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堕ちた勇者がすくうモノ  作者: かにみそ
第一章「二人目の勇者が堕ちるまで」
1/27

王国編-1

初投稿になります!拙い文章ですがよろしければ読んでいただきたいです!


(始めのうちは間をあけず更新していく予定です!)


※1月9日 加筆修正。

冬至、それは一年において最も日照時間が短くなる日を指すもので、冬至と言われれば冬至かぼちゃや柚子湯などを思い浮かべる人も多いだろう。かく言う私もさっき、賄いの冬至かぼちゃを食べ、今は柚子湯に浸かっているとこだ。


「ふぅ…お袋の家で亜希も柚子湯に入って、…今頃は、もう寝ている頃か……。」


縦長の八畳ほどの空間に洗い場が二つと、それなりの大きさの湯船が一つある。高坂優也(こうさかゆうや)は従業員用の風呂で足を伸ばし、ため息混じりに呟いた。

愛娘である亜希は現在、実家でお袋と共に暮らしている。

ベッドタウンに面した商業区画にあるそれなりに有名なホテルで、料理長をしている私は、中々家にいることができない。その為、娘の世話を全てお袋に任せてしまっているのだった。

特に年末である今の時期は、イベントも多く、ホテル業界は忙しい。帰る時間などないのである。

今もこうして従業員用の風呂で、一日の疲れを癒しているところだ。


ああ、今年の年末も一緒に居てやることはできなかったな…クリスマスを共に過ごしたのは何年前のことだろうか―――今度の休みには、遊園地にでも連れて行ってやろうか…とそんなことを考えていたときだった。


―――突然、湯船が光り出した。


「な、なんだ?!」


咄嗟に湯船から立ち上がるが、立ち上がったのにも関わらず、私の身体は徐々に湯船へと沈んでいく。

湯船の底が消えている―――。足が届かないことに、パニックになりながら湯船に浮かんでいる柚子を掴む。


「うわっっぷッ!…ちょッ…っ!!」


―――――――手足をバタつかせるが何の意味をなさず、私は湯船の底へと沈んでいった。


―――――


―――


――











――


―――


―――――


「ぷはっ!!!はぁ…はぁ…っ」


空気が吸えることに安堵して辺りを見渡すと、そこには見たこともない光景が広がっていた。


「つ、冷たっ!!…なんだ…?」


身体を起こすと、そこは瀬の浅い泉の中だった。

―――さっきまで従業員用の風呂場に居たはずだが、ここは…?


背の高い木々が生い茂るどこか幻想的な雰囲気の森。見上げると生い茂る木々の隙間から、太陽の暖かい光が漏れている。

いつの間に夜が明けたのだろうか―――?

木漏れ日に照らされ、キラキラと光を反射させる泉の水面を立ち上がりつつ見つめ、疑問を口にする。


「あ?ここは一体…?」


「もし、ゆ、勇者様ですか?」


その声に私が振り向くと、そこには胸元の開いた純白のドレスを身に纏う少女がいた。

まだ幼さが残るその顔は芸術品と見まごうばかりの精錬された造形で、一瞬人形なのではないかと思ったが、すぐ瞬きをしていることに気付た。そして均衡のとれた抜群のプロポーションである少女の肢体は、艶かしいと言っても過言ではなかった。特に、その開いた胸元の豊満な胸の谷間は―――。

容姿端麗な少女に私は暫しの間見とれていた。


「あ、あの…。」


「―――え。え?あ!な、なにか?」


「そ、それ…。」


その少女の顔がみるみる内に真っ赤に染まった。両手で顔を隠し、指の隙間からこちらをチラチラと見ている。

何事かと少女の視線を辿っていくと、その視線は自分の下半身へと注がれていることが分かった。


「こ、これは、失礼を。お粗末なものをお見せしてしまい申し訳ありません。」


「い、いえ……。」


お、お粗末…?…え、普通はもっと大きいってこと…?え?

などと俯きゴニョゴニョと少女は呟いた。

ちなみに、少女の豊満な胸の谷間を見たからといって反応したわけではない。ほ、ほんとですよ?


