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第1話新ヒーロー!僕達?の巻

 そういうわけで。翌日の朝を迎えた陀賀市。

ここはとある住宅街の一軒家。んで、とある一室。

今日から新学期で、かつ時計はすでに7時45分を指しているにもかかわらず、男の子はまだ布団の中にいた。

まだまだ春休み気分が抜けていないのか、それとも朝が弱いのか。

……まあ、おそらく前者だろう。


「いつまで寝てるの、れたすー!もうお友達が迎えにきてるわよー」

階下から、『れたす』と呼ばれた男の子の母親の声が。

眠い目をこすりながら、れたすはベッドの横にある目覚まし時計に注目した。

……間。

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

壮絶な泣き声がこの周辺に反響する。

大慌てで服に着替え、ランドセルを背負い、通学帽をかぶり、さまざまな道具が入ったカバンを持ち

さらに大慌てで階段を駈け降りようとし足を滑らせ、すごい勢いで階段から転げ落ちた。

1階の廊下。間抜けな格好で倒れていたれたすはよろよろと体を起こすと、めそめそ泣き出した。

「ふえーん……いたいよお……」

そんなれたす少年に追い打ちをかけるように、後ろから話しかける者が1人。

「今日から5年生なのに、まだ泣き虫なの?れたすー」

「それを言わないでよぉ、珠音たまね。明日からなんとかするから……。

って!そんなことやってる場合じゃないよ!遅刻だァァァァァァ!!!」

リビングダイニングに駆け込み、ロールパンを口に放り込み牛乳で押し流す。

「もお。れたすー、あわてると喉詰まらせちゃうよ!」

「んがぐぐ」

……えっと。すでに詰まらせていた、れたすであった。

「珠音、あなたも明日小学校の入学式でしょ?『れたす』じゃなくて『お兄ちゃん』って呼びなさい」

母親にたしなめられる、珠音。……少し紹介が遅れたが、珠音はれたすの妹だ。

翌日入学式なスーパー生意気な女の子。

「いいじゃん、そんな細かいこと」

「珠音、口答えもやめなさい!それよりれたす、早く学校に行かないと……」

「わかってるよおおおおおおおおおおおおおお……」

あわててリビングダイニングを出ていく、れたす。間をおかず転ぶ音が聞こえる。

……ため息をつく、母であった。

 とにかく。この話の主人公である塩原れたすは朝っぱらから精神も体もズタボロな状態。

なんとか、靴をはき玄関を出ていく。顔は……涙目だ。

無理もない。新学期から朝寝坊するわ、妹にバカにされるわ、転びまくるわ。

これこそ泣きっ面にハチ、口内炎の時に暴君ハバネロ。

れたすじゃなくても、この状況は泣きたくなってしまう。

「はぁ、れたすったら新学期からああなの?」

眼前で呆れ果てるのは、お隣さんでれたすの幼馴染、紺野りえ。

付き合いは幼稚園年少からで、小学校に入ってからもずっと同じクラス。

最早『姉と弟』のような関係である。

「だって……」

「だって、なんなのよ。言い訳?とにかく!!早く行くわよ。でないと私も遅刻だし!」

遅刻。そうであった。今はこんなことをしている場合じゃない。

2人はそろってダッシュして、学校へと向かった。

そして、案の定。道中れたすは何もないところで転びさらには電柱に追突し、その度に泣きまくりそれが時間ロスとなり2人は新学期早々大遅刻と相成った。


とっくに新任式が始まっていたため、こっそりと体育館に入る2人。

「はい、そこの生徒2名」

見つかった。(←某『逃走中』ナレーション風に)

