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東方~青狼伝~  作者: 白夜
風神録編
96/112

Stage1


 八百万の神々と呼ばれる存在がある。


 物、季節、食物……


 いたる所に神は存在するのだ。


 あなたの近くにだって……きっと。



 


Stage1


『八百神の秋の神』


~妖怪の山の麓~


BGM「人恋し神様~Romantic Fall」



◇◇◇◇◇◇




 ──季節は秋。


 夏の暑さも収まり、次第に涼しい季節となってきた。

 山の木々も綺麗な朱に染まり、見事な紅葉を見せている。


 そんな山の麓を一人の巫女と、一柱の神が訪れていた。


 博麗の巫女である博麗霊夢と、博麗神社の神である鈴音桜花である。


 早苗が博麗神社にやって来てから数日が過ぎているが、今だに霊夢の機嫌は悪いままである。

 そんな霊夢を見て桜花は小さく溜め息をついた。


◇◇◇◇◇◇


‐桜花Side‐




 実は、霊夢が怒っている原因は早苗の件だけではない。

 追い撃ちをかける様に紫が霊夢に稽古をつけると言い出したのである。


 稽古の内容は『神降ろし』


 つまり神霊を自らに降ろして力を貸してもらう方法である。


 まだまだ未熟だがそれなりに修行を続けているので、そのうちしっかりと身につけるだろう。

 霊夢の才能ならば長くは掛からないなと、私は予想している。


 ただ、問題はその霊夢がただでさえ悪い機嫌を更に悪くしてしまった事だろう。

 彼女曰く、早苗が来た次の日には守矢神社に乗り込むつもりでいたようだ。

 それができなくなった事に加え、紫が満足する結果が出るまで修行をやらされたのである。

 紫の事を信頼している霊夢は文句こそ言わずに修行に取り組んでいたが、いざ修行が一段落ついて守矢神社に向かう事になった瞬間、今まで我慢してきたモノを吐き出すかの様に暴れ始めた。

 それはもう酷い暴れっぷりである。


 想像していただきたい。

 完全に光を失った瞳で霊力を全開まで解放し、ニタリと顔を歪ませた巫女が黒いオーラを纏って向かってくるのである。

 もう、相手をした道中の妖精達が哀れでしかない。

 札や霊力弾に撃ち落とされる度に手を合わせて合掌……である。


 そして、肝心の霊夢はというと──



「ふ、ふふふ……待ってなさいよ早苗。今日があんたの命日となるわ。桜花を馬鹿にした罪は重いわよ!!

 そうだわ。ついでに早苗の神社の神様にも少しばかりお灸をすえてあげなきゃね……。他人の神社を乗っ取る様な神様ですもの……きっと邪神に違いないわ……ふふふふふふ」



 ……駄目だこの巫女、早く何とかしないと!!




 私は心の中でこっそりと、これから酷い目にあわされる早苗に対して涙するのであった。



◇◇◇◇◇◇



 そんな事があった数分後……それは唐突に私達の嗅覚を刺激した。


 美味しそうな焼き芋の香り。

 それが辺り一面に漂い始めたのである。


「───これは」



 嗅いだことのある匂いに思わず苦笑いした。


 隣にいる霊夢はきょろきょろと辺りを見回しては小声で「焼き芋、焼き芋……」と連呼している。


 そして、一瞬だけ視界を奪う様に朱色に染まった大量の紅葉が巻き上がり、それが晴れた時には目の前に二人組の少女がいた。


 肩に掛かるくらいの金髪に紅葉の髪飾りをつけた朱色の服の少女と、同じ金髪に果物が装飾品の様につけられた帽子を被ったエプロンドレスを着た少女。


 秋を司る神様である『秋 静葉』と『秋 穣子』の秋姉妹である。 静葉が紅葉を司り、穣子が豊作を司っており、どちらもお互いにいいところを見せ合って切磋琢磨している実に見ていて可愛い姉妹である。

 冬がくると途端に暗くなって無口になってしまうが、頑張りやの二人には好感が持てる。


 ちなみに、この焼き芋の香りは穣子のつけている香水の香りである。



「お、桜花さんじゃないですか!! 今日はどういった御用件でこの山に!?」


「お姉ちゃん、落ち着いて。桜花さんが来てくれて嬉しいのは判るけどね……」



 瞳を輝かせながら私の目の前に迫る静葉と、それを止めながらも顔が若干にやけている穣子。


 この二柱、幻想郷の見回りをしている途中に何度か会ったことがあるのだが、どうやら懐かれてしまったらしく、私と出会う度にこの様子である。



「こんにちは。静葉ちゃん、穣子ちゃん」



 とりあえず挨拶をと思い、にっこりと微笑んでおいた。



「……はぅ」


「……おぉ」



 ところがこの二人、私が微笑んだ瞬間に顔を真っ赤にして恍惚した表情を浮かべている。

 私に懐いているのは嬉しいが、これはちょっと危ない気がする。そのうち襲われるんじゃないか、私……。


 と、表情には出さずに心の中で苦笑いしていると、右腕がくいくいと引かれた。

 何かと思って振り返ると、霊夢が右腕にがっしりとしがみついていた。

 顔は不機嫌そうで、秋姉妹を視線だけで殺せるのではないかと思うくらいに睨んでいる。


 ……嫉妬?


