王国編-2
2話目です!
※1月9日 加筆修正。
***
勇者召喚の儀を終えると泉の中心に一人の青年が立っていた。
私―――コーリア・ゲーテ・レイテシアはその青年に話しかける。
「もし、ゆ、勇者様ですか?」
振り向いた青年に私は驚く。
なぜならば、青年は裸だったのだ。
青年は左手に濃い黄色をした果物らしき物を持っていた。
それよりも私が気になるのは青年の下半身の一部分である。噂に聞いていたものより遥かに大きい。
青年はお粗末などと言ってたが、本当だろうか?私の興味はすべてそこへ向いていた。
共に来ていた護衛の一人が「トモエユーヤ」の名前を叫んだことで、私は気付く。
目の前にいる青年は、あの憎きトモエユーヤにそっくりだったのだ。
しかし話を聞くと、どうやら他人の空似のようであった。
勇者様の訴えで、慌てて着るものを用意し、私は初めて勇者様に名乗る。
「改めまして、私はレイテシア王国第二王女、コーリア・ゲーテ・レイテシア。此度は、良くぞ召喚の呼びかけに答えて頂きました。先程の質問にお答え致しますと、ここはレイテシア王国領の召喚の森と呼ばれているところです。詳しくは王城にてお父上―――レイテシア王よりお話がありますのでその際に―――」
―――茫然とした表情の青年からは爽やかな果実の匂いがした。
王の間で青年とお父上が話している間、私は気が気ではなかった。最近のお父上は容赦がない。どこかおかしい。妹のミシェリアが殺されてしまってから、お父上は変わってしまった。それも全てトモエユーヤのせいだ。そのトモエユーヤとそっくりの彼が、お父上を会っても大丈夫だろうか?
もしここで青年がお父上にとって害になると思われてしまえば処刑も辞さないであろう。
ハラハラとことを見守っている内に謁見は終了した。
私は自室へと向かったが、王の間を去ったときの青年の顔を思い出すと何だか心配になってきた。
居ても立ってもいられず、気づけば青年の部屋のドアをノックしていた。
「はい?」
青年の顔を見て、要件がないことに気付いた私は慌てて考える。不安そうな青年の顔を見てふと閃く。
「私のことはコリィで構いませんよ。ここへ来たのはお父上の説明では分からない部分があるだろうと思ったからです。それで、なにか分からないことはありませんか?」
なんとなく愛称で呼んで欲しいと思った私は青年にそう言った。
話をしている内に青年―――ユーヤ様にはご息女がいること。実は三六歳だと言うことが分かった。
私はまだ一五歳だから二一歳差かあ…と考えて、何を考えているんだと自分を諌める。
現在の世界情勢などを簡単に話していると、またユーヤ様は不安そうな顔をする。
ああ、そんな顔をされては、どうにかして上げたくなってしまうではないか。
ユーヤ様の手を両手で包み込み、私は言う。
「そんなに不安そうな顔をしないでください。大丈夫です。まずは訓練をしましょう。ユーヤ様には必ず凄い力がありますから。」
自分には凄い力なんてないと、不安そうなユーヤ様を安心させたい。
「いいえ、ユーヤ様は勇者様です。勇者様にはなにか特別な能力が必ずあります。ですから、一緒に頑張りましょう?私がついていますから。まぁ、私にはお勉強の方しか手助けできないのですけどね。」
ユーヤ様がどこかホッとした表情をした時、胸の辺りがキュゥとしたのを感じ、まさかと私は思う。
―――男性の下半身を初めて見て、ちょっと混乱しているだけだ。と自分に言い聞かせながら。
ユーヤ様からまた爽やかな果実の香りがしたような気がした。
***
なぜこんなことになっているのか、雲一つない青空を見上げふと思う。
「勇者殿?どうなされた?」
向かいで剣を構える男―――カーネウス・レビットが言った。
「いや、なんでもありませんよ。ちょっと現実についていけなくてですね。」
優也はここ一週間、王が言った通りに訓練を行いつつ、こちらの世界の教養を学んでいた。
ここは騎士団訓練場。三千平方メールほどはあるだろうか、かなりの広さの青空訓練場だった。ちなみにこの広さは、某ドームのグランドの四分の一程度の広さだ。
レイテシア王国騎士団長及び近衛隊隊長のカーネウスが融通を効かせて利用させて貰っているのだ。
と言うか、騎士団長が役職を兼任しているだとか、優也の訓練を直々に指導してるだとか、この国は人員不足なのだろうか。
と、優也は思った。
優也の予想はほとんど正解だった。現状まさにレイテシア王国は人員不足なのである。王が国軍である騎士団のほとんどをトモエユーヤの捜索と討伐に割いているからであった。
