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第5話 ラ゛ラ゛ラ゛~♪街中に響け、はちゃめちゃなメロディ!?の巻

キンコーン。

まあ、そういうわけで。うまいファイターズに新人が入って数日が経った。

ただいま、そんな子供達が通う陀賀第一小学校はお昼休みの時間を迎えた。

5年2組。うきうき気分で教室を出ていく、少年。

名前は小岩井ダイゴ。将来の夢はビッグスターなのだが……。

「……」

そんな中、このお話の(本来の)主人公塩原れたすはだれていた。

なんでかって?それは……。

机の上のチケットが原因である。そのチケットに書かれていた内容とは。


「小岩井ダイゴ、大いに歌う! 恒例☆みわくのリサイタルご招待券

会場:音楽室 日時:今日のお昼休み」


先程教室から出ていった、小岩井ダイゴ君のリサイタルのようだ。

っていうか、どこかで見たようなタイトルである。

「もぉ、なーにが『みわくのリサイタル』だよぉ……」

ちょっと泣きそうな感じでれたすは言う。

そんなれたすにクラスメイトの紺野りえが諭すように言った。

「れたす、何もあんただけが招待されたわけじゃないでしょ」

「そりゃそうだけど……」

よく見ると、れたす以外のクラスメイト全員も……へたれていた。

「とにかく、うじうじしていても仕方ないし!いくわよ、れたす!」

「ふぇぇぇぇぇ……」

れたすの腕を引っ張り、歩き出すりえ。

「りえちゃんはダイゴ君の肩を持つのー!?」

「んなわけないじゃない。いってもいかなくても結果は同じになるんだから」

「あうー」

さんざんっぱら、れたす達がダイゴのリサイタルを嫌がる真相を引っ張っているわけだが

……大体の……いや全ての読者はすでにお気づきだろう。

しかし、こうして引っ張ることである種の緊張感をもたらすのに成功……していたらいいなというのが作者の思いである。

まあ、そんなこんなをしてる間に音楽室に到着である。

「れたす、いくわよ……」

「あう」

音楽室のドアが、開かれた。


 「いえー!!!」

音楽室の壇上。ピアノや木琴やらが所狭しと置かれている中……その中央に奴さんはいた。

その眼の前で5年2組の子供たちは……むっちゃげんなりした表情でそこにいた。

「今日は!オレの!リサイタルに来てくれて、サンキューベロマッチャ!」

ノリノリなダイゴ君。それと反比例するようにテンションさげぽよな子供達。

備え付けのCDプレイヤーの再生スイッチを押す。流れ出す、曲のイントロ。

「さあああああああ!まずはご機嫌なナンバーからだー!」

お前はいつの時代のバンドメンバーか、と言いたくなる口上に続き……ダイゴは歌いだした。


ボエー♪


その歌声は防音が整っているはずの音楽室を乗り越え、その周辺一帯に大反響した。

気持ち良さそうに歌う、ダイゴ。

目を閉じ、歯を食いしばり、この状況を耐える子供達。

とりわけ、れたすは泣きそうになりながらりえの手を握っている。

ダイゴは歌い続けた。そう、美化委員会提供の掃除時間5分前の告知が流れるまで。

「ふぅ……」

その放送を聞きながら、ダイゴはプレイヤーの停止ボタンを押す。

「と、いうわけで。お名残惜しいですが、これでリサイタルはお開き。

また次回の開催をお楽しみにィィィィ」

横にはけていく、ダイゴ。一方、子供たちはとほほな顔で拍手を送っていた。

まあ。いずれにしてももうすぐ掃除の時間。子供達はその足で担当場所へと向かっていった。

れたすも続こうとしたのだが……ダイゴに呼び止められる。

「れたす、なんかリサイタルの間中ずっと泣いてたよな」

「あ。うん」

「やっぱオレの歌声って素晴らしいよな!!!」

ウルトラ無自覚なダイゴにれたすはコケた。

「んお?どうしたんだ??まあいいか。そんなに感動したんなら、放課後お前だけ特別にアンコール公演に招待してやるぜ!」

「え゛!?」

「楽しみにしてろよ☆」

(なんで僕ばっかりこんな目に……)

