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東方~青狼伝~  作者: 白夜
風神録編
99/112

Stage3

 ――神々は幻想郷に住んでいた。


 ――神々は幻想郷を大切に思っていた。


 ――神々は幻想郷に…恋をしていた。



Stage3


「妖怪の山」


BGM「神々が恋した幻想郷」



◇◇◇◇◇◇



 ひらひらと舞い散る葉を横目に、桜花は妖怪の山を登っていた。

 目指すのは山頂よりも少し手前の辺りにある守矢神社である。

 現在の場所は中腹を少し過ぎた辺りだろうか。先程、河童の河城にとりに少し山の現状について教えてもらっていた。

 どうやら守矢神社は霊夢の襲来に備えて、風祝の東風谷早苗が何日も前から何かの祈祷を行っているらしい。

 神社の神である加奈子と諏訪子にはどうやら動きはないとのことだ。

 正確には諏訪子はまだ表立った行動をしていないので、加奈子の様子から桜花がそう結論付けたにすぎないのだが……。


◇◇◇◇◇◇



-桜花side-



 妖怪の山には中腹辺りに滝が存在する。滝の大きさもさることながら、この滝を伝ってくる紅葉した葉がつくる滝の中にできる鮮やかな模様は中々に見応えがある。

 そんな滝を宛ら滝登りをする魚の様に登って行くと、滝の中腹辺りから白い服に赤い袴の少女が現れた。

 白い髪と着物に赤い袴……何より頭にある髪と同じ白い獣耳。

 妖怪の山で社会を構成する天狗達の一員で、主に哨戒や警備を行う白狼天狗だ。

 彼らは山に不法に侵入した者に忠告を行い、それでも帰らない場合は実力行使をおこなってくる。

 戦闘も視野に入れているため、盾と大きめの剣を持っているのが特徴だ。白狼天狗は鼻が良いので余程の準備をしないと山への侵入に気づかれてしまう。

 今回は霊夢が守矢神社に殴りこむと事前に真矢に伝えてあるので、特に問題はないと思っていたのだが……。



「そこの不審者、止まりなさい‼」



 ……あ、あれ?



◇◇◇◇◇◇



-side out-



 その日、犬走椛は張り切っていた。

 というのも、最近になって妖怪の山の哨戒の担当場所が変わったからである。

 今までは山の裏側で、殆ど整備も何もされていない雑木林みたいな場所をただ飛び回るだけであった。

 ところが、つい先日になって哨戒のシフトの変更があり、山の真正面の滝の周辺へと持ち場が変わったことが伝えられた。

 椛にとって、それは飛び上がって喜びたい程の幸運であった。

 なぜなら、その場所はこの山で一番景色が良く、さらには天魔の友人である鈴音桜花が通る場所だからだ。

 桜花自身は知らないが、桜花は狼という似た者の枠でありながら、その強さと良心的な態度から白狼天狗達の憧れの存在であり、その姿を見られたらその日は幸運が訪れる、とまで言われている。


