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東方~青狼伝~  作者: 白夜
花映塚編
87/112

Stage3


 彼女は待っていた。


 あの空と同じ、蒼い色をした旧友を。


 彼女が行方不明となったあの日からずっと──



 


Stage3


『旧友との再会』


現在位置~太陽の畑~



◇◇◇◇◇◇




 無名の丘と同じく、妖怪の山とは反対方向の奥地に目が眩むほど黄色く眩しい草原が広がっている場所がある。

 そこが『太陽の畑』である。黄色の正体は大量の向日葵だ。

 この場所は若干南向きのすり鉢状になっており、人里からは発見しにくい地形になっている。

 しかし、この場所の美しさは一見の価値があり、是非とも毎日眺めていたい程だ。


 また、この場所は夜になると陽気な妖怪達の夏のコンサート会場になる。

 プリズムリバー三姉妹のライブも行われるため、とても賑やかな場所なのである。

 しかし、賑やかな場所には悪戯好きの妖精や妖怪も多いので、一応私の見回りの範囲として考えているのだ。



 ……と、言っても今回は見回りではなく、知り合いに会いに来ただけなのだけど。


 抱き抱えているメディスンの頭を撫でながら向日葵の間を歩く。

 メディスンは大量の向日葵にきらきらとした目を向けて大喜びだ。

 どうやらこの場所を気に入ったらしい。よかったわ。


 この太陽の畑の向日葵はいたって普通の向日葵である。

 つまり、春になったばかりの今の季節に咲き乱れることなど本来は有り得ない。

 やはり大結界の影響が出ているのだろう。



「……ねぇ、桜花」


「……ん?」



 そんな事を考えていた私はメディスンの声で我に返った。



「どうかした?」


「……凄く、大きな気配がする。……何か……いる」



 メディスンが怯える様に私の服を強く握る。

 周りの気配を探ってみると……成る程、確かに巨大な気配を一つ感じる。

 その気配は向日葵達の中心から発せられていて、思わず笑みがこぼれる。



「……桜花?」


「大丈夫よ。この気配は私の友達のものだから、心配しないで」



 こちらを見上げるメディスンに優しく微笑むと、彼女の気配のする方へと足を運ぶ。


 ゆっくりと歩いて進むにつれて、向日葵が道を開ける様に左右に割れる。

 その先、向日葵畑の中心に彼女の姿があった。

 ふわふわと揺れる緑の髪。

 白いブラウスの上から羽織ったチェックのベストと、同じくチェックのスカート。

 花を思わせる日傘をさし、ニッコリと微笑む顔は最後に会った時と変わらない。


 私の旧友──風見幽香が変わらぬ笑顔でそこに立っていた。





◇◇◇◇◇◇



‐Side Out‐



 桜花はメディスンを地面に降ろし、そのまま幽香の目の前までゆっくりと歩く。

 幽香は桜花を微笑みながら眺めたまま一歩も動かず、また一言も発しない。



「……久しぶりね。元気にしていたかしら?」


「ええ、勿論よ」



 次の瞬間、強烈な衝撃を受け、桜花は吹き飛ばされた。



「──え?」



 驚くメディスンのすぐ真横を通過し、彼女は黄色い向日葵の中へと消えていった。

 何が起きたのか判らず呆然とするメディスンの隣を歩きながら通り過ぎ、幽香もまた向日葵の中へと消えていった。


 メディスンはその場にへたりこむと、先程見た幽香の顔を思い出していた。

 桜花と同じ優しい微笑みを浮かべながら……しかし、どこか恐ろしい笑顔。

 それが頭から離れず、メディスンはただ震えることしかできなかった。




◇◇◇◇◇◇




「げほっ……痛ぅ……」



 殴られた腹を押さえながら桜花は口の中に広がる鉄の味を感じていた。

 正直、殴られた事に対して彼女は仕方ないと思っていた。千二百年も行方不明だったのだ。彼女が怒っているのも仕方がない。



「……やっぱり怒ってるわよね」


「ええ、そうよ」



 向日葵の中心で倒れている桜花の側に幽香が歩み寄る。

 そっと胸元を掴むと強く、しかし優しく持ち上げた。



「よくも私にこれだけ心配をかけさせてくれたわね。……お仕置きよ」



 その言葉と同時に桜花の体は宙に投げ出された。

 空中で受け身をとった桜花へと幽香は全力で拳を振るい、桜花が左手で受け止める。

 しかし、幽香は左手に持っていた日傘を突き出し、至近距離で弾幕を撃ち出した。



「───」



 妖力を前方に展開して幽香の攻撃を防ぐ桜花だったが、空中では踏ん張りが効かなかったため大きく吹き飛ばされる。



「……はっ!!」



 吹き飛びながらそれなりに力を込めた弾幕を放つが、幽香は日傘で次々と打ち消していく。


