コロセウム編-7
本日の更新です!
明日以降、更新頻度が下がるかと思われますが、出来る限りコンスタントな更新を心掛けていきますので、生暖かい目で見守って下さい^^
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フローラは悩んでいた。
主様は毎日、同僚に向かって毎晩フローラと淫らな行為をすると、仄めかしているが、その実、一度もフローラに手を出していないのだ。
焦らしに焦らされたフローラは、毎晩、眠れない夜を過ごしていた。
はっきり言って限界だった。
主様と出会った時、フローラがまず感じたのは恐怖だった。
得体の知れない術を使い、その術で全てを圧倒して見せた主様に、畏怖さえ感じた。
しかし次の瞬間に、それは消えてなくなった。
主様の腕はとても温かった。なぜか無い左腕については、今だになぜ無いのか聞けていないが、それでもフローラは確かな温もりをそこに感じた。
主様は自分と対等になって会話してくれた。
皇女であるフローラと対等に会話してくれる存在は、今まで一人もいなかった。
ある者は敬い、ある者は子供扱いし、ある者は魔術師として出来損ないのフローラを見下した。
主様はフローラのことを子供扱いするが、その冗談のようなやり取りをフローラは楽しんでいた。
そしてそれは、すぐに憧れになっていた。
主様の側にずっといたい。離れたくない。
フローラは皇女である自分を捨てて、主様の奴隷になりたいと頼んだ。
しかし主様はその願いを、素気無く断った。
フローラは泣いた。もう駄々をこねて泣きまくった。
そんなフローラに呆れながら、結局主様はフローラを受け入れてくれた。
そんなちょっと意地悪な主様のことが、フローラは大好きになっていた。
だから最早我慢の限界だった。
主様よ。今晩、妾の本気を見せてやるのじゃ…。首を洗って、いや、股間を洗って待っておるのじゃ。
―――フローラは不敵な笑みを浮かべ、優也を見つめるのであった。
***
「主様よ。ちと話があるのじゃか。良いか?」
作戦決行まで、後数日に迫った晩、フローラは鬼気迫る表情で優也に訊ねた。
「あ、ああ。どうした?フローラ、そう言えばここ数日様子がおかしいが?」
「気付いておったか…主様よ。」
「ま、まぁな。」
「して、なぜだか分かるかのぅ?」
「…分からん。」
優也は小首を傾げる。
「わ、分からんと申すか…。」
「な、なんだ?フローラ…おい、どうした?」
様子がおかしいフローラが、徐々に優也との距離を詰めていく。
「主様。妾は主様のなんじゃ?」
「…ど、奴隷だ…が、それは形式上であって、俺はフローラのことを大切に思っているぞ。」
「~~~ッ!それじゃ!!」
「どれだよ…。」
「だ~ッ!もう!!その思わせ振りな態度じゃ!!ここの連中には毎晩妾と厭らしいことをい~~ぱいしてる風なこと言うくせに、全く何もしとらんのじゃ!!!」
「あ、当たり前だろ。」
「当たり前じゃないのじゃ!!―――。」
「お、おい?…フローラ…さん?」
「―――ふ、ふふふ…。」
「お、おい?」
「え~い!!もう我慢の限界じゃ!散々焦らしおってからに!!主様はほんとに意地悪なのじゃ!!」
スポーンと自らの衣服を勢い良く脱ぎ捨てて、優也の服を脱がしにかかる。
「ま、待て!フローラ早まるなッ!ちょっ!」
優也は、目を血走らせ、荒い息を吐きながら迫るフローラを必死で止める。
そこには色気もへったくれもなかったが、その晩優也は新たな扉を開くこととなった。
***
優也が新境地に至る少し前、レイテシア王国の王の間では、コリィが冷や汗をかきながら、王と対峙していた。
「コーリアよ。今何と言った。我の聞き違いか?」
「い、いえ…お父上…、私は、コーサカユーヤ暗殺を辞めて欲しいと、な、何度も申しております。」
「はぁ…またその話か…、ならぬと何度も言っているだろう…愚かな…、それにな…コリィよ、別にもう暗殺など考えてはおらぬよ…。ここ二年の間、奴の目撃情報はない。大方カーネウスとの戦闘の後、どこかでくたばったのであろう。」
「では、暗殺を本当にお辞めになると…?」
「そうは言っておらん…見つけた場合には即殺す。これに変更はない。」
