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第2話明石君、パーフェクト!の巻

 

 目の前に迫ってくる、ポリバケツの化け物。

今日も今日とて2人のうまいファイターは戦線に立っていた。

「なななななななにこれー!?」

「ポリバケツよ、やさいサラダ……」

「それは知ってるってば……」

そして、やっぱりピエロ姿のファイター、やさいサラダはコック姿のファイター、コーンポタージュ、ちぢめて「コンポタ」の後ろに隠れ震えていた。

「コンポタも怖いんじゃないの?」

「怖いけど、いってる場合じゃないでしょ!」

じりじりと近寄ってくる、ポリバケツの化け物。

そして、おっきな雄叫びとともに中のゴミを……ぶちまけた。

「よいしょっ!」

跳躍(前話の反省を踏まえなるべく力を入れずに)し、ゴミを避けるコンポタ。

一方、やさいサラダは……埋まっていた、ゴミに。


「ちょっと、ちょっとあんた!!」

その時だった。お近くの民家から主婦が飛び出してきたのは。

「あんたね、何ゴミをぶちまけてくれてんのよ!

特に生ゴミぶちまけられると、周囲にどんだけすごいにおいがするかわかってるの!

掃除だってね、簡単なもんじゃないのよ!大体あんたはっ……!」

おばさんの叱責に、すっかりしょげ返るポリバケツモンスター。

「……これって、チャンス……よね?」

そう呟きつつ、ブレスレットを1回たたくコンポタ。

前話同様、レードルが姿を見せる。

「反省なさい、レードルクラッシュ!!」

そしてまた、前話同様レードルでぶっ叩き……倒した。

「お、おぼえてろよー!」

こうして今回の戦いも高級伯爵の捨て台詞とともに終わったわけで。

なお、ゴミはぶちまけられたまま。

「……あ、えと。掃除は私達がしておきますんで、ええ。

……ほら、やさいサラダ起きなさい!道路の掃除をするわよ!」

コンコンコン。ゴミに埋もれ、気を失っているやさいサラダをレードルで叩くコンポタ。

こうして期せずして奉仕活動も行うことになった今日のうまいファイターであった。


 まあ、そんな感じで。うまいファイターが誕生してから1週間たったわけで。

やさいサラダの正体、塩原れたすは今日も今日とて……寝坊していた。

「れたすー、起きなさい!珠音はとっくに学校行ったわよー!」

「ええええええええええええええ!?!」

れたすは母親の声を聞くまで半分寝ぼけまなこだったが、今のでスッキリ目が覚めて

大慌てで学校へいく支度を済ませ、階段を駆け降り……コケた。

階段を壮大に転げ落ちる音と息子の泣き声を聞きながら、今日もため息をつく母親。

先週、5年生になったというのに。そして何より妹の先輩に当たる存在になったというのに

本人は相変わらずだ、と心の中で頭を抱えた。

そうなのだ。れたすはこのほど小学5年になったばかりの男の子。

高学年、という域に属しているにもかかわらずれたす君はその自覚があるようで、ない。

そんな息子の朝っぱらからの泣き声を背に、玄関先に向かう。

すでに、彼の幼馴染にしてお隣さんにしてうまいファイターコーンポタージュの正体である、紺野りえに向かって言った。

「本当、いつもごめんなさいね。待たせて」

「別にいいんですけど……。コッラー!れたす!いつまで泣いてんの!学校でしょ!」

りえの怒鳴り声とともに、はっとなったれたすは

「そうだったああああああああああああああああああ!」

大慌てでリビングダイニングに駆け込み、トーストを口に押し込んで牛乳を飲みほし玄関へとダッシュをかました。

