第6話 うまいファイターズ解散!?ぶっちゃけ早すぎなんですけどの巻
この日も、うまいファイターズは戦線に立っていた。
どこぞの誰かがポイ捨てしたのだろう、空き缶がモンスターと化してファイター達の前に立ちはだかっている。
っていうか、ポイ捨てはよくないぞ。日本全国ポイ捨て禁止。AC。
「よし、ここはワイに任せえ!!」
勢い良く、飛びあがる、たこ焼き。
「ウルトラごっついドロップキィィィィィィィック!!!」
ボグシャア。みぞおち(っていうか缶の真ん中部分)にクリーンヒットだ。
しかし、何とか立ち直り……再度進撃をかまそうとする空き缶。
「食らうがいい……波動斬!」
なっとうの日本刀が振り下ろされる。
なかなかのダメージだ。しかし、まだまだ立ち上がる空き缶。
「あかんな、力が出ない」
「おかしい、普段は割とあっさり行くはず?」
2人が考え込んでいる間に……空き缶がずんずん迫ってくる。
「だあああああああああ!もう!明太キィィィィィック!!」
しびれを切らし、めんたいがキックを食らわせた。
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ……」
うめき声とともに、元の空き缶に戻る化け物。
「くっそぉ。おぼえてろおおおおおおお!」
高級伯爵は最早聞き飽きた捨て台詞とともに立ち去っていった。
まあ、大体こんな感じで今日の戦闘は終わったわけで。
「うーん、なんかおかしいんだよねー」
件の空き缶をゴミ箱に捨てつつ、たこ焼きこと太田コウキがぼやく。
変身時と違い、なんか弱弱しそうな感じだがこれが彼なのだ。
「普段ならさ、もう一気にいけるはずなのに。そういえば、この前のテレビ塔の時も
連続パンチで倒されるまでにだいぶ時間がかかったし……」
コウキは考え込む。
「スランプ、でしょうか」
きらりも同様である。
「いや、変身したら能力が普段よりも上がるからスランプも何もないと思うけど
……ってそんなこと言っている場合じゃない。遅刻よ!!」
りえは叫ぶ。
そう、子供達は登校途中だったのだ。
「……はァ、俺としたことが」
めんたい、こと明石太郎は水がいっぱい入ったバケツを持ちつつぼやいた。
「しょうがないよ、太郎君。高級伯爵さんに『この時間に来てください』なんて言えるわけないし」
同様に、塩原れたす。
まあ、第2話でも触れたのだが時間指定をするヒーローなんて前代未聞だ。
もしこういったヒーローが出てくる小説があるなら是非読んでみたい。
そして、ギャグの参考にさせてほしいと作者は思う。
まあ、それはさておき。太郎にとってこの遅刻は恥ずべきことだった。
何せパーフェクト人間は遅刻などしないはず。
もし、姉や母にバレたら……まあそういうことだ。
「まあ、コウキや夏斗がなんかスランプだったせいでこうなってしまったといえるな」
太郎はぶーたれた。
「ぼ、ボクが悪いっていうの!?」
「おれが悪いとでも!?」
それにかみつく、コウキと夏斗。まあ、そんなことだから……。
「廊下は静かに立つ!!」
なーんて石政先生に怒られるのだ。
「「「「「すみません……」」」」」
平謝りな、子供達であった。
「本当、なんでこんなに力が弱くなるんだろ」
立たされから解放され、教室に戻ってきた子供達。
夏斗は机に顔を突っ伏して、考え込んでいた。
「矢張り、スランプではないでしょうか?」
と、きらり。
「いや、だからね……」
思わず突っ込むりえ。
「ひょっとしたら、おじいさんが何か知ってるんじゃないかな?」
おじいさん……つまり、うまいファイターズ総司令の矢尾金次郎が何か知っている
……と、彼方は踏んだようだ。
「なるほど!そうときまれば、放課後ちょっと行ってみましょ!」
こうして、うまいファイターズは謎を解くべく放課後基地に立ち寄ることにした。
と、いうわけで。放課後である。
とにかくちゃっちゃと『武藤商店』の庭にある『どこでもドア』から基地に向かった、子供達。
基地では金次郎がのんびりとお茶など飲んでいた。
なお、お茶受けは近所のお菓子屋さんで売っているみたらし団子だ。
茶色のたれが白い団子と絡まり、とってもおいしそうである。
ん?基地って機械がいっぱいあるから水分はやばいんじゃないかって?
