コロセウム編-1
新しいお話に入ります!ここからが本番!
(暴力的な表現などが多いです。苦手な方は注意してください。)
優也が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の、鉄格子の中だった。
そして鉄格子の外には、信じられない光景があった。
―――…一人の男に二人の少女が犯されていたのだ。
いや、正確にはひとりの少女と言うべきだろうか。
男の傍らに横たわる少女は口から泡を吐き、亡くなっていた。
「あぁん?」
掴んでいた少女の髪を乱暴に放って、男はこちらに視線を移す。
「やっとお目覚めかぁ~。ったく、暇すぎて二人もヤっちまったじゃねえか?あぁん?」
先程まで息をしていた少女は、乱暴に投げ捨てられた衝撃でその顔を潰され、たった今死んだ。
―――狂っている。
訳が分からず、身体が震えてくる。
「あ~、怯えんなって。おめえは大事な商売道具だ。すぐ殺しゃあしねえよ。」
「あ、あの…。」
優也は立ち上がり男に近付こうとすると、男が言う。
「『座れ』」
「―――ッ」
感じたことのない衝動により、男の命令どおりに身体が動いた。
「あぁん?驚いた顔してんなあ…。はぁ~…、手の甲、見てみろよ。」
男に言われた通り、優也は自分の手の甲を見る。
するとそこには、見たことのない幾何学模様が描かれていた。
「そりゃあ奴隷紋っていってなあ。指定した主には絶対服従。生きるのも、死ぬのも、その主次第になる代物だあ。ここまで言やぁ分かるだろぉ?おめえは奴隷になったんだよお。このコロセウム所属の戦闘奴隷になあ…。」
男は嬉しそうに顔を歪め、そう言った。
―――優也の絶望は、まだ始まったばかりだった。
私は何をしているのだろうか。
来る日も来る日も、牢屋の中で、目の前で犯され殺される女たちを見ているだけの日々。
今日は少し志向が違うようだった。
四十センチほどの身長の魔物、ゴブリンが二〇体ほどいる。そして彼らは一人の女性を犯し続けていた。
虚ろな表情で優也は思う。
―――昨日の少女の断末魔が耳にこびりついて消えない。煩わしい。
「よう。贅沢なショーを楽しんでるかぁ~?」
その声に顔をあげると、いつぞやの男が立っていた。
「ったく。湿気た面しやがって…ほら、仕事だ。『出ろ』。」
男の声に身体が勝手に動く。手の甲の紋章が鈍く光っていた。
虚ろな表情のまま、男の案内で暗い部屋を出ると、狭い通路を歩いて行く。
「さぁ、ここから先に行くと。おめえの職場だ。しっかりやるんだぜえ。」
ドンッと背中を押され、転がるように前に進むとそこは広い空間だった。
直径にして三百メートルほどある広い空間に、外側になるにつれ高くなる、階段のようなものが周りを囲んでいた。
その階段には大勢の人が座ってこちらを見ていた。
優也は思ったこれはショーなのだと。これから起きることを朧気に思い浮かべるが、上手く思考がまとまらない。
何もかもがどうでもいい。こんな辛いことがあってたまるか。
優也の脳裏に自暴自棄な考えが過ぎった時、前方の門が開き、一匹の魔物が現れた。
魔物の姿が見えた途端、会場内が歓声に湧いた。
―――目の前にいたのは、一体の悪魔だった。
私は何をしているのだろうか。
悪魔の魔法である黒い手の攻撃を、受け身も取らずに受ける。
その度に会場内からはブーイングが巻き起こる。
この世界は狂っている。
いつからだろうか。昔優也は小さい頃、こうして世界を呪っていたのではないか…?