「それはそうと勇者殿はなにか武術の経験が?いや、武術と言うよりこれは…。」
「あー、昔ちょっとやんちゃしてたことがありましてね…それに身体は今でも鍛えていますので。」
「そうでしたか。何と言うか盗賊のような動きをするもので、少々疑ってしまいましたよ。ははは。」
爽やかに笑うカーネウスの顔を見て、盗賊とは言い得て妙だなと思った。相当荒れていたからな…。それもこれも妻のお陰で今の自分があるわけなのだが。
「さて休憩はもうよろしいか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「では―――参るッ。」
その声と共に優也に迫るカーネウス。五歩分くらいの距離を踏み込みだけで一瞬で詰めてくる彼に優也は木剣で向かい撃つ。
「凄い反射神経ですね。この踏み込みを受けられる者が我が騎士団で何人いることか。」
「騎士団長殿にお褒め頂けるとは光栄ですね。」
優也は力任せに木剣を弾き、鍔迫り合いから距離を取ると、姿勢を低く保ちカーネウスへ迫る。木剣を横薙ぎに遠心力を使ってカーネウスの足を狙うが軽く躱される。それを予想していた優也は、駆け出す前に予め握っていた左手の砂をカーネウスの顔に向けて放つ。
「うッ―――!」
騎士道から外れたその行動にカーネウスの動きが止まる。それを見逃さずに木剣を振るうが、カーネウスは剣で受けず身を逸しそれを躱す。
「全く、どこかの盗賊と戦っているようですよ。」
「それも褒め言葉でしょうか?」
優也には剣の心得はない為、木剣をバットかのように振るい扱っていた。もし少しでも優也に剣の心得があれば、姑息な手を使い、搦め手を狙いカーネウスと善戦していただろう。しかし剣の戦いにおいて優也はカーネウスに遠く及んでいない。
カーネウスの剣戟の速度がまた一つ上がる。優也も対応しようと木剣で防ぐが、フェイントが混じったその攻撃に対応できず―――
「ま、参りました。」
喉元に迫った剣先に、冷や汗をかきながら優也は言った。
「ふぅ、いやぁ少しは騎士団長の面目が保たれましたかね?」
「何を言っているんですか?少しも本気を出していないでしょう?」
「いや魔法を使っていないとは言え、一週間でここまでやれるとは勇者殿は本当にお強いですよ。」
爽やかに微笑みカーネウスはそう言った。
「ユーヤ様ぁッ!!」
名前を呼ばれ振り向くとコリィがこちらに駆けてくるところだった。
「ユーヤ様!さすが勇者様です!カーネウスとここまでやり合うことができるなんて凄いです!」
腕に抱きつき目を輝かせながら言うコリィに若干気後れしながらも優也は答える。
「い、いや、元の世界ではここまでじゃないんですがね。こっちに来てから何だか身体が軽いような気がして。」
そうなのだ。こちらに来てから身体を動かす度にどんどん軽くなってくる。カーネウスの剣の動きも徐々に見えるようになってくるのだ。これが異世界から来た人間の特性なのだろうか。
「それでも凄いです!つい最近来たばかりなのにもうこんなにもお強いなんて!!」
どこか潤んだ目をこちらに向けるコリィ。何だが会う度にスキンシップが過剰になってきている気がするのだ…。あれか?私の溢れる父性に惹かれて父のように慕ってくれているのだろうか?ふむ。そう思えば少し可愛く思えてくる。
そう思い、ふとコリィの頭を撫でる。
「ありがとうございます。コリィさんにそう言われると俄然やる気がでてきますよ。」
「~~~ッ!」
笑顔を見せる優也を見て、コリィは声にならない叫びを上げ頬を染める。俯いて優也の胸に抱きつく。
「…ユーヤ様は、ズルいです。」
「は?…えっと?」
抱きついてくるコリィを撫で続けながら優也は首を傾げるのだった。
優也には、この世界にきて思った重大なことが一つある。
それは王城で出される料理がイマイチであること。もしや自分だけ嫌がらせをされているのではないかと疑ったが、王族である方々と同じ物を食べているようだった。これは由々しき事態だ。
そう思って優也は、訓練の合間を見て、厨房へと来ていた。
「これはこれは勇者様。何かご用でしょうか?小腹が空いたのであれば軽食をご用意致しますが?」
「あー、いやちょっと中を見せて貰えないでしょうか?」
「はあ…まぁ、構いませんが?」
中に入ると幾つかの食材あり、厨房のスタッフが夕飯の準備をしているところであった。
フライパンを振るうスタッフを見つめ、先程声をかけてきた男に言う。
「この炒め物の味付けはどんな風に?」