「さあ、とにかく行くわよ!」

「ふぇぇぇぇぇ、いってきまーす!!!」

玄関から2人の子供達が出ていく。

「今日も嵐のような数分間が終わったわね……」

ため息交じりにれたす母はつぶやく。

とりあえず、食器を洗ったらコーヒーを点てて朝のワイドショーでも見るか……と、考えていた時。

家から目と鼻の先のあたりでれたすのギャン泣きが聞こえ、再びれたす母は呆れ果てる羽目になった。

 れたす達の通う「陀賀市立陀賀第一小学校」。高学年の教室は3階に位置している。

5年2組の教室の窓辺。このクラスの生徒達がほぼ全員集合していた。

「さーて、そろそろかな?」

そういうのは前回の話でイヤミっぷりをいかんなく見せつけた、明石太郎君。

それと同タイミングで校門を壮絶ダッシュでくぐりぬける子供達の姿を目視した。

そう、りえとれたすだ。片割れは大泣きしながら校庭を突き抜けている。

特にその大泣きは校舎の方までガンガンに聞こえてくるほど。

……しかし、運動神経がホニャラララなせいで走っていると言えるか正直怪しい。

そして、壮大にスッ転び……泣き叫んだ。もちろん、そいつはれたすのことだ。

この遅刻人間へったれたすwith紺野りえは早くもこのクラスの名物となっていた。

クラスメイト達が思うことはただひとつ。

「いい加減、遅刻しないようにしてほしい」

しかし、太朗君はといえばこの日常光景を果てしなく楽しんでみていた。

……まあ、とにかく。太郎はそんな感じのキャラなのだ。


 しばらくして、れたすとりえが教室に滑り込んでくる。

「「おはよう!!」」

「ん、おっはよー。れたす君!りえちゃん!まだ先生、来てないよ!」

クラスメイトの1人、更科みくが言う。

「更科さん、朝から元気でいいね……」

「れたす君だって、朝からのギャン泣きすごかったよ!」

「いや、ほめてるの?けなしてるの?」

れたすはちょっとだけ泣きそうになった。

「いやいやいや。あの泣き声はすごかった。こっちの方まで聞こえてたし。

他の学年の奴らも、お前のあの泣きっぷりを聞いてたぞ。確実に」

また笑う、太郎。

「う、うわあああああああああああああああああああああああん!!」

またまた泣きだす、れたす。

「ああもう……」

片方の目に手を当てて、呆れ果てるりえ。

「先生来たよ!!」

クラスメイトの声で一斉に着席する子供達。

……こうして、学校での1日がスタートした。

 算数。れたすが果てしなく苦手な科目だ。

……まあ、れたすはほとんどの科目が苦手なわけだが。

「はい、では。この問題が解ける人」

流石算数。苦手な子も多く、手をあげる生徒はまばらだ。

その生徒達もあまり、自信がなさそうな表情をしている。

ただ1人、この少年を除いては……そう、太郎だ。

自信に満ち溢れた笑顔、そしてピンと伸びた腕。とてもきらめいている。

「はい、明石君」

教壇に立つ、担任の石政先生が太郎を指した。

黒板に向かい、さらさらさらと問題を解いていく太郎。

さらさらさら。……おまけに、正解だ。

「はい、正解です」

先生の言葉の後すぐに、どや顔をクラスメイトの前で太郎はかました。

ぽかんとするクラスメイト。れたすはといえば机に顔を突っ伏しいい具合に落ち込んでいる。

ちなみに、その問題。れたすはまだ解けていなかった。


 んで、体育である。今日はマット運動だ。

「はい、明石君。やってみて」

石政先生の声で太郎は立ち上がり、マット近辺へと歩き出す。

飛び前転からの前方倒立回転そして宙返りという小学生離れした技を彼は見せつけた。