……機械のないところで食べているから、それは問題ない。
ほ?適当すぎやしないかって?……るっせー。
閑話休題。
「あのー金次郎さん」
れたすは言った。
「え、なになにどーしたの?れた君」
それにしてもこのオジジ、のんきである。
「もお、おじじったらのんきなんだから。私達、ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「そ」
お茶をぐいっと飲み干すと、金次郎は返答した。
「ん、質問ならどんどんこの金ちゃんに聞いちゃって!」
「……」
どこまでも軽い、金次郎にりえは頭を抱えた。
まあ、とにかく。れたすは問うた。
「じゃあ、早速質問なんだけど……」
「ちょっと待って!!」
ちょいちょい、あんた質問ならなんでも聞いちゃってっていまさっき言ったじゃないか。
と、この場にいた子供達が思ったり思わなかったり。
「なんなのよ」
「……まだみたらし団子食べてないから、それを食べてからでもいい?」
そう言って、みたらし団子を頬張る金次郎。
当然のように、子供達はずっこけた。
「お茶を飲んでいる場合じゃ、なかろうがあああああああああ!!!」
さらに、当然のようにりえは金次郎をぶっ飛ばした。
「あーれー」
……人が物を食べているときに、暴力をふるうのは大変危険なので
賢明な読者諸氏は絶対に真似しないでね。
「で、とどのつまり話って何?」
りえの『きょーいくてきせーさい』の痕であるタンコブを頭上にみっつ作った状態で、金次郎は問うた。
「それなんだけど……」
りえは本日の朝の出来事をかくかくしかじかと話した。
かくかくしかじか。
「んー。なんか『なっとう』と『たこ焼き』が一緒に出動すると、
それぞれの戦闘力が2分の1にまで下がるみたいなんだ」
2分の1。つまり半分。こりゃちょっと致命的だぞ。
「……その原因ってわかってるの?」
次は真世が問う番だった。
「それは……」
それは。金次郎の次の発言がなんなのか。子供達は固唾を飲んだ。
「わかんない」
ずるっどかっしゃあああああああああああああああん!!!
無責任な発言にというかベタベタすぎる展開に子供達はコケた。
みんなが所謂ずっこけ姿勢をキープする中、りえは一人立ち上がりつかつかと歩き、金次郎をツパーンという音とともにはっ倒した。
ツパーン。
「コッラー!おじじ、『わかんない』はないでしょ!?ぶつわよ!!」
いや、あなたもうすでにぶってますから。
「だって本当に分かんないんだもん!」
金次郎は泣きそうである。
「もう、総司令でしょ。しっかりしてよね。もし今度へましたら
光一さんに総司令の座を譲ってもらうわよ?」
「プヒー!それだけはご勘弁をォォォォォォ」
あー、完全に泣いちゃったよ、奴さんったら。
その時。基地内に響く、サイレン。
まあつまりそういうことだ。うまいファイターズ出動の時だ。
一斉に画面に注目する子供達。
「すもも通り商店街に、謎の宣伝カー!」
パソコンの前で、6姉妹のひとり矢尾あいが状況を伝える。
その宣伝カーの画像を大きくするよう、金次郎が指示を与えた。
車の中には……やっぱり、いました高級伯爵。
っていうか、1日に2度も現れるとは。がんばってますね。あなた。
「『ゲート』、すもも商店街近辺に接続!」
6姉妹のひとり、矢尾いちごがパソコンをかちゃかちゃやる。
「よし!全員出動!!」
金次郎、ここぞというときはびしっと決めるタイプ。
ん?全員??