 再び接近してきた幽香の攻撃を捌く為に構えをとる桜花だったが、突然姿がぶれる様に霞んだ幽香を見て驚愕する。


 そこにいたのは二人の幽香。



「──分身!?」



 目の前にいた幽香の拳を受け止め、反撃しようとするが、後ろから現れたもう一人の幽香が桜花の腕に蹴りを放ち、軌道をずらす。

 思わず舌打ちした桜花へと幽香が押さえ付ける様に抱き着いてきた。

 両手両足ががっしりと掴まれてしまい、身動きがとれない。



「くっ、しまっ───」



 直後、もう一人の幽香が高々と拳を振り上げる。

 わざとらしく掲げられた拳は一直線に桜花の頭へと振り下ろされた。



「──ふぎゃ!?」



 渾身の力を込められた『げんこつ』をくらい、桜花は奇妙な声を上げながら地面に叩きつけられた。

 地面には大きな衝撃でできたクレーターができており、その中心で桜花が俯せで倒れていた。

 ……頭に巨大なたんこぶを作って。



「よし、すっきりしたわ」


「……痛い」



 笑顔を深くした幽香と痛みで涙目な桜花は、一度視線を合わせるとお互いにクスクスと笑い合う。



「改めて……ただいま、幽香」


「ええ、おかえりなさい……桜花」



 幽香が桜花へと手を差し出して助け起こすと、服に着いた土埃を掃う。


 その時、丁度向日葵の間からメディスンが現れ、桜花を見て安心した様に息をはいた。



「……よかった、桜花。無事だったのね」


「ええ、ありがとうメディスン。心配かけたわね」



 安堵の息をはくメディスンだったが、隣に立つ幽香を見て顔を引き攣らせる。

 幽香は相変わらずニコニコとしているが、先程の様子を見ている彼女からすれば恐怖の対象でしかない。



「はじめまして、可愛い人形さん。私は風見幽香。花の妖怪よ」


「……メディスン・メランコリー」



 桜花の背中に隠れるメディスンに幽香は「あらあら」と苦笑いする。



「メディスン、大丈夫よ。彼女は私の友人なの」


「でも……桜花を殴ったわ」


「うん……あれは私が悪いの。私が長い間、幽香に何も連絡も無しに姿を消していたのが悪いのよ」


「………」



 それでもメディスンは幽香を警戒したまま威嚇する様に睨みつける。

 メディスンにとって桜花は自分を外に連れ出してくれた恩人なのだ。そんな恩人の桜花をお仕置きとはいえ殴るような相手とすぐに仲良くなれる程、メディスンの神経は太くない。



「さてと、じゃあ幽香。この子をよろしく」


「───へ?」



 しかし、桜花の口から飛び出した言葉にメディスンは耳を疑った。



「私、今からちょっと行かなければならない場所があるの。だからその間、この子を預かってくれないかしら?」


「ちょ───」


「ええ、いいわよ。もう貴女へのお仕置きも終わったしね。次からはちゃんと説明しなさいよ?」


「あの──」


「うぐっ……ごめんなさい」


「わかればいいのよ」


「……」



 自分を置いて進む話に、メディスンはもう諦めたとばかりにしゃがみ込むと地面に“の”の字を書きはじめた。

 お仕置きと言いつつ桜花を殴り飛ばした幽香も、今のメディスンからすれば恐怖よりも呆れが大きい気がする。


 いや、もしや……と、メディスンは頭の隅で思いたった。

 あの戦いは実は友達同士のじゃれあいみたいなものだったのかもしれない。

 実際あの戦いは短く、そして険悪な雰囲気すらなく終わったし、その二人は今談笑中である。


 メディスンはきっと大妖怪のじゃれあいはこういうものなんだと無理矢理自分を納得させた。自分は何も見なかった事にしよう、と何度も頷く。

 人は、それを現実逃避という。



 結局、メディスンの中にあった幽香への恐怖は全て何処かへと行ってしまい、彼女と共に桜花が飛び立つのを見送った。

 幽香もメディスンが花が好きである事を知ると、胸元に抱きしめて頭を撫でる程度には気に入ったようだ。

 何千年生きたい大妖怪といえど幽香も女性。可愛いものは嫌いではない。



「さて、メディスンだったわよね」


「……うん」



 顔を上げたメディスンの瞳と幽香の紅い瞳が交際する。

 不思議と、幽香の瞳は慈愛と、狂気、不安、歓喜……それらの感情の全てが感じられた。

 だからかもしれない──



「貴女にはこの幻想郷でのルールを教えてあげなくてはね」


「──うん、お願い」



 ──幽香を一人にしたくないと思ったのは。



 これから二人の物語が始まるのだが、それは別の機会に───





◇◇◇◇◇◇



Stage Clear!!



 少女祈祷中……


 忙しい時期がやっと終わり、執筆を再開できます!!


 さぁ、いままで書いていなかった分まで頑張りますよ!!



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