当然、クラスメイトから沸く歓声。そして、さらに落ち込むれたす。

前話でも語った話だが、れたすと太郎は3年の時からクラスが一緒。

その時から太郎の成績優秀、スポーツマンっぷりを見てきたのだが

……現在の太郎は最早そんなレベルでは片づけられないほど。

「キャー!かっこいいー!」

「すっげー!」

「アンコール!アンコール!」

クラスメイトからは黄色い歓声やら何やらが沸き上がっている。

「ね、塩原君……」

横からか細い声が。誰かと思えばクラスメイトの1人、大田コウキ君ではないか。

遠い目をしながら、コウキ君は言った。

「明石君は、特別……諦めた方がいいよ……」

果たしてこれは慰めなのか、それとも……。

まだまだ太郎への歓声はやみそうにない。


  かくて、太郎はこの体育の授業でますます人気度が上がったわけで。

ちなみに。れたすは案の定醜態をさらした。

「当然よね。少し厭味なところを除けば、勉強もスポーツもできる。

その上、カッコマン。人気が出ないわけないわよね……」

りえはすっかりクラスメイトに取り囲まれた太郎を見る。

「『少し』ってレベルじゃないよ!スーパーウルトラ厭味じゃん!」

と、れたす。

「だーれがスーパーウルトラ厭味だって、塩原れたす君?」

いつの間にか、太郎がれたすの近くまできていた。

じりじりじり。どこか不気味な笑顔で迫ってくる、太郎。

「あ、う、その……なんでもないです」

「それならいいんだ、それなら」

華麗にスッサスッサと去っていく、太郎。

矢張り彼のことは苦手だ、とれたすは思った。

しかし、この時点のれたすはまだ知らない。

その『苦手』な存在とこれから先、一緒に行動することが多くなるのを。


まあ、そのことはこの話の後半部分あたりで話すことにして……

この日の昼休みの出来事だった。太郎はクラスメイトの小岩井ダイゴと雑談していた。

「昨日の話なんだが。俺の家の近くにも現れたんだよな、うまいファイターとやら」

その言葉に思わず反応する、れたすとりえ。まあ、正体だしね。

「そーか、明石君は昨日やっと目撃したのかー」

うまいファイター。何気に子供達の間で話題の存在になっているようだ。

TVから飛び出してきたような変な化け物と戦闘を繰り広げる戦士。

そう、それこそTVの中のヒーロー達のように。

そんな現実ではありえない事象がここ界隈で見られるようになったもんだから

陀賀市住民、とりわけ小学生のテンションが上がらないわけがない。

「まーな。しかし、思ったんだけど……」

太郎は言う。

「……なんか、あいつらの格好変だよな。チンドン屋っぽいっていうか」

りえとれたすは思わずコケた。そりゃ確かに変だけど。チンドン屋的だけど。

「あはははは!それ言えてる!……って塩原君に紺野さん、どーしたの?」

「珍しいこともあるんだな。りえがコケるなんて」

太郎は笑う。

あんたの発言が原因だ、とは言えないれたす達であった。



 と、いうわけで。放課後だ。太郎はその運動神経の良さを生かし、

この小学校の運動系クラブに助っ人としてたびたび参加している。

特に大会の時は引っ張りだこ、というレベルではない。

「明石君!我がサッカークラブへそろそろ入部の決断を!」

「いや、セパタクロークラブに!」

「カバディクラブに!」

「体操クラブに!」

「ここはむしろ野球クラブに……」

さて、太郎本人はといえば……。

「まあ、考えさせてくれ……この後塾があるし。」

なんというか、あまりにもベタベタな光景。

しかし、現実ではあまり見ない光景。

そういうことは小説だから許されるのだ。ハラショー!

