Prologue
──その日、諏訪の地を突然突風が吹き抜けた。
人々はなぜか突然に喪失感を感じ、寂しさを覚えた。
だが、すぐにその事は忘れてしまった。
夏も終わりに近づき、肌寒さが目立つ様になってきた頃。
長野県、諏訪の地にある諏訪大社の上空で一人の女性が町並みを眺めていた。
もう日は落ちて、街は色とりどりの人工の光に溢れている。
そんな光景を彼女は静かに、無表情で眺めていた。
瞳に少しばかりの寂しさと、哀れみの色を浮かべて。
緑が多かった大昔とは違い、金属とコンクリートによって建ち並ぶ町並み。
人間達が火ではなく電気を使い始めたのはいつからだったか……。
彼女は右手を顔の前に持ってくる。その手は若干、輪郭がぼやけて向こう側が透けて見えている。
──神々が信仰されなくなったのは何時からだろう。
──神の存在が迷信と言われ始めたのは何時からだろう。
翳した右手を強く握りしめ、彼女は眼下にある境内を見下ろす。
そこにいるのは、かつて敵として争い、今は掛け替えのない親友となった少女の姿。
彼女達の姿は以前から変わらない。
背中の巨大な注連縄も、目玉の着いた不思議な帽子も、何一つ変わらない。
ただ、時代が彼女達から離れていったに過ぎない。
「──時代……か……」
神である彼女ですら敵わない時の流れ。
時代に取り残された存在は幻想に成り果てる。
妖怪も、神も、違いなど存在しない。
「幻想になったモノは……幻想の中で生きればいい……」
そう呟いて、彼女は大きく息を吸い込み、吐き出す。
そして、覚悟を決めたのか、その瞳にはもう愁いの色はない。
「──諏訪子」
「あぁ、わかってるよ……神奈子」
お互いに頷くと、次の瞬間には彼女達の姿は消えていた。
──そして、その翌日。守矢神社は幻想入りを果たした。
◇◇◇◇◇◇
‐幻想郷・博麗神社‐
「──今、何て言った?」
「はい、ですから──この博麗神社を私達、守矢神社の一部……つまり分社として組み込もうと思うのですが、どうでしょう?」
気持ちのいい昼下がり、博麗の巫女──博麗霊夢は困惑していた。
突然やって来た自らと同じく巫女の格好をした少女に博麗神社を明け渡せと言われたのである。
「……何でそんなことしなくちゃいけないのよ」
「だって、この神社──信仰が少ないじゃないですか。神様が可哀相だと思いませんか?」
「………」
ギリッ、と霊夢は奥歯を噛み締める。
この少女は気づいていない。
この博麗神社がどれだけ重要な要であるかを。
信仰の大半がリンが住む四季の花畑に流れる様にしてある事も。
妖怪の山に引っ越して来て、天狗や河童等、山の妖怪から順調に信仰を集め、浮かれているからなのか……
霊夢が桜花を敬う心がどれだけ強いかを、目の前の少女は気づけなかった。
「……あんた、名前は?」
「あ、そうでした。すいません、名前も名乗らずに……私、守矢神社の巫女を勤める『東風谷 早苗』といいます!!」
「……そう、早苗ね」
霊夢はゆっくりと早苗の名前を確認する様に呟くと、霊力を解放する。
突然の出来事に早苗は唖然とした顔で霊夢を見ていた。
「……十数える前に私の前から消えなさい。それで今の話は無かった事にしてあげる」
「──なっ!?」
「……十、九」
「ちょ、ちょっと──」
「うるさいわね。人の神社乗っとるなんていい度胸してるじゃないの。幻想郷の厳しさを知らないみたいだから教えてあげるわ。さっさと帰ってあんたの神様に報告しなさいよ。せっかくだから私が直々にそちらに伺うとするわ」
早苗は絶句した。一筋縄ではいかないと思っていたが、まさかここまで機嫌を損ねるなんて思わなかったのだ。
冷や汗をかきつつ、とにかく神奈子に知らせなければと、早苗は慌てて空へと飛び立った。
振り返らず、一目散に妖怪の山にある神社を目指す。
──神奈子様、すいません。私、やっちゃったかもしれません。
心の中でそう呟いた早苗は、先程の霊夢の顔を思い出し、再び体を震わせるのだった。
◇◇◇◇◇◇
夕方、昼間にあった早苗との会話を聴いた桜花は思わず頭を抱えてしまった。
まさか霊夢がそこまで怒るなんて思っていなかった。
自分の為に怒っている霊夢を叱るわけにもいかず、霊夢が守矢神社を破壊しない様に、彼女と共に守矢神社へと向かう事を決めたのであった。
懐かしい友達にも会えるだろうと、不気味な笑みを浮かべる霊夢を視界から外しながら、桜花はそう思った。
◇◇◇◇◇◇
東方風神録~Mount of Faith~
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『鈴音桜花』
~神様装備~
・カウンターアミュレット
相手の攻撃に反応して攻撃する特殊なアミュレット。あくまで霊夢の見張り役なので、そこまで強力な装備ではない。
『特殊能力』
~夢想天生~
・一切行動しないでいると当たり判定が極端に小さくなる。直撃じゃないと当たった事にならない程。
少女祈祷中……