ウィンクをかます、ダイゴを横目にれたすは心で泣いた。


まあ、結局その日は吹奏楽クラブが音楽室を利用するってことで中止になったのだが……。

れたすはパーペキにフラフラだった。

「れたす、あんた大丈夫?」

りえは問うた。

「大丈夫じゃないからこんなにフラフラなんじゃないか」

「こりゃまた失礼」

「……とりあえず、帰ったら少し寝るよ。ダメージが回復しそうだしね」

「そうなさい」

と、そんなときであった。

「メアリーちゃーん!メアリーちゃーん!!」

困っている、ご婦人発見。

「私がかわいがっている飼い犬のメアリーちゃァァァァん、どこなのォォォォォォォ!!」

凄まじいソプラノボイスをあげながら、ご婦人が叫ぶ。

っていうか説明的なセリフだぞ。

「……れたす、いくわよ」

「ええーえっ!?僕早く帰って寝たいのにィィィィ……」

ご近所の平和と安心安全を守るのもうまいファイターの務め。

そういうわけでございまして、れたす達は変身してご婦人のかわいがっている飼い犬、「メアリーちゃん」の捜索に乗り出したわけで。


 果たして、メアリーちゃんはあっさり見つかった。

ひとまず、変身を解いて再度帰路につく2人。

「あ、いたいた。れたすー!」

「!!ダイゴ君……」

ダイゴの顔を見ただけで戦慄する、れたす。あーたはパブロフの犬かと。

「冷静に考えたら、別に音楽室でやらなくてもいいよな。

ちゅーわけで。アンコール公演は公園でやりまーす!」

偶然ダジャレになった。

「り、りえちゃん……」

「あ、私!夕食の買い物をしなきゃ!」

りえはさっさと去っていった。

「さて、いくか!」

(マジでなんで僕ばっかり……)

再び、心で泣いたれたす君であった。


 チュンコチュンコ。

雀が囀っている。つまりあれだ。朝になっちゃったのだ。

ちなみに時刻は6時57分。何気に中途半端。

そんな時間に、れたすは目を開けた。

基本ウルトラ寝坊キャラなれたすにしては珍しい時間帯だ。

ガバリと起き上がる。

「……あああああああ、朝になってるゥゥゥゥゥ!?」

このあとれたすは公園でのリサイタルを満喫?し、命からがら家に戻ってきた。

そうして玄関で靴を脱いで……手を洗い、部屋に入ったとたん

これまでの疲れやら何やらが怒涛のごとく、襲いかかり

……ベッドに倒れこんでしまったということの次第。

その証拠に、服が昨日のままだ。

でも、れたすはそれどころじゃなかった。

「たたたたたたた、竜田揚げええええええええええええええ!!!!」

そう、昨日の夕食はれたすの大好物の竜田揚げだったのだ。

朝食の席でそれを聞かされたときはそりゃあもう、テンションMAXになった。

まあ、リサイタルのチケットをもらってテンションはさげぽよになったわけだが。

「れたす、おはよう。朝から元気だねぇ」

れたすの叫び声を聞きつけ、妹の珠音がパジャマ姿で立っていた。

「ああああああ、竜田揚げェェェェェ」

「竜田揚げ?ああ、昨日の晩御飯ね!おいしかったよー☆

やっぱお母さんの作る竜田揚げは最高だよ!