股間を隠していると、少女の後ろから、甲冑を着た男とローブを着た複数の人物が少女を庇うようにして現れた。


「貴様ッ!!王女殿下から離れろッ!!」


「え?!わ、私は何もやってませんよ!!こ、これ、その…!さ、さっきまで風呂に入っていたので!!え、えと!!」


痴漢扱いされてしまう、と慌てて弁解しようとした。すると甲冑の男が槍を構え言った。


「なぜ、お前がここにいる…答えろッ!!トモエユーヤ!!」


「トモエユーヤ…?!」


王女殿下と呼ばれ、指の隙間からチラチラとこちらを伺っていた赤い顔の少女も、驚きの表情でこちらを見た。


「え?!…はぁ?」


こちらに槍を向けている甲冑を着た男に、―――高坂優也(こうさかゆうや)は首を傾げる。


「いや、わ、私は、高坂優也(こうさかゆうや)ですが…?人違いでは…?」


私―――優也が名を名乗ると、辺りがざわざわと騒がしくなる。

確かに少しだけ顔立ちが違うか?―――だとか、しかし余りにも似過ぎている――だとか、は、はみ出てるはみ出てる…ッ―――だとか、優也の周りで議論を始める者たち。

若干一名、何かがはみ出てると顔を赤くしている少女がいたが、何がはみ出てるかは言及しないことにする。なんか興奮してもっとはみ出そうですからね。


「貴様…、トモエユーヤを知っているか?」


「トモエ。ユーヤ?いいえ、知りませんけど。」


優也がそう答えると張り詰めていた空気が、若干弛緩したような気がした。

人名なのは分かったが、知り合いにそんな姓の人はいない。それはそうと―――


「え、えーとその…一体ここはどこでしょうか…あと、できれば何か着るものを頂けると有り難いです。ちょ、ちょっと寒いです。…すみません。」


正直寒い。いくら日差しがあるからと言っても素っ裸だ。当然寒い。

でもしかし、冬にしては気温が高すぎる気がする…最近の異常気象は凄いなぁ…。―――と思っていたら、くしゃみがでた。


「し、失礼致しました勇者様、直ちにお召し物を。」


優也のくしゃみを聞いた、胸元の開いたドレスを着た少女が、まだ赤い頬をしながら慌てて周りに指示をした。


泉から出て着るものを貰い、少女に話しかけた。

すると少女は言った。


「改めまして、私はレイテシア王国第二王女、コーリア・ゲーテ・レイテシア。此度は、良くぞ召喚の呼びかけに答えて頂きました。先程の質問にお答え致しますと、ここはレイテシア王国領の召喚の森と呼ばれているところです。詳しくは王城にてお父上―――レイテシア王よりお話がありますのでその際に―――」


「ちょ、ちょっと待って下さい。レイテシア王国?王女?えーっとさっきまでホテルの風呂場にいたはずなのですが?」


「はい、それは私共が勇者様をこちらの世界へ召喚したからです。」


「え、召喚?え?」


「勇者様。ここはレイテシア王国。勇者様が元いた世界とは別の―――異世界です。」













泉から少し歩くと開けた場所があり、そこに豪華な馬車?が停めてあった。なぜ馬車?と疑問符を浮かべたかと言うと、馬車が繋がれた生き物が馬ではなく、見たことのないコブのない灰色のラクダのような生き物だったからだ。

灰色コブなしラクダに引かれながら木々の隙間を縫うようにして馬車は進んで行った。悪路の為振動が酷く、尻が痛くなってきたのだが、対面に座る少女が何も反応してないところを見て優也は我慢した。


しばらくすると周りに木々はなくなり、牧歌的な景色が広がった。遠くに見える大きな門に向かって進んでいるようだ。

近付いてから始めてその大きさに驚いた。十メートルほどの高さのある壁が広範囲に渡って伸びている。馬車に追従してきた甲冑の男が、自身が乗る灰色コブなしラクダを操り先行する。大門の前にいる門番と何か話しているようだった。



門を潜ると、そこには中世ヨーロッパのような景観の街並みがあった。優也は茫然とした表情で馬車から外を見る。

沿道に集まった人々に対面にいる少女が手を振っていた。

その光景を見て、ああ、そう言えばお尻が痛くないな…舗装された石畳は先程までより随分とお尻に優しいようだった。

と、思い浮かべ現実逃避をした優也だった。いやいや何かの間違いだって、王女殿下?イセカイ?なにそれ美味しいのですか?