変身しようと、ブレスを叩こうとした子供達はまさしく同タイミングで同じ疑問を持った。
「ねねね、おじいさん」
「ほに?何ぞね、彼方君」
全く理解していない、金次郎に再びりえは頭を抱えた。
「うん、今全員出動って言ったけどナツ君とコウキ君って一緒に出動できないんじゃあ?」
はっとなる、金次郎。
「あじゃぱー!すっかり忘れてた!!!」
……またまたまたずっこけた、子供達。
彼らが吉本新喜劇のような状態になっている中、りえはひとり立ちあがり
……またまた金次郎をバシリとぶったたいた。
バシリ。
「ついさっき言ったばかりのことでしょうが!総司令から降ろされたいの?っていうか、ぶたれたいの?!?」
いやいやいや、だからあなた今さっきぶちましたよね。
「とにかく、うち1人は基地に残るしかないわね……」
りえがため息とともに言った瞬間だった。
「……じゃあ、ボクが行くよ」
手をあげたのは、コウキ。
「いや、待て。そこはおれが行くべきだろーが」
「ち、違うよ……ボクが行くんだ……」
「いーや、おれが行く!」
「ボクだよ……」
「おれが行きたいの!」
「ボクが行きたいの……」
「おれ!」
「ボク……」
やいのやいのやいのやいのやいのやいの。
言いあいが始まってしまった。
すっかり弱り果ててしまう、他の皆さん。
「あ、あのぉ……ケンカはよくないと思うよ……」
恐る恐る、れたすは2人に話しかける。
「塩原君は黙ってて……」
「塩原は黙ってろ!」
が、同時に怒られた。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
2人の気迫に押され、泣きだしてしまうれたす。
まあ、れたすが泣いている間にも2人の言いあいは続いたわけで。
「なんなら、変身して戦って……どっちが行くか決めようじゃないか!」
「……乗った」
おお、大事になっちゃった。
「ああもう!基地の中で大乱闘はよしてよお!」
金次郎、懇願。
「……あのぉ、言いにくいんだけど……」
パソコンの前に座っていたこれまた6姉妹のひとり、矢尾あずきがコウキ達に言う。
「何……?」
「なんだ!?」
れたすと同様に、気迫に圧倒されつつもあずきは言った。
「……ケンカしている間に、なんか解決しちゃったみたい」
そういいつつ、メインモニターを指差すあずき。
見ると、高級伯爵が通りがかりの主婦に叱責されているではないか。
まあ、しょうがない。大音量で宣伝カーを走らせれば怒られるのは当然だ。
……それはさておき。あまりの出来事に夏斗もコウキも雷に打たれたように硬直してしまった。
……が、すぐに復活し言いあいを始めた。
「だから!お前が大人しく引き下がってれば!」
「それはこっちのセリフ。ボクに行かせていればよかったんじゃない……」
「違う!おれが……」
「違うよ、ボクが……」
どんどん言いあいがヒートアップしていく。
「あ、あのさ。僕達が出なくても解決したんだし……」
れたすが、何の解決にもなっていないフォローを入れると……
「だから、塩原君は黙ってて……」
「だから、塩原は黙ってろ!」
「うわああああああああああああああああああん!」
またまた怒られ、大泣きするれたすなのでした。ちゃんちゃん。
まあ、当然ここで終わるはずもなく。場面はちゃっちゃと翌日の陀賀第一小学校の方に移ったわけで。
昨日の今日なんでコウキも夏斗も顔を合わせた瞬間、ぷいっ!……である。
要するに、険悪状態がまだまだ続いているってわけだ。
「どうしよう、りえちゃん……」
こんな現状に、れたすは心配そうにりえに話しかけた。
「どうしようったって……。私に聞かれても何もできないわよ」
「けど……」
ため息をつきつつ、りえは言う。