れたすったら完全に熟睡してて……結局わたしとお母さんとお父さんとで食べちゃった」

「全部?」

「一応、いくらか残したけどお母さんがお父さんのお弁当に入れるっていうから……あれでおしまい」

それを聞かされ、れたすは崩れ落ちた。

大好物を食べ損ねてしまったという出来事は小学生男子をここまで落ち込ませるのだ。

「そいじゃ、顔洗ってくるかな」

そう言って珠音はさっさと洗面所へと向かっていった。

一方のれたすはショックで気を失い、登校ラッシュがとっくに終わった時間に目を覚まし

今日も元気に大遅刻と相成ってしまったわけで。

 「うぅ……散々だよォ……」

れたすはバケツを持って廊下に立つ、という罰を受けながらめそめそ泣いていた。

思えばこのウルトラどん底アンハッピーな状況は昨日の昼休みから始まっている気がする。

昼休みにリサイタルで地獄を見て、勘違いのせいで放課後アンコール公演に招待され、何とか免れて帰って寝ようとしたら、事件が発生。

んで、今度こそ帰って寝ようとしたら……やっぱやることになりましたという感じで。

そうして疲労が蓄積してぶっ倒れ、結果大好物を食いっぱぐれたという理由で気を失い、大遅刻……という不幸は『マンガみたい』という言葉では済まされないくらいの出来事。


「何で、なんで、なんで僕ばっかりこんな目にィィィィィィ!!!!」


思わず、れたすは叫んでしまった。

そんなことだから、教室のドアがすごい勢いでがらりと開き、

「塩原君、うるさいわよ!!!」

……石政先生に怒鳴られることになるのだ。

「ごめんなさい……」

「罰として、2時間目も立ってなさい!」

刑期も延長になった。

「うぇぇぇぇ……なんで、なんで、なんで……」

追い打ちとはまさにこのこと。れたすはめそめそ泣き続けたわけで。

まあ、この辺はれたすが悪いんだけどね。


 そんなわけで。2時間目終了後の業間休み。

れたすは昨日の昼休憩以上に……だれていた。

「……散々ね」

「昨日逃げたくせによく言うよ……」

涼しい顔をして話しかけるりえにれたすは毒づいた。

「夕食の買い物は事実よ」

「……言い訳無用だよ、まったく……」

机に突っ伏す、れたす。

その時、腕にはめられた『うまいブレス』がれたすの目に映った。

「……!!!」

唖然とした表情。りえは問う。

「どうしたのよ?」

「……わ、忘れてたあああああああああああああああああああああ!!!」

またまた大声をあげたれたす君であった。

 「な、何よいきなり……」

いきなりれたすに大声を出され、コケてしまったりえ。よろよろと、起き上がった。

「これ、これだよ!これ!」

「うまいブレスじゃない。どうしたのよ、それが」

れたすは言った。

「……りえちゃん、ダイゴ君の変身後の姿……覚えてるよね?」

「覚えてるもなにも、仲間だし」

第4話でも、ダイゴの変身後……うまいファイターチーズのコスチュームのことは紹介したが、改めて説明させてもらおう。

青いジャケットに赤い水玉の蝶ネクタイ。そして、赤色のズボン。

そんな一昔前の歌手っぽい感じのコスチュームがうまいファイターチーズのそれである。

「……それがどうかしたの?」

「多分、あのコスチュームの感じだと変身後も歌を生かした攻撃になるわけだから……ぶえええええ、地獄だ……」

れたすは頭を抱えた。絶望的な表情を浮かべつつ。

「……れたす、ああいう格好だからって歌手とは限らないと思うわ。

手品師、っていう可能性も捨てられないと思うけど」

「手品師、か……」

遠い目で、虚空(ってか教室の天井)を見つめるれたす。

……一方、りえは「はっ」となっていた。

チーズの決め台詞、それは……


「チーズであーたもオレもデュワデュワワー♪」。


どう聞いても、『歌手』っぽい感じです。本当にありがたくございません。

幸い、というべきかれたすはまだ気づいていない。

しかし、いずれ真実に気づく日が来るだろう。

それは今日かもしれないし、明日かもしれない。いややっぱり今日かもしれない。

その時の対策をどうしようか、悩んでしまうりえであった。

「よお、れたす!元気ないみたいだな!」