馬車が進んで行くと一層開けた通りに出た。そこはどうやら市場通りのようだった。

歩行者を気遣ってか、ノロノロと進む馬車の窓から通りすがりに見れば、そこには見たことのない食材が所狭しと並んでいた。

一体ここはどこの国なのだろうか…先程王女と名乗った少女が、イセカイと言っていた…。そんな国、聞いたことないな…。

と、優也はまだ現実を受け入れられないでいた。


どうやらここが目的地らしい。

そこには豪華な城がそびえ立っていた。跳ね橋を渡ると、城門が開いた。それを潜ると噴水がある庭園の脇を通り、城へと馬車を進める。

なんだこれは…、なぜ門を潜ってからまだ入り口まで随分と距離があるんだ。無駄だろこの庭。どう考えても不便だろう…。何処の国も金持ちの考えることは同じなのか…。

しばらくすると馬車が停止した。馬車から降りると大きな扉から現れたメイド服姿の三名の女性に案内され、城内へと入る。


便宜上エントランスと呼ぼうか、入り口から中へ入るとそこは広い空間だった。奥には両端に広い階段があり、空間の真ん中には左右へ伸びる廊下があった。見上げるほど高い天井には大小計九つのシャンデリアが吊り下がっている。特に中央のシャンデリアには複雑な装飾の先に何本ものロウソクが並んでいた。

あれ、どうやって火を着けてるんだろ?と優也が立ち止まり顔を上げていると、案内役のメイドの一人から遅れずついてくるようにとやんわりと注意された。

中央の扉を開けると無駄に広い廊下が広がっていた。優しい赤色の汚れ一つ無い絨毯の上を歩いていく。

途中で細い廊下へと入り、いくつも並んでいるドアの一つへと案内された。

そこは十分に豪華な一室だった。モールディングで装飾された窓然り、質の良さそうなレースのカーテン然り、立ち並ぶクローゼットでさえも何処か上品さを感じるのであった。


これに着替えて下さいと、メイドたちに言われ、あれよあれよと言う間に数名のメイドに優也は着替えさせられた。―――いろいろと触られて少し興奮…いや、なんでもない。


そして優也は、気付けば王の間へと辿り着いていた。

優也はもう既に、ここまで至る城内の道順を覚えていない。―――この城、広すぎだろ。と優也は思ったのだった。








「よくぞ参った勇者よ。我の名はラインハルト・ゲーテ・レイテシア。この国の王である。」


目の前には豪華な椅子に座りながらそう言い放つ男。絵に描いたような王様がそこにはいた。


「して勇者よ。お前は本当にトモエユーヤを知らぬのだな?」


「…?ええ、知りません。その人が何か?」


王の側にいる男、泉で優也に槍を向けてきた甲冑の男が、王の側へ寄り耳打ちをすると王が言った。


「ふむ。トモエユーヤとはお前より以前に召喚した勇者のことだ。その者は現在、国家転覆罪によって指名手配されている。魔国の王、魔王となってな。」


国家転覆罪?魔王?


「そう可笑しな顔をするな、いま説明してやる。お前とトモエユーヤ―――魔王はとても似ているのだ。お前の世界では黒髪黒目は珍しくないのであろう?もしや顔まで同じなのか?」


「い、いえさすがに日本人でも顔は違うかと…」


外国人からみると同じ顔に見えるとかだろうか?


「しかし似ておる。瓜二つと言っても過言ではない。」


そういってこちらを見つめる王の視線に薄ら寒いものを感じ、優也は冷や汗をかいた。

しかし、なるほど話は理解した。皆が揃って「トモエユーヤ」と言っていたのは犯罪者の名前だったのか。―――そしてその人間と私は似ていると。どの程度そっくりなのかは知らないが、国家的な犯罪者と同じ顔をしているかと思うと、不安になるな…。


「まぁよい。此度の召喚でこうして勇者が参ったことを喜ぼう。さて、お前には先程話したトモエユーヤ―――魔王を倒して貰うことになる。まぁ、待てそう慌てずとも良い。まずは訓練をしても貰うことになるだろうな。」