「……春休みは昨日までだったってこと、忘れていたみたいですね」

壇上から校長が言い、体育館にいた児童はドッと笑った。

赤面する、りえ。恥ずかしさで泣きだす、れたす。

結局、新任式と始業式は後ろに立って(水がたっぷり入ったバケツを持ちつつ)参加することとなった。

「マッタク、れたすのドジのせいで大恥かいちゃったじゃない」

りえは呆れる、というレベルを通り越して呆れ果てていた。

「ひぐっ……ごめんなさいィィィィ……」

また泣きだす、れたすであった。なお、れたすの方がバケツが1個多い。


こうして、新任式はつつがなく終わりこのまますぐ始業式が始まった。

それにしても、何ゆえどの学校の校長も話が長いのだろうか。

手短に、という表明は毎回有言不実行に終わっている。

今回もご多分にもれず、そんな感じだ。

れたすとりえはバケツ持ちな状態で立たされつつ参加しているため

普通に立って聞くよりも、キツい状況である。

自分が悪いとわかっていても、なんだかメランコリックなれたすなのであった。

 永遠とも思える時間がよくやく過ぎゆき、次は転校生の紹介だ。

女の子が6人、壇上に上がる。正直、どの子もかわいい。

「矢尾いちごです。今日からよろしくお願いします」

最初にあいさつをしたのはツインテールでフリフリの服を着た女の子。

「矢尾あいです。みんなと仲良くやっていきたいです」

次はショートカットでボーイッシュな格好をした女の子。

「矢尾らってでーす!みんな、よろしく!!」

カウガール風の服装を纏う女の子が元気よくマイクを振りながら言った。

そんな光景に会場に苦笑が漏れたのは言うまでもない。

まあ、とにかく。転校生に皆がワクワクする中紹介はまだまだ続く。

「矢尾あずきです。皆さん、よろしくお願いします」

ロングヘアーに少し和風な服装。そんな感じの女の子だ。

「矢尾ももです。よろしくです」

おかっぱ頭に桃色のカーディガンに茶色のズボン。

服装が違えば日本の民話に出てきそうな感じの、そんな女の子。

「矢尾ゆみです。いっぱい友達を作りたいです」

サイドポニーにバンダナをつけ、ポロシャツとショートパンツといった感じの女の子が言った。

どうやら、この子達は6人姉妹。

中でもいちご、らって、あい……の3人はれたす達とほぼ同年代のようだ。

その予想は当たり、この3人は5年生のクラスに入ることとなった。

なお。あずきは6年生の、ゆみは3年生の、ももは4年生のクラスへ入るようだ。

後は新しいクラス担任紹介と簡単な伝達事項で始業式も終わりを迎えた。

子供達が新しい教室に向かうのを見送りつつ、床にバケツを置くれたす達。

そして、腕を何度も伸ばして疲れをいやした。

「あー。腕きつかったわ……」

「うぅぅぅ、ごめんなさい……」

と、そこに先生が現れ……言った。

「紺野さん、塩原さん、2人とも職員室へ……」

どうやら、まだまだきつい時間は終わらないようだ。

れたすもりえもため息をつくしか、できなかった。

 「……そういうわけですから、今後は気をつけること。

それから、あなた達の新しいクラスは5年2組です。今度は遅れないよう気をつけなさい」

「「はい……」」

職員室。新学期から先生の叱責をいただいた2人はそろって頭を下げた。

廊下に出て、教室へと歩く。高学年の教室は3階にある。

「……でもあれよね。またあんたと同じクラスなんて。

今年も、いや……6年はクラス替えがないから卒業まであんたのドジに付き合わされることになるのかしらね」

「ふぇぇぇぇ……ひどいよ、りえちゃん……」

また泣きそうになる、れたすであった。

意地と気合いでドジを踏まないようにし、れたすは何とか教室にたどり着いた。りえも後に続く。

ホームルームまでまだ時間が少しあったせいか、子供達はそれぞれ新しい級友との交流を深めていた。

席へと歩くれたす。……顔が青ざめた。

そう、苦手な同級生がいたりしちゃったりなんかしたのだ。

「はっはっは。さっきは傑作だったよ、へったれたす君!」

机にもたれかかり、笑うは明石太郎。3年生から一緒のクラスなのだが、ぶっちゃけ意地悪すぎる厭な奴だ。

「へ、へったれたすじゃないもん!」

れたすは顔を赤くし、涙目になる。

「そう言ってる割には……新学期からだっさい姿を晒してたな!」

