第9話 うまいファイターズ、海への巻
うまいファイターな子供たちが通う、陀賀第一小学校。
もうすぐ、5年生の校外学習の日を迎えようとしていた。
各学期に1回。まあつまり、年3回学年単位でそれは行われる。
1学期は工場見学や潮干狩りといった風に自分の地元について知り
2学期は観劇や美術館の見学という感じで芸術に触れ、
3学期はスキー遠足……といった感じで各学期でそれぞれ違っていたり。
普段の座学では得られない、ワクワクでキラキラの体験が待っているってんで
この時期の子供達は他の行事の時以上にテンションが高い。
……まあ、勉強しなくていいっていうこともあるんだろうが。
中会議室。第3話で話したように、何気にクラス全体の人数が多いこの小学校。
校外学習についての話し合いも、ここで行われる……。
「と、いうわけで。5年生はバスに乗って××海岸で地引網を行います……」
どうやら、今年の5年生は地引網を行うようだ。
―地引網かー
―うーん……。
―やったことないから、楽しみー
みんながわいわい言う中、ひとり目を輝かせる女の子がいた。
蛯原真世。魚屋の娘にして、うまいファイターエビマヨネーズな女の子。
魚は見るのも食べるのも大好きな彼女。地引網に行くと聞いて、内心ハイテンションだった。
持っていくもの、当日の注意点、などなどがホワイトボードに書き込まれていく。
真世はメモを取りつつも、すっかりうっとり夢心地モードであった。
「では、質問はありますか?」
ホワイトボードの前で、学年主任の先生が言う。
「はいっ!!」
手を上げるのは我らが主人公の塩原れたす。あ、冒頭での登場は何気に久々だね。
「はい、何でしょうか。塩原君」
少しの間をおいて、れたすは言った。
「地引網って、何ですか?」
ドンガラガッシャアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
れたす以外の5年生と先生全員が机や椅子ごとずっこけた。
「え?ええ??」
その中でただひとりれたすはきょろきょろとしていた。
ていうか、ベタネタであった。
「れたす、10年生きてきて地引網知らないってどういうことなのよ……」
りえがコケた際にできたとされるたんこぶをさする。
「うぅ、だってぇ……」
れたすはやや泣きそうな顔になりながら人差し指の先をつんつんさせた。
「まあ、あれだ。さすがはドジなへったれたす。地引網も知らないなんてな」
全力で厭味を言う、太郎。
「いや、だって、その……なんか……」
れたすはますます小さくなっていった。
「けど、真世ちゃん。なんかすごくテンション高いよね……」
と、みく。
「だってだってだって!海だよ、海!っていうか!魚だよ、魚!」
真世はうれしそうにくるりと回る。
「そういや、真世ちゃんって4年生の時の水族館見学の時もああだったなー」
4年生の時、真世と同じクラスだったらしいみく。
その時を回想しながら、しみじみしていた。
「同じ班だったんだけど、すごいテンションでみんな引いてたよ……」
「はぁ……」
班も違えばクラスも違っていた、れたすにりえに太郎。
その時の光景を想像して、思わず冷や汗である。
根はいい子なのだが、魚のことになると目の色が変わり暴走状態っていうか、
周りが見えなくなる、そんな女の子蛯原真世。
そんな彼女の素性を知って、ちょっとドキドキな瞬間だった。
「しっかし、地引網かーなんか地味だよなー」
「工場見学の方が楽しそうだしー」
「だよなー」
……同学年の男子児童3名がれたす達の横を横切っていく。
……一瞬、真世の耳が大きくなった。
「コッラー!!地引網のこと、何も知らねぇくせにんなこと言うなんて、
あたしゃ情けなくて涙が出てくるぁ!!」
「「「……な、なんだよ……」」」
「とにかく!これ以上、悪く言うんじゃないよ!漁師さんたちに失礼だろぅ!」
ビッシー。そんな効果音が聞こえそうなほど、真世は男子生徒たちに指を向ける。
「わ、わーったよ……」
すごすごと退散する、男子生徒。
真世はプッツンすると江戸っ子口調になる。
短時間の間に、れたす達は真世のパーソナリティをがっつり知る羽目になったのであった。
