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東方~青狼伝~  作者: 白夜
幕間
91/112

桜花と彩花と……

 遅くなりまして、すいません(T_T)



 



‐永遠亭‐







「──彩花の様子は?」


「大丈夫、少し取り乱していたけれど、落ち着いた途端に眠ったわ」


「そう……よかった」



 迷いの竹林の奥にひっそりと建つ屋敷「永遠亭」は春になっても大部分が竹林で日陰になっているため、夜はまだ寒い。

 ひんやりとする廊下の一角で、桜花と永琳は壁に寄り掛かりながら話をしていた。


 桜花が気絶した彩花を連れて永遠亭を訪れたのが丑三つ時。

 しかし、現在の空はうっすらと明るくなりはじめていた。


 診察室から出てきた永琳から彩花の無事を聴くと、桜花は漸く一息ついたとばかりに肩の力を抜いた。



「桜花、何があったの?」


「わからないわ。突然飛び起きたと思ったら取り乱して……」


「………」



 永琳は少し考える様な仕種をした後、桜花に一歩近づいて小声で桜花に問う。



「桜花……“那由他(なゆた)”という名前に心当たりは?」


「……那由他?」



 そんな名前は知らないと、桜花は首を横に振る。



「彩花が言っていたのよ。“那由他じゃない、違う”ってね」


「……判らないわね」



 言葉が途切れ、静かになった廊下に小さな足音が響いた。


 視線を動かした先にいたのは、てゐであった。



「師匠、水を汲んできたよ」


「ありがとう、てゐ」



 てゐから桶を受けとった永琳は再び診察室の中へと入って行った。


 桜花は診察室の扉を見据えたまま動かず、てゐはそんな桜花を見て溜め息をついた。



「桜花、あんたも少し休んだらどうだい?」


「妖怪の私が一日徹夜したくらいでどうにかなるとでも思うの?」


「そりゃ体は大丈夫だろうさ。でも、精神的には結構きてるだろう?」


「……………」



 バツが悪そうに視線を逸らす桜花の隣にてゐは腰を下ろすと、診察室へと視線を向ける。



「……桜花、何をそんなに怯えてるのさ」


「……何の事かしら?」


「強がらなくてもいいよ。さっきから手が震えてるしね」


「………」



 てゐがちらりと桜花を見上げると、観念したかの様な桜花がこちらを見下ろしていた。


 桜花もてゐに対して心配をかけない様にあえて隠していたのだが、そこは流石に桜花と同じくらいの年月を生きている妖怪兎と言うべきか。てゐの隣に座り込むと、大きく息を吐き出した。