はっはっは。バカにしたように、太郎は笑う。れたすはべそをかいた。

教室に新しい担任が入ってくる。石政智子先生。今年3年目の先生だ。

先生の紹介が終わると、次は子供達が自己紹介する番。

逆出席番号順で自らの情報を身振り手振りを交え紹介していく。

れたすはこの時間が一番嫌いだった。なんでかって、特技なんてなく

趣味も「駄菓子屋めぐり、駄菓子を食べること」という間抜け極まりない自分を紹介するなんてはっきり言って厭。

しかし、運命は残酷なものでれたすの番が来てしまった。

「塩原れたすです……。うぅ……」

「僕はドジでマヌケで泣き虫。なんの取り柄もありませーん!、だろ?」

はやし立てる太郎。教室が爆笑の渦に包まれたのは……説明するまでもない。

「ふぇぇぇぇぇ……」

当然のように泣きだすれたす。

先生が制止するまで、教室の大笑いは続いた。

 新学期の頭だけにこのあとは掃除と帰りの会で今日は終わりだ。

れたすは掃除の時間から、なんとかしっかりしようと思っていた。

ところが。机を運べば落とし、雑巾がけでは派手に机に激突、バケツも倒してしまった。

掃き掃除を任されれば、花瓶を落として割り、あわてて手で拾おうとして指を切る。

……散々というレベルではない。同じグループのりえも呆れている。

こうして、あまりにも不甲斐ない形でれたすの新しいクラスデビューは幕を下ろした。


帰途。子供達は午後からの予定をワイワイ話しながら歩いている。

そんな中、れたすはすっかり落ち込んでいた。

新学期早々大失敗の連続。新しい級友達に完膚なきまでに酷いイメージを持たせてしまった。

「はぁ……落ち込んでたって始まらないでしょ。明日からドジを踏まないよう努力すれば

自然とあんたのだめだめな印象はフェードアウトしてくわよ」

「うん……とりあえず、気持ちを切り替えるよ」

何とか気持ちが落ち着いたようだ。


「よっし!気持ちを切り替えたついでに今日も『武藤商店』に行こう!」

武藤商店。れたす達が通う学校の校区内にある、所謂駄菓子屋。

平成の世を迎えお菓子のジャンルも多様化し、後継者不足やら何やらで駄菓子屋が廃れつつある現在もここの地域一帯の小中学生のたまり場として愛されている。

店の隅の冷蔵庫にはいつもさまざまな種類の清涼飲料が並び、

店先のアイスボックスにはいろいろな種類のアイスがいっぱい。

駄菓子の方も古今東西さまざまなものが用意されている、まさに駄菓子屋オブ駄菓子屋なそんな空間。

「へへっ、今日は何をしようかなっ☆りえちゃんも行く?」

「んー。行くけどさ、夕飯の買い物もあるし。そんなに長くいられないわよ」

りえは幼少期に両親の離婚を経験しており、現在は母親と2人暮らし。

その母親も忙しい身であるため、毎日家の手伝いをしている。

その為、なかなか遊ぶ時間が確保できないのが現状。

「お買い物なら、僕も手伝うよ!」

「はぁ、ドジなあんたに手伝ってもらうようなことなんか……」

「りえちゃん!!」

つれないりえに少し、泣きそうになったれたすであった。

 ひとまず、その前にお昼御飯だ。

天ぷらそば(カップ)とおにぎりを食べ終わると、お財布を片手に玄関へと向かう。

「れたすー、お昼食べたばっかなのに『武藤商店』にいくのー?」

後ろから珠音が話しかける。

「まあまあ。珠音も行く?」

「いいよー。お留守番しなきゃだし」

父親は会社。母もパートに出かけており、事実家は子供達だけだ。

まあ、れたすも今から出かけるので家は珠音だけになるのだが。

「むぅ、まあいいか。珠音、留守番頼んだよ!」

「うん!れたすと留守番してるとロクなことなさそうだしね!」

れたすはコケた。


 前述のように、りえの家はれたす宅の隣。徒歩0分で玄関先にご到着である。

ピンポン、と呼び鈴を押す。インターホンの向こうから「はーい」と声が聞こえた。

「りえちゃん、りえちゃん!早く行こう!」

うきうきが押さえられないような口調でれたすは言う。

一方、りえは落ち着いた口調で返した。

「もうすぐお昼の片づけが終わるから、ここで待ってなさい。

それに、お買物の用意もしなくちゃいけないし」

「早くねー☆」

ほどなくして、りえが玄関から出てくる。エコバッグを持って。

家の鍵を閉めている間もれたすははやる気持ちを抑えられなかった。