「たっだいまー!!」
蛯原鮮魚店。その店先に真世が豪快に飛び込む。
「おぅ、お帰り!真世!」
店先に立っている真世の父、勝が江戸っ子口調で言った。
「なんかうれしそーだけど、何かあったのかィ?」
「おとーちゃん!校外学習だよ、校外学習!!地引網に行くんだよー!」
うれしそうに跳ね回る、真世。ランドセルも弾んでいる。
「地引網!なかなか渋い選択するじゃねェか、先生はよ!」
「まったくだよぉ!」
はっはっは。2人は笑う。
「それはいいんだけど……」
横から聞こえる、女の人の声。
「「あ、かーちゃん」」
勝と真世は同時に声をそろえた。
そう、真世の母千里さんである。
ちなみに「ちさと」と読むのであって、「ちり」とは読まない。
「今は店あいてるんだから、話してないで仕事しな、仕事」
「ひゃい……」
すっかりしょげかえる、真世の父。
「ほら、真世も鞄おいて家の手伝いをしな」
「はいなー」
真世はランドセルを置くために、家の中へと入っていった。
しばらくして。真世は店先に戻ってきた。
少しだけ違うのは、魚屋のエプロンを装着し頭には鉢巻をつけているということ。
言ってみれば『副業』の『うまいファイターエビマヨネーズ』と同じ
……というか典型的なお魚屋さんスタイル。
放課後はこうして、家の手伝いをしている真世ちゃんである。
「おお、今日もかわいい魚屋さんのお出まし、ってか!」
ぺしりこ、と額を手でたたき真世父は言う。
「はいほー、そりゃどーも」
言いながら、軽く腕を回す。のち、声を張った。
「よっし!今日も元気にがんばるぞ!」
ただいま、夕食の買い物ラッシュ。まさにねじり鉢巻きの正念場。
真世は気合十分で『今日の仕事』を始めたのである。
「ふんふん、ふぇぇー」
場面転換早々に間抜けな声を上げているのはれたすである。
一体何をしているのかって?自室のパソコンで地引網について調べているのである。
それにしても、昔は図書室なんかで調べていたことが今はパソコンで一発である。
この小説においても、さまざまな情報をインターネットを介して得ている。
たまに情報不足だったり間違っていたりすることもあるがその辺は容赦してほしい。
楽屋話はともかく、れたすは初めて知る地引網のあれこれについてただただ感心するばかりであった。
「れたすー」
妹の珠音が部屋に入ってくる。
「はわっ!」
びっくりした拍子に、れたすはイスから転げ落ちてしまった。
涙目になりながら、立ち上がりれたすは言う。
「もお、ノックぐらいしてよお……」
「まあまあ。それより、もうすぐごはんだからそろそろ降りてきてだってー」
その証拠に、階下からは夕餉のいい香りが漂ってきている。
それに呼応するように、れたすの腹部から間抜けなメロディーが流れた。
「そいで、れたす。何してたの?」
そういいながら、れたすのパソコンに向かって歩み寄ってくる珠音。
ディスプレイを、覗き込んだ。
「ん?地引網??」
「うん、ちょっと調べてて……」
「もしかして、れたす……今まで地引網について知らなかったんじゃ」
グッサー(←上記の珠音のセリフが矢印になって、れたすの胸部に突き刺さった音)
「……もう5年生なのに、地引網も知らないなんて……正直、ダサいよ」
真顔で、冷静に珠音は言う。
ガゴーン(←『ダサい』と書かれた岩が、れたすの頭上に落ちてきた音)
「じゃあ、そろそろ降りてきなね」
珠音は部屋から出ていった。
クラスメイトのみならず、家族である珠音からもバカにされるなんて。
まあ、今の今まで地引網について知らなかったれたすもれたすなのだが
やっぱりなんかこう、ショックというかなんというか。
全力で、とほほのほなれたすであった……。
そんなわけで。まっこといきなりではあるが、当日である。
れたすとりえは遅刻ギリギリで学校に到着した。
「まあ、遅刻しなかっただけましだと思いたいぜ。
まあ、早めに来るべきではあるがな!」
肩で息をする、れたすに太郎は暴言をかました。
「そうですよ、塩原君。蛯原さんは誰よりも早く学校に来ていたんだから」
石政先生は目線を真世に向ける。
「うん!まよってばさ、朝の5時半にはもう学校にいたしね!」
ドゲシャァアアアアアアン!!
