◆動き出す妖怪
オリキャラプロフィール
射命丸 真矢
種族・妖怪(鴉天狗)
性別・女
能力・『眠りを操る程度の能力』
鴉天狗。性格は礼儀正しい。おそらくだが、射命丸 文の先祖か親戚と思われる。見た目は服装が着物であること以外は文そっくりで、気になる妖怪や妖精等の所を訪れて取材を申し込んでくる。
取材した内容は文章にして資料として保管するらしい。
彼女の能力である『眠りを操る程度の能力』はその名の通り眠りを操る。対象を眠らせることができるし、反対に眠りから覚ますこともできる。
この能力で眠らされたらなかなか起きない。その気になればまるまる二日は眠らせることもできるらしい。そのため彼女はこの能力と持ち前のスピードを生かして危険な相手や場所からはすぐに離脱できる。
ただし、力のある妖怪達には効果が薄いため数時間で目が覚める。しかし、彼女にとっては数秒だけ時間があれば逃げきることができるので大した問題ではないようだ。
桜花とは特に仲が良く、よく彼女のもとへ遊びに行くようだ。年齢は400歳前後で妖怪の山ではなく別の山(※)で暮らしている。
※なんでも妖怪の山の妖怪は特に怖くて安心できないとか…
季節は冬…私が永琳に出会ってからちょうど一ヶ月経った。
最近は毎日永琳の家に行ってお茶を飲みながらたわいのない会話をして帰る、という生活だった。
今日もいつものように永琳と私は縁側でひなたぼっこをしながらお喋りをしていた。
「ふ~ん、じゃあもうシャトルの打ち上げ準備は済んでるの?」
「ええ、数日中には月に向かって出発するわ…」
永琳によると、この辺りの人類の文明は発展し過ぎてしまい、世界のバランスを崩してしまったらしく、他の地域の文明が同じように発展するまで月で生活して世界のバランスを取り戻す計画らしい。
「あなたともお別れになるわね…もう、二度と会えないと思うわ。他の文明の成長速度から見ても数百年…いえ、数万年は帰ってこないでしょう……私も人間だもの、そんなに長生きはできないわ」
永琳は少し寂しそうな顔をするとゆっくりお茶を飲んだ。
「そっか~、むこうでも元気でね…永琳」
私の返事に永琳は不思議そうな顔をしながら私へと向き直る。
「…どうかした?」
「いえ…あなたって不思議よね。普段は人間みたいなのにこういう別れの話に関しては軽い気持ちでいられるところは妖怪らしいんだから」
「妖怪は仲間の死や別れへの関心が薄いから…まぁ、それだけじゃないんだけどね」
「…?」
永琳は将来幻想郷にやってくる。ならば私が死なない限りまた会えるだろう。だから話せないのは寂しいけど絶対に会えないわけじゃないから悲しくはない。
「さて、じゃあ私はそろそろ帰るとしましょうか」
「あら、今日は早いのね、まだお昼を過ぎたくらいよ?」
「それがね、何だか知らないけど妖怪の山で宴会があるんですって。私も招待されたから行こうかなって」
そう、昨日ルーミアから妖怪の山で宴会があるという話を聞かされた。なんでも新しい妖怪も増えてきたので一度顔合わせも兼ねて宴会をするんだとか…
妖怪の山の連中とはあまり仲良くないので呼ばれないと思っていたのだが…珍しいこともあったものだ。
「妖怪の山ね…最近そこの妖怪達がここを襲おうとか考えているんでしょ?あなた大丈夫なの?」
「うん、たしかに仲は悪いけど殺し合いになるほどじゃないしね」
「そう……宴会で気を緩めないようにしなさいよ?」
「うん、わかった。じゃあ、また明日」
私は永琳に別れをつげると街の外へと歩き出した。
「あ、桜花お姉ちゃんだ!」
突然名前を呼ばれたので立ち止まり振り返ると、以前花畑に連れていくと約束した少女がいた。そういえば昨日永琳から名前を聞いたんだった…たしか
「リンちゃん…でよかったかしら?」
「うん!」
リンは9歳くらいの少女だ。一ヶ月前に花畑に連れていく約束をしたが忙しくてなかなか連れていけないでいる。
「桜花お姉ちゃん、今からまたお仕事?」
「違うよ、今日は友達の所で宴会なのよ」
「そうなんだ…ねぇ、明日はお仕事ある?」
「ないわよ?」
私の言葉にリンは目を輝かせた。彼女のここまで嬉しそうな笑顔は見たことがなかった。まぁ、知り合って一ヶ月しかたっていないから仕方ないのだが…
「明日は私も学校がお休みなの!桜花お姉ちゃん、お花畑に行こうよ!」
「そっか…うん、いいよ。じゃあ明日一緒に行こうか!」
「やった~!約束だよ!」
私は再び彼女と指切りをすると手を振って走って行く彼女を見送ってから再び歩き出した。
「遅い!」