まあ、とにかくりえが外に出たのを確認するとそろって『武藤商店』へと足を進めた。

武藤商店の店先。すでに同じ小学校の子供達が詰めかけており、

カードゲームをしたり、アイスを食べたり、駄菓子を選んだり、ガチャガチャをしたり

……と、思い思いの時間を送っていた。

「とりあえず、ちっこいラーメン食べようかなー。いやそれともアイスかなー♪」

目を輝かせ、嬉々とした口調でれたすは言う。

そんなれたすに少し、呆れるりえ。

「いや、あんた。さっきお昼食べたばっかじゃない。よくも入るわね」

「まあまあ、駄菓子は別腹っていうじゃない!」

小学生が何を生意気に。と、りえは思ったとか思わなかったとか。

まあ、とりあえず。駄菓子屋の中に2人は入っていった。

 と、そんな光景を見つめる者が2人いた。

1人は高校生ぐらいの青年。もう1人は、ええと。おじいちゃん。

「あ、こーちゃん!反応があった!ほら、光ってる!」

嬉しそうに、おじいちゃんは言う。

「とはいっても、いったい誰に渡せばいいかわかんないし。

じーちゃんもわかるでしょ、今日も武藤商店ここはお客さんでいっぱいだし」

『こーちゃん』と呼ばれた青年……武藤光一は言う。

光一はこの武藤商店の1人息子。時間がある時は祖母と一緒に店番をしている。

なお、祖母はといえば接客で忙しくこの状況に気づいていない。

「なら、直々に探しに行けばいいじゃん。そして、渡すの!」

「はぁ……」

そうして、おじいちゃんは光一の手に何かを渡す。

腕時計、のようなものだ。それも駄菓子の4番バッター、『うまい棒』のキャラクターである『うまえもん』の顔っぽい形をした物。

「もう、しょうがないなー。じーちゃんは」

ため息をつく光一に障子戸の向こうから祖母が声をかけた。

「光一ー、あんたもお客さんの相手をしんしゃーい」

「あ、はーい」

こうして光一は接客も兼ねて、『腕時計』を渡しに行くこととなった。


 「あー幸せー☆」

店の隅、冷蔵庫の隣に置かれた小さなベンチ。そこにれたすとりえはいた。

駄菓子的なカップめんをすすりつつ、幸せな顔をしているれたす。

「あんたの幸せは安くていいわね」

その横でりえはアイスキャンデーにパクついていた。

「りえちゃんにれたす君、こんにちは」

そんな2人の横に光一が現れる。

「あ、こんにちは!光一兄さん!」

「こんにちは、光一さん」

挨拶する、2人。

みると、光一の手元には腕時計……のようなものが2つ。なんか光っている。

ふ、と光一は少し開かれた障子戸の向こうを見る。

「あ、えっと。りえちゃんにれたす君……」

と、光一が言いかけたときだった。

ターボで3人の前に……おじいちゃんが現れた。


 「あのね!あのね!ちょっと一緒に裏庭まできて!お話があるの!!」

急に見知らぬおじいちゃんに話しかけられ、豆鉄砲を食らったような顔をするれたすとりえ。

「じ、じーちゃん。いきなり沸いて出ないでよ。幸い他の子達は気付いてないみたいだけどさ」

「だってだって、こーちゃん遅いんだもん!ぷー!!!」

おじいちゃんは膨れた。

「ま、まあ。とりあえず。裏庭まで行こうか……」

こうして光一に連れられ裏庭へと向かう。

店舗兼住宅の裏庭は柿の木が植えられ、垣根には椿が。隅っこには石灯籠もある。

忘れられた日本そのものな裏庭の雰囲気をぶち壊すように置かれてあったのは

『どこでもドア』のような少し大きめのドア。

何事だ、と言いたそうにれたすもりえもまじまじとドアを見つめる。

光一はほとんど見慣れたようなものなので無表情。

「ささっ、とりあえず開けるね!」

おじいちゃんが光一がれたす達に渡そうとしていた腕時計と同型のそれをドアノブにかざす。

ガチャリ、とドアが開いた。先導して入ったおじいちゃんが3人を手招く。

「ささっ、入って入って!」

言われるがまま、ドアの向こうへと歩みを進める。

ドアの向こうには……SF映画で見るような空間が広がっていた。

寒色系の壁に床。さまざまな機械が置かれている。

「説明しよう!ここは!!」

どや顔で説明を開始しようとしたおじいちゃんを止める形でりえは言った。

「あの、すみません。あなたはどなたであらせられますか?」

「あー!そういえば紹介が遅れたね。姓は矢尾で、名は金次郎!