 ここで確認しておきたいが、天狗の社会において規律は厳しく、自らの持ち場を離れてまで有名人を見に行く野次馬はいない。

 つまり、桜花の噂は流れても姿を見た者は僅か数名しかいないのである。


 曰く、その姿は女神である。

 曰く、その神力は大地を震わす。

 曰く、尾の数は十を越える。

 曰く、大岩のように巨大な狼の姿をしている……等。


 このような当たっているようで微妙に違う部分の噂が流れているため、彼女の本当の姿がわからない天狗達はどの様な人物なのかを自らの頭の中で想像するのである。


 さて、その中でも犬走 椛はかなり桜花を美化している一人であった。

 椛にとって桜花は尊敬する天魔の親友。その姿はきっと神々しい狼なのだろうと、頭の中で一枚の絵が浮かび上がる。

 その姿は凛々しい天魔の隣に佇むこれまた神々しい狼の姿。

 そんな様子を想像して惚けていたところを天魔の孫であり、自らの上司である文に注意されたのを覚えている。


 そんなわけで、現在の状況に戻る。桜花は狼の姿だと思っている椛は、本人とも知らずに桜花を侵入者だと勘違いしていた。

 加えて桜花は普段、力を抑えて生活している。その時の彼女の力は中妖怪と大妖怪の間程度。それが椛の勘違いに拍車をかけていた。



◇◇◇◇◇◇◇



 椛は注意深く侵入者を観察する。その挙動一つ一つに注目し、何かあればすぐに動けるように剣を持つ腕に力を込めた。

 桜花は特に構えもしないで椛を見上げる。顔はいつも通り微笑みを浮かべているが、内心は少しばかり困っていた。

 桜花が何も言わないからか、椛は鋭い視線を更に鋭くして桜花を睨みつける。



「……お前は何者だ。何をしに此処を訪れた?」


「別に、大したことじゃないわ。山の上にある神社に用があるの」



 椛の射抜くような眼光を向けられた桜花はやれやれと肩を竦めた。

 真面目な真矢に限って情報の伝達を忘れたという事は考えにくい。だとすれば、この椛が何か勘違いをしている可能性がある。

 桜花は敵意が無い事を伝える為に笑顔を浮かべながら椛に返事をかえす。



「ふん、侵入者に変わりはない。これ以上進むのであれば排除する‼」



 しかし、桜花の言葉を全く聞く耳持たない姿勢を見る限り説得は難しそうだと、桜花は苦笑いを浮かべた。



「一応、真矢に私が来る事は伝えてるんだけど、確認を……」


「き、貴様ぁ‼ 天魔様を呼び捨てるなど不敬にも程がある‼」



 しまった、と思う間もなく激昂した椛が剣を振りかぶりながら突撃してきた。




◇◇◇◇◇◇



 椛の太刀筋は真っ直ぐだった。


 歪みのない、愚直で真っ直ぐな太刀筋はそれ故に鋭かった。

 それを避けながら桜花は椛を冷静に分析する。


 力量的に椛では桜花には敵わない。それは間違いないだろう。

 だが、桜花の顔には冷や汗が滲んでいた。


 というのも、桜花はどう対処すべきか迷っているのである。

 今回の戦いは弾幕ごっこではない。命をかけた戦いだ。

 本来ならお互いに何枚のスペルカードを使用するかの宣言を行うのが一般的なのだが、椛は宣言もなく、そして弾幕ではなく物理的な刃物による接近戦を挑んできた。

 こうなるとスペルカードルールではない正真正銘の“殺し合い”になってしまう。


 故に、桜花はどう戦うのかを決めあぐねている。

 弾幕ごっこではない以上、彼女の力は椛を必要以上に傷つける可能性があったのだ。


 振り下ろされる太刀を半身で回避し、そのまま椛の腹へと拳を振り抜く。

 しかし、椛は盾を拳と体の間に滑り込ませ、更に後ろに跳ぶことで衝撃を軽減した。



「いきなりは酷いじゃない」



 そう言うと、桜花は指を三本立てて椛に見せる。

 スペルカードの枚数だ。霊夢の我慢もそろそろ限界だろうし、勝負するには妥当な数だと考えたのだ。

 しかし、椛はその意味を理解した瞬間、ビクッと肩を震わせて顔を俯かせた。

 首を傾げた桜花に、椛は勢いよく顔をあげた。



「……き、貴様ぁ‼ 私がスペルカードを持っていない事を馬鹿にしているのかぁ⁉」


「……へ?」



 顔を真っ赤にした椛は再び桜花へと切りかかって来た。

 椛のような哨戒警備をする者は大抵が侵入者への警告や迎撃を目的としている。つまり、負けない事を前提としているのでスペルカードを持たない者も多い。

 そもそも、天狗社会においてスペルカードは必要な者にしか支給されない。

 椛もあと一日経てば支給されていた筈なのである。

 ただタイミングが悪かっただけ。スペルカードルールで行われる美しい弾幕の様子は持たない者からすれば憧れの対象となっていた。椛もそんな者の一人だったのである。


 桜花は痛くなってきたこめかみを押さえながら溜息をついた。