魔王を倒すなどとわけのわからないことを言う王に声を上げようとした優也だったが、それを先んじて防がれ別の気になることを言われた。


「訓練とは、勇者の能力を開花させる為に行うのだ。そちらの世界では戦いなどそうそうあるものではないのであろう?故に、まず戦いについて学び、その中で能力を開花させる。他にもこの世界の一般教養なども学んで貰う。こうして話ができているが、それはコーリアの魔法によるものなのだぞ?」


「は、はぁ…。」


「なんだ。気のない返事だな?安心しろ。異世界から召喚された人間はこちらの世界の人間とは比べ物にならない能力を秘めているのだ。訓練をし能力を開花させれば、お前でも、例えば龍を狩るくらい簡単にこなせるようになる。」


そして王は俯き首を振りつつ言った。


「―――はぁ、それにしても似ておる…、我はちと気分が悪くなった。…あとは他の者任せる。」


例えの龍が何なのか分からず、呆けている優也に王はそう言って、忌々しい者を見るかのように優也を睨み付け、その場を去って行った。














王が退出した後、甲冑の男が、簡単に明日からのことを説明してくれた。

訓練は彼が担当するらしい。



そして優也は今、優也の為に用意された豪華な部屋の中で、落ち着きなく、行ったり来たりを繰り返し、考え込んでいた。


改めて、現状を整理しよう。

ここは日本でも地球でもない。別の世界である。その中のレイテシア王国。ここはその王城の一室。

勇者として召喚された私は今後、訓練をして、ゆくゆくは魔王を倒すことになる。

魔王とは以前召喚されたトモエユーヤで現在、国家転覆罪で指名手配されている。


魔王を倒す…私が?あまりの現実感のなさに思考がまとまらない。


というか、私はちゃんと帰れるのであろうか。


コンコンとドアがノックされる音がしたので、一旦考えるのを止め、優也は返事をする。


「はい?」


「どうも、勇者様。少しよろしいでしょうか?」


部屋の前にいたのは、レイテシア王国第二王女、コーリア・ゲーテ・レイテシアだった。


「え?あ、はい。どうぞ。」


「では、失礼しますね。」


「それで、王女殿下?―――でよろしいでしょうか?王女殿下はなぜここへ?」


「私のことはコリィで構いませんよ。ここへ来たのはお父上の説明では分からない部分があるだろうと思ったからです。それで、なにか分からないことはありませんか?」


今まさに情報不足を嘆いていたところだったので渡りに船だった。優也はコーリア―――コリィに尋ねる。


「まずは…私は、元の世界へ早く帰りたい、と言うことですかね。」


「それは…すみません。現状方法がありません。勇者様が帰るのは当分の間は不可能です。」


優也の声に申し訳なさそうにコリィは答える。


「そ、そうですか…仕事は…この際どうでもいいですが…娘が心配なので、早く帰りたいのですが…。」


呼んでおいて帰さないとか拉致ではないか?と思ったが生殺与奪の権を握られている現状では、何を言っても意味をなさない。それどころか立場が悪くなるだけだろう。

優也は、一旦その焦燥感を飲み込んだ。


―――ふと、違和感に気付く。娘―――亜希のことを思い浮かべたとき、胸にポッカリと穴が開いてるような気がしたことに。


しかし直後のコリィの質問に、その違和感はすぐに霧散した。


「は?え…えと、ご息女様がいらっしゃるのですか…?」


「はい、今年で一〇歳になった娘がいます。」


「一〇歳ッ?!ぶ、不躾ですが勇者様は今お幾つなのでしょうか?」


「はぁ、三六歳ですが?」


「三六?!えッ?!」


この反応は慣れたものである。自分の顔が物凄く童顔なのは知っているし、高校生の頃から写真と何ら変化がないことも知っているのでもう諦めている。


「よく言われるのでその反応は慣れていますが、驚き過ぎでは?」


「い、いえ…確かに年齢自体に驚きもしましたが、それよりも勇者として召喚する者は大体が一〇代の人間であることが通例なので…例外もあるということなのでしょうか…?」


「わ、私に聞かれても困りますが…。」


「あっ…すみません。少々取り乱してしまいました。ごめんなさい。」


「いえいえ。」


忙しなくワタワタと動く度に胸の谷間が動くのでこれは最早ご褒美―――いえいえ、じっと見てなんていませんよ。ほんとですよ?