ありえなさすぎる展開に真世以外の全員がグラウンドの地面に向かってなだれ落ちた。
この状況に、真世は周りをキョロキョロ。
「筋金入りの魚好きだわね、真世ちゃん……」
「うんうん……」
コケながら言う、りえとれたすであった。
それはさておき。れたす達5年生を乗せたバスは一路、地引網が行われる海岸へと走りだした。
「さっかなーさっかなーじっびきあみー☆」
などと、変わった歌詞の歌を歌う真世。
「そういや、獲れた魚でバーベキューするんだっけ」
そんな真世を見ながら、れたすは言う。
「らしいわね。とれたての魚を使ったバーベキュー。きっとおいしいと思うわ」
「りっえっちゃーん!『きっと』じゃなくて『絶対』だよ!」
真世はぐっと指を立てた。
「バーベキューはやっぱ肉だろー」
「魚のバーベキューなんて聞いたことないよなー」
と、空気を読まない男子生徒の声、再び。
一気に表情が一変する、真世。
「バーベキューはやっぱ肉?魚のバーベキューなんて聞いたことがない
……だって!?もう一遍言ってみなぁ!魚だってなぁ、立派なバーベキューの食材なんでぃ!!それを、あんたらは……!」
またまた江戸っ子モードな真世である。
そんな感じでにぎやかにバスは往路を進んでいった。
××海岸。砂浜に寄せては返す波が陽光を反射しきらめき、
潮の香りが、風に乗り鼻孔をくすぐってくる。
頭上には海猫が舞いその名に違わぬ鳴き声を上げ、飛んでいた。
近隣の駐車場に止めたバスから、子供達がわいわい言いながら下りてくる。
中でも一番うれしそうだったのは……もう説明するまでもない。
「ひゃっふうううううううううう!海だァァァァァァァ!!」
……蛯原真世ちゃん、である。
5時半にはすでに学校にいたというのに、元気ハツラツ。
その顔は、まさに満面の笑み。破顔一笑。
海の力が彼女を突き動かしているのだろう、きっと。
そんなわけで、気が早いことに1人さっさと砂浜へと駈けて行った。
「ま、真世ちゃーん!まずは挨拶があるから、みんなと一緒に行動しない……と!?」
はしゃぎまくる真世を呼びに、走るれたす。
……そして、コケた。
「んもー、わかってるってばよ!」
真世は笑顔とともに、くるりと回転する。
そして、みんながいる場所に向かっていった。
れたすも、それについていく。ちょっと泣きそうになりながら。
「もー、れたすも真世ちゃんも勝手に行動しちゃだめでしょ」
全力の呆れ顔で、りえは言う。
「だってだって、真世ちゃん……はしゃぎすぎで……」
「だってだってー!楽しみなんだもーん!!」
前者は少し不満げに、後者はうれしそうに言った。
誰が前者で誰が後者かは……言うまでもないだろう。
「はぁ……それはいいけど、早くいきましょう。みんなが待ってるわ」
と、りえ。
現に、向こうでは5年生全員がきちんと整列して待機している。
3人の子供達はその場所に向かって歩き出した。
「るんるんっ!」
……えっと。訂正。うち1名はスキップしていた。
地引網は片手廻し方式と両手廻し方式の2つに分けられる。
この海岸で行われるのは、後者の方だ。
沖合船引網漁の発展により衰退した今でも、授業や観光のオプションなどで地引網をやる機会がそこそこあったりする。
とはいえ、ここに集う子供たちほぼ全員がビギナー。最初は解説からだ。
