穴だらけ1
性同一性障害同士の男女の恋。
「お前なんて、死んでしまえばいいのに」と彼女は吐き出した。
僕は、いつものちゃらけた様子で、「うん、そのうちね」と返した。
手のひらしか繋げない、軽いようで浅いようで深い、僕らの関係だけれども僕は依存し合っているのだと思っている。
一般的に見たら、僕らは付き合っているのだ。手を繋いで、試しにキスして、毎日途中までの道をなぞる。性行為はしたことがないから、いまどきの高校生からみたら「ウブ」の一言で済まされるのだろう。
そんな一言で表せないような関係であるのは、彼女だって渋々同意してるのであろう。
ぼくらは、性同一性障害だ。
もちろん今の自分の体には不満はある。彼女だってあるのだろう。
でも、この病気のおかげで彼女と会えて、彼女と付き合えている。
「のかも」
「え? 何?」
「なんでもないよ」
僕らはまたいつものように道をなぞって帰る。
あそこの電信柱まで手を繋いで、また離して。次の電信柱がきたら手を繋ぐ。僕のマイルール。
彼女も承知している。ちょっと不満そうな顔をするが、「決めてるから」という僕の一言で事は収まる。
「なぁ、意味あるの? これ」
「え……うーん。君は恥ずかしいときに顔が赤くなるのはなんでだい?」
「……そんなの説明できないよ」
「それと同じ。一緒」
そう言って、僕は電信柱を横目に手を繋いだ。
彼「女」にしては手がごついのが好き。昔から男に混じって野球とか木に登ったりしてたからだろう。
僕は男だ。体は男だ。心は、たぶん。
女の子。
「じゃあね」
「うん、またな」
名残惜しくて手を握る。
「帰れない、離せ」
「……うん」
彼女の辛らつな言葉に涙をコミカルににじませながら僕は手を離した。
今日もいつもと変わらないようなふりをして、夕日が沈んでいった。僕の影はいつものように男の子だった。
変化がない毎日の、ちょっとした心境の変化に、僕はまだ気づけないでいる。
続く
どうも変人です。