一方で、太郎はそんな生活にどこか退屈感を覚えていた。

その容姿端麗さで、下級生上級生他校生を問わずにもてて、

その文武両道さで、学校中の生徒から羨望の眼差しで見つめられて……

あ、あと。小さいときからいろいろな大会で賞をとっている。

まさにパーフェクトといってもいい、そんな自分。

だけれど、どうにもつまらないのだ。なんというか、刺激がほしかった。

それにしても、太郎のベタキャラっぷりや非現実感もここまでこれば素晴らしいな。


 陽もとっぷり落ちた、夜。とある住宅街。

「ただいまー」

塾から帰ってきた太郎が玄関に入るなり、彼よりも少し上くらいの少女が駆け寄ってくる。

どうやら、怒っていらっしゃるようだ。

「ちょっと、太郎!」

「ね、姉さん!」

太郎の表情が崩れる。日中、小学校で見せたそれとはまるで違う。

「私のゲルインクボールペン(赤)、勝手に使ったでしょ!!!」

「いやだって、俺のペン、インク切れで……しょうがないから姉さんの借りようとしたら、姉さん部屋にいなくてそれで……」

「言い訳無用!!!」

「ギャース!」

太郎の姉こと、妙子のジャーマンスープレックスが決まると、太郎は情けない声をあげた。

どんな完璧人間にも弱点がある。そんな常識がこの段落でようやく語られたわけで。


 あくる日。れたす達の小学校。

1人のカウガール風少女が廊下をうろうろしていた。

そう、第1話にちらっと出てきた矢尾6姉妹のひとり、らってちゃんだ。

手にはすでにれたすとりえにいきわたっているうまいブレスが。

廊下をゆく子供達とうまいブレスを交互に見ている、らって。

一体何をしているのだろうか。

「あれ、君……」

「ん、あたしはらってだけど」

「いや、それはわかるけど……っていうか、何をしてるの?」

「うん、それはね……おっと、ここじゃみんなに聞こえちゃうね」

かくて、2人は廊下の端っこまで移動することに。

誰もいないことを確認したらってはれたすの耳元でひそひそした。

ひそひそひそ。

「仲間探し、ねぇ……」

仲間探し。うまいファイターはとりあえず、れたす達2人だけではないようである。

「そいで、それに適合する子はこれ(うまいブレス)が光って反応するんだけど

……なかなか見つからないんだよね……」

はぁーあ、とため息をつく、らって。

「僕もできるだけ協力するよ。メンバーが多い方が安心だしね」

「え、いいよー。れたす、ドジだし」

ステーン!れたすは思わず、コケてしまった。


「ま、まあ……いいけど……そういえば、うまいファイターって僕とりえちゃんを入れて何人なの?」

「今現在全国発売されているうまい棒の数だけいるから……18人だよ」

なかなかの大編成だ。まあ、これだけいれば問答無用で勝てそうな気はするが。

しかし、しかしである。らっての手中にあるうまいブレスの数が少ないのだ。

「らってちゃん……手の中にあるの、5個だけだけど……えっと、残りは?」

「ん。残りの5個はあずきお姉ちゃんに任せてあるよ」

「えっ?ええっ?確か、君……ファイターは僕とりえちゃん入れて18人て……」

れたすはこんらんしている!