ここは海岸近くの漁協内にある、会議室。
……真世は待ちきれなさそうな顔で聞いている模様。
「と、いうわけで。この海岸は、岩礁等の障害が海底になく御覧のように環境もよろしいです。地引網にぴったりな環境といえましょう……」
なお、この話をかいている作者は地引網の経験はない。
Wikipediaや様々なウェブサイトで情報を収集しているが、やはり知らないことの方が多い。
こうなれば知らないなら知らないで開き直って挑むしかないのだ。
そういうわけだ。予め、ご理解とご協力をいただきたい。
本編に、戻る。
「ほわー、漁船だよ、漁船」
沖合に見える船を見て、思わず声が漏れるれたす。
「れ・た・す・くぅーん?」
人差し指を数度、横に振りながら真世が言う。
「ほへ?」
「漁船であることは確かだけど、正確には『網船』だね。
これで魚をすくって、陸にいる私達が引っ張るんだ。その役割は『引き子』っていうんだよっ☆」
「ひき……」
「へったれたすー、結局理解していないじゃないか」
頭を抱える、れたすの横で太郎が厭味を言う。
「うぅ……前日まで、がんばったけど……っ!」
れたすが泣きそうになると……。
「そこ!解説しているときに雑談をしない!!」
……石政先生の雷が落ちた。
「それに、蛯原さん。いくら詳しいからって、解説する人のセリフを取らない!」
「はーい」
舌を少しだし、笑う真世。皆、笑った。
一方そのころ。上空のあのお城。え?あのお城ってなんなのさって?
説明するまでもなく、高級伯爵の城である。
……その高級伯爵は、キレていた。
「むぎゃああああああああああああ!」
見ると、辺り一面に羽毛が舞っている。それも、おびただしい量の羽毛である。
高級伯爵の手には布が。その布を横に抛った。
その後、何かを手に取る。何やらクッションのようだ。
おもむろに、クッションを殴りつけると、再び羽毛が舞う。
ああ、あまりにもベタなキレ方である。
「まあ、週2ペースでうまいファイターズに勝負吹っかけてるのに
1回も勝てないもんなー。キレるのは仕方ないよ」
「こんなこともあろうかと、ジャパネットたかたで
『ストレス解消!殴りつけ専用クッションお徳用セット』を買っておいて正解だったな」
「……うんうん」
横で部下達がその様を見守っている。
「う、うるさーい!てか、なんで毎回勝てないのだ!
かのタイムボカンシリーズでも悪玉のみなさんが勝つ回があるというのに!」
……どうやら、ジャパニメーションは宇宙のどこかの星でも人気のようだ。
「それに!せっかく自社工場を建てたというのに!何故人が来ない!」
「宣伝が足りないからじゃありません……?」
「ばっかもの!宣伝はしたぞ!……夜中の3時過ぎにな!」
これを聞いた、部下たちは豪快にずっこけた。
「深夜3時って……どこかのブリキなホテルじゃないんですから」
「放送枠が確保できなかったんだい!」
じたばたじたばた。床にひっくりかえり、高級伯爵はわめいた。
自称ヤングの高級伯爵。ヤングを通り越し、最早子供だ。
「うるさいだまれ!」
泣きそうな目でこちらの方を見る、高級伯爵。
……だが私こと作者は謝らない。
「こーなったら、その辺の者達を無理やりにでも呼び出して……それを皮切りに老若男女にきてもらう!