と、そこにダイゴが。

「……誰のせいだと思ってるのさ」

「まあまあ、オレの歌を聞いて元気だしなって!」

「ぎぇぇぇぇぇ?!?」

まあ、ダイゴの突発リサイタルは予鈴が鳴ったことで未遂に終わったわけで。

 一方その頃。ここは上空、毎度おなじみ高級伯爵の城である。

その城のどこかにある、書斎で書物をぱらぱらとめくり、対策を考えている高級伯爵。

お約束というべきか。周囲には大量に積まれた本、本、本。

それらに取り囲まれるように、高級伯爵は果てしなく渋い顔をしていた。

なんでかって?当然である、なかなか対策が思いつかないのだ。

そして……。


「ウッガー!!!!!」


キレた。

「もうやってらんない!もういやだ!!」

子供か!というツッコミが飛んできそうなくらいに駄々をこねる高級伯爵。

そんな彼を手下の皆さんがたしなめた。

「しかし、このままでは進展しませんよ……」

「そうですよ、我々の目標は……」

そんな彼らの声をはじき返すように、高級伯爵はわめく。

「私はいったい何時間それをやってきたと思ってるんだああああああああああ!!!!!」

……実際のところは2時間、なのだが高級伯爵にしてみれば何気に果てしない時間に思えたようだ。

まあ、よくある話である。仕事やら物書きやらがうまくいかないと時間の流れを遅く感じてしまう。

私こと、作者なんかもよくそんな目に遭っている。

高級伯爵は見事、それに該当してしまったようだ。

頭をかきむしり、ピギャーピギャーわめくその姿はどう見てもヒステリーです。本当にありがたくございません。

「気分転換だ、コラァァァァァ!」

キレ気味に、現地で買ったらしいラジオを起動する……。

いいタイミングで、CMが流れてきた。

「……これはただ、聞き流すだけで英会話が身についちゃうウルトラすごいCDです。

要するに、CMソングを何回も聞いているうちにその歌を覚えちゃうのと同じこと!

じゃあ、いつこの『ちゃっちゃとラーニング』を始めるか?……今でしょ!」

英会話教材のCMのようだ。効果のほどは個人差があると思うが、やけに自信満々に宣伝している。

さて、高級伯爵はといえば肩を震わせ……後、叫んだ。

「これだあああああああああああああああああああああああああああ!」

あ、何かいいグッドアイデアを思いついたようです。


 と、いうわけで。放課後である。

陀賀第一小学校の前に……怪しいおっさんがいた。

「コッラー!おっさんというな!私はまだまだヤングぞ!!」

訂正、怪しい青年がいた。

まあ、とっとと結論を言わせていただくと……この怪しい青年、正体は高級伯爵である。

一昔前のスカウトマンのような井出達をし、校門の前に立っている。

普段なら、防犯ブザーを鳴らされてあっけなく御用となってしまうところだが

何故か、じろじろ見られるだけで済んでいる。

……ギャグ小説やもん、多少のご都合主義は許される。

まあ、それはさておきエニウェイ。スカウトマンな高級伯爵は……行動に出た。


「はーい、そこのプリティーギャル!芸能の仕事には興味ないー?」

……一体何十年前のスカウト方法や。てな感じで女子児童に話しかける、高級伯爵。

「興味ありません」

ズバッと女子児童に言われ、スカウトマン高級伯爵はコケた。

そのままスッサスッサと立ち去っていく女子児童。

「……次行くぞ、次!」

奴さんたら切り替えが早い。

「はーい!そこのイケメンボーイ!」

「……すみません、霊感商法とキャッチセールスと芸能スカウトには近寄るなって言われてるんで……」

高級伯爵はまたコケた。

そのままその切り替えの早さでどんどんアタックを繰り返していくが……結果は大惨敗であった。

かくて、高級伯爵は壮絶なパニックに陥ることになる。

「くっ……何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だあああああああ!

普通さあ、子供って芸能界とかに興味あるじゃない?

芸能界に入ってえばりたいって思うじゃない?

いろいろな芸能人とお近づきになって、スーパーな人脈を築きたいって思うじゃない?