「……私と彩花の関係は知ってるわね?」


「同一人物なんでしょ?」


「まぁ、簡単に言えばそうね。彩花は私であり、私は彩花でもある……」



 相槌をうつてゐを見据えながら、桜花は震える右手を左手で握りしめる。



「私と彩花の記憶は同じものである筈なのに。……私には那由他という人物の記憶は無いわ」


「……記憶が違っているのかい?」


「……判らない。私と彩花は融合すれば記憶も共有する筈なのに」


「……ふむ」



 てゐは隣に座る桜花を横目で見ながら思った。

 彼女は本当に自分よりも長生きした妖怪なのだろうか、と。

 たまに、妙に人間くさいというか、妖怪らしくない一面を覗かせる桜花に、てゐは大きく溜め息をついた。


 そして、徐に立ち上がったかと思うと桜花の真正面に移動し、座り込む彼女の頭を何処からか取り出したハリセンで強かに叩いた。

 スパーン、と気持ちのいい音が響く。



「ひゃん!?」



 可愛らしい悲鳴と共に、叩かれた部分を押さえながら桜花顔を上げる。

 そこまで痛くは無いものの、精神的に落ち込んでいた桜花は涙目になりながらてゐを涙目の上目遣いで睨みつける。



「……何するのよ」


「桜花、あんたって………バカ?」


「──へ?」



 呆れた様子のてゐにバカと言われ、桜花はポカンとした顔になった。

 すぐにバカと言われた原因を考えるが、どうも納得できる答えが浮かばない。



「……ちょっと、てゐ。バカってどういう───」


「だいたいさぁ、彩花と桜花が同一人物じゃないかもしれないっていう事のどこに桜花が落ち込む理由があるのさ?」


「────」



 言葉を遮られ、桜花の耳がピクリと反応する。



「彩花と別人だということで何か困る事があるのかい?」


「……ない、けど」


「なら、今後は本当に姉妹ということで仲良くすればいいじゃないか」


「……でも、彩花は私の人間性が具現化した存在で──」


「……は、何言ってるのさ。あんたみたいな人間らしい妖怪は他にいないよ?」


「───っ!?」



 その言葉にビクリと桜花の肩が跳ねる。

 てゐは思った。何故、彼女の人間性を司る彩花が彼女から離れても人間らしさを失わないのか。

 今回の事ではっきりしたと、てゐは頷きながらも彼女の青い瞳を見る。



「桜花、あんたももう気づいてる筈だよ」


「……そう、やっぱり」


「あぁ、あんたと彩花は限りなく近いけど───別人だね」



 覚悟はしていた。けれど、桜花は自分の周りの空気が重くなったかの様に感じた。





◇◇◇◇◇◇



‐彩花Side‐



「……ぅ、ん」



 まどろむ意識がゆっくりと浮上する感覚に小さく息を吐いた。

 体の感覚が伝わり、どうやらベッドに寝かせられている事に気がついた。

 目を開ければ見たことのない天井。



「──知らない天井だ……」



 なんて、ぽつりと呟きながら首を動かして部屋の中を見回した。

 目についたのはこちらに背を向けて戸棚の中から何かの瓶を取り出している鈴仙の姿だった。



「……ここは、永遠亭?」



 よく部屋を見渡せば薬らしき物がいくつか置いてある医務室の様な部屋である事が判った。

 鈴仙がいるのならば永遠亭で間違いないだろう。



「……鈴仙」


「あ、彩花さん、気がついたんですね」



 先程よりも大きめに出した声で鈴仙は漸く私に気がついたようだ。



 鈴仙は薬の瓶を棚に戻すと、近くにあった椅子を引いてベッドのすぐ傍に移動すると、私の額に手を当てる。ひんやりとしていて気持ちがいい。



「……うん、熱は無いみたい。どこか痛んだり気分が悪いとかはないですか?」


「少し気分が悪いけど……大丈夫」



 鈴仙は近くにあったカルテらしい紙にさらさらと何かを書くと、近くにあった桶の水にタオルを浸し、私の額に乗せた。



「熱はないですけど、少し汗をかいているみたいだから、よかったら使ってください。私は師匠を呼んできますから」


「……ありがとう」



 鈴仙は小さく微笑んで部屋から出て行った。


 額の濡れたタオルを使って顔を拭う。

 鈴仙の言う通り、どうやら寝汗をかいていたらしく、冷たいタオルの感覚が気持ちよかった。


 ふぅ、と息を吐きつつぼんやりと天井を見上げる。

 明かりは無く、窓から入る月明かりだけがやたらと明るく感じた。


 ……嫌な夢を見た。


 自分が顔のそっくりな白い少女に襲われる夢。

 そして、世界を壊す夢。


 一瞬、あれは自分の事かと思ったけれど、私にあんな記憶はない。

 でも、あの夢に出てきた私は紛れも無く自分自身だった。

 世界を壊すなんて私か桜花にしかできない事だからだ。


 でも、私が世界を破壊しようとしたのは前世の外の世界と幻想郷で目覚めた時の二回だけのはず。

 それに、夢の中の私は那由他と呼ばれていた。

 そんな名前で呼ばれた覚えはない。


 正直、気分がいいものではない。他人の日記を無理矢理見せられている様な……そんな感じだ。



 しばらく天井を見上げながらそんな事を考えていた私は、扉が開く音で我に返った。

 扉の向こうに立っていたのは永琳だった。



「鈴仙から目が覚めたと聞いたから様子を見に来たの。どう? どこかおかしいところはない?」


「ありがとう、永琳。……得に悪いところは無いわ」



 永琳は鈴仙が座っていた椅子に座ると、安心した様に小さく息を吐いた。



「まったく……貴女が桜花に担がれてここに運ばれてきた時は焦ったわよ」


「……それは、ごめんなさい」


「いいわよ。確かに驚いたけど、桜花と違って大きな力を持っていても貴女は人間だもの。体調が悪くなることがあってもおかしくないのだから」



 そう言って苦笑いすると、机の上にあった水差しからコップ一杯の水を注ぐと、私に差し出してきた。



「飲む? 少しはスッキリするわよ?」


「……もらうわ」



 丁度喉が渇いていたので遠慮なく受けとって一気に飲み干した。

 もう、先程までの気分の悪さも無くなって、だいぶ楽になってきた。



「ありがとう……永琳」


「まぁ、これが私の仕事だもの。気にしないで」



 そう言って笑う永琳に、私も小さく笑みを浮かべた。



 その後、永琳から大体の話を聞いた私は再び夢の事を考えていた。


 私の記憶にない光景。

 でも、私の記憶であるかの様な光景。

 全くわからない事ばかりだ。



「そうだ……桜花は?」



 ふと、私は桜花に相談しようと永琳にに視線を向けるが、彼女は何やら難しい顔をしながら私を見ていた。



「彩花、実は──」



 その後、永琳から聴いた話の内容は、私の不安を更に大きくするものだった。




◇◇◇◇◇◇



「私と……桜花が……別人?」


「………えぇ」



 頭を殴られる様な衝撃というのはこういう事を言うのだろうと思った。


 だが、同時に納得している自分もいた。

 私にあって桜花にない記憶。

 そして、それを共有できないという事実。



「───じゃあ、桜花はどうやって生まれたの?」



 彼女は私が想像した私の理想の私自身の筈。

 つまり、別人である以上、彼女は私が生み出した存在ではないことになる。



 桜花、貴女は……




 私と永琳しかいない室内に、外から聞こえる風の音だけがやけに響いた。




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