 とりあえず頭を撫でて落ち着く様に笑いかけると、にへら、と表情を緩ませた。


 すると、今度は左腕が引かれて、見れば秋姉妹が二人して私の左腕にしがみついている。


 ……どういう状態よ、これ……。



「ちょっと、そこの二人。桜花は私と先を急いでるの。手を離しなさい」


「あなたこそ、急いでるなら先に行けばいいじゃないの。私達は桜花さんとお話するんだから」



 私がどうしようか考えているうちに、霊夢と静葉が喧嘩を始めた様だ。

 二人とも上空に舞い上がり、向かい合ってスペルカードを取り出している。



「神様に手を出すなんて罰当たりな巫女ね!!」


「ふん、何とでも言えばいいわ!!」



 二人同時に弾幕を展開して攻撃に移る。

 それを下から眺めながら、私は今だに左腕にしがみついたままの穣子に視線を向けた。



「穣子ちゃん、助けに入らないの?」


「いいんですよ。お姉ちゃんと私が一緒に戦っても、きっとあの巫女には勝てないでしょうから。

 ……それならできるだけ長く桜花さんと一緒にいた方がいいじゃないですか」


「……穣子ちゃんって、意外と黒いね」


「ふふふ、計算高いと言ってくださいな。一応、お姉ちゃんには感謝してるんですよ?

 お姉ちゃんがあの巫女の相手をしてくれるおかげで、こうして幸せな時間が過ごせるんですから……うふふふ」



 黒い!! 穣子ちゃん黒いよ!!


 上空からの壮大な弾幕の破裂音やお互いを罵倒し合う姿を見上げながら、「秋に花火も綺麗なものですね」なんて呟いている穣子ちゃんに私は最早言葉をかけられない。

 初めて出会った時にはもっと大人しい性格であったと記憶しているが、時間は人どころか神さえ変えるらしい。

 そして、私が原因でないと祈りたい。でないと妹がこんな事になってしまった静葉ちゃんがあまりにも可哀相すぎる。



「きゃぁぁぁ!?」



 穣子ちゃんのことで頭を抱えていると、頭上から再び轟音が響き、ボロボロの静葉ちゃんが落下してきたので受け止めた。

 所謂、お姫様抱っこである。


 目を回して気絶しているだけのようで、穣子ちゃんも姉の無事を確認して安堵の表情を浮かべた。

 ──が、次の瞬間には不機嫌そうな表情に変わる。



「……桜花さんにお姫様抱っこされるなんて……なんて羨ましい……」



 穣子ちゃんの呟きを聞かなかった事にして、私は静葉ちゃんを近くの岩場の上に降ろそうとして……



「……えっと?」



 静葉ちゃんが私の服を掴んで離さないのである。

 引き離そうとすると逆にしがみついてくるので、どうしたものかと思わず苦笑いが出てしまった。



「お姉ちゃん……」


「あ、あいつ……まだ桜花を離さないなんて……か、完全に滅っしてやろうかしら」



 穣子ちゃんと上空から降りてきた霊夢が何やらぶつぶつと呟いているが、聞こえない。……うん、聞こえない。


 しかし、霊夢の我慢が限界を迎える前に先に進まないといけないので、本気でどうしようか不安になってきた。



「……ぅん、桜花さん」


「あ、静葉ちゃん、目が覚め──っ!?」



 身じろぎした静葉ちゃんに視線を下ろすと、胸元に顔を埋めて幸せそうな顔をしていた。

 どうやら寝ぼけているだけの様だが、正直危なかった。

 と、言うのも、ぐりぐりと顔を押し付けてくるものだから……その……胸を揉まれているみたいで……こ、声が……!!



「……ん…ぅ……ぁぅ……ひっ!?」



 わざとではないから突き放すわけにもいかないし、かといってこのままでも……。



「……ふぁ? あれ、私……どうなって……ん? なに、この柔らかいの」



 すると、静葉ちゃんが目を覚ましたらしい。

 よかった、助かったと、私が油断した途端……。



 ──むにゅ



「ひゃぁあ!?」


「──へ?」



 突然の刺激に、私は盛大に声を出してしまった。

 視線を下に向ければ私の胸をわしづかみして呆然とこちらを見上げる静葉ちゃんの姿があった。

 きっと彼女も起きたばかりで何が起きたのか判らないのだろう。何度も私の顔とわしづかみにしている胸を交互に見て……


 ──もみもみ



「…ひゃあ!? ちょっ……ゃ……ぁん……あっ!?」


「お、桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの桜花さんの………」



 血走った目で私の胸を揉みしだく静葉ちゃん。

 腕が彼女を支える為に塞がっている私はなす術もなくその場にへたりこんだ。

 勿論、静葉ちゃんを落とさない様に気をつけて。


 ただ、その久しぶりの感覚に私の思考はほぼ真っ白になり、口から漏れる吐息には熱が篭り始めた。

 ……って、ヤバイヤバイヤバイ!!