「それに、ケンカの原因は私にもあると思うのよね……。
私があのとき『うち1人は基地に残るしかない』なーんて言わなきゃ、
あんな大騒動にはならなかったのよね……むぅ」
「まあ、確かにそうだよねー」
「ずこっ!!」
屈託なく言う、みくにりえはコケた。
「いやいやいや、みくちゃん。そこは嘘でも否定してよォ……」
普段の彼女からは考えられないくらい、情けない声をりえは上げた。
そういった状況でも時間は進み、次の授業の時間となった。
ああ、そうそう。れたすとりえは本日もギリギリセーフだった。
業間休みの後の3時間目と4時間目の授業はコウキと夏斗のピリピリムードを除けば、それとなーく平和に終わった。
午前の授業終了後のお楽しみといえば給食である。
今日は野菜たっぷりクリームシチューに、キャベツサラダ、ミニ味噌カツ、バターロールに牛乳、ライチゼリーといった献立だ。
みんながおいしそうにパクパクやるなか、コウキはシチューの中のニンジンを取り除いていた。
つまり、そういうこと。コウキはニンジンが苦手なのだ。
それを目敏く見つけた、夏斗は強い口調で言った。
「おい、太田!何勝手にニンジン残してんだよ!」
「……だって、嫌いなんだから仕方ないじゃない」
「こんなことだから、普段体調がすぐれないんだろが!」
「余計な御世話だよ……」
こうして、また口論がおっぱじまってしまった。
この口げんかは、石政先生の乱入までつづいたわけで。
昼休憩。廊下でコウキと夏斗以外のうまいファイター全員が考え込んでいた。
「困りましたわねー。なんだかどんどん状況が悪化している気がしますわ」
きらりの言う通り。夏斗とコウキの間にはどうにもこうにも殺伐とした空気が漂っている。
それも、昨日や先程の業間休み以上の。他のクラスメイトもドン引きだ。
「こうなったら、意地でも仲直りさせてあげないと!」
気合い十分な勢いで言う、みくに水を指すように真世は言う。
「でも、どうやんのさ」
「……それは……」
間
「それは今から考える!!」
当然のように、みく以外の全員がコケた。
「ま、まあ……予想はできてたけど……ね」
コケた状態で、れたす。
「ふぅ、実はだね……」
立ち上がる、ダイゴ。全員、キョトンである。
「こんなこともあろうかと、『ケンカをやめてもらう歌』を作っていたんだ!
ナツ達に聞かせて、このケンカがどれだけばかばかしいか教えてやるってわけよ。
そーと決まれば、早速奴らを音楽室に呼び寄せないと!」
「それはだめえええええええええええええええ!」
必死に止める、れたす。
「なんでだよ……」
ダイゴはぶーたれた。
「だって、ダイゴ君……お」
「わああああああああああああああああ!」
言いかけるれたすの口を大慌てでふさぎ、りえは言う。
「お、お、お、音楽室……確か今日クラス紹介の撮影で別のクラスが使うって聞いたわ!」
「んがぐぐ」
まあ、実際のところはそういう予定はないのだが……嘘も方便だ。
(それに、歌を聞かせたところであの子たちの心が動くとは言い難いし……)
口をふさぎながら、りえは思った。
一方、れたすは窒息寸前にまで追い込まれていた。
「んぐぐぐぐぐぐ……」
「こうなれば、方法はひとつ……ですわ」
きらりに一斉に注目する、子供達。
「二手に分かれて、コウキさん達に説得するんです。仲直りするように」
確かに、このまま様子を見守り続けるよりダイゴの歌を聞かせるよりはいいアイデアだ。
そういうわけなので、誰も反対しなかった。なお、編成は以下のようになっている。
コウキ組:れたす、りえ、かごめ、真世
夏斗組:みく、太郎、ダイゴ、きらり、彼方
「とにかく!意地と気合いで仲直りさせるわよ!!」
「「「おーっ!!」」」
と、いうわけで。