 スペルカードがない以上、椛は命をかけた戦いを天魔の友人に仕掛けたとしてクビ。最悪何か処罰をされる可能性がある。

 真矢がそんな事をしない事はわかっていても、周りの者はそうは思わないだろう。言い方は悪いが、真矢や文以外の天狗は融通がきかない……石頭なのである。

 先程から別の哨戒天狗が様子を見に来る気配がするし、急いでどうにかしなければ椛の方が社会的に危ない。


 仕方が無い……と、目を細めた桜花は妖力と神力を解放する。

 広がる十尾が風もないのにゆらゆらと揺れる。

 椛は剣を構えたまま固まった。突然目の前にいた侵入者が膨大な力を二つも纏ったら驚くのは当然だろう。

 その隙を桜花が逃す筈もなく、椛が瞬きする間に彼女の懐に入り込んでいた。



「……くっ⁉」



 咄嗟に盾で殴ろうとした椛の左腕を掴むと、申し訳なさそうな顔で呟いた。



「……ごめんね」


「……え…がっ⁉」



 ゴキッ、という嫌な音と共に椛の左腕の関節を外した。


 関節が外れる嫌な感触と音、そして痛みに椛は背中を冷たい感覚が通る様に感じた。

 あ、ヤバい……と、彼女は感じた。目の前の蒼い少女は自分では敵わない存在だと悟ったのである。

 桜花が椛を気絶させようと手刀の形にした手からトドメを刺されると勘違いした椛は、それが振り下ろされるのをぼんやりと眺めるしかなかった。

 桜花の手は吸い込まれる様に椛の首筋に向って振り下ろされーーー



「そこまでです」



 ―――鋭い風によって弾かれていた。



「……え?」



 椛が顔を上げた時、桜花は既に彼女から距離を離しており、少し驚いた顔をしていた。

 同時に背後に感じる二つの気配。ゆっくりと、首を回して振り返ると……。



「騒がしいと思えば……私の部下が迷惑をかけました」


「あややや……私からも謝罪します。直属の上司ですから」


「て、天魔様……文様⁉」



 天狗社会のリーダーである真矢と、自分の上司にあたる文が立っていた。



「よかった、妖力と神力を出せばすぐに来てくれると思ってたよ。真矢まで来るとは思わなかったけどね」


「まったく……何事かと思いましたよ。貴女がこんなに力を解放するなんて滅多にありませんから」


「お祖母様の言うとおりです。山の裏側まで届いてましたよ?」



 文はやれやれ、と肩を竦めた後、椛の頭に手を乗せた。

 状況が呑み込めずに固まっていた椛は、文を見上げながらハッとして剣を取る。



「も、申し訳ありません‼今すぐに侵入者を……」


「落ち着きなさい、椛。彼女は私の友人です」


「……え?」



 真矢の言葉を理解した瞬間、椛の顔が真っ青になった。

 勘違いとはいえ自分の主の友人に手をあげたのだ。どうなるかくらいわかっている。

 機械の様にゆっくりと固まった首を回して桜花を視界に入れると、物凄い勢いで土下座をした。目に涙も溜まっている。



「も、ももも申し訳ありません‼わ、私としたことが……かくなる上は私自身でお詫びを……」



 そう言って剣を自分の首筋に当てようとする椛の頭に桜花はそっと手を乗せた。

 涙目で見上げる椛へとそっと笑いかける。



「中々良い腕をしているわ。今回の模擬戦は合格ね」


「……へ?」



 桜花の言った事が理解できないのか、椛は呆然としている。真矢と文は意図が理解できた様で仕方ないとばかりに苦笑いした。



「あやや、椛。桜花さんと模擬戦をしていたのね」


「そうなの? それは途中で邪魔してしまって悪かったですね」


「……え? い、いや、私は」


「そうなのよ、彼女がどうしてもと言うから少しだけね。筋がよかったからついつい力み過ぎちゃってね。ごめんね真矢……」



 混乱する自分をを置いて真矢と移動し始めた桜花に訳がわからずにいた椛の隣にそっと文が並ぶと、耳元で小さく呟いた。



「椛を助けたのよ。貴女が処罰されない様にね」


「……っ」



 そこで椛は自分が庇われた事を知った。知らなかったとはいえ、突然切りかかった自分を彼女は助けてくれたのだ。

 桜花の後ろ姿は想像と違っていたが、その在り方は椛の考えていたものだった。



「桜花様……ありがとうございます」



 そう呟いた椛はこちらを振り向きながらこちらに微笑みかける桜花を確かに見た。




◇◇◇◇◇◇



 Stage clear!!


 少女祈祷中……




はい、とうわけで白夜でございます。


先ずはお詫びを。長い間、お待たせしてすいませんでした。


どうもスランプ気味で、なかなか意欲がわかなかったもので…。


リアルが忙しいのです_(:3」∠)_


なるべく次は早めに執筆できる様に頑張ります‼



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