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東方~青狼伝~  作者: 白夜
原作前編
9/112

◆文明の崩壊とたんぽぽの花

 今回の話で一旦区切りをつけたいと思います。



 私が街の上空に到着した時、街のいたる所から煙が上がり、時々火の手も上がっていた。街の入口は破壊され、門番らしき人間は体中を切り裂かれており、かろうじて人間だったのがわかるくらいの変わり果てた姿になっていた。


 私は急いで門をくぐると街の奥を目指して走りだした。


 遠くに見えるシャトルが無事であるところをみるとまだ奥までは妖怪達は侵入していないようだ。



――宴会だからって気を緩めたらだめよ?



 永琳の言葉が頭をよぎり、私は自分の不甲斐なさに歯を食いしばる。私がもっと注意していればこんなことにはならなかったのに…!


 大通りの曲がり角を曲がり、前方で交戦中の複数の人間と一匹の妖怪の姿を見つけた。


 私は速度を落とさずに妖怪の懐に走り込むと腹を殴って気絶させる。


「皆さん、今のうちに逃げてください!」


 私が振り向くと人間達は怯えるように後ずさる。


「あ、あんた…妖怪だったのか!?」


「…え?」


 私を見た人間の一人がそう言って私に武器を向ける。私は今、耳と尻尾を隠していなかった。


「落ち着いてください!私は…」


「うるさい!妖怪なんか信用できるか!」


「…っ!」


 彼等の言葉を聞いて私は思わず言葉が出なくなった。一緒に暮らしていた街の住人からそう言われ、私は悲しくなりながらも何とか口を開く。


「…急いで避難してください」


「………」


 そう言って私は先を急いだ。背を向けても攻撃してこないのは混乱しているのか…それとも同じ街で暮らしていたよしみなのか…私にはわからなかった。



 街の奥に向かうにつれて人間と妖怪の死体が増えてきた。きっと数分前にはこの場所で激戦が繰り広げられていたのだろう。


 死体を避けながら走り続けていると街の中にある公園に出た。よく子供達が遊んでいたこの場所も今は無数の死体が転がっている。


 地面は流れる血によって真っ赤に染まっており、戦いの跡が生々しく残っていた。


 ふと、真っ赤な地面の中に黄色い色が見えて私は思わず立ち止まった。


 黄色い色の正体はたんぽぽの花だった。この街は冬でも温かくなるように街全体が熱を逃がさない構造になっている。そのため冬であるにも関わらず色んな花が咲くのだ。


 たんぽぽの花は公園の隅にある茂みから花の部分だけを覗かせていた。


 急がなければならない状況で私はそのたんぽぽの花が何故か妙に気になって近くまで歩いていった。


 そこで気がついた。茂みの中で誰かが俯せで倒れていた。片手にたんぽぽの花を握りしめて…しかも人間の少女らしい。


――まさか



 私は恐る恐る倒れている少女の体を起こす。



「ぁ……」



 そこにいたのは知っている顔で――


「あ…ああ…」


 傷は脇腹にある切り傷だけ。ただ、その傷は深くて…既に出血もない。


「…う…ぁ…あ…」


 生気のない顔から少女が既に死んでいるのがわかった。



――約束だよ!



 少女と数時間前にした約束が頭をよぎる。


「うあぁ…あああぁぁぁ…!」


 片手にたんぽぽの花を握りしめて、まるで眠るように、リンという名の少女がそこにいた――



「あぁあぁああぁぁぁぁああ!!」



 私は冷たくなったリンの体を抱きしめてこの世界に来てから初めて大声で泣いた。










―永琳Side―


 一体何時間経ったのだろう…


 突然妖怪達が街に攻め込んできて…街の人々は逃げ惑い、殺され、生き残った者達も怪我人ばかりだった。


 私がいるのはシャトルの発射台のある施設で、ここはいざという時のためにシェルターの役割も果している。


 壁はミサイルの攻撃にも耐えられるほど頑丈で、妖怪だろうとこの壁を壊すには時間がかかるだろう。


「八意さん、準備が整いました」


 シャトルのメンテナンスをしていた作業員からの報告を受けて私は頷く。


「怪我人を優先させてシャトルに乗り込みなさい!できるだけ早く!」


 施設内に私の声が響き、私も怪我人に手を貸しながらシャトルへと避難を開始した。


 戦況が不利であることが判明した今、私達は予定を変更して月に向かうことになった。できればこんなことになる前に出発すればよかったと心の中で悔やんだがもう遅い。今はどれだけの人間を救えるかが問題だ。


