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堕ちた勇者がすくうモノ  作者: かにみそ
第一章「二人目の勇者が堕ちるまで」
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王国編-5

昨日は一話しか更新できなかったので…今日こそは…ッ


※1月9日 加筆修正。

***


「カーネウスよ。それで勇者の様子はどうだ?」


レイテシア王―――ラインハルト・ゲーテ・レイテシアの声が王の間に響いた。


「グロアラ・グローレシアが消息を絶ってから、日を追うごとに体調を崩しているようです。先日も訓練中あわや命を落としかけました。潮時かと…。」


「ふむ…。勇者に能力開花の兆しはないのだな?」


「はい。司教様に聖魔術のご教示を賜りましたが、変化は見られませんでした。他、火、水、土、風の全四属性全て、そして剣術、槍術、弓術など武術においても能力の開花は見られません。」


「手間をかけて司教まで呼んだと言うのに情けない…。こんなところまでアレと同じとは…忌々しい…ッ」


王は、殺された娘―――ミシェリアを思い浮かべ、仇であるトモエユーヤに憎悪を向ける。


「調査の方はどうだ?トモエユーヤとあやつとの関係の洗い出しは済んだのか?」


「はい。あの者の言う通り、完全に白でございます。他人の空似―――と言うには余りにも似ていますが、関係はないかと。」


「ふん…。無能どもめ…。」


「いくら無能と言えど、勇者殿―――コーサカユーヤは勇者。放っておけば行く行く障害になり得ます。」


「そうであろうな…。」


異世界からの召喚者は、こちらの世界の人間とは根本的に造りが違う。能力が開花してないからと言って野放しにしておくのは危険である。


「このまま飼い慣らすのも面倒か…。」


「如何が致しましょうか?」


「そうだな…。」


隠しようのない怒りと怨嗟を含み、王の呟きが静かに、響き渡ったのだった。


***














「では、魔法を解きますね?」


「はい。お願いします。」


コリィは目を瞑ると胸の前で組んだ手が淡く輝き出す。


「ハい。これデまほうハとけたハズデす。ことバハ通じていますか?」


優也は慣れない言語に一瞬戸惑ったがきちんと理解することが出来た。


「はい。ちゃんと分かりますよ。こちらの言葉も大丈夫でしょうか?」


「はい。完璧ですユーヤ様。」


ここは、優也の部屋。その中にコリィと優也がいる。

言語の習得を終えた優也は今日からコリィの魔法を解いてこちらの言語で会話することにしたのだった。

元々たまに魔法を解いて会話する訓練は受けていたので、今ではほとんど混乱することなく、会話することができている。


「しかし流石はユーヤ様ですね。一つの言語を一年足らずで覚えてしまうなんて。私なんて日本語を思えるのに一〇年以上かかりましたのに。」


そう、彼女は日本語が話せる。

言語翻訳魔法とは、翻訳する言語と翻訳元の言語の両方を理解し、自分以外に付与する無属性魔法である。

効果は永続的で、効果中は魔法使用者の魔力が少しずつ消費されていく。


他にコリィが日本語を話せる理由として、王女は五〇年前の大戦以降、代々勇者召喚の儀を行う巫女としての立場があると言う点が上げられる。


召喚の儀を行う為には召喚する者の世界、国、言語の知識が必要になる為だ。

彼女との会話の中で日本の文化を持ち出しても会話が成り立っていたのはその為だった。


「ありがとうございます。…でもですね。なんだかこちらに来てから物覚えが良い気がするんですよね。魔法学の勉強も苦もなく覚えられましたし、これも異世界から来た人間の特性なんでしょうか?」


「んー…どうでしょう?勇者召喚自体、ユーヤ様で二回目なので何とも言えないですね。まぁ、私は単にユーヤ様が凄いのだと思いますが。」


満面の笑みを浮かべてコリィは言った。

しかし優也はふと思った。

あれ?勇者召喚が私で二回目なら、どうやって多くの日本の知識を知ったんだ?