年齢は老人、体と心はヤングマン!人呼んで、金ちゃんとは僕ちんのことだあああああああああああああああ!」

シャキーン!ポーズを決めた。ぽかんなれたす達。

「そして……」

……まだ何かあるのか、と呆れる3人を尻目に金次郎はメガネを外した。

そこには何ともキュートなお目目があった。

「メガネの下のつぶらな瞳がチャームポイント☆」

れたす達はコケた。

 同時刻。無限に広がる果てしない空に浮かぶ……城。

そう、城だ。しかし、モンサンミッシェルやリヒテンシュタイン城のような洗練された煌びやかな感じはまるでなく、

なんかこお、「悪役の城」的な悪趣味プンプンな感じの城だ。

そんな城の大広間。赤絨毯の先にある巨大モニターを見つめるひとりの男がいた。

その井出達はタキシードにシルクハット、手には杖……といったいつの時代のイギリス紳士だ!と突っ込みを入れたくなるような感じ。

この男の名は「高級伯爵」。その名の通り、高級なものが大好き。

数年前から様々な星に高級スイーツ店を設置し、高額な金を巻き上げる……という悪行を繰り広げてきた。

この悪趣味全開な城もこの時稼いだ金で作ったもの。


さて、今回はこの地球にターゲットを定めた伯爵。

そんな中、地球の日本に自分の苦手なにおいをぷんぷん感じた。

……そう、駄菓子。この男、所謂庶民的なものや高級じゃないものが大嫌いなのだ。

とりわけ、駄菓子が苦手で過去に食べたこともないし食べようと思ったこともない。

一応、日本には高級なお菓子は存在するには存在している。

だが駄菓子の力の方がまだまだ強いようで……。

そういうわけで。高級スイーツの力を見せつけるために強硬手段に出ることにしたわけである。

と、そんな矢先にそんな野望を食い止めるファイターがいると聞いてしまった伯爵。

「けど、子供じゃないか。こりゃ確実に勝てるね……」

にやり。伯爵は怪しい笑みを浮かべた。

そう。ファイターと聞いて、どんな輩が自身の相手をするのか

……と思いきや。相手は子供である。おまけにうちひとりはヘタレな感じ。

これは完全なるゆるゲーだ。あっという間に日本は我が高級スイーツ店に支配されるのだ。

「勝ったぞ!勝ったぞ!勝ったぞおおおおおおおおおお!」

大広間内は伯爵の哄笑で満たされた。 

 「で、さっきは割りこんで悪かったけど……ここって結局何なの?」

視点は再度、謎のSF的空間に戻る。りえは問うた。

「やったね!この質問を待ってたんだ☆」

指パッチン。

「で、ここがどこかというとだねぇ……地下の秘密基地だああああああああああああ!!!」

大仰なアクションとともに金次郎は言った。

りえとれたすはぽかん、事情を知る光一はノーリアクション。

……そんな状況に金次郎はコケた。そのままの状態で、汗を浮かべる金次郎。

「いやいやいやいや、チミ達そこは『おおー!』とかいうとこでしょ」

「そんな非現実的なこと言われても……」

むぅ、と腕を組んで考え込むりえ。

「そいで、僕ちんがチミ達をここに呼び寄せた理由はだね……」

金次郎が言いかけたその時だった。室内に鳴り渡る警報音、そして赤いライトで照らされるその空間。

突然の出来事にれたす達は思わず周囲を見渡す。

「高級軍団、接近しています!」

コンピューターを前に座っているのは……なななんと、あの転校生の矢尾あいちゃんだった!

「にゃ……なんで君がここに!?」

予想外の出来事に目を丸くするれたすに、あいは言う。

「説明は後だよ!いいからさっさと出動して!」

「いや、出動してって言われても……」

当惑気味なれたす。

「っていうか!まだブレスレット受け取ってなかったの?