そして!高級菓子を売りつけるのだぁぁァァァァ!」
立ち上がり、高級伯爵は高らかに叫んだ。
「いっやー!海は広いね、大きいね!」
一方その頃、うまいファイターズな子供達は実にのんきだった。
この後、とんでもねぇ騒動に巻き込まれるとも知らずに。
「いよいよ、地引網体験だよ。ついにこの時が来た……て感じだねぇ!」
どんどんテンションが上がっていく、真世。
「う、うまくいくかなぁ……」
不安げなれたすに太郎が言う。
「はっはっは!お前の場合、確実に転んで足手まといになりそうだけどな」
「な、ならないもん!」
れたすはやはり、涙目になった。
「な、なんだって!?」
向こうから声が。漁協の方のようだ。
「沖合に、変な建物が立っている……!?しかも、仕掛けた網の真上!?」
説明的な台詞である。
一斉にざわつく、陀賀第一小5年生の皆さん。
「ね、もしかして……」
遠い沖合を見ながら、れたすは言う。
「まっちがいないわ。確実にそうよ」
りえも続く。
と、そのタイミングで。そりゃもう派手というか悪趣味なクルーズ船に乗って
あのお方が現れた。そう、その名も高き。
「じゃっじゃーん!毎度おなじみGO☆ジャス堂の高級伯爵です!」
じゃっじゃーんって……あなた。
「まーた、あんたね!高級伯爵!」
と、りえ。
「毎回のこととはいえ『あんた』とは失礼な。実は今回、この砂浜にいるよい子の皆さん+αに
素晴らしいお知らせを持ってきたわけですよ。実はこの沖合にこの度自社工場を建設いたしまして……」
「な、な、な、なんだってええええええええ!!」
この場にいた者達全員が、一斉に叫んだ。
「ちょ、勝手に建てたら魚に失礼だよ!」
中でも、真世が一番困惑していた。
「まあまあ。そういわずに。あ、でも漁協の方にご迷惑をおかけしたお詫びに
こちらの詰め合わせギフトを80000円でご提供いたします」
矢張り、全員、コケた。
「あーのーねー!毎回毎回、何なの!この手合いは!」
りえちゃん、正論です。
「まあまあ。自社工場までこのウルトラゴージャスなクルーザーで送迎いたします!
快適な座席に煌びやかなインテリア、移動中にはスペシャルなドリンクとお菓子が!
そんななかなか乗れないクルーザー、今なら片道70000円でお乗りいただけちゃいまーす!」
先程よりも派手に、全員、コケた。
先程のコケから、10行もいっていないのに、コケた。
連続のコケになかなか立ち上がれない、砂浜の皆さん。
「と、いうわけでごあんなーい☆」
と、高級伯爵がウィンクをかますや否や部下達がコケているみなさんをクルーザーへと運んだ。
「え、あ、わーたすけてー!」
あらら、れたす君まで連れてかれちゃった。
そうしているうちに、都合よくれたす以外のうまいファイターズと5年生な矢尾姉妹が残されたわけで。
「生憎だけど、私達は乗らないわよ!高級伯爵!」
りえはすばやくブレスをタップし、変身うまい棒を召喚。
ちなみに他のうまいファイターズな子供達も同様だ。
「海の上に変なものを作ったこと、反省させてやるんだから!」
中でも、真世はめっちゃご立腹であった。
そうして、全員、うまい棒を天に掲げた。
「「「「「「「「「「チェインジ☆うまいパワーボンバー!!!」」」」」」」」」」
変身シークエンス及び前口上省略……。
「「「「「「「「「サクッと参上!うまいファイターズ!!!」」」」」」」」」」
