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東方~青狼伝~  作者: 白夜
外の世界編
93/112

彼女の名前は……


 彼女は学校の帰り道を足早に歩いていた。


 また、あの楽しい夢を見たいが為に。


 ふと、視界の端に黒い霧の様なものでできた人影が映った。

 どこまでも黒い悪意の塊だ。


 彼女は少しだけ目を細めると、黒い霧が逃げ込んだ路地裏へと足を向けた。


 “──黒なら……消してもいいよね?”


 そう呟いて、彼女は笑った。




‐美琴Side‐



 商店街を歩きながら気になる小物屋を覗いたり、本屋で立ち読みをしてみたり。

 修行が中止となった私は仕方なく夕方の商店街を歩き回っていた。

 単に時間を潰すなら家に帰ってもよかった。

 でも、最近は修行ばかりであまり商店街に顔を出していなかった。

 季節の変わり目でそろそろ衣更えの時期でもあるし、新しい服を探したいという気持ちもあった。


 修行ばかりで買い物もしなかったから小遣いもかなり貯まっているし、丁度よかったのかもしれない。



 自然と足は軽くなり、少しばかりステップを踏みながら道を歩く。



「~~♪───っ!?」



 そんな時、チリチリとした感覚を私は感じた。


 まるで黒板を引っかく様な、全身の毛が逆立つ様な、そんな不快感。

 すぐさま辺りを見回して原因を探る。


 ……見つけた。


 建物の隙間に入って行く黒い人型の影。

 遠目から見ても判る。あれは───悪霊だ。





 悪霊は地縛霊が現世に留まり過ぎて、負の念を過剰に取り込む事で生まれる。

 彼らは負の念を取り込む性質があるので、怨みや嫉妬に染まった人間が引き寄せられ、そのまま魂を喰われてしまうのである。


 つまり、生きている人間には害しかないので、私は見つけた瞬間、即・排除。所謂サーチ&デストロイである。


 ポケットに入れていた札を数枚取り出して、私は路地裏へと続く道に向かう。

 しかし、その時思いもよらない事態が起きた。


 私よりも先に一人の少女が路地裏に入って行ったのである。


 これはまずい。もし悪霊に引き寄せられたのならば魂を喰われる可能性がある!!



 私は急いで路地裏へと走り込む。

 奥にある曲がり角を曲がった私の視界に映ったのは───



 ───悪霊の首部分を右手で握り潰す少女の姿だった。




◇◇◇◇◇◇




 長い黒髪の少女は興味を無くした様に悪霊の残骸を投げ捨てた。

 その後、服に着いた埃を払う様にパンパンと二、三度スカートを叩くと、こちらに視線を向けてきた。


 身長は私よりも少し低く、着ている服は私が通っていた中学校の制服なので中学生なのだろう。

 腰上辺りまで伸ばした黒髪と、前髪から覗く真っ黒な瞳がまるで底のない闇を見ている様な気持ちにさせる。

 ……一瞬、誰かに似ている気がしたけど、今は頭の隅に追いやる事にした。


 胸元についている名札には『永月(ながつき)』という苗字だけだが名前が書いてある。



「………」



 少女は私と暫く無言で向き合って、踵を返して歩き出した。



「───貴女は……とても透明なのね」


「……え?」


「さよなら……また会えるかは………わからないけれど……」



 去り際にそう言った彼女を、私は呆然と見送ることしかできなかった。





◇◇◇◇◇◇




 その後、我に返った私はその少女を探し回ったのだが、結局見つからずにその日は自宅に帰る事にした。


 自分の部屋であの光景を思い出す。

 悪霊を素手で掴んでみせた不思議な少女。

 彼女からは邪悪な気配は一切なく、また霊力や妖力といった力も感じなかった。

 いや、どちらかと言えば気配を一切感じないといった感じだ。

 確かに目の前にいるのに、まるでそこに存在していないと思える程、あの少女からは気配を感じなかったのである。


 それに、彼女が言った言葉も気になる。



「透明……か」



 私達博麗の巫女は基本的に霊力を使って術を行使するが、それには色が無いのだと霊夢に教わった事があった。

 どんな妖怪も退治できる様に、どんな色にも形にも当て嵌まらないのだと。


 あの少女は私の本質を見抜いていた?


 どちらにせよ、あの少女とはもう一度接触しなくてはならないだろう。

 明日は土曜日で学校も休みだ。何処で調べるかも検討がついている。

 明日の事を思いながら、私は静かに睡魔に身を任せた。




◇◇◇◇◇◇



‐翌日‐


 半分だけ開いている門をくぐり、私は敷地内に足を踏み入れる。


 私が卒業した時と変わらず、グランドには部活をしている生徒の姿が見える。

 あの少女がこの学校の制服を着ていたので、ここで彼女の事を調べる事ができるだろうと思ったのである。


 来客用の玄関をくぐり、三年ぶりに会う先生達に挨拶をした私は、早速全校生徒の名簿を見せてもらった。


 一年、二年と名前を見ていくが彼女の名前は見つからない。

 プリントをめくり、三年生の名簿へと目を通した私の視界に、あの名前が飛び込んできた。


 あった、とそのページを抜き取り、詳細に目を通す。



 この時、私はまだ彼女の正体なんて知らなくて、彼女があんな馬鹿げた存在であるなんて考えもしなかった。



「えっと……名前は───」








「永月……那由他?」





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