「しかし!お父上!!ユーヤ様はあのトモエユーヤとは別人なのです!!なぜそこまでして殺そうとするのですか?!」
「別人…だと?コーリアよ。あやつの顔見て、何とも思わぬのか…?薄情な姉を持って、ミシェリアも不憫だ…。」
「ど、どういうことでしょうか…?」
「こうまで言っても分からぬか!!所詮は妾腹の子か…。汚らしい。」
吐き捨てるように言う王に、コリィは愕然とした表情のまま固まる。
コリィは妾腹の子だった。
コリィの母は、騎士の家系の者で、王国騎士団員の縁者だった。
騎士団のパーティに親戚席にて参加していた母を、王は見初め、自分の妾とした。
幼少の頃を母の実家で過ごしたコリィは、騎士に憧れ剣を握ったが、自分には剣の才能はなかった。それでも穏やかな日々の中で、コリィはスクスクと成長していった。
暫くして母が病で倒れると、母を失った悲しみに泣くコリィを、お父上が城へと引き取った。
献身的にコリィの世話をするお父上に、コリィは次第に心を開いていった。
そしてコリィは王族の一員になろうと努力を始める。まず始めにお父上の呼び方を変えることにした。
呼び方を改めようとするコリィに王は言った。
「コーリアは、我の娘だ。コーリアの好きに我を呼ぶと良い。その程度で親子の縁は切れぬ。コーリアは、我の大事な娘なのだからな。」
その言葉をコリィは今だに覚えていた。ああ、私はお父上の娘なのだと、心から思うことが出来た。
そんなお父上が、自分を妾腹の子と罵り、まるで仇を見るかのような目で見るだなんて…。
「…あやつの顔を見ているだけで、同じ城に、我の国に、あやつがいるのかと思うと我は…我はッ!!!」
怒りに染まる王の顔を見て、溢れそうになる涙を必死に堪える。
コリィは自分の不甲斐なさを呪う。
こんな時に姉が、トモエユーヤを追って失踪してしまった姉、第一王女であるミレーユ・ゲーテ・レイテシアが居てくれればと思う。
しかしそんな他力本願な思いに、コリィは自分に喝を入れる。
―――ユーヤ様は必ず生きている。
今は自分に出来ることを、出来る限り精一杯やろうと、以前ユーヤ様がそうしていたように―――コリィは決意を新たにするのであった。
***
フローラはご機嫌だった。
優也は、隣を鼻歌交じりに歩くフローラの頭を撫でる。
「主様~?どうかしたかのぅ?―――ハッ!さ、流石にお外は恥ずかしいのじゃ…へ、部屋に戻って続きをするかの?」
満更でもなさそうにフローラはニヤニヤと笑いつつ、染まった頬に手を当て、腰をくねらせた。
「何を言ってるんだお前は…。これから例の作戦が始まるんだ…無理に決まってんだろ…。それにそんなつもり毛頭ない。」
「そんなこと言ってぇ~昨晩もノリノリで妾を苛めてた癖にのぅ~、よく言うのじゃ~。ヌフフ~なのじゃ。」
「うぐッ…。」
優也はあれから毎晩のようにフローラに襲われ、新たな自分の性癖を確かなものへと変えていた。
まさかガリウスに言った、どっちもイケると言う発言が真実になろうとは、優也は複雑な心境のままフローラの頭を撫で続けた。
「はぁ…仲良しは結構なことだけど…フローラ様、皇女様なのよ?アンタどうやって責任とるつもり?」
スラムの埃っぽい道の端にある壁に寄りかかり、こちらに話しかけてきたのは鈴麗だった。
「あ、ああ…どうすればいいだろうか…。本当に。」
「な、情けない返事ね…アンタ。」
優也がフローラに初めて襲われた翌日に鈴麗はスラムに帰ってきた。
優也の身体に抱きつき、ご満悦なフローラを見て、鈴麗は全てを悟ったようだった。
ちなみに優也が頼んだ金はちゃんと渡すことができたらしい。
「アンタに言われた通りに、キミを心配する者から、って言って渡したら大泣きされて困ったわよ」と鈴麗はその時を振り返って言った。
そして伝言として「どうかいつの日か会いに来てください。」と伝えられ、彼女からの言葉に、優也は滲みそうになる涙を堪えた。
言うまでもなく優也が頼んだのはグロアラへの届け物だった。今の自分にできることは金を渡すくらいのことだ。
もしまた会えるとしたら全てのことを清算してからになるだろう。
「とりあえず、中に入りましょう?」
そう言って鈴麗は、寄りかかっていた壁から離れると、その隣のドアを開け、中へと入っていった。
ここは、現在鈴麗が寝泊まりしているスラム内にある宿である。