もお、光一さん何してるのさ!!」

「あ、なんかごめん……」

自分と同じくらいの年齢の子に怒られている光一を見て、れたすの当惑度はどんどん上がっていくのであった。

「あ、えと。とりあえず、これを受け取って……」

そうして、れたす達の手に件の『ブレスレット』が渡された。

「え、腕時計?」

「なんなのかしら……」

『ブレスレット』を装着する、2人。金次郎は言う。

「この『うまいブレス』で、変身するんだ!!!」

なんてイマイチなネーミングなんだろう、とれたす達は思った。

 「でも、変身ねぇ……なんかわかんないけど、やってみるわ。……変身!」

さながら変身ヒーローのようなしぐさをするりえ。

「あ、えと……変身!!」

同様の動作をれたすも取る。しかし、何も起きなかった。

「……なんなの、オジジ?」

睨みつけるりえ。

「えっと。チミ達の思い描いているそれとは少し違うんだよね……。

細かい説明はさておいて、ブレスレットを2度叩いてみて!」

金次郎に言われるがまま、ブレスレットを叩いてみる。

瞬間。光り出す、ブレスレット。そこから棒状のものがにょきっと現れ、空中に放たれる。

「受け取って、早く!」

急いでそれを受け取る。光が薄まると、そこに現れたのは……うまい棒だった。

れたすのは『やさいサラダ味』の、りえのは『コーンポタージュ味』の。

「そのまま、上に掲げて『チェインジ☆うまいパワーボンバー!』って叫ぶんだ!」

何が何だか分からないまま、2人はそれぞれのうまい棒を上へとかざし……叫んだ。

「「チェインジ☆うまいパワーボンバー!」」

強い光を放つ、うまい棒。その光に飲まれる形で変身……しない。思わず突っ込むりえ。

「ちょ、変身しないじゃない!」

「だから、ちょっと違うんだってば!袋を開けて中のうまい棒を食べるんだ!」

なんてめんどくさい変身方法なんだろう、とれたす達は思いつつパッケージの封を開ける。

そして、それこそ素早くうまい棒をザクザクザクッと食べた。

食べ終わる。次はれたす達の身体が光る番だった。

そして、一瞬で子供達の姿が変わった。

「サラダでヘルシー勇気りんりん!うまいファイター、やさいサラダ!」

「コンポタでほっこりまろやか気分!うまいファイター、コーンポタージュ!」

口上まであげちゃった。直後固まる2人。

「「なにこれー!?!」」

まあ、至極当然な感想だ。

「これがファイターのコスチューム?どう見たってピエロじゃない!」

「これでファイターと言い張るつもり?どう見ても、コックのそれよ!」

同時に金次郎に訴えかける、子供達。

「ああもう、説明は後!早く出動しちゃいなさい!」

金次郎は子供達の首根っこをつかむと先程のどこでもドアの向こうへと放り投げた。

「「うわー」」

こうして、ドアの向こうで待っていたのは……。

 「な、なにこれえええええええええ!」

投げ飛ばされた時の痛みも忘れ、れたす……もといやさいサラダは叫んだ。

そこにいたのはどっかの悪の組織に属していそうな全身タイツ姿の変な人達。

目に付いた人たちに何かを配っている。チラシのようだ。

そして、そのすぐ近くには……イギリス紳士がいた。

「え―。ご近所の皆さーん。こんにちは&はじめましてー!