「それがねーえ、金ちゃんったら残り6個のうまいブレス、お家に忘れてきちゃったんだよね」

れたすはコケた。

なんと頼りないおじいちゃんなのだろうか。

 それはさておき、エニウェイ。ここは上空、高級伯爵の住処。

どこで手に入れたのか陀賀市内の地図を広げて、作戦を練っているようだ。

「……さて、今回はどこに店舗を建てますか……」

うまいファイターが大地に立ってから1週間。

その男、高級伯爵はほぼ毎日のように懲りずに件の『ウルトラぼったくり高級菓子店』を建てようとするのだが

最終的にはうまいファイターの手で悪事を押さえられるという結末に至っている。

……まあ、ほとんどうまいファイターコンポタ1人の手柄なのだが。

「毎回毎回やられる私ではないからな……今回こそはうまいファイターをぎゃふんと言わせ、高級菓子で世の中を支配するのだ……!」

腕を大きく掲げ、決意を新たにする高級伯爵。

「あのぉ、『ぎゃふん』て言う人……実際にはいませんよ?」

「お黙り!!!」

戦闘員を怒鳴りつける、高級伯爵。何気にオネエっぽくなってます。

「それにだな、いいアイデアを思いついたのでな!」

「どういうことですか?」

「それは……」


一瞬の間。


「それはまだ言えん!」

戦闘員はコケた。

「そういうのをネタバレしたら、後からつまんなくなるだろ!?」

「いや、それはそうですけど……」

よろよろと起き上がる、戦闘員。

「まあ、とにかく。今のやり取りの間に、出店場所を決めたぞ」

……なんて器用な人。

「それじゃあ、さっさとやっちゃいましょう!伯爵!」

「ああ、だがその前に……」

また引っ張るおつもりか、と戦闘員は呆れつつも次の発言を待った。

「ティータイムだ」

そういいながら、高級スイーツとカップに入った紅茶(これまた高級)を取り出しゆったりし始める、高級伯爵。

当然のように、戦闘員はコケた。


 そんなわけで、放課後である。

今日も今日とて、太郎は運動系クラブの皆さんからスカウトを受けていた。

「ですからぁ!我がラグビークラブにはあなたが必要なんですよ!」

「私達バスケクラブは絶対にあなたに損はさせませんから!」

「ホッケークラブに入ってください!お願いします!」

足を止め、太郎は言う。

「まだまだ決断ができそうにないんでね。もう少し待ってくれないか?」

「「「待てません!!!」」」

ずいっと迫ってくる、部活の皆さん。

そんな皆さんに思わず、肩をすくめる太郎。

「はは、こりゃまいったね」


 と、そんな太郎を遠くから見つめるれたす。

「ああもう……神様は不公平だよ……」

「あんただって努力すれば明石君、レベルとはいかないけど幾分かましになると思うんだけど……」

「そりゃそうだけどさあ……」

まあ、りえの言うことは正しい。

だめ人間でも努力すればとりあえずは平凡レベルには達する。

しかし、れたすの場合はどう努力しても天才どころか平凡にすら達しない。

今日もそうだった。教科書を間違えるは、問題は解けないはで。

それが、太郎のスーパーパーフェクトさを際立たせることになるのだが。

そうして、今日の出来事を思い返しれたすが頭を抱えたときだった。


 「はいはいはーい!よい子の皆さんこにゃにゃちはー!」


あの声は!

れたすとりえは声がした方に視線を向ける。


「ウルトラゴージャス菓子の『GO☆ジャス堂』、今度こそ本当にOPENです!

オープン記念に御向かいの小学校児童の皆さん限定で

当店の品を……全品10000円で提供します!」


れたす達はコケた。

だからあんまり値引いてないっての!