シャキーン☆今回も無事決まったようです。まあ、ひとり欠けてるけど。
「って、あらら……」
思わず、間の抜けた声を漏らす、コンポタ。
何故かって?変身シークエンス及び名乗りの間にクルーザーは去っていってしまったから。
「……むぅ、なぜ待たないかなぁー」
頬を膨らませる、サラミ。
「まあ、本来は待たないんだけどね……」
チキンカレーも思わず汗、である。
「いやいやいやいや!そんなことより、高級伯爵を追わないと!」
そんな空気の中、らっては大慌てで突っ込んだ。
「そうだよ!早くしないと児童のみんなや先生方、漁協の皆さんの危険が危ないし!」
あいもまた同様である。
「それもそうね。早くみんなを助けないと!」
コンポタは何とか持ち直したようです。
「しかしさ、みんなは海の上だっぜ。どうしてそこまで行くのさ」
チーズは疑問符を浮かべた。
「その点なら心配ご無用!チキンカレー、ちょっとブレスを叩いてみて!」
「こ、こう?」
いちごに促されるままブレスを叩く、チキンカレー。
中から出てきたのは、如何にもな感じのカーペット。
「これってもしかして……」
「そう、魔法の絨毯!早くこれに乗って!乗る人数で大きさが変わるから問題はないよ!」
そうして、絨毯に乗り込むうまいファイターズの皆さん。
「みんな、がんばってね!」
「もちろんよ!」
こうして、矢尾家の5年生組に見送られうまいファイターズは海上へと飛び立った。
「……見つけた!」
飛び続けてしばらくして、問題のクルーズ船を発見した一行。
高度をそこまで下ろし、クルーズ船を運転する高級伯爵に向かってコンポタは吠えた。
「コッラー!相手の意見を聞かずに無理やりクルーズ船に乗せるなんて!
なんて非道なの、あんたって人は!!」
「非道じゃないもん!イケメンだもん!」
とわけのわからない返しをする、高級伯爵。
「こっの馬鹿男がっ!その窓開けなさい、いつもの変なの出す前にとっちめちゃうんだから!」
コンポタはガチギレである。
「はいはい」
あ、素直に窓を開けた。そうして、入ろうとした次の瞬間……いつものバラが飛んできた。
「わっ……ちょっと!不意打ちなんて卑怯よ!」
コンポタは慌ててかわす。ちなみに、他のファイターも同様だ。
さてさて、件のバラが今回はどこへ行ったかというと……
海の中にダイブし、そして……
「ギョギョギョー!」
たまたまその辺を泳いでいた魚を「変なの」に変えた。
「ちょっと!何してくれてんのよ!」
コンポタは叫んだ。
「よーし、その間に工場へレッツゴージャス!」
と、高級伯爵がクルーザーを動かそうとしたその時だった。
バラを投げた後閉めるのを忘れていたのか、開いていた窓に素早くエビマヨネーズが飛び込んだ。
「……!エビマヨネーズ!」
当惑する、コンポタ。そんな彼女を尻目にエビマヨネーズは高級伯爵に向かって言った。
「魚達が楽しく暮らす海の上に、何の断わりもなく工場を建てるとはいい度胸じゃねぇかィ……」
あ、これはキレているパターンだ……。
「おまけになんだ?何の罪もない魚を怪物に変えるなんて、お前はそれでも人間か……?」
「あ、いやその……仕方ないじゃん、海の上だし……」
「盗人猛々しいってこういうことを言うのかねィ……。ちょっと頭冷やしてもらいまさァ」
言い終えるなり、エビマヨネーズは素早く高級伯爵に顔面パンチ!