 ダメよ、流されたら。私にはチルノが……って、ちょっ!? 何で静葉ちゃんこんなテクニックを!?



「桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん桜花さん……はぁはぁ」


「──何してるのよ!?」



 もう少しで危ない一線を越えてしまいそうだった私を救ったのは霊夢だった。


 私の異変に気がついたのか、一瞬で私の目の前に現れると静葉ちゃんを引きはがした。

 そのまま、完全に腰が抜けてしまった私の背中を支えてくれる。



「ちょと桜花、大丈夫!?」


「はぁ、だ、大丈夫……あり、がとう……霊夢」


「あぅ、その……と、当然じゃない!! 私はあんたの神社の巫女なんだから!!」



 赤くなった頬を隠す様にそっぽを向いた霊夢にお礼を言ったところで、先程霊夢が引きはがした静葉ちゃんの事を思い出した。



「ぁ、霊夢……静葉ちゃんは…?」


「あぁ、あの駄神なら……ほら」



 霊夢が指差した先には正座している静葉ちゃんと、笑顔でそれを見下ろす穣子ちゃんの姿があった。

 青ざめて震える静葉ちゃんに対して穣子ちゃんはずっと笑顔だ。ただし、目が全く笑っていないけど。



「あ、あの……穣子ちゃん? その……」


「お姉ちゃん、どうだった?」


「……え?」



 涙目の姉を見下ろしながら、静かに微笑む穣子ちゃんの姿に私は戦慄した。



「だから、桜花さんの………どうだった?」


「え、えっと……」



 思わず自分の胸に視線を落とし、再び二人に目線を戻した時、静葉ちゃんは先程の事を思い出したのだろう。顔をにへら、と緩ませている。

 それと同時に穣子ちゃんの殺気がどんどん大きくなっている。


 いけない、静葉ちゃんは気づいていない!!

 早く目の前の妹の様子に気づいて!!


 だが、そんな私の心の叫びも虚しく、彼女の声は響いた。



「えっと……凄く……柔らかかった……です……えへへ」



 ──あ、終わった。


 そう思った瞬間、穣子ちゃんは「……そう」と呟くと、何処からか取り出した植物の蔦を目にも留まらぬ速さで静葉ちゃんに巻き付けた。



「な……うぇ!?」


「ねぇ、お姉ちゃん。確かお姉ちゃんって紅葉の季節が終わったら、木を一本一本蹴って葉を散らせてたよね?」



 引き攣った笑顔を浮かべる妹の様子に流石の静葉ちゃんもヤバイと感じたのか、先程までと違って冷汗がだらだらと流れている。



「えっと……そうだけど……」


「じゃあ、今年は私が代わりにしてあげる………お姉ちゃんを使って」


「──っ!?」



 ──何この娘、恐い。


 聞いているこっちまで戦慄するような話をサラリと口にした穣子ちゃんは、手にもった蔦を引っ張りながら森の方へと歩き出す。

 静葉ちゃんに巻かれている蔦に繋がっているらしいそれを引く度にずるずると引っ張られる静葉ちゃんの姿は、正にこれから処刑台へと連れていかれる罪人の様だ。



「ぁ、いや……た、助けて……お、桜花さ───」



 静葉ちゃんが助けを求める視線をこちらに向けていたが、彼女が私の名を呼び終える前に、初めと同じく朱く紅葉した葉が再び大量に舞ったかと思うと、二人の姿は消えていた。


 二人がいた場所を呆然と眺めていた私は、霊夢へと視線を向ける。

 霊夢は黙って首を振ると、立ち上がって「さぁ、行きましょ」と何でもない様に微笑んだ。


 穣子ちゃんがどうやって落葉を行うかは判らない。

 ただ、静葉ちゃんにも悪気があったわけではないのだから、お手柔らかにしてあげてね。と、心の中で呟きつつ、私は霊夢の背中を追いかけ始めた。


 視界に映る紅葉した木々の朱の色が、何故か涙を誘い、今の私には直視できなかった。




◇◇◇◇◇◇



Stage Clear!!



 少女祈祷中……





 梅雨の時期って辛いです。

 偏頭痛持ちの私は雨が降ると頭痛がして一気にテンションが下がります。

 あぁ、早く九州も梅雨明けしてくれないでしょうか……。



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