それなのに!なんで、なんで、なんで、なんでだああ!!」

相当なパニックっぷりに下校する児童、及びその辺の通行人は盛大にドン引きである。

と、そんなパニックが2分53秒ほど続いたとき……

「あの。芸能界のスカウトですよね?」

……ダイゴが現れた。

 これ幸い!とばかりに高級伯爵はガバリ!と立ち上がり……手をがしっとつかんだ。

「そうそうそう!そーなんですよ、少年!ちょっと来ていただけたら幸いだなー……なんて」

「もちろんです!」

目を輝かせ、ダイゴは言った。

それ以上に目がキラキラしていたのは、高級伯爵だ。

もうだめか、と思った矢先に現れた救世主。天にも昇る心地とはまさにこのこと。

「しかし、伯爵……この男の子、腕に……」

横で手下がひそひそと話しかける。

「……溺れる者はわらをもつかむ、立ってるやつは親でも使えというだろう」

「しかし、素性を知って襲いかかってきたら……」

「ああもう!うるさい!!」

そんなやり取りを、ダイゴはぽかんと見つめている。

そんな現状に気づいたかのように、気を取り直す高級伯爵。

「ま、まあ!とりあえず!スタジオまで来てちょんまげ!」

「え、スタジオ!?」

「そう、スタジオ!」

ささ、早く早く!的な勢いでダイゴを黒塗りな車に乗せた。


 と、いうわけでスタジオに到着である。

(実際のところは高級伯爵の城の内部なのだが。怪しまれないように車窓に陀賀市内の映像……および近隣のビルの駐車場内の映像を流した。その辺がんばってるね)

「おお!スタジオだ!本物のスタジオだ!」

嬉しそうにはしゃぎまわる、ダイゴ。

ミキシングルーム、レコーディングルーム、楽屋に、練習部屋。

いかにもなスタジオ空間(優秀な手下軍団が数時間でやってくれました)でキャッキャキャッキャやっていると……。

「あのぉ、そろそろ収録の時間ですよー」

伯爵の手下が話しかけてきた。

「え、収録って?」

「CMソングの、です」

「え、いきなりさっそくどどーんとやっちゃうの!?」

まったく怪しむそぶりを見せず、目を輝かせるダイゴ。

「あ、はい、ええ、いきなりさっそくどどーんと……」

その勢いにすっかり圧倒されちゃった部下さん。

「いよっしゃあああああああああああ!オレの歌声で世界にハッピーをもたらすんじゃい!!!」

スタジオ内。ダイゴの声がガンガンに反響した。



 と、いうわけで。翌日。

「おはよー!」

教室にれたすが飛び込んでくる……と、同時に思いっきり躓いてコケた。

案の定、べそをかくれたすにみくは言う。

「大丈夫、大丈夫!ギリギリセーフだよ!」

「まあ、私がれたすの手をひいて走ったからってのもあるけど……」

べそをかくれたすの横で、りえは息を整えつつ言った。

「まあまあ、それでもセーフはセーフだよっ!」

「そうかしら、みくちゃん……」

まあ、至って平和なというかいつも通りの朝の光景である。

と、そんな平和な朝の光景をぶち壊したのは……


「♪る゛ら゛ら゛―!!!」


壮絶オンチなダイゴの歌声だった。

いきなり聞こえ出した彼の歌声にビックリしたクラスメイト全員がコケた。

「な、なんなの……」

コケた状態で、りえ。

「おお!聞こえ出した!!!」

一方で目を輝かせるダイゴ。まだまだ歌声は続く……。

「♪こおおおおおおおおおおおきゅうううううううがしぃのおおおおおおおお

ごおおおおおおおおおおおおおおおじゃあああああああああああすううううどおおおおお!

とおおってもとおおってもすううううううううてええええええきいいいいなああああおみいいいせええええええよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

おおおおおおおおおおおおかああああああああああああああしいいいいいいはあああああどおおおおおれえええええええええもおおおおおおおおぜえええええっぴいいいいいんんんんんんん!まあああああああああああとおおおおおにいいいいかあああああくううううううううきいいいいいいいてええええええええええちょおおおおおおんまあああああああげええええええええええええ」

秒数にして、大体30秒。この間、ダイゴの凄まじい歌声がこの街一帯に台風よろしく駆け抜けていった。

クラスメイトがヘタレている中、ダイゴは一人……感動していた。

「……素晴らしい……」



 一方、その頃。歌声の発信源たる陀賀市内で一番の高さを誇るテレビ塔。

「……伯爵ぅ、やっぱこの作戦失敗では?」

「そうですよ。こんな壮絶な歌じゃあお客さん逃げちゃいますよ?」

手下が不安げに話しかけてくる。

「……失敗だ?何を言っている。昨日のラジオCMを聞かなかったのか?