見事に、拳が顔面にめり込んだ。その威力、まさにジャイアンレベル。
「う、うぐっ……しかし、これで1人クルーズ船に乗せることができたぞ……。
その間に逃亡!んじゃ、魚モンスターさん、あとはよろしく!」
と、高級伯爵は船を操舵しようとしたが……
「させませんぜ!」
豪快に、ハイキックを食らわせるエビマヨネーズ。
「はらほろひれはれ……」
高級伯爵は、すっかり、ノビてしまった。
「その間に、児童のみんなや先生達や漁協の方達を助けに行かなきゃ!」
「エビマヨネーズ、あたしも行くよ!」
窓から、サラミが飛び込んできた。
「わたくしも協力いたしますわ」
「オレも行くぜ!」
そして、てりやきバーガーやチーズも。
「魚モンスターを倒すのはワイらに任せとき!」
と、窓の向こうからたこ焼き。
「うん、お願いね!」
かくて、ファイター達は救出班とモンスター討伐班の二手に分かれたわけで。
客室に向かう途中、部下の皆さんが一斉にファイター達に襲い掛かってきた。
「申し訳ありませんが、急ぎの用があるので……」
てりやきバーガーは言いながら、変身前から得意な空手で次々と部下をなぎ倒していった。
「えいえいえーい!」
その横で、サラミが……
「うりゃあああああああ!」
そして、エビマヨネーズが援護する。
「音符爆弾!」
こちらは技をかました、チーズ。どこからともなく音符型の爆弾が現れ
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……
爆発した。エビマヨネーズ、サラミ、てりやきバーガーは豪快に巻き込まれた。
「もお、結果的にたくさん倒したからいいけどさ……場所も考えなね、チーズ」
「はっはっは」
ドリフの爆発オチのような状態で言う、サラミ。チーズは笑ってごまかした模様。
「それはそれとして、早く助けに向かいましょう!」
「それもそーだね、てりやきバーガー!」
ファイター達は気を失っている部下の皆さんを踏みつけながら、先を急いだ。
って、ちょっとひどすぎるぞ!
と、無事客室に到着である。
「皆さん、お怪我はありませんか!?」
てりやきバーガーは乗客達に言った。
「あの変なおじさんと部下の皆さんはコテンパンにのしておきましたので、ご安心を!」
Vサインをかます、エビマヨネーズ。
乗客達は一様に、安堵の笑みを浮かべた。
「あぅぅー。みんなー」
れたすはといえば、安心のあまり涙を流していた。
と、そこへ……
「コッラー!何すんの!暴力反対!」
あ、高級伯爵が客室までやってきたようです。
「何すんの?それはこっちのセリフだよ、高級伯爵!」
高級伯爵にびしっと、指を向けるエビマヨネーズ。
「これ以上言わせないもんね!部下の皆さん、先程のお返しを見舞わせなさい!」
「イー!」
再び一斉に襲い掛かる、部下の皆さん。
「何度だって、いってあげる!海は命の源なんだよ!
そこに勝手に工場を建てるなんて!海に!魚に!謝んな!」
部下達を倒しつつ、エビマヨネーズは訴えた。
「知らないもーん」
口笛をピーピー吹かせつつ、高級伯爵。
ぷっつん(←エビマヨネーズがまたまたまたキレた音)
「知らない……だと?もう一遍言ってみろィ……」
後ろに炎やゴゴゴゴゴゴなオノマトペを浮かばせつつ、エビマヨネーズ。
「あーこっちこそ何度だって言ってやる!知らないもーん!」
口笛をピーピー吹かせつつ、高級伯爵は言った。
どがーん(←エビマヨネーズの怒りが爆発した音)
「てめーっちは!魚の気持ちがわからないのかィ!そんな奴はお仕置きだ!」
指先を高級伯爵及び部下の皆さんに向ける、エビマヨネーズ。
「何をする気だ……」
恐れおののく、高級伯爵。
「魚に……なっとけえええええええええええええ!」
指先からビームが放たれる。それは見事に、高級伯爵たちに直撃。
「あばばばばばばば」
そして都合よくというか、何というか。れたすにも直撃。