「正面入口、突破されました!!」


 妖怪達と戦闘をしている部隊の一人が走り込んで来た。どうやら正面入口が突破されたらしい。このままではこの場所も数分後には戦場になる可能性がある。


「避難を急いで!」


 私はシャトルの入口の扉にたどり着くと他の皆を誘導する。


「(よし、このままいけばなんとか…)」


「グオオオォォォ!!」


「…っ!?」


 そう考えた瞬間、壁を突き破って熊のような姿をした妖怪が現れた。それに続いて様々な妖怪達も流れこんでくる。


「くっ…皆急いで!」


 シャトルの入口にはまだ大勢の人間が取り残されている。勿論、私もその一人だ。


 妖怪達は私達の方へと近づいてくる。


「(だめ…このままでは…!)」


 私が自分の死を確信した瞬間――


ドゴォォォン!!


 突然の轟音と同時に妖怪達と私達のちょうど間の壁が吹き飛び――


「…桜花!」


 少女の死体を抱き抱えた友人がそこに立っていた。










―桜花Side―


 私が施設にたどり着いた時、既に妖怪達は建物の中へと侵入していた。私は回り道をしている時間はないと判断して、壁にあった案内の地図を参考にシャトルの入口までの最短距離を導き出すとすぐに移動を開始した。


