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東方~青狼伝~  作者: 白夜
幕間
80/112

外の世界・中


 ……外の世界?


 外の世界は嫌い……消えていく者達の事なんて……考えもしないもの。


 だから私は……この幻想郷が愛おしい。


   ~鈴音彩花~




 


‐幻想郷・博麗神社‐



「外の世界の博麗神社?」



 今日も平和な幻想郷の昼下がり。

 博麗神社の境内で博麗の巫女───博麗霊夢は首を傾げて八雲紫へと視線を向けた。



「そうよ、外の世界での博麗神社を見に行くの。外の世界を知るいい機会だし、貴女も行く?」


「う~ん……」



 紫は腕組みして考える霊夢から視線を外してもう一人の人物へと視線を向ける。



「貴女はどうするの?───桜花」


「………行くわ」



 少し迷った様に視線をさ迷わせた桜花だが、結局は頷いた。



「外の世界の博麗の巫女は最近代替わりしたらしいから、私達の事を伝えないとね……」


「……桜花が行くなら、私も行くわ」



 二人の反応を見た紫は満足げに頷くとスキマを開く。



「じゃあ、行きましょうか。時間的には早いけれど、色々と見て回るのもいいしね」


「いつ見ても不気味よね、あんたのスキマ……」



 紫はスキマに入る桜花と霊夢を確認すると、振り返って一度博麗神社を見上げる。


 桜花とリンが奉られている神社。幻想郷の要であり、博麗大結界を管理する博麗の巫女が住む場所。

 本来の役目はそれだけだが、時には外の世界との出入口として機能している時もある。

 幻想郷に住まう者達は知らないだろうが、博麗神社は建物も鳥居も“外の世界の方角”を向いて建っている。

 そして博麗神社は幻想郷の境目に建っているため、外の世界にも博麗神社は存在する。

 幻想郷とは違い、外の世界では博麗大結界ができた当時の博麗の巫女の子孫が代々神社の巫女を勤めている。


 紫はふと、十年程昔の記憶を思い出した。


 外の博麗神社で一人で泣いていた博麗の巫女の少女。


 気まぐれでその少女に近くの駄菓子屋で買った飴玉をこっそり渡した事があった。

 その後、頭を撫でて少女が顔を上げる前にスキマで帰ったのだが、あの少女が今代の巫女になっている筈なので、紫なりに少し気になっていた。



◇◇◇◇◇◇



「ここが……外の博麗神社……」



 そっと、苔が生えて変色した鳥居に触れて、霊夢は呟いた。



「最低限の補強や修繕はしてあるのね……」



 桜花は本堂の中を覗き込みながら呟くと、古ぼけた賽銭箱をそっと撫でる。

 その中には落ち葉が入っているだけで他には何もなかった。


 しばらく言葉もなく佇んでいた霊夢と桜花だったが、外の世界の町を見に行くと言って二人で空へと舞い上がった。

 もちろん、桜花の能力で姿を隠すのも忘れない。



 町の方へ飛んで行った二人を見送ると、紫も久しぶりの外の世界を見て回ろうと歩き出す。


 彼女が最後に外の世界に出てきたのは約十年前。

 妖怪である彼女にとって、十年という月日はあっという間に過ぎる時間である。

 十年も時間があれば人間の文明は進化し、新しい技術が生まれる事もありうる。何より、数少ない外の世界の知り合い達は皆人間なのだ。妖怪である紫と違い、いつの間にかこの世を去っている場合だって有り得る。


 そんな事を考えながら長い階段を降りて道なりに坂を下っていく。

 十年前と変わらない道。しかし、遠くに見える町には新たな建築物がちらほらと見える。


 文明の発展が緩やかな幻想郷と違い、急速に発展していく文明。

 妖怪や妖精、神さえも空想の産物だとされ、信仰も何もかもが消えていく世界。


 いつか彩花が言っていた言葉を思い出した。



“外の世界は嫌い………失われていく者達の事なんか考えもしない”