結論から言わせていただくと……『だめでした』。
なんというか。それぞれの場所で両者の口からはっきりと
『仲直りなんてする気はない』
といわれてしまったのだ。特に、夏斗からは
「大体、考えても見ろよ。太田とおれは単にクラスメイトでかつ
うまいファイター同士ってだけで友達でも何でもないだろ」
などと返される始末。
まあ、それは正しいと言っちゃ正しいかもしれない。
今の今まで話すこともなかったクラスメイトとひょんなことからいきなり一緒に行動するようになったというだけで友達になれるわけじゃないから。
しかし、これから割と長いこと『うまいファイター』でいることになるかもしれない、今の状況。
こんなピリピリ険悪状態では『団結』は正直難しい話だ。
「あーもう、だから!やっぱオレの歌で……」
どこからともなく、ギターを取り出すダイゴ。
「だからだめええええええええええええええ!」
れたすは大慌てでダイゴを羽交い絞めにした。
「あーもお!オレの歌を聞けェェェェェェ!!」
「聞かないィィィィィィィ!!!!」
と、第二の内紛が始まりかかったとき……。
ポカンという音と同時に、子供達の頭上に、石政先生の拳が落っこちた。
「あなた達、とっくに掃除の時間始まってるわよ……」
「あーうー。いたいよお……」
いまだに引っ込まないタンコブをなでつつ、れたすはクラスメイトとともに体育の授業に向かっていた。
隣を歩くりえもまた同様である。
「まあ、元をたどれば私が原因なんだけどね……」
「りえちゃんは気にしなくていいよ……けど」
れたすは目線をコウキと夏斗に移した。矢張り、まだまだ険悪状態だ。
そこだけ激越なオーラが出ているというか、なんというか。
っていうか、最早炎だよ!炎!!(←トモコレ新生活的思考)
他のクラスメイトもドン引きである。
っていうか、他の教室移動中の子供達もだ。
そんな現状に、りえもれたすもすっかり青息吐息であったわけで。
「と、いうわけで。今日の体育はドッジボールです」
やったー!と5年2組の皆さんが一斉に盛り上がる。
やっぱり小学生の大好きな球技はドッジボールのようだ。
れたすは矢張りドッジボールがウルトラ苦手であるが今回は少し事情が違う。
「れたす、なんか嬉しそうな顔してるけど……」
そんなれたすに小声で話しかける、りえ。れたすも小声で返した。
「……これだよ。このドッジボールで2人が力を合わせて相手チームを倒す
……そして、友情が復活する……みたいな!!」
「ずいぶんと甘っちょろい考えね……そううまくいくかしら」
果たして、それはりえの予想通りとなった。
「だああああああああああ!!なんでよけないんだよ!」
「しょうがないじゃない……」
試合中も言いあいが勃発し、中断することしばしば。
「まったく、私の言った通りじゃない……」
りえは肩をすくめた。
「よもや、れたす。このドッジボールを通して仲直りさせようと考えていたんじゃねーの?
いくらこれが小説でもそう、うまくいくわけないだろ。バカか?」
太郎も手厳しく批判した。
ていうか、ちょっとメタネタがあったな。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああん!!!」
ギャン泣きするれたすであった。
さてその直後に、ボールが顔面直撃したれたすはあっけなくアウトとなったわけで。
そういうわけで、放課後である。
「もお、りえちゃん!僕達どうすればいいのさあ!!」
れたすは泣きそうである。
「私に聞かないでよ……」
りえは右手のひらを額に当てていた。
「流石の天才的頭脳を持つ俺でも……仲直りの方法は皆目見当がつかん」
ちょいちょい、太郎君。さりげなく厭味なこと言わない!