 「いちまんえーん!?」

「高すぎるよー!」

「小学生のひと月のお小遣いが何円だと思ってんだよ、オッサン!」

またまた飛ぶ、ブーイング。

「オッサンじゃなーい!わかったよ!9999円に負けてあげるから!」

またまたれたす達はコケた。

1円しか値引いていないじゃないかと。

「ね、りえちゃん……変身しとく?」

「……この状況下で?」

そう。今は下校ラッシュの時間。生徒の皆さんが結構多くみられる。

「まあ、みんな高級伯爵に注目してるから気付かないと思うよ」

「それもそうね」

かくして、2人は変身するに至った。

ブレスを2度叩く。れたすのブレスからは『やさいサラダ味』の、

りえのブレスからは『コーンポタージュ味』のうまい棒がそれぞれにょきっと現れた。

それを空中でうまいことキャッチし、天に掲げる。

「「チェインジ☆うまいパワーボンバー!!」」

うまい棒、発光。それに見惚れる間もなくパッケージを開封しすばやく食す2人。

そのまますぐ、今度は子供達の身体が光った。

瞬時に光はやむ。そこにいたのはランドセルを背負う所謂普通の小学生……ではなかった。


「サラダでヘルシー勇気りんりん!うまいファイター、やさいサラダ!」

「コンポタでほっこりまろやか気分!うまいファイター、コーンポタージュ!」


はい、今日もうまく口上が決まりました。

「今日も出たか、うまいファイター」

遠くから、高級伯爵が言う。

「ああ、でましたとも!毎回毎回懲りないわね、あんた」

「それが悪役というものだよ、かわいいコックさん?」

そういうもんすか、高級伯爵。

「ええい、とにかく!本日もあんたの悪事を食い止めるわよ!」

「悪事とは心外な。いけ、戦闘員!」

「イー!」

戦闘員がこっちに向かってくる。子供達は一斉に四方八方へと逃げた。

そういうわけで、今日も元気に戦闘開始である。

 「うおんどりゃあああああああああ!」

コンポタ。向上した身体能力を生かし、キックやらパンチやらで次々と戦闘員をブッ倒していく。

「ふえええええええええ……」

翻ってやさいサラダは……えっと、逃げ惑っていた。それを見ていた子供達曰く……

「やさいサラダ、『ファイター』を名乗っている割にはあんまり活躍できてないよね」

「うんうん」

……酷い言われようである。

「さて、そろそろ……」

高級伯爵は遠くにいる、戦闘員に目配せした。頷く戦闘員。

瞬間、コンポタは神輿よろしく戦闘員に担ぎあげられた。

「え、ちょっと、なに?なんなの!?」

「イー!イー!」

その状態のまま、コンポタは連れ去られていく。

「コンポタ!」

「はっはっはっは!そこのヘッポコピエロ君、君の相方は預からせてもらったよ!」

「……っつ!そんな真似、卑怯だよ!コンポタを返して!」

キッと高級伯爵をにらみつける、やさいサラダ。

「OKOK。この子を倒したら、考えてやってもいいよ」

高級伯爵は校庭に植えられた、プラナタスにバラを投げつける。

壮大な爆音。煙。それがやむと、プラナタスの化け物が現れた。

その姿は幼少期に読んだ絵本に出てくる木のお化けその物。

つまり、枝が手になってて幹の部分に怖い目とでかい口が。

校庭にいた子供達は一斉に安全な場所を目指し、退避した。

「ふええええええええ!お、おばけえええええええええ!」

またまた腰を抜かす、やさいサラダ。

「コッラー!あんた、私を助けたいの?助けたくないの!?」

遠くからコンポタが怒鳴りつけてくる。そうは言っても。

「うぐ、コンポタを助けなきゃ……でも……ああ、でも、えーい!」

勇気を振り絞り、やさいサラダは特攻した。

今まで見たことのないやさいサラダの姿に避難していた子供達はどよめく。

「ガオー」

吠える、プラナタスの化け物。

「ふええええええ!」

泣きながらUターンし、逃げるやさいサラダ。

そのあまりにも無様な姿に、子供達はコケた。

 と、そんな中。らっては焦っていた。

そう、新メンバーが見つけられぬうちに敵が襲来してきたから。

「あーもう!なんでこんな時に来るかなあ!」

それはしょうがない。敵さんに何月何日の何時何分何秒に来てください

……なんてそんなこと言えるはずがない。

それにしても。ファイター側は今、何気に最悪の展開を迎えている。

頼みの綱である、コンポタは敵に連れ去られてしまい

一方のやさいサラダは……ご覧の有様である。

今回は勝ち目がない。やさいサラダには撤退を要請しようか……と思ったその矢先だった。

らってのもつ、ブレスのうちひとつが何気に反応しているのだ。

「……!新しいうまいファイターが近くに!?」

