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東方~青狼伝~  作者: 白夜
幕間
90/112

夢現3


 ──それは、忘れ去られた物語。



 


 ───夢。


 ───私は夢を見る。


 ───遠い昔の夢。


 ───■■■から幻想郷を奪うという夢。


 ───でも、それは夢ではなくて……。


 ───現実にあったのに、幻にされてしまったもの。


 ───私は追いかけ続ける。


 ───待ってて、■■■。


 ───もうすぐ、追いつくから、ね?






◇◇◇夢現3◇◇◇





 振り下ろされた白い鎌。

 それは黒い少女を斬る事はなかった。

 間に割り込んだ青い妖精の少女のおかげで。



「──チル、ノ?」


「────よ、かっ……た……無事…で………」



 倒れる少女の体を支える。

 いつも冷たい彼女の体が、もっと冷たくなっていく感覚がした。



「──だめ、ダメよチルノ!! 死んじゃ駄目!!」


「……………」



 何度揺すっても、少女は動かない。

 死ぬという概念がない妖精の少女があっさりと殺された。



「あ~あ、出てこなきゃ死ななくてすんだのに……」



 白い少女は溜め息をつきながら再び鎌を振り上げた。

 今度こそ外さない様にしっかり構える。



「じゃ、改めて……何か言いたい事はある?」


「………て」


「うん?」



 小さく、黒い少女の口が動いた。



「皆を……返して……」


「───は、何を言い出すかと思えば……」



 白い少女は見下した様に黒い少女を見据えて顔をしかめる。



「皆ちゃんと生き返るわよ。ただ……そこに、貴女がいないだけの話」


「………嫌」



 白い少女の鎌に力が集まり、白く輝き始める。

 それを黒い少女は呆然と見つめるだけ。



「───嫌、イヤ、イヤだイヤだイヤだイヤだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……いやだ!!」



 バキン、と空間に皹が入った。



「──なっ!?」



 白い少女が焦った様に後退する。

 妖精の少女を抱きしめたまま、黒い少女は光のない黒い瞳で虚空を見つめる。



『そう……これは夢だわ……きっと、これは夢………』


「これは……!?」



 黒い少女の声が響く。

 微かに動く唇とは違い、声はどこまでも響く。



『夢なら……起きなきゃ………こんな悪夢は……見たく……な…い……』


「まさか……現実を拒絶するつもりなの!? そんな事をしたら世界が歪んでしまうわよ!?」



 空間に走る皹が大きくなり、ついに穴が空き始める。



『私は守る。……皆を……まもるの。…そう……まるで………大地を見守る空の様に……皆を……守る……』


「そう……それが貴女の決断なのね■■■!!」



 とうとう白い少女の足元が崩れ落ち、彼女の体が宙に投げ出される。



「……チッ!? 今回は油断したけど、次はないと思いなさい!!

 私は貴女の対になる者。貴女が存在する限り、私は消えない。

 貴女が逃げても、私はいつか必ず追いつく。

 私は抑止力。貴女が現実を乱せば乱すほど、私も強くなる事を忘れるな!!」


『………………』


「忘れても、いつか思い出す時がくる。その時は、私がすぐ近くにいると思いなよ!!」


『………………』


「忘れるな。それは究極の“逃げ”だ。

 貴女が作った夢幻(ゆめまぼろし)を現実に組み込むに過ぎない事を忘れるな」



 白い少女の姿が遠ざかる。

 彼女の体から巨大な龍が抜け出し、天を翔ける。

 その巨大な躯はひび割れた空を瞬く間に覆い隠す。



『お願い……私を……起こして(助けて)』



 幻想郷の最高神である龍が吠える。



 世界が壊れ、新しく再生される。


 今までの世界と同じ様に。


 ただ一つ、小さな夢を現実にして。




「クソッ……龍神まで逃がすなんて……でも、結局は時間稼ぎにしかならないよ。

 待ってなさい。必ず追いつくからね。

 そして、貴女を殺して世界を浄化し、私も───」



 少女が最後の言葉を紡ぐ前に、砕けた空間が再生する。

 徐々に無くなっていく空間の穴の向こうから、少女は最後まで狂気を孕んだ瞳を向けてきた。




「必ず……迎えに行く…から……ね」








 ねぇ……“那由他”






◇◇◇◇◇◇





 巨大な爆発音で霊夢は目が覚めた。

 慌てて布団から飛び出すと、音がした隣の部屋───桜花と彩花が寝ている部屋に向かう。



「ちょ、ちょっと、何よ今の音!?」



 部屋に入った霊夢が見たものは……。



「彩花!? しっかりして、彩花!?」



 冷や汗をかきながら結界を張る桜花と……



「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……」



 涙を流し、焦点の合っていない目でひたすら周りに弾幕をばらまく彩花の姿だった。



「ちょっと、どういう事よこれ!?」



 霊夢は自分に向かってきた弾幕を慌てて避けると、扉の陰に隠れる。

 この部屋には桜花の結界が張ってあるので簡単には壊れない。

 扉を盾にしながら、霊夢は桜花に問い掛けた。



「私にも判らないわ!! 突然飛び起きたかと思ったらコレだもの!!」



 桜花が答えを返した瞬間、突然、彩花の弾幕が止まり、そのまま彼女は床に倒れ込んだ。



「彩花!?」



 慌てて抱き起こした桜花は、彩花が気絶している事を確認すると、小さく息を吐いた。



「何なのよ……一体……」



 彩花があれほど取り乱した姿は初めてだった。

 飛び起きたというくらいだから悪い夢でもみたのではないか、と思っていた霊夢だったが、桜花は一抹の不安を感じていた。


 何かが起きようとしている様な、そんな胸騒ぎが一瞬だけ胸の内を過ぎるが、とにかくこのままではまずいだろうと気持ちを切り替え、桜花は彩花を担ぎ永遠亭へと向かう事にしたのだった。






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