霧の湖に着いてチルノと合流した時の第一声はそんな言葉だった。チルノの他には大ちゃんとルーミア、そしてなぜか真矢もいた。
「あれ?真矢が何でここに?」
「あややや、実は私もお誘いを受けまして…ただ一人で行くのは何というか…その…怖くて」
わからないでもない。妖怪の山に住んでいる妖怪達は攻撃的な輩が多い。怖くなるのも当然だ。
「ちょっと!あたいを無視するな~!」
「はいはい、ごめんなさいね」
お詫びとばかりに頭を撫でてやるとう~、と唸りながらも大人しくなった。
「桜花、今日は久しぶりに皆で寝ましょう?」
ルーミアの言葉にチルノと大ちゃんは賛成!と手を挙げる。あなた達の目的は私の尻尾でしょ…。
ふと、隣を見ると真矢が何やら元気が無く、俯いて何かを考えているようだった。
「真矢?」
「…え?あ…何ですか?」
「大丈夫?元気が無いみたいだけど…具合でも悪いの?」
「い、いえ!大丈夫です!ちょっと考え事をしただけですから…」
明るく振る舞おうとしているがあきらかに様子がおかしい。しかし、この時私は深く追求するべきではないかなと思いこれ以上何も聞かないことにした。
「うわぁ…」
「賑わってるね~」
会場である妖怪の山の頂上に着いた私達が見たのは様々な妖怪と妖精達だった。その様子はまさに宴会という文字がピッタリだろう。
「桜花、あたい達も早くいこう!」
「わかったから引っ張らないで~!」
その後は妖精も妖怪も気兼ね無く料理を食べたり、酒を飲んだりした。
「楽しんでますか?」
「あ、真矢」
私が酒をちびちびと飲んでいると隣に真矢がやってきた。
「今日の宴会は特別なんです…」
「…特別?」
真矢は頷くと私の前に立つ。その顔は少し悲しそうだった。
「…真矢?」
「この宴会が開かれた本当の理由はですね…悔いを残さないためなんですよ」
「それはどう…いう……っ!?」
突然私は目の前が霞み始めて頭もぼんやりしてきた。
「明日には二度と仲間に会えないかもしれない…だからこうして思い出を作るんだそうです――」
霞む視界の中で真矢の言葉だけがはっきり聞こえる。私は何とか意識を保とうとして真矢の顔を見上げる。その時――
「ごめん…なさい…」
彼女は泣いていた。何度も私に謝罪の言葉を呟きながら。
その理由を考える前に、私の意識は闇に沈んでいた。
――――
――
―
「…ん」
私は肌寒むさを感じて目を開ける。回りは夕日に染まっていた。辺りを見渡すと妖精達は固まって寝ており、ルーミア以外の妖怪達の姿はなかった。ルーミアも私の尻尾に抱き着いたまま寝ている。
「私は…」
そう呟きながら記憶を遡る。たしか宴会に誘われて…酒を飲んでいたら真矢が来て……そうだ、彼女の顔を見ていたら急に眠気が襲ってきて…
私はもう一度周りを見渡す。会場にいるのは霧の湖のメンバーと妖精達だけ。他の妖怪達は誰もいない。
何だろう…嫌な予感がする…
私はルーミアを尻尾から引きはがすと周りの気配を探ろうとした。しかし、次の瞬間――
ドゴォォォン!!
「!!」
突然遠くから爆発音が聞こえた。私はすぐに空へと舞い上がる。すると遠くで煙が上がっているのが見えた。あの方角は…まさか!
「人間の街…です」
私が振り返ると、そこには全身に怪我を負った真矢がふらふらと飛んでいた。
「真矢!?どうしたの、その怪我!?」
私が真矢に近づくと彼女は勢いよく頭を下げた。
「ごめん…なさい」
彼女の肩は震えており、泣いているのか声が震えていた。
「桜花さんを…私の『眠りを操る程度の能力』で眠らせろ…と妖怪の山に住む妖怪達に脅されて…私…怖くて…」
そこまで聞いた私は最悪の事態になったことを確信した。妖怪の山の連中は彼女を利用して私を眠らせ、その隙に人間の街へと攻め込んでいたのだ。
「でも…その怪我は?」
現状は把握したが何故彼女は怪我をしているのかわからない。彼らに協力した彼女が何故怪我をしているのだろうか。
「私、やっぱり…こんなこといけないと思いまして…彼等をを説得したんです。こんなことやっぱりいけないですよって…そしたら……」
「…もう、いいよ」
私は真矢を抱きしめると能力で“彼女は怪我をしている”という事実を拒絶して傷を治した。
「真矢はチルノ達を見てて。私は行かなきゃならないから…」
「はい…気をつけてくださいね。それから…本当にごめんなさい…」
私は顔だけを真矢に向けて頷くと人間の街へと向かって全力で飛んだ。
私を騙してまで人間と争うなんて…しかも同じ妖怪の真矢まで傷つけて…流石の私も頭にきた。とにかく急がなければ……
私はいっこくも早く争いを止めるために飛ぶスピードを速めた。