「厭味とかそういう問題じゃない。本当に思いつかないのだ」
……さいですか。などと小説の禁じ手である地の文との対話をしていたら……。
「はいはいはーい!こちら高級菓子の『GO☆ジャス堂』でぇぇぇす!!」
あの方……つまり、高級伯爵が現れたわけで。昨日よりもやや大きい宣伝カーに乗って。
お約束通り、りえはびしりと高級伯爵に指を向ける。
「ちょっと、あんた!昨日通行人に怒られたじゃない!」
「くじけない!へこたれない!紳士は急に止まれない!!」
あんたはどこのお邪魔な魔女ですか。
「ああもう!なんて人なの!!とにかく、みんな変身よ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
一斉にブレスからそれぞれの味のうまい棒を召喚。
そして、一気に天空に掲げ……
「「「「「チェインジ☆うまいパワーボンバー!!!」」」」」
と、いうわけで。変身シーンをすっ飛ばし名乗りの件である。
「サラダでヘルシー勇気りんりん!うまいファイター、やさいサラダ!」
「コンポタでほっこりまろやか気分!うまいファイター、コーンポタージュ!」
「めんたいでピリッと決めるぜっ、I’mNo.1!うまいファイター、めんたい!」
「サラミで超ウルトラパワー全開!うまいファイター、サラミ!」
「てりやきバーガーで皆さん仲良くスマイルですわ☆うまいファイター、テリヤキバーガー!」
「チーズであーたもオレもデュワデュワワー♪うまいファイター、チーズ!」
「たこ焼きパワーでタコ殴り!うまいファイター、たこ焼き!」
「とんかつソースで小宇宙感じてみる?うまいファイター、とんかつソース」
「チキンカレーの魔法できらぴかりん☆うまいファイター、チキンカレー!」
「エビマヨで大漁大漁超大漁☆うまいファイター、エビマヨネーズ!」
「なっとうで、大和の心、感じてみよ!うまいファイター、なっとう!」
「「「「「サクッと参上!うまいファイターズ!!!」」」」」
今回も口上及び決めポーズが決まりました。
「てアホー!」
びしっと決まった瞬間、たこ焼きが声を荒げた。
これには思わずびっくりしてたこ焼き以外の全員がコケた。
「おいコラ、なっとう!なんでお前も変身してんねん!」
「そういうたこ焼きこそ、何ゆえ変身した!」
「お前が変身するから、ワイは2分の1しか力が出ないんや!」
「それは拙者のセリフだ!」
やいのやいのやいのやいのやいのやいの……。
口上が終わったかと思ったら、今度は口論。
前回に引き続き、置いてけぼりな伯爵さんである。
「コッラー!また私を置いてけぼりにする気かァァァァァ!こうなったら、今回は……っ!」
怒りにまかせて、バラを件の宣伝カーに突き刺す高級伯爵。
お約束の流れではあるが、それは巨大モンスターと化した。
「はっはっはー!どうだ、まいったか!!」
高級伯爵は宣伝カーモンスターの上でどや顔で笑った。
が、しかーし。
「お前はなんもわかってへんな!拳こそが最強や!」
「刀こそ大和の心であると、何度言ったらわかる!」
「もぉ、やめてよおー」
まだまだ終わっていない内紛に、高級伯爵はコケた。
「ああああああああ!もういやっ!!!」
奴さん、泣きだしそう。
その時……! 圧倒的 閃きっ……!!
まあ、ようするに。高級伯爵はいい名案を思いついたわけで。
(今、うまいファイターは内紛真っ最中!この結束が綻びつつあるうちに……、
あの化け物をドーンと襲わせて、んでもって倒す!!!
そうしてさらにこのチーム内の状況は悪化して……。
うまいファイター、6話目にして解散!いやーぶっちゃけ早すぎだわ!!)