きょろきょろ。その反応する方のブレスを片手にきょろきょろする、らって。

きょろきょろしつつ、てこてこ歩く。と、そこに自分と同年代の少年が。

……そう、眉目秀麗文武両道でおなじみ、明石太郎君だ。彼は言う。

「君は……3組の矢尾らってちゃんだね?ここは危ないから逃げた方がいい。

自称『ヒーロー』が今戦っているところだけど、とても勝てそうにないからね……。

っていうか、一緒に逃げるかい?」

目の前にいる太郎に、件のそれは激しく反応した。

もしかしたら、もしかする。っていうか100パーそうだ。


「お、なんだいこれは」

渡す間もなく、光り輝くあれを手に取った太郎。

ちょっと拍子抜けしてしまったが、ひとまず事情を話すことに。

「選ばれた、戦士ねぇ。余り現実味がないけど……まあいい。

ちょうど日常に退屈していたところだしね……変身!」

かつてのれたす達と同じように変身ポーズをかます、太郎。

しかし、何も起きない。

「……らってちゃん、これはどういう……」

「ひとまずブレスを2度叩いて!事態は急を要しているんだから!」

事実、プラナタスの化け物にうまいファイターやさいサラダは延々と追い回されている。

『ファイター』の名が泣く、あまりにも無様な光景だ。

それはさておき、太郎は言われるがままブレスを2度叩いた。

ブレスが光ったかと思うと、にょきっと何かが現れる。

宙に放られたそれを受け取ると、その全貌が明らかになった。

手の中にあったのはうまい棒。それもめんたい味だ。


 「悪いが、らってちゃん。俺はこの仕事請け負えない……」

「どういうことさ!あんた、選ばれたんだよ!」

非難するらってに、太郎はごくシリアスな口調で言った。

「……俺は……明太子が苦手なんだ」

らってはコケた。そういう理由かい!!

「うまい棒めんたい味には明太子は使われていないから!

いや、好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないの!とにかく!このうまい棒を天に掲げて、

『チェインジ☆うまいパワーボンバー』って叫んで!!!」

「……変わった変身パスワードだね。まあいいが。……よし!」

びしっとうまい棒(めんたい味)を天に掲げる。


「チェインジ☆うまいパワーボンバー!」


ピカー。うまい棒が光り輝く。

「今度はうまい棒のパッケージを開けて、中身を食べて!」

「……ずいぶんと手間のかかる変身方法だね。それに……」

「いいから早く!!!」

しょうがないな、とつぶやきつつうまい棒を素早く口の中に押し込んだ。

瞬間、光り輝く太郎の身体。そのまま発光は終息する。

黄色地に胸にはオレンジと白の星模様がそれぞれ2つ、合計4つ。

袖には白とオレンジの小さめのポンポン。

襟は派手な赤色。ズボンも黄色。腰には真っ赤な星がついたベルト。そして、頭にはオレンジ色の冠が。

つまりそういうこと。うまいファイターやさいサラダよりもあれな感じのコスチュームだ。


「めんたいでピリッと決めるぜっ、I’m No.1!うまいファイターめんたい!」

と、かっこよく口上を決めためんたいが自らのコスチュームのことで叫ぶまでに

「なんじゃこりゅあああああああああああああああ!」

時間はかからなかった。

「自らのコスチュームに唖然として叫んでいる場合じゃないから、めんたい!」

「しかしだなぁ!」

「いいからいってきなさい!それに、ヒーローもののお約束で基本的にはバレないから!」

「お前さんは何を言っているんだァァァァァ!」

こうして、新ヒーローのめんたいも戦場デビューを果たしたわけで。

その頃、やさいサラダは……転んで泣いていた。



 「そ、そこのプラナタスの化け物!俺が相手だ!」

なんとか恥ずかしさをこらえながら、めんたいは化け物に怒鳴る。

「ふぇ……新しい仲間?」

「いかにもだ、そこのピエロ君!ここはこのうまいファイターめんたいに任せて、

君のお仲間を助けにいきたまえ!!」

「え、あ、了解です!」

すたこらさっさーと、やさいサラダはコンポタのいる方へと駆け出して行った。

「ってコッラー!いきなり新しい仲間を出すなんて、卑怯だぞ!」

向こうから、またまた高級伯爵がお怒りである。

「仲間をさらって、ヘタレを1人置き去りにするのとどっちが卑怯かな?」

ニヤリ。めんたいは意地悪そうな笑みを浮かべた。

「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、うるさああああああああああああああああああい!!!