このほどこちらにてウルトラゴージャス菓子の『GO☆ジャス堂』をオープンすることになりましたー。

今回はオープン記念セールとして、こちらのチョコレート。本来なら50000円のところ、49999円でございまーす!」

やさいサラダ達はコケた。全然値引きしていないじゃないか。

「おい、待てよ!50000円で49999円って全然値引きできていないじゃないか!」

「そうだそうだー!」

老若男女、一斉ブーイングである。

「はっはっは。どーもすみません!思いきって、30000円でございまーす!」

「ちょっとぉ!どこが『思い切って』よ!」

りえ、もといコーンポタージュはイギリス紳士を指差した。

「なんだ。誰かと思えばファイターの皆さんではありませんか?」

「……そういうあんたは誰なのよ」

と、コーンポタージュ。

「誰だい君はってかい?そうだ。私が泣く子も黙る、ゴージャス人間!高級伯爵だ!」

「あ、そう」

コーンポタージュの冷たい反応に、高級伯爵はコケた。

「……ね、コンポタ。もしかして僕達が戦う相手ってこいつなの?」

「そうみたいね。……ひとまず、この戦闘員を蹴散らしときましょ。やさいサラダ」

いつの間にか、コードネームで呼び合っている2人。

きっとこれも変身うまい棒の力のようなものだろう。

まあ、ひとまず。2人は全身タイツ軍団に向かって走り出した。

ちなみに、ここから地の文においても「コンポタ」表記で行かせてもらう。

だって、コーンポタージュってなんか長いしね。ご了承ください。

「イー!!」

同時にこっちに向かってくる全身タイツの皆さん。

「えっと、僕達が相手だぁぁぁぁぁ!!!」

やさいサラダが殴りかかろうとした、その次の出来事。

……やさいサラダがぐきっという音とともにコケ、盛大にスライディングをかました。

まあ、これにより全身タイツの皆さんはボウリングのピンよろしくぶっ飛んだわけだが。

「まったく、大事な時に何やってんのよ……やさいサラダは」

一方で呆れる、コンポタであった。

 「ダッー!なんでこんなドジな人間ごときにやられてんだ、あんたらはァァァァァ!」

地団駄を踏んで、怒りをあらわにする高級伯爵。

「もう……あんたらなんかに任せてられない!やぁっ!!」

胸ポケットからバラを取り出す。そのまままっすぐ『武藤商店』へ。

爆発。砂煙の向こうからは……怪物と化した『武藤商店』が。

「ふえええええええええええ!なんか出たああああああああああ!」

おそれおののき、腰を抜かした状態のまま後ろへと後退するやさいサラダ。

『コッラー!やさいサラダ、逃げちゃダメ!!』

やさいサラダのうまいブレスから金次郎の声が。どうやら、通信機能もあるようだ。

「だって!だって!怖いんだもん!!」

『冷静になって考えてみて!あれは『武藤商店』。チミの好きな空間だよね?』

やさいサラダははっとなった。

そう、今は確かに怖い目をして怖い声を発している化け物。

だけど、もとは自分の大好きな場所。

そんな場所をこっわい怪物にするなんて言語道断、ゼブラゾーンだ。

凛と勇気を奮い立たせ、やさいサラダは立ち上がった。

「行くよ、コンポタ!」

「なんだかやさいサラダがきらめいてると調子狂うわね……」

とにもかくにも、2人のひよっこファイターVS怪物『武藤商店』とのガチンコマッチが火蓋を切ったわけで。

ひとまずは地面をけって、相手に向かって大パンチ……てな感じで行こうとしていた。

だが、ジャンプした2人はそのまま怪人を行き過ぎそのまま上空へ。

「ふえええええええええ!一体どうなってるのオ!」

「変身すると身体能力が向上……ってお約束すぎない!?」

まあ、それがヒーローという物だよ。コンポタちゃん。

「もしかして、さっき僕が思いっきり転んだときに全身タイツをぶっ飛ばしちゃったのも」

「それね」

上がるだけ上がったら、あとは落ちるだけ。壮絶な速度で2人は地上へと真っ逆さま。

「うえーん!たすけてええええええええ!」

先程の凛とした姿はどこへやら。またまた泣き虫なやさいサラダに逆戻りである。

まあ、しょうがない。あんな高さからフリーフォール以上のハイスピードで落っこちたら誰だって泣きたくなる。

一方の怪人『武藤商店』はといえば落っこちてきたところにパンチをかまし、

ファイターたちを真昼に輝くお星様にしよう、と考えたのか拳にぐっと力をためている。

こうして、落っこちてきた誕生したてのファイター2人。