CMソングっていうのは、何度も何度も聞いているうちに自然と覚えるものだ。

そして、次第に我が『GO☆ジャス堂』へと足を運ぶ人が出るという寸法なのだ!分かったか!」

「な、なるへそ……」

高級伯爵のやや強引な持論に、そうとしか言えない手下であった。

「このあと、1時間ごとにこのCMソングを流すぞ!そうして、我が店のファンを増やすのだああああああああああ!」

「い、イー……」


 果たして、そのCMソングは1時間経つ度に市内に響き渡った。

まさに、市民の脳内から記憶が消えかかったそのタイミングで

ボエー

ホゲー

ボゲー

……とくるのだ。

おまけに歌い手は壮絶な音痴。地獄というレベルでは済まされない。

一部除く陀賀市民は頭を抱え、地獄の30秒が過ぎるのを待った。

しかし、あれだ。抗議しようにも音痴すぎて力が出ない。

このやり場のない想いを、どうすればいいのか。

陀賀市民はただただ悶々とするしかなかった。

……いや、幾人かいた。それは放課後の出来事だ。

「……ね、りえちゃん」

「なによ」

「……なんか、何回も聞いているうちに覚えちゃったんだけど

あの歌詞に『ごーじゃすどう』みたいなフレーズがなかった?」

……高級伯爵の戦略は一応成功したようだ。

それはさておき、れたすの問いにりえは答えた。

「……『みたい』じゃないわ。間違いなくそのあれよ」

「てことは……」



と、いうわけで。帰りの会が終わるや否やうまいファイターズな子供達は一斉に教室を飛び出した。

学校の玄関を出たまさにその時。件の歌声がドギャーンと来たのである。

いきなり来たもんだから、思わず座り込んでしまう子供達。

もちろん、ダイゴは座り込んでいないが。

「うぅ、これじゃとても……」

手も足も出ないこの状況の中、腕にはめたうまいブレスから声がする。

しかし、如何せん歌声が壮絶すぎるため……聞こえない。

これが『詰み』という奴なのだろうか。

刹那、『どこでもドア』がグラウンドに出現する。

ドアが半開きになったかと思うと、向こうから手招きが。

大急ぎで、子供達はドアの向こうへと走った。

「みんな、生きてる?」

手招きの主、矢尾金次郎が子供達に話しかける。

「生きてるわよ!ってか死にかけたわ!」

「ごめんね、りえちゃん。今回呼び出したのは他でもないんだ。

今の状況にぴったりの秘密兵器を渡したくてね」

「秘密兵器、ですって!?なんならさっさと渡しなさいよ!!」

長時間壮絶な歌を聞かされたため、りえは御冠だった。

そうして、渡されたのは……。

「耳栓??」

そう、耳栓だった。

「これで幾分かダメージが減るよね!」

あまりの出来事に、ダイゴ以外の子供達は盛大にずっこけた。

ダイゴはといえば、耳栓という存在が少し不本意だったようで不満げな顔をしている。

「……そんなことより!歌声の発生源がわかったよ!!」

あいが情報を入手したようだ。

「ここって……街のテレビ塔!?」

真世が素っ頓狂な声をあげる。

「よく、関係者さんに見つかりませんでしたわね」

まあ、確かにそうだが今はそんなこと言ってる場合じゃないよ、きらりちゃん。

 「まあ。場所が分かったんだし、とっとと出動だ!」

「それもそうね」

かくて、『どこでもドア』の出口をテレビ塔近辺までつないでもらい子供達は出動した。


そんなこんなで。テレビ塔の近辺。

まさにいいタイミングでさらに音量を上げようと、高級伯爵とその手下がいた。

「コッラー!またあんたね!!」

「まただが、何か?」

りえの怒りをさらっと受け流す高級伯爵。

「でえい!とにかくみんな変身よ!」

「「「「「おう!!」」」」」

一斉にブレスからそれぞれの味のうまい棒を召喚。

そして、一気に天空に掲げ……

「「「「「チェインジ☆うまいパワーボンバー!!!」」」」」