 高台から幻想郷には無い海を眺めながら、紫はそっと目を閉じる。


 ──忘れられたなら幻想郷に来ればいい。


 ──幻想郷は消え行く者達の最後の楽園。


 ──幻想郷は全てを受け入れる。



「──それはそれは、残酷な話ですわ」



 もう何百回と自分に言い聞かせてきた言葉。


 幻想郷の存在を疎む者もいた。

 いっそ消えてしまった方が楽な者もいた。


 それでも、紫は幻想郷を守り続ける。


 今までも、そして、これからも。それが幻想郷を作った彼女の義務。

 あの日……龍神と契約をした日。あの時から紫は全てを背負う事を覚悟した。

 幻想郷に害を及ぼすのならば、例えどんな相手だろうと打ち倒す。


 その為にも、外の博麗神社を守る巫女達には代々自分達の存在を伝えてきた。

 幻想郷を守る為には外の世界の情報も必要だったからである。



 ゆっくりと、来た道を戻り始める紫の背中はいつもより、とても大きく見えた。



 紫が道を戻っていると、前方に懐かしい店がある事に気がついた。

 人間の女性が経営している小さな駄菓子屋だった。



「……久しぶりに、様子を見てみましょうか」



 紫はゆっくりと、駄菓子屋の扉を開いた。



◇◇◇◇◇◇



 駄菓子屋を出てから数分後、紫はスキマを使って神社まで戻っていた。


 駄菓子屋で見かけた少女。あの少女が今代の博麗の巫女で、十年前にこの場所で飴玉をあげた少女だと確認した紫は小さく笑っていた。



「本当に、十年という年月は早いものね……」



 紫の腰辺りまでしかなかった少女が、今では紫とほぼ同じ身長にまで成長していた。

 その成長を嬉しく思い、同時に時間の流れが自分とはかなり違う事に寂しさを感じた。


 そのまま待っていると、階段を昇る足音が聞こえてきた。

 紫はゆっくりと振り返る。そこには、先程駄菓子屋でみた博麗の少女が立っていた。



◇◇◇◇◇◇



‐美琴Side‐



 私の目の前には、この神社の境内とはあまりにも場違いな格好をした金髪の女性がいる。


 八雲紫──


 それが彼女の名前であり、駄菓子屋のおばあさん曰く「神様の使い」らしい。


 私は警戒しながら一歩ずつ、ゆっくりと彼女に近づいた。



「こんにちは、また会ったわね」



 日傘を傾けて、ふわりとした笑顔をむける八雲紫に、私は無言という態度を返した。

 八雲紫は気にしていないのか、変わらぬ笑顔のまま日傘を畳むと“その場で何かに腰掛けた”



「──っ!?」



 思わず驚愕した私を見て、八雲紫は悪戯が成功したかの様な笑顔を見せた。


 彼女が腰掛けているものが一体何なのか、私にはわからなかった。

 空間が裂ける様に割れ、両端には可愛らしい真っ赤なリボンがついている。

 だが、その裂け目から覗くいくつもの目玉や手の様なものがとても不気味に見えた。



「あなた……何者?」



 八雲紫は笑顔のまま、私に向かって綺麗な礼をする。



「改めてこんにちは……私、幻想郷の管理人をしている八雲紫と申しますわ」


「……幻想郷?」



 八雲紫は顔を上げると、再び裂け目に腰掛ける。



「あんたは……人間、なの?」


「いいえ」



 私の問いに、八雲紫は即答で答える。


 彼女は、人間じゃ……ない。


 ならば、彼女は……



「あんたは……一体、何なの?」



 私の新たな問いに、八雲紫は呆気からんと答えた。



「妖怪よ」



 その瞬間、私の知る日常が音を立てて崩れる様な気がした。


 そして、私はもう幻想の世界に踏み込んでしまったのだと直感で感じた。


 こんな時にも鋭い自分の勘の良さに、私は初めて苛立ちを覚えるのだった。




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