ふと、妻の顔がよぎる。
あー、そうだ。美咲のお陰で今の自分があるんだった。
どうしようもないクズだった自分を、美咲が救ってくれたんだ。
そして、メイド服の少女の顔が浮かぶ。
そうだ。グロアラ―――この世界で私を救ってくれた人。
彼女と自分の子をまだ見ていない。
ガイルとグスタフの顔が浮かぶ。
彼らは、帰ってこいと言っていた。
アンの泣き顔が浮かぶ。
また泣かせてしまうのか…。
コリィの心配そうな顔が浮かぶ。
彼女はいつも私のことを案じてくれていた。
―――そうだ、こんなところで死ねない。
最後に元の世界に残してきた娘―――亜希の顔が浮かんだ。
「ユウくんはなんかいつも顔が強張ってるし、口も悪いからな~。そうだ、せめて言葉遣いを、もっと丁寧にすればいいんじゃない?」
付き合い始めたとき妻にそう言われ、気付けばこの口調が癖になっていた。
でも今は要らない。この狂った世界で生き残るのに、綺麗なものは要らない。
綺麗で、大切で、幸せなものは、胸の奥に仕舞い込もう。
優也は大きく息を吸い込む。
「――――――――――ッ!!!!!」
会場内に優也の絶叫が響く。
静まり返った場内で優也は言う。
「さぁ、私は死んだ。ここからは俺の領分だッ。」
全身に無詠唱で聖魔法を永続的かけながら、悪魔に向かって駆ける。
黒い手による攻撃を両腕に付与した風属性のシールドによって粉砕し、更に突き進む。
「『影よッ、転じろッ…剣と化せッ!』」
優也の手には使い慣れた蛇腹刀があった。しかしそれはだたの蛇腹刀ではない。意思を持ち敵を切り刻む剣。
「『剣よッ、外敵を切り刻めッ!!』」
悪魔は剣の斬撃を避けつつ、黒い手を更に伸ばしてきた。
「『風よッ、転じろッ…俺に従えッ!』」
優也の身体は浮き上がり、黒い手を三次元的な動きて悠々と避ける。
「『剣よッ』」
落下の直前に悪魔に向けて蛇腹刀を振るう。意思を持ったそれは悪魔を執拗に追うが、悪魔自身の爪により防がれる。
―――が、それは優也の予想通りの展開だった。
「雑魚がッ…。」
優也が呟いた瞬間、悪魔がいた場所、会場内の柱の影になっている場所から九体の影が現れ、悪魔の身体を貪っていく。
それは優也が初めて放った無詠唱の闇属性魔法であった。
悪魔は怨嗟の叫びを上げながらその身を消滅させていった。
会場内は未だ静まり返っている。
しかし一人の客が拍手をした瞬間。割れんばかりの歓声と拍手が会場内を満たすのだった。
牢屋に戻され、ついてきた男が優也に言った。
「らしい顔になったじゃねえか。くくッ…やっぱおめえはコッチ側の人間だぜぇ?」
「嬉しくねえな…。」
「つれねえこと言うなって、今日から暫くまたお楽しみタイムだからな!しっかり見とくんだぞぉ~。くくッ。」
耳障りな笑い声を残して男は去って行った。
今日も今日とて、凄惨な宴は優也の前で催されている。
目の前の死体が処理されると、次に連れてこられたのは一〇歳程度の少女だった。
その後ろには体長二メートルはある人型の豚の魔物、オークがいた。
泣き叫ぶ、少女をオークが襲う。
「た、助け…て…。」
こちらに手を伸ばし助けを求めた少女を見て思った。
これまで何度もこういうことはあった。
しかし奴隷紋の制限のせいで何もすることが出来なかった。
でも、それは本当だろうか?
助けを求める少女の顔に、娘の姿を思い出す。
「おい、豚。目障りだッ!」
その声と同時にオークの身体は八つ裂きになる。
オークの身体の周りには見慣れたワラスボのような影がふよふよと浮いていた。
魔法の行使に成功した。
手の甲の奴隷紋を見てみると、その鈍く光る幾何学模様の形が少し変化しているように見えた。
「ああん?!どういうことだつうんだよお!?こりゃあよお!?オークもただじゃねえんだぞ!?」
そうがなり立てながら入って来たのは、いつもの男だった。
「気に食わなかった。ただそれだけだ。」
「『黙れ、痛みに苦しめ』」
「――――――ッ!」
突如優也の身体に激痛が走る。命令のせいで声も出せない。
「キャッ!!」
「うっせえ、黙ってろ!!」
「―――、ま…―――テ…。」
乱暴に少女を持ち上げ、部屋を出ていこうとする男を優也は止める。
驚いた表情で男はこちらを見た。
「一体どういうことだあ?奴隷紋はちゃんと機能しているはずなんだがなあ…こりゃあ、ちょっと仕置が必要かあ…。」
ニタリと笑いながら、男は部屋を出ていった。
―――そして、優也はまた更なる絶望を知ることになる。
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