ただいまの出来事、時間にして8.7秒。
このランランランと鼻歌でも歌いたくなるような天才的思い付きをひらめいた高級伯爵は
「いっけー!」
さっさと宣伝カーモンスターを襲わせた。
「なああああああああああああああああああ!」
論争(あと、それを止めようとする)真っ最中だったため、モンスターの爆誕に気づかなかった、うまいファイターの皆さん。
不意打ちな感じで襲われて、一斉に吹き飛ばされた。
「マッタク……今回は温和しく拙者にその座を譲ればよかった物を」
「なんやて!?お前こそすっ込んでろや!!」
吹き飛ばされながらも、アーギュメントをやめない2人。
「もう、たこ焼きもなっとうもケンカしている場合じゃないでしょ!」
と、コンポタ。
「そうだよ、今は戦わない……とっ!?!」
電柱に頭をぶつけ、気絶しやさいサラダは地面へと落っこちた。
そんなことはさておき、なんとか空中で体勢を立て直しファイター達は地面に降り立つ。
間を置かず、宣伝カーモンスターの前輪右ストレートが飛んできた。
「おんどりゃああああああああああああああ!」
それを止めるべく、たこ焼きが地面を蹴り飛び立つ。
ものすごい音とともに前輪右ストレートが……止められた。
しかし、たこ焼きの表情は少し苦しそうだ。
矢張り、なっとうがこの場にいるせいだろうか。
やがて限界を迎え、たこ焼きはすごい勢いで宙に放られ……落ちた。
受け身を取ったのち、立ち上がったたこ焼きはなっとうに向き直り……言う。
「おい、なっとう!さっさと変身解いてここでじっと見てろや!力が出ないやろ!」
「うるさい!お主こそ変身を解かないか!」
やんややんややんややんやわいわいわいわいわい……。
こうして、またまた始まった諍い合戦。
「ハッー!ハッー!ハッー!愉快、愉快ー」
化け物の上で、高級伯爵は笑う。
「コッラー!これのどこがおかしいってのよ!!!」
そして、キレるコンポタ。
「仲間割れほど面白いものはないからねぇ……」
「どこがよ!!」
ああ、この態度……まさしく敵キャラ。
「と、いうわけでどんどんいっちゃうもんねー」
こうして始まった、後輪ストンプ。
あまりにも激しい足踏みに、立ち上がれない戦士達。
なお、この時まだまだ気絶していたやさいサラダがこの衝撃でドブに落ちた。
「はぁ……困りましたわね」
思いつめたような表情を浮かべる、テリヤキバーガー。
その時である。テリヤキバーガーの頭上に、LEDライトが浮かび……灯った。
「なっとうさん!たこ焼きさん!」
ケンカをしている2人に呼び掛ける、テリヤキバーガー。
「「なんだ(や)!?!」」
2人はすごい顔で睨みつけてくる。それに屈せず、テリヤキバーガーは言った。
「お二人さんにお願いがあるんです」
にっこり。最強のスマイルを、彼女はかます。
「お願いってなんや、テリヤキバーガー?」
「はい、実は」
かくかくしかじかぺらぺーらなんとかかんとか。
「と、いうわけなんです」
再びにっこり。
「はぁぁぁぁぁ!?同時に攻撃をかませェェェェ!?!」
「冗談を申しているのか。拙者はこ奴と顔を合わせたくもない」
はい、予想通りの反応です。しかし。テリヤキバーガーは笑顔を崩さない。
「わかっていますわ。そこで……かくかくしかじか、ですわ」
説明するテリヤキバーガー。それを聞く、たこ焼きとなっとうに高級伯爵は言った。
「おいおいおい、ごちゃごちゃ話している余裕はあるのかい?」
「いえ、作戦会議をしていましたの。待たせて申し訳ありませんわ」
その間にモンスター前の正面になっとうが。そして後ろの正面にたこ焼きがスタンバイした。
「不本意であるが……いくぞ」
「ヘマしたら、殴るで!」
同時に蹴られる、地面。ぽかんとする、モンスターと高級伯爵。
「ウルトラごっついメガトンパァァァァァァンチ!!!」
「四つ角斬!!」
同時に、決まった。
両者が地面に降り立つと同時に、モンスターは元の宣伝カーに形を変えた。
「くっそ!おぼえてろおおおおおおおお!」
猛スピードで宣伝カーを走らせ、高級伯爵は退散していく。
「……終わったの?」
