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東方~青狼伝~  作者: 白夜
花映塚編
88/112

Final Stage


 死者を裁くことはとても大変な事である。


 閻魔である彼女もまた、そんな日々に身を置いていた。


 ある時、彼女は自らの浄玻璃の鏡でかつて知り合った知人の過去を見ようとして……。


 彼女は驚愕して席を立ち、急いで飛び出した。


 目指すは幻想郷。


 それは、あの雪の日に出会った彼女に会う為に。




 


Final Stage



『困惑する神狼』



現在地‐無縁塚‐




◇◇◇◇◇◇




 魔法の森の更に奥へと進むと、再思の道という小さな道に辿り着く。

 秋になるとこの道は彼岸花で埋め尽くされ、真っ赤に染まる。

 この道は幻想郷の端の端であり、いつの間にか外の世界と繋がりやすくなってしまった場所である。結果、外の世界からよく人が迷い込む。

 ここに迷い込む人間の大半は生きる気力を失ってしまった者が多いのだが、彼岸花の毒が体に回ると、不思議な事に不快さと同時に生きる気力が湧いてくりのである。

 そして、もう一度頑張る為に今来た道を引き返す。

 だからここは『再思の道』と呼ばれる様になった。


 その再思の道を更に進むと、何もない行き止まりへと辿り着く。



 ───無縁塚。



 この場所はそう呼ばれている。

 一見、何もないただの行き止まりだと思うかもしれないが、そんな事はない。

 この場所は幻想郷で一番美しく、そして───儚い場所なのだから。




◇◇◇◇◇◇




 ふわり、と地面に降り立てば、目の前にはいくつもの桜の木が並んでいる。

 怪しげに薄く光っているその花びらは紫色で、その全てが満開である。


 桜花は一時、そうして桜を眺めていたが、徐に視線を外すと近い位置にあった桜に寄り掛かる。

 瞳を閉じてゆっくりと深呼吸すれば周りから感じる無数の気配。


 無縁塚は縁者の居ない者たちの墓場である。

 そして、その大半が外の世界から迷い込んだ人間であり、次第にこの場所の結界が外の世界に偏り始め、緩み始めた。

 墓地であることもあり、冥界とも繋がりやすく、何が起きるか判らない場所でもある。

 周りから感じるのはこの場所に留まる死者の気配。

 この紫の桜が散る時、彼等は迷いから解き放たれ、中有の道へと進むのだ。



「──この場所は外の世界に傾いているのに、こんなにも幻想的な美しさを見せる。不思議よね」



 桜を見上げながら呟く独り言。本来なら返事などない筈の言葉なのに、答えはとても近くからやってきた。



「それはあくまでも此処が幻想郷の一部だからです。いくら外の世界に傾いても、幻想は結界を越えられない」



 いつからそこにいたのか、桜花の隣に一人の少女が立っていた。


 身長は少し低めだが、彼女から感じられる力は大妖怪にも匹敵する程であり、見た目と違ってとても大人びた風格を感じさせる。

 きっちり着込まれた紺色の上着と同色のスカート。装飾の着いた帽子。

 それらに付いている赤と白のリボンが彼女の性格を表しているかの様に感じられる。

 肩より少し上辺りで整えられた緑色の髪と、全てを見通す様な真っすぐな瞳。



「久しぶりね、映姫ちゃん。……いや、もう閻魔様だもの、映姫様……の方がいいかしら?」


「やめてください。貴女に“様”を付けて呼ばれるとむず痒いですよ」



 そう言って彼女───四季映姫・ヤマザナドゥは優しく微笑んだ。





◇◇◇◇◇◇




「──それにしても、本当に閻魔様になっているなんてね」


「そうですね。私も初めは驚いたものです」



 懐かしい顔との再開を果たした二人は、桜を見上げながら言葉を交わしていた。



「それにしても……映姫ちゃんがどうして“こちら”に来ているのかしら? 死者を裁く仕事は大変だと聞いているけれど……?」


「その死者が殆どやって来ないからこうして様子を見に来たのですよ。今年は博麗大結界が緩む年ですから、死者が少ない筈がないですしね」



 映姫は溜め息をつくと、手に持つ悔悟の棒を握り直す。

 きっとサボり癖のある部下の死神の事を考えているのだろう。

 その様子を見ていた桜花は思わずクスリと笑う。



「………? 桜花さん、私を見て何を笑っているのです?」


「いえ、貴女は昔から変わっていないのだなと思っただけよ」


「そうでしょうか?」


「ええ、あの時みたいに雪に埋まる様な事はないけれどね」


「……なっ、あの時の事は忘れてください!! 私の唯一の失態と言っても過言ではないのですから」


「大丈夫よ、広めたりしないから」


「……そうですね。貴女は優しいですから」



 そのまま二人ともしばらく無言のまま桜を眺め続ける。

 たった数分……しかし、まるで音が死んだかの様に静かな時間だった。



「さて……映姫ちゃんは今から部下の子を探しにいくんでしょ? 私はそろそろ帰ろうかと思うけど……」


「いえ、待ってください」



 振り返った桜花を映姫は引き止める。

 再び向き合った桜花は首を傾げた。



「どうかしたの?」



 桜花の疑問に、映姫はしばらく戸惑う様な仕種を見せ、ゆっくりと口を開いた。



「その……酷く尋ねずらいのですが……」


「………?」



 覚悟を決めた様に映姫は桜花を鋭い目で見据える。





「桜花さん、貴女は────何者ですか?」





「───え?」