優也が疑問を口にしようとした時、ドアをノックする音が聞こえ、コリィが返答する。そこに居たのはカーネウスだった。


「王女殿下…。こちらに居らしたのですね。いえ、まずは用件を―――失礼、勇者殿。これから王の間へ来て欲しい。王が貴殿をお待ちになられている。」


「王が私を…?」


首を傾げる優也に早くするようにとカーネウスは告げる。


一体王が何のようだ?と、疑問を浮かべたまま優也は王の間へと向かうのであった。













***


今、ユーヤ様が王の間に呼ばれた。

―――嫌な予感がする。


私が告白紛いのことを言った日から、最近のユーヤ様は見かけ上、以前のユーヤ様に戻ったように見えた。訓練も勉強もきちんとこなしているようだった。


少しでも私が力に慣れたのなら言うことはない。私の想いが受け入れられることがなくても。素直に嬉しいと思う。

―――ごめんなさい、それは流石に嘘。

確かに嬉しいが、寂しい気持ちもある。


あの日私は王女である自分を忘れ、感情のままにユーヤ様に気持ちを打ち明けた。


もう、私は以前のようなただの王女には戻れないだろう。

それでも王女である自分を捨てられずにいる。


どっちつかずな自分の心に溜め息を吐きつつ、今はただ何事も無いようにとユーヤ様の無事を祈るのであった。


***













「遅い。我を待たせるとは偉くなったものだな勇者よ。」


「申し訳ございません。少々準備に手間取りました。」


「ふん。まぁ良い。―――して勇者よ、最近調子はどうだ?」


「調子が悪い時期もありましたが、最近は元に戻った感じですかね。…訓練の内容についてはカーネウスさんのほうが詳細に説明できるかと思いますが?」


「元の調子に戻った…か。勇者よ、お前は勇者の特異性についてどの程度知っておる?」


「まず、勇者―――異世界から来た人間は訓練で得られる身体能力の向上が規格外であり、全属性魔法についてもそれは同じであると。それから何かしら特出した能力があり、きっかけがあればそれが開花する…例えば剣術であれば剣の訓練中に能力が開花したり、魔法であれば何れかの属性魔法を使用した際に能力の開花が起こる。と、聞いております。」


「ふむ。それでお前の能力はなんだ?」


「それは―――」


「無能。」


「―――え?」


「無能の勇者よ。城から去れ。無能は要らぬ。猶予は終わった。ここら消えるのだ。」


王の視線が優也を冷たく貫いた。

優也は何を言われたのか理解出来なかった。確かにいつまで経ってもいくら訓練しようと能力が開花しないことにもしかして…という気持ちはあった。

しかしまさか―――。


「今すぐに…でしょうか?」


「ああ、今すぐにだ。変更はない、これは王命である。」


「わ、私はこの世界を知りません。いえ、知識としてはお教え頂きましたが、城下の街すらも行ったことがありません。どうやって生活していけば―――」


「知らぬ。勝手にすればいい。」


「な―――ッ!わ、私に死ねと言うのですか?!」


「お前がそう思うのであれば、―――勝手に死ねば良かろう。」


「―――ッ!?」


これが王の本性か。元々優也は王に良い印象を持ってはなかった。一国の王ともなれば冷徹な判断を下し合理的な考えも必要なのだろうと、そう思い納得していた。


しかし王の今の表情で悟る。

これはそんなものではない。底知れぬ憎悪をこちらに向け優也を人間だとも思っていないような表情だった。


「話は終わりだ。その者を連れ出せッ。」


「待―――ッ!やめッ!」


周囲に控えていた兵に取り押さえられ、王の間から連れ出される。


あまりの急展開に考えが纏まらない。


優也が使っている部屋まで連れて来られ、必要なものは持っていっても良いと言われる。

荷物を纏めている時、訓練の合間に書き溜めたレシピ帳が出てきた。


「あの、これを後で料理長に渡して貰えないでしょうか?」


見張りの兵にレシピ帳を渡す。


部屋から出ると、見慣れた廊下を優也は見つめる。

こちらの世界に来たばかりの頃は、その立派な装飾がなされた柱や調度品の数々に、落ち着かない毎日を過ごしていた。

しかし、今となってはそれも日常の一部となっている。


広い階段を降り、庭園に面した外廊下を歩く。優也はここで初めてグロアラと出会った。

あの時の驚きを、今もまだ鮮明に思い出すことができる。あれからグロアラに対する思いは徐々に変化していった。

今ではグロアラは大切な一人の女性だ。決して、妻の代わりなどではない。


―――どうか、無事で居て下さい。グロアラ…。



気付けばあっという間に王城の裏門までやって来ていた。


「それでは勇者様―――いや、コーサカユーヤ。二度と王城に近づくことは許さない。早々に立ち去れ。」


「…分かり、ました。」


優也はそう呟いて門を潜ろうとした時、後ろからコリィが息を切らして駆けてきた。


「ユーヤ様ッ!!これは!―――これは一体どういうことですかッ!?」


取り乱す王女に兵たちはたじろぐ。


「コリィさん…。」


ふと、彼女なら信用できるのではないかと優也は思い言う。


「コリィさん。一つお願いがあります。」


「ユ、ユーヤ様?」


「どうか―――どうかグロアラを助けて欲しい…ッ。彼女の力になってあげてください。おそらく王の差金でグロアラは王城から消えたのでしょう。ですが私は彼女がまだ生きていると思いたい…。どうか私の願いを…どうか…」