同タイミングで気絶から目覚めたやさいサラダ。めんたいは言う。
「ああ、やさいサラダが気を失っている間にな」
2度に渡って活躍できなかった、やさいサラダがギャン泣きしたのはいうまでもない。
「つまり、コウキさんと夏斗さんが一緒に変身した際のパワーが2分の1なら
2人で合わせ技を放って、2分の1+2分の1にしちゃえばいいってわけなんですよ」
「「「「「っへー」」」」」
ファイター基地。きらりの解説に一様に納得する、子供達……れたすを除いては。
「こんな簡単な計算もできないなんて、やっぱお前は『へったれたす』だな」
嘲笑する、太郎。
「う、うわああああああああああああああああああああああん!!!」
案の定、れたすは大泣きした。
「きらりちゃん……すごいひらめきだよね……」
普段通りのふにゃふにゃしゃべりで、コウキは言う。
「ああ。でも、なんかやられた気分だよな……コウキ!」
「あ……うん、そうだよね。……夏斗君!」
少しの間。それを破るように、みくは口を開いた。
「あ、仲直りしたみたいだねっ☆」
あ、という表情を浮かべるコウキと夏斗。
「それにナツ君。初めて、コウキ君のこと名前で呼んだんじゃない?」
光一も笑う。
「あ……。ああ、その……ごめんな」
「ボクこそ、ごめんね?」
お互いに笑いあう、2人。
「ふぅ……これでめでたしめでたし……か」
光一がため息をついていると……金次郎が駆け寄ってきた。
「みんなー!聞いて、聞いて!なっとうとたこ焼きの相性が悪い理由!」
気になってはいたけど、今いうことか?という表情を金次郎以外の全員が一様に浮かべた。
「大阪の人ってたこ焼き好きじゃん?一方で納豆苦手じゃん?
だから、なんか退けあってたみたいなんだよねー!うーん!疑問解決!!」
嬉々とした表情の、金次郎。そんな爺の顔を見て、光一は思った。
(……なんてくだらない理由なんだろう)
つづぐ。
解説の件。
※1今回のサブタイ:『ふたりはプリキュア』第8話『プリキュア解散!ぶっちゃけ早すぎ!?』から
※2日本全国ポイ捨て禁止。AC:1994年、公共広告機構(現ACジャパン)が行ったキャンペーン
『もっとマナーもっとリサイクル』に出てきたセリフ。
このCMは阪神大震災発生時に一般企業がCMを自粛した際にがっつり流れ、CMソング『あの日のように(歌:NAOMI)』ともども有名になった
※3あじゃぱー!:驚きと困惑を表す感嘆詞で、喜劇俳優の“ばんじゅん”こと
伴淳三郎が映画『吃七捕物帖』(1951年公開)でうけたセリフ
「アジャジャーにしてパーでございます」を略したものである。
(参考:日本語俗語辞典 ttp://zokugo-dict.com/01a/ajyapa.htm)
※4基地の中で大乱闘はよしてよお!:子供向け人形劇『わいわいドンブリ』。
エンディング間際で空飛ぶ円盤ならぬ空飛ぶドンブリの中で諍いを起こしたトメさんとゴンザレスに対して
カムリンが言う「ドンブリの中でケンカはよすでリン!」から。
……この番組、おもしろかったなー
※5オレの歌を聞けェェェェェェ:テレビアニメ「マクロス7」の主人公『熱気バサラ』の決め台詞
※6トモコレ新生活的思考:ニンテンドー3DSのゲーム『トモダチコレクション新生活』。
前作から追加されたイベントに『大ゲンカ』があり、大ゲンカをした住民の背には炎のようなオーラがたちのぼったりする
※7くじけない!へこたれない!紳士は急に止まれない!!:テレビアニメ『おジャ魔女どれみ』の挿入歌『乙女は急に止まれない』から
※8その時……! 圧倒的 閃きっ……!!:賭博黙示録カイジ第116話。カイジが、Eカード終盤で「悪魔的奇手」を思いついたときの表現
※9このランランランと鼻歌でも歌いたくなるような天才的思い付き:マンガ『ドラえもん』のエピソード『悪魔のパスポート』にて
野比のび太が言ったセリフ「天才的な思いつき、ラン、ラン、ラン」から
※10LEDライト:名案をひらめいた際によく使う表現『頭上に電球』。
今だったら、こんな感じの表現になるだろうか
これまで使ってきた小ネタのうち数割はあまり知らないという現実