スラム内で最も高価な宿であることから、部屋の作りはしっかりしている。
村から帰ってきた鈴麗に一緒に宿舎に泊まるか?と聞いたところ「私は今のところ、アンタの子供を生むつもりはないから。」と冷たい視線で言われた。グロアラのことを知った後にフローラのことを知って、鈴麗の中で優也の株は大暴落中なのであろう。
「さて、今日の予定を聞かせてもらえる?まさかこのまま待機、だなんて言わないわよね?」
「ああ、本来であれば、別に村人がどうなろうと俺の知ったことではないんだけどな…。―――まぁ、そう睨むなよ。鈴麗がこうなると思ってちゃんと考えてあるさ。」
「具体的にはどうするの?」
「顎たちいるだろ?」
「え、ええ。あのアンタの相棒…?よね?」
「そうだ。あいつらを使ってどうにかするつもりだ。」
「なにか方法があるのね?」
「そうだ。まず顎たちを使って鈴麗に気配遮断、認識遮断を付与する。―――そして…。」
「ちょ、ちょっと待って、え?付与?ってどういうこと?」
「付与は付与だ。顎たちの能力に、他者への能力付与があるんだ。物理、魔法無効については若干制限があるが、気配と認識に関して言えば完全に付与できる。」
「って、ことはアンタ…完全に消えた状態で誰にも気付かれずに行動できるってこと?」
「そうだ。―――実演した方が早いか…。顎たち頼む。」
優也がそう言うと、優也の姿が闇に溶け込むように掻き消えた。
その光景に鈴麗は目を見開き驚く。そこには優也の姿はおろか、気配を感じることすらできない。
そこでフローラが突然声を上げる。
「うひゃっ…あ、ちょ、そ、そこは…だ、だめなのじゃ…アッ…ン…ハッ!こ、この絶妙な手付きは主様?!」
ジワァと、フローラの背後に、その胸を揉みしだく優也の姿が現れた。
「こんな風に誰かに触れたりしなければ、気配すら感じることはできなくなる。」
「いや、冷静な顔してフローラ様の胸を揉み続けてんじゃないわよ!バカ!」
鈴麗は優也の頭に手刀を落としつつツッコミを入れた。
「リンリーよ!主様に何をするのじゃ!!妾の身体は主様の物なのじゃ!いついかなるときも妾は主様の物なのじゃ!!と、と言う訳で主様?も、もっと揉んでいいのじゃよ?」
フローラに怒られて釈然としない顔をしながら鈴麗は言う。
「それで?私にどうして欲しいわけ?って本当に揉み続けるのね…アンタ…。」
「この力を使って村人をある程度逃して欲しい。」
「ある程度って…他は見殺しにするわけ?」
「仕方がないだろ?全員助けたりしたらバレるに決まってる。見つからないように、様子を見つつ助けてやってくれ。」
「仕方がないって何よ?!助けられる者を助けないでアンタそれでいいわけ!?」
「―――俺が今まで、コロセウムでどんなことをしてたか。お前も知ってるだろ?今更多少の犠牲で戸惑って何ていられねえんだよ。」
「―――ッ。」
優也のその言葉の裏にある深い憎悪に、鈴麗は言葉を詰まらせた。
「はぁ…。分かったわ、いえ、分からないけど了解したわ。でも村人を逃がすにしても何処に?このスラムまでも結構な距離があるわよ?」
「それも相棒が何とかしてくれるさ。相棒と相棒の間で影の中を移動できる。こっちに一体残しておくから、村人たちを顎を使ってこっちに送ってやればいい。スラムでの生活についても当たりをつけてある…、「謝肉祭」とは別の組織に匿って貰うつもりだ。」
「…その組織、信用できるの?…ていうかアンタの相棒万能すぎるでしょ…。」
「ああ、それについても問題ない。かなり脅しておいたからな…。村人たちを丁重に扱ってくれるはずだ。」
「そう…なら、もう私から言うことはないわ。」
「よろしく頼む。」
優也は鈴麗に頭を下げた。
部屋の中には優也に胸を揉まれ続け、ヘロヘロになったフローラの息遣いが響いていた。
「ハァ…ハァん…わ、妾…も、もう、だ、だめ…なのじゃ…ああ、主様ぁ…ああ~。…」
鈴麗は疲れたように眉間を揉み、溜息を吐いた。
この後優也たちは細かい段取りを決め、解散するのだった。その最中もフローラは胸を揉まれ続け恥ずかしい思いをする事になった。
何があったかはフローラの名誉の為にも明言しないでおくことにしよう。
読んで頂きありがとうございます!!