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東方~青狼伝~  作者: 白夜
永夜抄編
78/112

Epilogue


 幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは──



 


 幻想郷の東の端、そこに建つ小さな神社。

 博麗神社はその日、一つの異変の解決を祝った宴会の真っ最中であった。





「……だからね、最後のスペルは反則だと思うのよ」



 月の姫──蓬莱山輝夜はそう言って桜花の尻尾へと顔を埋めながら愚痴をこぼした。

 その隣では輝夜同じ蓬莱人である藤原妹紅が苦笑いをしながら酒の入った猪口を傾ける。


 結局、最後の戦いは桜花が発動させた博麗の究極奥義「夢想天生」によって桜花の完封勝利となった。



「大体、攻撃が当たらないって反則じゃないの!?

 ちょっと霊夢、スペルカードルール作ったの貴女だったわよね!?」


「んん?……あぁ、反則じゃないわよ。アレはちゃんと時間制限があるわ。じゃなきゃ勝負にならないもの」


「ぐっ……あぁもう、悔しい!!」



 悔しがる輝夜と、それを慰める妹紅に苦笑いしながら桜花は紫の方へと顔を向ける。

 そこには永琳と紫が何やら話し合っている最中であった。



「……と、いうわけよ。この結界がある限り、月からは幻想郷を見つける事はできないわ」


「……そう、この地は既に密室だったのね」



 どうやら幻想郷を囲む博麗大結界について話しているらしい。

 ふと、視線を別の場所に向けると、鈴仙と妖夢と藍が三人で並んで酒を飲んでいた。



「……それで、てゐもあんまり言うことを聞いてくれなくて……」


「そうなんですか……私も幽々子様の我が儘には困っておりまして……」


「家の紫様も、もう少し仕事をして頂きたいのだがな……」



 三人とも自分の主や部下の事で愚痴をこぼしており、何やら哀愁が漂っている。

 そっとしておこう、と桜花は視線を逸らした。


 また別の場所に視線を向ければ、そこには紅魔館の主のレミリアと従者の咲夜、そしてパチュリーがいた。



「それにしても、パチェが宴会に来るなんて珍しいね。どういった心境の変化なの?」


「大した事じゃないわ、レミィ。蓬莱人とやらに興味があるのよ……あぁ、解剖してみたいわ……」


「パチュリー様……」



 そんな物騒な事を平然と話しながらケラケラと笑う紅魔館組から視線を外すと、会場の端にいる幽々子と魔理沙とアリスを見つけた。



「おいおい、一体どうしたんだ?冥界のお嬢様がこんな隅っこにいるなんて、らしくないじゃないか」


「……あそこの三人、蓬莱人でしょ? 怖いわ……」


「あぁ、貴女の力が通じないものね。……それにしても、蓬莱人か……。私の上海や蓬莱の調整のいい見本になりそうだわ」



 すっかり和んでしまっている宴会会場を見回し、桜花は笑みを浮かべる。



「どうかしたの?」



 その笑みを見ていたのか霊夢が桜花の顔を覗き込む。

 桜花は「何でもないわ」と首を振ると、こちらに歩いて来る紫へと視線を向ける。



「本当に、幻想郷は優しいわね」



 そう桜花は呟いた。


 どんなに残酷な過去を、罪を、悲しみが在ろうと幻想郷は拒まない。

 紫は優しく微笑むと、満月の浮かぶ夜空を見上げた。



「えぇ……幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは────残酷ですわ」



 紫の笑顔はとても美しく、儚いものだった。



「紫……」



 桜花はそんな紫の横顔に手を伸ばそうとして───



「桜花ぁぁぁ!!」


「げふぅ!?」



 横から突然突っ込んできたチルノに押し倒された。



「チ、チルノ……?」


「らんであたいのところにこないの~?」


「まさか……」



 チルノから臭う酒の匂いに桜花は頭を抱える。

 いつだったか似たような場面があったな、と思いつつも桜花は体を起こす。



「チルノ、貴女はお酒に弱いんだから───んぐっ!?」



 チルノへと注意しようとした瞬間、チルノに口を塞がれる。

 輝夜と妹紅は「おぉ……」と顔を赤くしながらもバッチリ二人を見ており、先程まで儚い顔をしていた紫も「あらあら……」と微笑ましい顔をしていた。



「……ん…チルノ……こんな…ぁ……皆、見てる……」



 何とかチルノを引きはがそうとするが、チルノは物凄い力で桜花を掴んで離さない。


 そして───



「……ん、んん!?」



 突然、チルノからカプセルの様な物を口移しで飲ませられ、桜花は驚愕に目を見開いた。



「……ふふふ、上手くいったわ」


「……はっ!?チルノ、貴女一体何を!?」



 唇を離した桜花の目の前には悪戯が成功したかの様に笑うチルノの顔があった。



「永琳に頼んだのよ。妖怪や神様にも効く薬ってないかって……」


「な、ななな……」



 何の薬かを言わないあたり、チルノは性格が悪い。

 桜花が恐る恐る永琳の方を見れば、笑顔で手を振られた。



「さぁ、桜花……今夜は寝かせないから」


「……ゃ…チルノ?……ぁ…」



 チルノに抱えられて神社の中に消えて行く桜花の姿を見ながら、その場にいた一同は一斉に静かに聞き耳を立て始める。

 ある者は顔を赤くしながら、ある者はニヤニヤしながら……。次の日、羞恥に顔を赤らめる桜花を想像する。




 今日も幻想郷は平和だった。



◇◇◇◇◇◇



 ~東方永夜抄~



   ‐完‐





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