変身プロセスは過去に散々すぎるくらいやったので、省略。名乗りに移させてもらう。

「サラダでヘルシー勇気りんりん!うまいファイター、やさいサラダ!」

「コンポタでほっこりまろやか気分!うまいファイター、コーンポタージュ!」

「めんたいでピリッと決めるぜっ、I’mNo.1!うまいファイター、めんたい!」

「サラミで超ウルトラパワー全開!うまいファイター、サラミ!」

「てりやきバーガーで皆さん仲良くスマイルですわ☆うまいファイター、テリヤキバーガー!」

「チーズであーたもオレもデュワデュワワー♪うまいファイター、チーズ!」

「たこ焼きパワーでタコ殴り!うまいファイター、たこ焼き!」

「とんかつソースで小宇宙コスモ感じてみる?うまいファイター、とんかつソース」

「チキンカレーの魔法できらぴかりん☆うまいファイター、チキンカレー!」

「エビマヨで大漁大漁超大漁☆うまいファイター、エビマヨネーズ!」

「なっとうで、大和やまとの心、感じてみよ!うまいファイター、なっとう!」

「「「「「サクッと参上!うまいファイターズ!!!」」」」」

初のフルサイズである。まあ、こんな現状に高級伯爵はお怒りなわけで。

「ああもう!名乗りなんかに行を使うんじゃない!しかも11人も!」

「いいじゃない!ヒーローのお約束なんだから!」

それに反論する、サラミ。

と、そんな中。やさいサラダが不満げな顔でコンポタを突っついた。

「ちょっとちょっとコンポタ!」

「なによ」

「さっきのチーズの口上!あれってどう聞いても歌手のそれじゃない!」

「ありゃ、バレた?」

まったく悪びれないコンポタにやさいサラダはコケた。

「だああああああああ!十数行にもわたって!私を置き去りにするなああああ」

「あ、ごめん」

マジで悪びれないコンポタに今度は高級伯爵がコケた。

「えええええい!こうなったら!!!」

怒りに任せ、高級伯爵はテレビ塔にバラを投げつけた。

 「ぐえええええええええええええええ!」

はい、お約束通りにテレビ塔が化け物に変身しました。

「ふええええええ、こわいよおおおおおおお」

お約束通りに、ヘタレるやさいサラダ。そんな彼をほっといて残り10人のうまいファイターが一斉に特攻した。

テレビ塔モンスターに蹴りをかまし、パンチを食らわせ、おまけにチョップ☆

まあ、大体こんな感じでうまいファイター達は敵に攻撃を仕掛けた。

その時である。テレビ塔モンスターが自身に搭載している機材のスイッチを入れたのだ。

瞬間、響きだす件の歌い声。うまいファイター達はぶっ飛ばされてしまった。

耳栓があったから、耳へのダメージは軽減されたものの音の波動でとても近づけそうにない。

勝利を確信し、うれしそうに踊るテレビ塔モンスター。

……これにより、やさいサラダが踏みつぶされた。

「ハッーハッーハッー!まいったか!!」

高笑いをあげる、高級伯爵。

「あ、あんたねぇ……CMソングは何回も流せばそりゃ確かに耳に残るわ。

けど極端にうるさかったり、しつこかったりするとお客さんは離れていくのっ!」

コンポタは気合いで立ち上がりつつ、高級伯爵を怒鳴りつけた。

「ナッー!!!」

ズガーン!という効果音が聞こえてきそうなほどショックを受ける高級伯爵。

「うわーん!もうやだ!やめるー!」

そして、癇癪を起した。

「っていうか、その音楽消してええええええ!」

高級伯爵の突然の方針変更にぽかんとなるテレビ塔。

その隙を突くようにたこ焼きがそこまで特攻し……。

「でやああああああああああああああ!」

必殺パンチで機材を壊した。無論、止まる、件の歌声。

「最後の仕上げや……ウルトラごっつい連続パァァァァンチ!!!」

目にもとまらぬ速さでテレビ塔に拳を叩きこんでいくたこ焼き。

「ぐぇぇぇぇぇぇ……」