三六歳のおっさんと胸元の開いたドレスの少女が部屋で二人きりでいる。これだけで事案発生であるが、ここは異世界なので問題ないだろう。ちょっと異世界が好きになった。


「あ、それとその勇者様って言うのやめません?」


「え?はぁ…それではユーヤ様とお呼び致しますね?」


胸の大き―――容姿端麗な少女に名前呼びされるとか何のご褒美だろうか。天国の妻もこの位は許してくれるだろう。…ゆ、許しくて、くれますよね?



「他に何かお聞きしたいことはありませんか?」


「えーと、勇者の召喚って言うのは、…魔王を倒す為に、この世界の人間よりも強い異世界の私たちのような人間をこちらの世界に呼ぶものって認識で間違いないですか?」


「現状ですとそれで間違いはありません。ですが元々の勇者召喚には別の意図がありました。今から約五〇年前の大戦、―――全世界で様々な国々が争った大きな戦争があったのです。その戦争で国々は疲弊し、世界そのものが弱ってしまいました。時の王たちはこの過ちを繰り返さないようにと知恵を絞り、勇者召喚によって召喚された勇者を国の代表とし、代わりに戦わせることによって勝敗を決めようとしました。代理戦争ですね。」


そこまで話すとコリィは沈痛な面持ちで続きを話し出した。


「ですが、私共の国、レイテシア王国代表のトモエユーヤが問題を起こしてしまったのです。問題などと簡単な言葉では言い表せない…大罪を犯しました。」


「…その人は何をしたのですか?」


「―――まだ幼かった私の妹、ミシェリアを殺害したのです。」


こちらを見つめて言い放つコリィの目には、いろんな感情が渦巻いているように見えた。


「それだけではありません。後に全世界に向けて宣戦布告をし、魔国の王、前魔王を殺して魔国を乗っ取ったのです。」


「魔王を倒した、のですか?ってことは私はそんな化物と戦うと言うことですか…?」


「化物ですか…彼は…いえ、アレはそんなものではないでしょう…なんせ乗っ取った国の民のほとんどを殺したのですから…。」


「た、民を殺した?な、なぜ?」


「わかりません。分かることは極少数の魔国の民―――魔族は国から逃げ、大多数は逃げ遅れ、皆殺されました。現在魔国は魔物が巣食う国になっています。そしてその責任を問われたのは言うまでもなく我が国です。ですので間を開けず勇者召喚を行い、ユーヤ様を召喚したのです。」


「自分たちの不始末は自分たちで、と言うことですか?しかしそれだけで他の国は納得したのですか?」


「本来なら一番に責任を追求してくるであろう魔国は、最早ありませんから…ね。国家間の仲は元々良くありませんから、他国がこちらに追求しているのも自国がトモエユーヤの標的にならないか心配だからでしょう。」


どうやら国家間の仲は険悪と言っても過言ではないようだ。第一に自国の利益を考えることは普通だが、他所の国など知ったことではないと言う感情が言葉の端々から感じられた。

魔王を倒し民を皆殺しにする―――そんな人間相手に何ができるのか…と思っているとコリィが優也の手を両手で包み込んだ。


「そんなに不安そうな顔をしないでください。大丈夫です。まずは訓練をしましょう。ユーヤ様には必ず凄い力がありますから。」


「そうでしょうか…?私は取り柄のないただのオジサンですよ?」


「いいえ、ユーヤ様は勇者様です。勇者様にはなにか特別な能力が必ずあります。ですから、一緒に頑張りましょう?私がついていますから。まぁ、私にはお勉強の方しか手助けできないのですけどね。」


コリィはちょっぴり恥ずかしそうに、そう言った。


優也は自分を労り心配するコリィを見て、異世界にきて初めてほんの少しだけ安心感を得た。

自分の半分以下の年齢の少女相手に安心するなんて情けないなと、気恥ずかしい思いをする優也だった。

読んでいただきありがとうございます!

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