夢現2
貴女は今、何処にいるの?
逃げても無駄よ?
全ての運命に偶然なんてない。
私達が出会うのは必然なんだから。
どんなに拒絶しても、私は追いつくわ。
──ほら、また一歩、近づいた。
──夢
──夢を、見ている
──記憶にない、でも、確かに知っている記憶。
──それはそれは悲しくて、忘れてしまいたい程、残酷な記憶のカケラ。
◇◇◇夢現2◇◇◇
降り続ける雨と、轟く雷鳴。
倒れている皆と、それを見ている私。
「なんだ、やっと現れたな、■■■」
黒い私と正反対の真っ白な服を着た少女。
薄く微笑んだ顔は美しく……しかし、とても冷たい。
白い少女はゆっくりと私に近づいてくる。
その手には少女と同じく真っ白な大鎌が握られていた。
「あぁ、なんて愉快な日だろうね。あんたを殺して私が幻想郷を支配する。その夢が叶うなんて……」
「………」
彼女の言葉を私は黙って聞き流す。
私の視界に映るのは倒れている仲間達の姿。
紫、霊夢、真矢、輝夜、妹紅、神奈子、諏訪子……。
その他にもたくさんの仲間達が倒れている。
彼女達が戦っているのに、私はただ見ている事しかできなかった。
虚ろなまま立ちすくむ私に、少女がつまらなさそうに肩を落とした。
「……何よその顔。もしかしてあいつらを殺しちゃったから? 今更何いい子ぶってるのよ。
あんたは今までたくさんの妖怪や人間を殺してきたじゃない」
「……それは」
「幻想郷を守る為、なんて言うんじゃないでしょうね? アッハハハ!!
無駄よ、あんたがやってきた事はどんなに言い訳しても殺しに変わりはないんだから。幻想郷を守る為に害のある者を抹殺する。いいんじゃない? 守護者としてはあんたは最高さ!!」
少女は笑うと鎌を肩に担ぐ。
その真っ赤な瞳が私を見つめる。
「あんたが力のある妖怪達を減らしてくれたおかげで……ほら、こうして私はこんなにも強い力を手にいれられた。感謝するよ■■■」
「……私の、せいで」
少女の鎌が高く振り上げられる。
彼女の顔に浮かぶのは歓喜、優越感、そして、狂気。
「流石のあんたも、龍神の力には勝てないだろう?
すぐに仲間達の所に送ってあげるからさ、心配しなくてもいいよ?」
一瞬だけ悲しそうな顔をした少女は、すぐにまた狂気じみた顔に戻ると、鎌を握る手に力を込めた。
私はそれを黙って見ているだけ。
「──バイバイ、■■■」
彼女の声と共に、白い鎌は何の躊躇いもなく、私へと振り下ろされた。
◇◇◇◇◇◇
「───っ!?」
勢い良く布団から起き上がった彩花は、荒い息を整えようと胸元を押さえる。
頬を一筋の汗が流れていくのを感じながら、彼女は再び布団の上に倒れ込む。
ちらりと窓の外を見ればまだ薄暗く、いつもより早く起きた事がわかった。
着ている黒い寝間着が汗を吸って肌に張り付き、気持ち悪い。
彩花は布団から静かに出ると、隣で寝ている桜花へと視線を向ける。
自分と全く同じ顔の少女は気持ち良さそうに眠っていて、その幸せそうな顔に少しだけ気持ちが軽くなるのを感じながら、風呂場に行くために立ち上がった。
少し温い程度のお湯を浴びながら、彩花は最近短くした髪を触る。
桶の中の湯に映る自分の顔を見ながら、先程の夢は早く忘れてしまおうと、彩花は一気にお湯の入った桶を頭上で傾けた。
それ程までに、あの夢は現実味があった。
まるで、本当にあった出来事だったかのように。