「え、これはもともと苦味がつよう薬草を用いているので少し濃い目の味付けになります。そうですね…勇者様が初めて食された炒め物の料理に使用していた香辛料などを使います。」
「ふむ…。」
優也はその料理を思い浮かべる。ちょっと癖のある肉と香りが強い野菜などが入った元の世界で言えばレバニラ炒めのような料理だったはずだ。あの味付けとなると醤油、みりん、生姜、ごま油だろうか…ということは…。
「すこし香辛料の味見をさせて貰えないですか?」
「あ、はい。こちらになります。」
ずらっと並ぶ香辛料の中から幾つか手にとって味を確認する。
「あ、そこの方、一旦手を止めて貰えませんか?」
フライパンを持っていたスタッフが手を止めてこちらを見る。
「少々味見させてもらいますね。」
フライパンから食材を少し貰い、味を確かめる。
山芋、キクラゲ、豚肉、ほうれん草にゴボウか?…元いた世界の似たような食材を思い浮かべる。豚肉とほうれん草に苦味があるなぁ…この肉本来の味か、それとも味がうつったのか…。
「んー。これと、これ。あとはこれか?」
香辛料の中から砂糖と酢に近い物を選ぶ、あと料理酒を少し。
「味付けなんですが、醤油…えっと、この塩っぱい液体はそのままでいい、炒めている最中に入れてください。ですがこの透明の液体はいりません。その代わりこっちの酒を少しだけ入れてください。」
「は、え?ちょっと?ああッ!!」
優也はフライパンを掻っ攫い調味料を入れていく。
「あとは、火を止めて砂糖と酢を混ぜたものを入れて…っと。はい、完成です。食べて見てください。」
差し出された料理を側にいた男が食べる。その顔がみるみる内に驚愕の表情へと変わっていった。
「え…?美味い…う、美味い…ッ!」
スタッフ一同がこぞって味見をしていく。最初に話しかけて来た男が優也に聞いた。
「ゆ、勇者様は料理の心得がお有りになるのですか?」
「まぁ、元の世界では料理人をしていましたので。」
「そ、そそそそれで…あの…もし、もし良かったらでいいのですが、またアドバイスなど頂けたらと…」
「え?ああ、もちろんですよ。自分も食べる物ですからね。美味しい方がいい。」
「ああ、救世主だあ!これなら!!これならッ!!」
厨房にいる人達が次々と声を上げる。中には泣き出す者もいた。
「あの、何かあったのでしょうか?」
そう尋ねる優也に、先程から話していた男―――料理長のガードン・コルセンが答えた。
話を聞くと、この世界では味を追求した料理はあまり発展していないと言うこと。大戦後から物資が不足しているこの世界では贅を尽くした料理など貴族ですら食べることはあまりなく、王族の一部くらいのものであると言うこと。しかし王は我々の作る料理に満足しておらず、このままでは解雇されてしまうと懸念していた、と話してくれた。
今後も手助けすると約束して、どんな材料にどんな香辛料が合うか、どのくらいの量が適量かを少しだけ話してから、その場を離れた。
数日後に手伝いをしに来た時、王からお褒めの言葉を頂いたと嬉しそうに話す料理長の笑顔を見ることができたのだった。
***
王の間にて、騎士団長カーネウスとレイテシア王が話をしていた。
「して、コーリアの様子はどうだ?」
「は、勇者殿に一定以上の想いがあるのは確実かと…。」
「ふむ。コーリアは分かりやすい性格をしているからな。あやつ、勇者の方はどうなのだ。」
「年齢も離れているせいか、我が子を見守る父のような態度で接しているようです。またそれがコーリア殿下の琴線に触れているようでして…。」
「全く何をやっているのだ…このままでも問題はないだろうが…しかしな…あれでも第二王女だ、何かあってからでは遅いのだ。…うーむ。そうだな。メイドを一人宛てがおう、もしあやつが手を出した場合すぐにどうにか出来る方がよい。最近入ったメイドがいただろう?そのメイドをあやつに宛てがうようにしよう。その者をすぐ呼んで参れ。」
「御意。」
しばらくすると王の間に一人の女性が現れた。栗色の肩までの髪と目尻の下がったとてもチャーミングな女性だった。
「グ、グロアラ・グローレシア。只今、ま、参りました。ほ、本日は王の謁見を…た、賜り恐悦至極に存じます。」
「よいよい。そう固くなることはない。ちとそなたに頼みたいことがあるのだ。」
「は、た、頼みたいことでありましょうか?」
「ふむ…。」
一拍置き、王はグロアラへ命じる。
「此度召喚された勇者、コーサカユーヤと肉体関係を持って欲しいのだ。」
グロアラは暫し、何を言われたのか分からず唖然とするのであった。
読んでいただきありがとうございます!