる魔物をなんとか退け、近くの街につく頃にはガイルの身体はボロボロになっていた。

満身創痍な状態で街を歩くガイルに、すれ違う人々は何事かと視線を送るが、ガイルは無視してギルドの建屋まで走っていく。


ギルドのドアを勢い良く開けると、そこには目を見開き驚く仲間の姿があった。

近づき、盾を背負った仲間の男に「なぜ自分を置いていった」と聞いた。

彼は取り乱しつつ「金がどうしても必要だったんだ!」と言った。

どういうことだと彼に詰め寄ろうとした時、もう一人の仲間であるローブの女が、彼を庇うようにして「お腹の子供の為なの!」とまだ幼さの残る顔で言った。


その後、彼と彼女は表情を固くして語った。

身重の彼女を伴って旅なんてできない、しかし纏まった金なんてない。

そこで魔術師の女性に相談することにしたそうだ。彼女はこのパーティ内でいつも頼りになるお姉さんといったポジションにいた。

彼女は親身になって話を聞いていたらしい。しかし翌日彼女は姿を消した。

彼は思った。裏切られたのか、と。彼女は自分たちを用済みと思って切り捨てたのか、と。

そのあと彼と彼女は裏切られる前にガイルを裏切って、金を手に入れてこの街で暮らすことにしたそうだ。足りない分は彼が稼ぐことにして―――。


なぜ自分に相談しなかったとガイルは言った。事情を知れば自分は力になった。金だって全て渡したし、足りない分だって共に稼いだ、と。


それを聞いた彼はひたすら謝り続けパーティの解消を告げると、ガイルの前から去って行った。

何も言えぬまま、街の付近でテントを張ってその日を終えた。


ふと目を覚ますと辺りが騒がしいことに気付いた。

街へ入るとそこには凄惨な光景が広がっていた―――。


―――盗賊団「謝肉祭(カーニバル)」―――国全土に勢力を広げていると噂の盗賊団。

(なぶ)り、犯し、奪い、殺す、その残忍な行為を、行使できる程の実力と組織力のある盗賊団である。

街の光景を見てまず、「謝肉祭(カーニバル)」のことが頭を過ぎった。自分にあの盗賊団とやり合うだけの実力があるだろうか。

しかし仲間の姿を思い出し、呆けている場合じゃないと彼らの姿を探し街を駆け出した。


「う、嘘だろ…?」


そこには、見慣れたはずの二人の姿があった。

―――変わり果てた姿になって。


いつも着ていたローブはなく、汚れた下着姿で乱れた肢体を放りながら事切れている彼女と、それに折り重なるようにして身体中から血を流す彼の姿があった。


慌てて彼を助け起こし、ガイルは声をかける。


「ああ、ガイル…―――守れ、なかったッ…ああッ…。」


虚ろに開いた目を、彼女の亡骸へ向けて彼は呟いた。

彼女の姿を見れば、何が起きたかは想像に難くない。彼が今感じている激情は、想像を絶するものなのだろうとガイルは思った。


ガフッと不吉な音を立てて彼が口から多量の血を吐く。

これ以上話すな!と彼の身を案じて言うガイルだったが、まるで自分の命はもう長くないとわかっているかのように彼は話す。


「なぁ…ガイル…。俺は…間違って、しまったんだな…はは、…ゴホッ!…これ、は…ゴホゴホッ!…はぁはぁ…罰、なんだろうな…。」


そう言って彼は手を空に向けて伸ばす。


「信じて―――いたはずなんだ…なのに、なんで…ああ、すまな…かっ…。」


それはガイルに対する謝罪だったのか、その謝罪が最後まで言われることは二度となかった。




数日後、彼と彼女の墓の前にガイルは立っていた。

どこで間違ったのか、誰が間違ったのか…。腑に落ちない点がたくさんある。


彼があんな短絡的な行動にでるだろうか…?


しかし、ガイルにはもうそれを知ろうとする気力すらなかった。それを知っても彼らは戻ってこない。


「何よ…これ…。」


振り返るとそこには仲間だった魔術師の女性が立っていた。

詰め寄られ何があったか聞かれたので、ガイルは順を追って説明した。


「私が?…なんで…ちゃんと説明したはずよ?!お金を工面するために実家にあたりをつけてくるって!」


「い、いや俺に言われてもな…。」


「…そ、そうね…ごめんなさい。」


今までの剣幕が嘘のように素直に謝る彼女だったが、俯き顎に手をやってブツブツと呟いてる。


「そうか…アイツらか…亡霊共がッ」


「――――――ッ!」


チラッと見えた彼女の表情を見て、ガイルは戦慄した。

今まで見てきたどんな魔物よりも恐怖を感じている自分に困惑した。


その後、礼を述べてガイルの前から去っていく彼女を見送った。





それからガイルは街を転々とし、王都で妻であるローラと出会ってから冒険者を辞め、武器屋として暮らしていくことにしたのだった。


あの事件の真相は今も分からない。あの後、魔術師の彼女がどこに行って、どうなったのかも知らない。

ただ一人だけ残った、大切な仲間だったはずの彼女について思うところがないわけじゃない。


現にアンを助けたあの青年を見ていると思うのだ。

魔術師の彼女―――黒髪黒目の、リンリーと名乗った彼女と何処か似ていると。彼女と関係のある人物なのか、それともただの同郷の者か。


ガイルは天井を仰ぎ見ると、とりあえず妻にどう説明しようかと、今後の青年の扱いについて頭を悩ませるのであった。


***

読んでいただきありがとうございます!

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