 最短距離でたどり着く方法…そう、壁を壊して進めばいいのだ。


「ちょっと衝撃がくるかもしれないけど…我慢してね?」


 そう、抱き抱える少女に呟く。既に死んでいる彼女から返事がないのはわかっている…けれど話し掛けずにはいられなかった。


「じゃあ、いくよ!」


 私は全力で壁を蹴った。分厚い壁は私の蹴りを受けて粉々に砕ける。そのまま私は次々と壁を壊しながら目的地まで急いだ。


 そして最後の壁を破壊する。そこは今までの廊下よりかなり広い場所だった。私の記憶が正しければここが丁度シャトルの入口の目の前であるはずだ。


「…桜花!」


 左側から聞き覚えがある声がして振り向くと複数の人間に混じって驚いた顔をした永琳がいた。


「永琳…よかった、無事だったのね」


 安心して私が微笑むと永琳は私が抱き抱えているリンに視線を向ける。


「その子…リン、なの?」


「ええ…」


 永琳は悲しそうな顔をすると私に視線を戻す。


「…っ!?……桜花、泣いてるの?」


 いつの間にか私の頬を再び涙が伝っていた。それを拭ってから彼女に背を向ける。


「永琳、ここは私が食い止める。今のうちに逃げて」


「…大丈夫なの?」


 彼女の心配そうな声が背後から聞こえてくる。それに振り返らずに頷くだけで返事をする。


「そうだ、シャトルに爆弾とか積んでない?広範囲を吹き飛ばすくらいのでかいやつ」


「一応防衛用に積んであるけど…それがどうしたの?」


「安全な高さまで飛んだらこの街を――破壊して」


「なっ!?あなたはどうするの!?」


「私は大丈夫。ただ、この文明をそのまま残すのは…ちょっとね。よそから来た人達がまた同じように文明を発展させたらまずいでしょ?」


「それはわかるけど…」


「自分達の街でしょ?自分達で何とかしなさいよ。私が一軒ずつ壊して回るはめになるなんて嫌よ?」


「わかったわ…」


 そう言うと永琳はシャトルの中に入りドアのパネルを操作する。ゆっくりと静かにドアが閉まっていく。あと少しというところで永琳の声が聞こえた。


「さようなら…桜花」


 私は顔だけ振り返ると、笑顔でこう言った。


「違うでしょ?…また会いましょう、永琳」


 永琳は少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔で頷いた。


「そうね…また会いましょう。あなたのことは忘れない。人間の為に戦って、人間の為に涙を流してくれたあなたを…私のことも…覚えていてちょうだいね?」


「永琳みたいな人間は忘れたくても忘れられないわよ」


 ゆっくりとドアが閉まり、永琳の姿はもう見えなくなった。


 同時に何かが飛び立つ轟音が響く。シャトルは無事に出発したみたいだ。


 私は一度深呼吸すると妖怪達へと向き直る。妖怪達は私達の会話の間はずっと呆然としていた。


 それもそうか、突然やって来たのが宴会で眠らせたはずの最強の妖怪で、しかも人間と普通に会話して涙まで流してるんだから。


「さて、あなた達には言いたいことがたくさんあるけど…まぁ、いいわ。もうすぐここは爆破されるから急いで避難しなさい」


 私はリンを抱き抱えたまま彼等の脇を通りすぎて外へと向かう。


「…待て」


 ふと、熊の姿をした大妖怪に呼び止められる。


「…何?私は行きたい場所があるの、用があるなら早くして」


 大妖怪は私を見ながら問い掛けるように話してきた。


「我等を咎めないのか?」


「なぜそんなことする必要があるの?」


「我等はお前を眠らせて勝手なことをしたのだぞ?お前はどうも思わなかったのか?」


「別に…私を眠らせようが、人間を襲おうが構わないわよ。ただ…」


 私は妖力を全開にして妖怪達を睨んだ。ざわり、と私の髪や尻尾が風もないのに逆立つ。それだけで大妖怪以外の妖怪達は怯えはじめた。


「私をどうしようが構わない。けどね…真矢を傷つけたのはどういうこと?同じ妖怪のくせに簡単に傷つけて…この子だって…」


 私のリンを抱き抱えている腕に力がこもる。


「いくら人間が反撃してこようとも、子供まで殺すことはなかったはずじゃないの?」


「お前は人間に味方するのか?」


「私は人間が嫌いじゃないだけよ」


 それだけ言うと私はすぐに外へと歩いて行った。爆破までもう時間がない。




 時間は丁度夜が明ける直前だった。私は街を見下ろせる丘の上から朝日が昇るのを眺めていた。


 空から一つの黒い球体が街へと落下してきて…次の瞬間には凄まじい閃光と轟音が響き渡る。ほんの一瞬…それだけの時間で人間の街は消え去り、何も残らなかった。





 その後、私は霧の湖の近くにある花畑に来ていた。理由は約束を守るため。


「ほら…花畑にきたよ、リンちゃん」


 私は抱き抱えている少女に向かって呟く。


「約束…だったからね」


 私は花畑の中心に彼女を寝かせると、頭に付けていた桜の花びらの形をした髪飾りを外すと鈴を取り外して花びらの部分だけを彼女の頭に付けた。


「私の友達でいてくれたお礼だよ」


 鈴の部分には新しく紐を通して再び自分の髪に結ぶ。


 その後、土を掘り起こし、彼女を埋めてお墓を作った。近くにあった大きめの岩を削って墓石にする。



――花を愛した少女、ここに眠る



 そう墓石に刻むと私は両手を合わせる。


 守ってあげられなくてごめんなさい…ゆっくり休んでね…



「桜花…」


 突然名前を呼ばれて振り返るとチルノとルーミア、大ちゃん、真矢が立っていた。私が驚いているとチルノがお墓に目を向ける。


「これ…誰のお墓?」


 チルノが私の隣にしゃがみ込みながら聞いてきた。


「私の…友達だよ。…人間の女の子」


 チルノは何も言わずに手を合わせる。他の皆も同じように手を合わせてくれた。


「皆…ありがとう」





 それからしばらくして、あの花畑の中でそのお墓の周りだけ、たんぽぽの花が咲くようになったのだった――





 次回は時間が一気に進みます。

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