今だ、と言わんばかりに突きだされた怪物の拳に2人はふきとばされ


なかった。

なんていうか咄嗟に突きだした2人の両手が……抑えやがったのである、怪物の拳を。

「……止めちゃったわ」

「とりあえずそのまま押しちゃおっか」

2人はせーの、で怪物を地面に倒した。

周囲に充満する、砂煙。そこへ金次郎の通信が再び入った。

『さあ、ここからが本番だよ!やさいサラダ、ちょっとブレスレットを1回叩いてみて!』

「こ、こう?」

ポンっと出てきたのは……大きなボール。

サーカスでおなじみ、大玉乗りで使いそうな派手な柄のボールだった。

「えっと、もしかして僕に大玉乗りをしろと」

『しょうゆーこと!』

頭を抱えつつ、大玉に乗ろうとする。しかし、いかんせん未経験なため何度も落っこちてしまう。

『ゆっくり、片足ずつのせて!そしてそのまま相手に特攻するんだ!』

「そんなこと言われても……あ、乗れたああああああああああああ!」

乗れたと思った瞬間、大玉がごろごろごろごろ転がり出した。やさいサラダを乗せて。

「ふえええええ!おーたーすーけー!」

目の前ではなんとか起き上がろうとしている怪物『武藤商店』。

そして、その怪物にやさいサラダは特攻……


できなかった。

なんというか。途中で反れて電柱に豪快に激突したのだ。

あまりにもお間抜けな現状に、コンポタは肩を落とした。

『えっと、コンポタにやってもらおうかな……』

先程と同様に、ブレスレットを叩く。出てきたのは、レードル。所謂おたまだ。

「これが私の武器なの……?」

少し怪訝そうな表情を浮かべつつも、とりあえず力半分でジャンプし……

「反省なさい、レードルクラッシュ!!!」

怪物の頭をレードルで叩いた。

咆哮をあげる怪物。カッと光ったかと思うと……元の『武藤商店』に戻った。

「チクショー!覚えてろー!!」

典型的な捨て台詞を吐き、高級伯爵はとっとと退散した。

 

戦いが済んだ、武藤商店の裏庭。その縁側に5人はいた。

「それで、超ぼったくり高級スイーツに駄菓子が駆逐されるのを阻止するために

……私達に戦ってほしいってわけね?」

変身を解除してすぐ金次郎からうまいファイターの目的を聞かされた子供達。

なんだかいまいちピンとこない。スケールが大きいのか小さいのかわかんないっていうか。

「でもでも!駄菓子がなくなっちゃうのは厭だし!僕、がんばるよ!」

ぐっとガッツポーズを決めるれたす。しかし。

「そうは言っても、不安なんだよね。チミってドジだし……」

「うん、なんていうか。僕も不安だよ。正直今日の君の姿を見ていると

……先が思いやられるっていうか……」

「ぶっちゃけ最弱ってレベルじゃないわ……」

金次郎、あい、りえからのトリプルパンチを食らいクラクラなれたす。

さながら頭上に岩をみっつ落とされたような。

「ふえええええ、光一兄さんンンン……」

泣きそうな顔で、光一にフォローを求めようとするが

「……は、はははは……」

困ったような笑顔で返された。

本日最大級のショックを受ける、れたす。

……今度は特大の錘を落とされたがごときダメージ。

「う、うわああああああああああああああああん!!!」

少しだけ日が傾いた街。そこにれたすの泣き声がエコーした。


つづぐ?

必要かどうか、わからない解説の件


※1今回のサブタイ:特撮『超光戦士シャンゼリオン』第1話のタイトル『ヒーロー!!俺?』から。なお、作者はこの番組に対しての知識は『最終回がすさまじい』しかない


※2暴君ハバネロ:東ハトから出ている激辛スナック。口内炎の時に食べたら、軽く死ねるひと品。


※3某逃走中ナレーション風:フジテレビで放送されている不定期特番『逃走中』。

所謂鬼ごっこを壮大にしたもので、鬼ポジションの『ハンター』に見つけられた際の常套句だ


※4どこでもドア:言わずと知れた国民的マンガ「ドラえもん」に登場する秘密道具。

挿絵がないため、少し理解しにくいけど本編中に出てくるそれは「どこでもドア」そのものの形状だ


※5説明しよう!:タイムボカンシリーズにおけるナレーションの人の決め台詞


※6年齢は老人云々:テレビアニメ「名探偵コナン」のオープニングナレーション

『見た目は子供!頭脳は大人!』を改変。


※7変身!:特撮「仮面ライダー」の変身ワード。


と、いうわけで。よろしくです

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