かくして、ビームが当たった、面々は……見事に魚に変えられた。
「しばらく魚の身になってみろってこったィ!」
窓を開け、エビマヨネーズは魚と化した高級伯爵と部下、あとれたすを海に放り込んだ。
「おーい!」
どうやら、討伐組も魚モンスターを元の魚に戻し終えたみたい。
「工場の方もなんとかしといたわ」
と、とんかつソース。
「おーさんくす!それじゃ、早く海岸に帰りましょう!」
エビマヨネーズは笑う。
こうして、うまいファイターズと陀賀小5年生、教師、そして漁協の皆さんは
チキンカレーの魔法の絨毯で、一路海岸へと戻っていったわけで……
そんなわけで。地引網の後のバーベキュー。
網の上で焼かれる魚介類の香ばしいにおいが周囲に漂う。
「いやー。やっぱ獲りたての魚はおいしいねー!」
真世は魚をおいしそうに頬張った。
「地引網に獲れたて魚を使ったバーベキュー。海がなかったら、できない経験だよね!」
みくもまた、同様。
「んーでもあれですわね。真世さん、あのビームはどこから……」
頭上に疑問符を浮かべるきらりに、真世は答えた。
「なんかわかんないけど、使えた」
「あーはー」
そうとしか、答えようのないみなさん。
「いやー、魚のバーベキューも悪くないよな!」
「ほんとほんと」
あ、先程の男子達だ。真世はいう。
「おいおいおい、『悪くない』じゃねーだろぃ?『最高』だろ?」
「あ、いやそのそういう意味で言ったのであり……」
わたわたわた。すっかりおびえてます。
「それならよし!」
うんうん、と真世はうなずいた。
「と、それはいいけど……何か忘れているような。まあ、忘れるくらいだし重要じゃないよね!」
真世は笑みを浮かべながら、魚を口に運んだ。
ここは海中。つまり、海の中。
「ふぇぇぇぇえ……なんで僕まで……」
魚(←ちなみにイワシである)なれたすは涙を流していた。
敵に連れ去られ、碌に活躍できなかったばかりか仲間に魚に変えられた哀れな『主人公』。
ここまで主人公が活躍できない小説はないだろう。
「はっはっは。ざまーないな!」
その横で、ウツボに変えられた高級伯爵が笑う。
「その格好で言われても……」
「ぐぅ……」
れたすに痛いところを突かれ、高級伯爵はすっかり縮みこんでしまった。
「……で、僕達いつになったら戻れるんだろうね」
「知らん」
そんな2匹を海の上から差し込む陽の光が照らしていた……。
つづぐ
元ネタ一覧
※1ベタネタ:ギャグアニメではもはやお約束の展開です
※2蛯原家のみなさん:エビチリ、エビカツ、エビマヨ。
ちなみに今回は出ていませんが弟の名前は『翔』。エビフライですね。
※3地引網の経験:本当にゼロです!いつかやってみたいです。日本人として
※4ジャパネットたかた:言わずと知れた通販会社。なお、この『ストレス解消!殴りつけ専用クッションお徳用セット』は
現実世界では無論売られておりません。ご容赦を。
※5悪玉のみなさんが勝つ回:『逆転イッパツマン』の第30話「シリーズ初!悪が勝つ」のこと。
ただし、作者のタイムボカンシリーズの知識はその辺ぐらいしかないという。
※6どこかのブリキなホテル:劇場版ドラえもんのび太とブリキの迷宮で
メインの舞台となる『ブリキンホテル』のCMをど深夜に流したシーンから。
砂嵐の向こうから謎のホテルのCM。いやーわくわくしたシークエンスでした
※7海は広いね大きいね:言わずもがな唱歌「海」から
※8都合よく:……というより無理やりな展開。
※9めり込みパンチ:マンガ『ドラえもん』でのジャイアンの必殺技。
アフリカゾウ二頭分の重さに相当する、約6トンの破壊力があるそうな。
こうしてみると、うまいファイターはどこまでもハンパない
※10ドリフの爆発オチ:すすだらけ、髪の毛ボボボーボ・ボーボボな状態。
※11ゴゴゴゴゴゴなオノマトペ:マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』でおなじみ。