まいったー、と言いたそうに地面に倒れこむ、テレビ塔。

はい、今回もうまいファイターの勝ちである。

「おぼえてろおおおおおおおおおおおおお!」

逃げ出そうとする、高級伯爵&手下。

「お待ち!!」

瞬間、コンポタのチーフタイが舞い……高級伯爵達を絡め取った。

 「でえい!!」

高級伯爵と手下の耳から耳栓をとる、コンポタ。

「チーズ、この人達に今日1日夢を見させてもらったお礼をなさい」

氷のごとく冷たい語気でコンポタはチーズに命令した。

「おっけー!」

ブレスからマイクを取り出す。息を軽く吸うと、チーズは歌いだした。


ボエー♪


 終わったころには周囲は惨憺たる光景と化していた。

地面はひび割れ、ムクドリやスズメは気絶。近くにあった樹木もいくらかひん曲がっている。

高級伯爵に至ってはもう完全に……あれだった。

「おぼえてろぉぉぉぉぉぉ……」

這う這うの体とはまさにそれ。地面をはいながら、高級伯爵と手下はこの場をさった。

「ふぅ、これにて一件落着ね☆」

腰に手を当て、晴れ晴れとした表情を浮かべるコンポタ。

「一件落着、じゃないよお!コンポタの嘘つきいいいいいい」

「まあまあ」

コンポタは泣きだしそうなやさいサラダをなだめた。

「でも、あれだ……まさかオレの歌声が敵に使われるなんて……」

チーズはしょんぼりとした表情を浮かべる。

「いや、歌詞に『GO☆ジャス堂』ってあったら普通は気付くよね……」

それに思わず突っ込む、チキンカレー。

「反省。でも、オレ思うんだ……この歌声が……」

お、反省したのか?一斉にチーズを見つめる他のファイター達。

「この歌声が、周辺にがっつり響いたことでオレのことを歌手にしたい!

と思う人が出てきたりしたら、いいよなーって!」

「「「「「だぁぁぁぁぁぁ!?!」」」」」

全く反省していない、というかまったく自らの歌唱力を理解していないチーズに

彼以外のファイターが盛大にずっこけた。


つづぐ??

解説の件。


※1今回のサブタイ:スイートプリキュア♪ 第48話 『ラララ~♪世界に響け、幸福のメロディニャ!』から


※2小岩井ダイゴ、大いに歌う! 恒例☆みわくのリサイタル:国民的マンガ「ドラえもん」の登場人物の一人『ジャイアン』こと『剛田武』。

彼の趣味は歌うことで定期的にリサイタルを開催している。その副題をかけ合わせたもの


※3ウルトラどん底アンハッピー:テレビアニメ『スマイルプリキュア!』の登場人物、

『星空みゆき』の決め台詞『ウルトラハッピー!』から。なお、1度本当に『どん底ハッピー』になったことがある。


※4その姿はどう見てもヒステリーです。本当にありがたくございません。:

コピペ『どうみても○○です。本当にありがとうございました』から


※5ラジオCM:英会話教材『スピードラーニング』。効果があるかどうかは知らんが、

とりあえず座学に勝るものはないだろう。なお、最後の『今でしょ』は東進ハイスクールの林修先生の決め台詞


※6来てちょんまげ:日光江戸村の有名なキャッチフレーズ。


※7優秀な手下軍団が数時間でやってくれました:マンガ『デスノート』の登場人物、ニアのセリフ

『ジェバンニが一晩でやってくれました』から


※8GO☆ジャス堂のCMソング:テレビアニメ『花の魔法使いマリーベル』の挿入歌

『とっても素敵マリーベル』から。……ジャスラックさんごめんなさい


※9ボエー、ホゲー、ボゲー:「ドラえもん」で『ジャイアン』こと『剛田武』の音痴っぷりを現したオノマトペ。

割とマジで、この擬音を考え付いたF先生は偉大だと思いました


※10名乗りなんかに行を使うんじゃない!:その間に、攻撃ができますよね



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