 桜花は映姫の言った言葉の意味が理解できなかった。

 困惑する桜花に、映姫は懐から出した物を見せる。

 それは少し小さめの手鏡だった。



「これが何か判りますか?」


「……閻魔様が持つ鏡なら“浄玻璃の鏡”しか思い浮かばないけど」


「その通りです」



 浄玻璃の鏡───閻魔様が持つ鏡で、この鏡に照らされると、過去の行いが全て判ってしまうのだ。

 死者を裁く時に公平な審判ができるかわりに個人のプライバシーも関係無し、という恐ろしい道具である。






「桜花さん、貴女は───」









「───この鏡に映らないんですよ」








「────」



 桜花は息を呑んだ。

 浄玻璃の鏡に映らないということは、過去が無いということであり、生きている限り有り得ない事なのである。


 呆然とする桜花に映姫は真剣な顔のまま更に口を開く。



「それだけではありません。貴女は他の皆の過去にも映っていません」


「なん……ですって……?」



 映姫は浄玻璃の鏡を懐に仕舞うと、悔悟の棒をしっかりと握りしめる。



「桜花さん。貴女の能力は“あらゆるものを拒絶する程度の能力”でしたよね?」


「……えぇ、そうよ」


「その能力を使っているわけではないのですね?」


「ええ、使ってないわ」


「そう……ですか」



 次の瞬間、映姫の周りに大量の弾幕が展開される。



「改めて聞きます。桜花さん───貴女は何者なんですか?」



 桜花は瞬時に同じ様に弾幕を展開する。

 撃ち出されたお互いの弾幕が互いに相殺し合い、衝撃音が響く。



「これから、貴女を見極める為に少しばかり戦闘を行います。普通ならば必要無いのですが、貴女はあまりにも………謎が多過ぎる」



 地獄の裁判官、閻魔による法廷の幕があがった。




◇◇◇◇◇◇





 素早く身を翻し、弾幕の隙間を通り抜ける。

 普段ならば簡単にできる事であり、桜花にとって注意するべき事はないはずであった。



「──っ!?」



 彼女の頬を弾幕が掠め、うっすらと血が流れる。


 桜花の動きは普段と比べて明かに鈍くなっていた。



「(私が浄玻璃の鏡に映らない……どうして?)」



 桜花の頭に映姫の言葉が何度も繰り返される。

 浄玻璃の鏡に映らない存在など有り得ない。あるとすれば、それは“存在しない者”であり、桜花自身の存在を否定する事になってしまう。



「(私は……私は……一体…………っ!?)」



 一瞬、桜花の集中が途切れた瞬間、彼女の左腕に弾幕が直撃した。


 痛みで我に返った桜花は舌打ちしつつ、封魔陣で周りの弾幕を掻き消した。



「……あんな話をした後ですから動揺するのもわかります。しかし、今は私との戦いに集中してください。

 少々辛い言い方になりますが、貴女は守り神です。常に平常心を心掛けていた方が良いですよ」


「……はは、難しい事を言ってくれるね、映姫ちゃん」



 桜花は葛を入れるつもりで自らの頬を叩くと、真剣な目で映姫を見上げた。



「悩むのは私らしくないね。……後で考える事にするよ」



 新しい弾幕を展開しつつ、桜花は大きく跳躍した。

 映姫よりも高い位置まで跳び上がった彼女は、真っ直ぐに目標へと腕を向ける。



「夢想封印・轟」



 次の瞬間、まるで落雷と間違いそうな音と光が映姫を襲った。同時に無数の弾幕が真上から次々と襲い掛かる。



「流石といいますか……やはり貴女は強い」



 映姫は手に持つ悔悟の棒を使って次々と弾幕を弾いていく。

 しかし、あまりにも弾幕の寮が多過ぎるのか、弾き返せなかった弾幕が数発腕を掠めた。

 頃合いだと思ったのか、映姫はスペルカードを取り出した。



─審判「十王裁判」



 映姫から桜花の弾幕と同じ量の弾幕が放たれ、次々と相殺していく。

 それどころか、映姫はいくつものレーザー型の弾幕も撃ち出してきた。


 複数のパターンに分けられた映姫の弾幕に、桜花は攻撃よりも回避に専念せざるをえなくなる。



「……桜花さん。私には貴女が悪人には見えません。ですが、貴女はあまりにも謎が多い。

 私は……私は、貴女の謎を解き明かしたい。そして、これからも幻想郷を守ってもらいたい」


「……映姫ちゃん」


「───時間です」



 映姫の言葉と同時にスペルの時間が切れて弾幕が全て消え去る。



「残念ながら私には時間がありません。それに、今から博麗の巫女にも会いに行かなければなりません。桜花さん……辛いかもしれませんが、私も貴女の事を調べてみます。ですから、どうか心を強く持ってください」



 私は、貴女の味方ですから、と言葉を残し、映姫は桜花の前から姿を消した。



「───」



 桜花は無縁塚の中心で立ち尽くしたまま、静かに肩を震わせた。


 そんな彼女の周りで、紫の桜が一斉に散り始めた。

 迷いから解き放たれた死者達が次々と空へと昇っていく。


 それを見上げる桜花の心から、迷いが消えることは無かった。




◇◇◇◇◇◇




Stage Clear!!



 ……少女休息中





 更新が遅くてすいません。


 設定が懲りすぎてしまいまして、一度執筆したものを書き直しました。

 そのため、内容がかなり曖昧で、しかも短くなってしまいましたが、ややこしいよりかはいいのではないでしょうか?


 ではでは、次回をお楽しみに!!




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