戦闘員、あの化け物と一緒にこやつをコテンパンにしてしまえええええええええ!」

顔を真っ赤にし、怒りだす高級伯爵。

同時に一斉に戦闘員がめんたいに襲いかかってきた。

と、そんな戦闘員の皆さんを次々となぎ倒していく、めんたい。

変身前でさえパーフェクトに近い身体能力を持つ、彼。

それがさらに向上しているから、なかなかのものである。

あっという間に戦闘員の皆さんを全員倒した。

「さて、残りは……あんただな、プラナタスの化け物!」

地面を蹴る、めんたい。かつてのやさいサラダ達と同様、高く高く舞い上がった。

しかし空中でうまいこと静止し、地上へと降下。化け物に狙いを定めて、蹴りをかました。

「明太キィィィィィィィィック!!!!!」

バンバリドッカーン!!

「グオオオオオオオオオ」

豪快なうめき声とともに、プラナタスの化け物の身体が光る。

そうして、化け物は元のプラナタスに戻った。

「ふぅ、ミッションコンプリートってところかな?」

さわやかな笑顔で、めんたいは言う。

「くっそ、覚えてろォー!!!」

典型的な捨て台詞とともに、今日も高級伯爵は退散した。

それと入れ違いになる形で、コンポタとやさいサラダが戻ってくる。

「な、何とか無事に取り返したよー!」

「なんか結局、また活躍できなかったわね……やさいサラダ」

「でも、コンポタを助けたじゃないかー!」

またまた泣きそうな、やさいサラダである。


 「ぶえええええええええええええええええ!太郎君が3人目のうまいファイターなの!?」

全てが済んだ放課後のグラウンド。れたすは思わず叫んだ。

「そのようだな。悪いか?」

「いや、悪くはないけどさ!そりゃ人数が多い方がいいけどさ!

……なんていうか、その、えっと……あぅぅぅぅぅぅぅぅ」

次第に声が小さくなっていく、れたす。

「というよりはだな……あのコスチュームだ!ヒーローたるもの、かっこいいコスチュームでなければならんだろが!」

まだまだ不満げな、太郎にらっては言う。

「しょうがないじゃない。うまいファイターのコスチュームは今現在発売されている

うまい棒のパッケージで『うまえもん』が身につけているのと同じ、ってことになってるんだし。観念してよね」

「……それだったら、ピエロの格好の方がましだ……」

「なんなのさー!」

落ち込む太郎に怒りだす、れたす。そんな2人にりえは

「まあまあ、これで3人だし。助け合っていきましょう」

と、まとめた。

「「うんぐぅ……」」

それでもそれぞれの理由で不満げな表情を浮かべる、太郎とれたすなのでした。(←きょうのわんこ風)


 「あ、そういえば。このプラナタスどうすんのよ」

そう。件のプラナタスは元に戻ったのと同時に……なんていうか、こお。

グラウンドのど真ん中にズドーンと突っ立ったわけで。

そういうりえに、金次郎からブレスの通信が入った。

『だいじょーぶ、だいじょーぶ!』

疑問符な、子供達。

『グラウンドの真ん中にプラナタスがあったって、そう違和感ないと思うよ!』

子供達はコケた。


つづく?


必要性が議論されている、解説の件


※1今回のサブタイ:にざかな原作のギャグ4コママンガ『B.BJoker』の作品群のうちのひとつである

沖津君Perfectパーフェクト』から


※2:ゲーム『ポケットモンスター』シリーズで手持ちのポケモンが『混乱』状態になった際の文章。


※3めんたいのコスチュームのこと:あれは何をイメージしているんだろう


※4きょうのわんこ風:フジテレビの朝の番組『めざましテレビ』の1コーナー、『きょうのわんこ』。

その締めのセリフが「~な○○なのでした」。しかし、あのコーナーの癒され度は異常である



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