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ゆうとと雨

土曜日。外は雨。


ゆうとは外の雨をじっと見つめていた。


幼稚園に通う幼い彼には雨は特別だった。


晴れた土曜日ならたいていどこかに遊びに行ってしまう姉と兄も、雨の日は家にいた。


母親は洗濯物を部屋に干すと、いつもならゆうとを連れて行くはずの買い物には行かずテレビをつけソファーに腰掛けた。


ゆうとは家に皆がいるこの雨の日の土曜がとても好きだった。


とても安心できたからだ。


ゆうとはゲームを持って兄の部屋に入って行った。ベッドで漫画を読んでいた兄はゆうとを見るとさほど気にせずまた漫画を読み始めた。


ゆうとは兄の横で嬉しそうにゲームを始めた。


ゆうとは普段側にいない兄が側にいて、たまらない安心感と嬉しさでいっぱいだった。


すると姉の部屋のドアが空く音がした。


ゆうとはゲームを置き玄関の方へ行くと姉がジャージ姿にサンダルを履き家を出ようとしていた。


ゆうとはすぐに分かった。

コンビニに行くところだ。


ゆうとはお菓子を買ってもらおうと急いで靴を履き、黄色い傘を持って家を出た。


姉はゆうとに気が付くと驚く様子もなくコンビニに向かった。


姉は歩きながらゆうとに何か話かけていた。


ゆうとには姉の言葉がよく分からなかったが、いつもはゆうとの前では笑ってるはずの姉がこのときは笑っていなかったのを見てなんだか言いようのない気持ちを覚えた。


―…来ちゃいけなかったのかな?


すると姉は突然立ち止まり携帯電話を取り出すとストラップを外ししゃがみ、ゆうとに手渡した。


ゆうとがいつも遊びたがって携帯電話を取り出すたびにねだっていたストラップだった。


ゆうとはストラップを渡す姉の笑顔を見て嬉しくなった。




夕方雨は止み、夜になると父親が帰って来た。食事中ずっと姉と父は顔を合わさなかった。


ここ最近父と姉が口を聞かないのにゆうとは気付いていた。


夕食が終わりゆうとは母と二人でリビングでテレビを観ていた。


ゆうとはテレビを見ながらうとうとしていた。


突然、父の怒鳴り声がした。


ゆうとははっとなり目を覚ました。


いつの間にか眠っていたようだ。


見ると母の姿はなかった。

すると父の怒鳴り声に続き今度は姉の声と母の声がした。


ゆうとは不安になり兄の部屋へ行きそのまま兄の部屋で眠った。






―次の日の朝


姉の姿は家になかった。


父と母は夕方まで姉を捜しに行き、ゆうとは兄と留守番をしていた。


次の日もその次の日も姉は帰って来なかった。


ゆうとにはなぜ姉が家に帰って来ないかはわからなかったが、ストラップをくれたときの姉の笑顔を思い出すと、きっとまた自分に会いに来てくれるんじゃないか?というような気がしていた。



何日かして姉は母と一緒に帰ってきた。


ゆうとは姉が自分に会いに戻ってきてくれたような気がしてうれしくなった。


けれど姉は笑わなかった。

それどころかなんだか悲しそうに見えた。


その夜姉は自分の部屋の荷物を片付けていた。


ゆうとは自分が姉に何かいけない事をしたのかなと思い姉のところに行けなかった。


次の朝


ゆうとは目を覚まし部屋を出ると


姉が大きなカバンを持って出て行こうとしていた。


淋しそうに見送る母。


ゆうとには姉がもう戻って来ないというのがなんとなくわかり泣き出した。


姉が慰めようとしたが母が大丈夫というようにそれを止めた。


姉は出ていった。


外はゆうとが大好きな雨だった。

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