頭を深く下げて頼み込む優也に、コリィは頷いて答える。


「分かりました。任せてください。…ですが今はご自身のことをお考えになって下さい。今私がお父上と話をしてきます。任せてください!」


コリィのその言葉に優也は首をふる。


「私は大丈夫です。一人でなんとかやっていきますから。ですからグロアラの事だけは頼みましたよ?」


優也は薄く微笑みながら言うと門へと歩き出す。


「お待ちください!ユーヤ様ッ!!―――ユーヤ様ぁあぁぁぁッ!!」


兵に取り押さえられ叫び続けるコリィから目を逸らし、優也は王城を後にした。




―――この日優也は、異世界にきて得た数少ない物を、全てを失った。










裏門から出たあと、王城を背にしばらく歩き、この世界に来た際に通った城下町へと着いた。

いまだここからも覗える王城を見つめて、今後について考える。


「コリィさんにはああ言いましたが、さて、どうしましょうか…。」


持っている物と言えば、袋に入った数着の着替えのみだ。無一文の為宿も取れない。

途方に暮れると言うのはまさに今の現状を指す言葉だろう。


トボトボと街の中を歩いていると、露店が並ぶ通りの真ん中に人だかりが出来ていた。

その中心から人が争う声が聞こえる。


「おいおい。俺の服をこんなにして弁償もしないとか。何言ってんだ?しかも元々破れてただぁ?あぁん?粋がるのも大概にしねぇと痛い目みるぞ嬢ちゃん。」


「難癖つけてきたのはアンタでしょ?!ふざけないで!!」


「やめなさい。アンも謝って!」


「お母さん!謝ることなんてないよ!私たち何もしてないじゃない!!」


アンと呼ばれた少女は自分の倍ほどある体格の男を睨みつける。


「札付きの癖に…ッ」


「んだとゴラァッ!」


大男は背負っていたバトルアックスに手をかけた。


「―――女性に手を出すのは関心しませんね。」


―――優也は背後から大男が持つバトルアックスを掴み言った。


「なんだァ?テメェは。」


「特段フェミニストと言うわけではありませんが、丁度イライラしていた所です。少し付き合って下さいませんか?」


「テメェ調子にのってんじゃねぇぞッ!?」


優也の手を振りほどきバトルアックスを大きく振り上げる。

それを視界に映し、落ち着いて唱える。


「『大地よッ』」


優也の言葉を受け、大男の足元の地面が少しだけ盛り上がる。バランスを崩した大男はたたらを踏みながら言い放つ。


「チッッ!!魔術師かッ!」


「『土よ私の元に剣となれッ』」


優也の手元に地面から土が集まり剣の形を作っていく。


「土塊の剣で俺の斧が受けられる訳がないだろうがッ!!」


ニヤリと口元を歪め、大男は優也へと迫る。優也は姿勢を低くし大男の懐へ飛び込む。


「『風よ纏えッ』」


「―――なッ?!」


属性付与魔法。この魔法は、高級魔術師―――それも王宮魔術師のような高位の者でしか扱うことのできない魔法であった。

風属性の付与によって切れ味の増した土の剣で大男の腿を薄く切り付け、直ぐに迫っていたバトルアックスの一撃を避ける。


「クソがッ!!」


バトルアックスの攻撃のその尽くを避けつつ、土の剣による斬撃を浴びせる。


気付けば大男は満身創痍でしゃがみ込んでいた。


「もう終わりですか?さぁ、かかってきてください。」


「クソクソクソクソクソォォォッ!!」


大振りのその攻撃を見て優也は言う。


「汚いですね。クソならトイレでして下さいね。」


魔力を練り込み剣を握った手に集める。風の付与を解き剣を大男の腹に突き立てる。

その衝撃で土の剣は崩れるが、大男の身体は大きく吹き飛んだ。


「ふぅ。―――さて、さっさと家に帰ってクソして寝て下さい。邪魔です。―――ッ!」


「ひっ―――。」


優也が魔力を放ちながら威圧すると、顔を青くして大男は逃げて行った。


「良くやった!兄ちゃん強ぇなッ!!」


「兄ちゃんの魔法、見惚れだぜッ!!」


「あらあ!いい男じゃない!!」


周りを見渡すと出来ていた人だかりから、賞賛の声と拍手が上がる。

会釈をしつつ絡まれていた少女のもとへ向かう。


「怪我はありませんか?お嬢さん。」


「………。―――ハッ!あああ、あの、えと、…はい。だ、大丈夫です。」


周りから冷やかされつつ、アンと呼ばれた少女の無事を確認した。


「ありがとうございます。本当に助かりました。」


深々と頭を下げ礼をいう女性―――共に絡まれていたアンの母親だろうか―――が近付いてきた。


「いえいえ。たまたま通りかかっただけですので。それでは―――。」


その場を去ろうとする優也の腕をアンが掴み言った。


「あッ!…と、その…えーと、そ、そう!お礼!お礼をさせてください!!家が近くにあるんで是非寄っていって下さい!ね!?お母さん!いいでしょう?」


「そうね。もしよろしければ是非。」


笑顔の親子に優也は首をふる。


「大したことはしてません。お嬢さんのその笑顔で充分ですよ。」


冗談めかして言った優也の言葉にアンは顔を真っ赤に染める。


「ではこれで。」


再び去ろうと優也が歩き出すと、放心から持ち直したアンが優也を引き留める。


「ちょ、ちょっと、ちょっとだけでいいので寄って行きませんか?!」


「…―――で、では少しだけ。」


寂しいそうに言う涙目のアンに、困った顔で優也は呟いた。

読んでいただきありがとうございます!

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