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東方~青狼伝~  作者: 白夜
永夜抄編
77/112

Final Stage


 永遠の姫は待ち続けていた。

 異変の解決に現れる懐かしい気配を感じながら。

 そして、それはもう一人の蓬莱人も同じだった。

 永遠に生きる月の姫と、永遠に滅びない不死の鳥は古い友人との再会を果たす。



 


Final Stage


『月の姫と不死鳥』


丑三つ時~AM2:00~



◇◇◇◇◇◇



 長く、永い廊下の果て、最後の扉を桜花はゆっくりと開く。


 開くと同時に感じる怪しい魔力。


 間違いない、と桜花は深呼吸するかの様に両手を広げる。




 そこは一つの巨大な空間だった。

 例えるなら“(そら)”又は“(そら)”と言えるだろう。


 眼下にはまるで宇宙から見た地球の様な大地が広がり、上を見上げれば本物の満月が魔力を放ち続けている。



「ご覧、チルノ。久しぶりの真の満月よ」


「ああ、本当だね。あんなに魔力を放ってる満月を見たのは何百年前だったかな……」



 二人は満月を見ながらうっすらと微笑む。

 その二人の前に一人の少女が現れた。



「ようこそ私の檻の中へ、歓迎するわ……桜花」


「久しぶりね、輝夜」



 蓬莱山輝夜。


 竹取物語で語られるかぐや姫本人であり、蓬莱の薬を飲んだ罪により地上へと落とされた月の姫。

 従者の八意永琳、親友の藤原妹紅と共に永遠亭で月の追っ手から隠れ住む生活をしている。

 最近はその中に鈴仙も加わり、妖怪兎のリーダーであるてゐを含めた五人生活となっている。



「どう? この永琳特製の空間変化型の術式は」


「檻の内側にして外側。本物の月を檻の中に隠し、地球が記憶している月を作り出してすり替える。

 ……成る程、地球も一つの生命体だから、現れた偽物の月を偽物だと感じないように錯覚させ、世界の法則を捩曲げた……流石は永琳ね」


「凄いじゃない、桜花。私も理解するのがやっとだっていうのに」



 でも、と桜花は宙に手を翳す。



「これは本来やってはいけない術式だわ。世界が錯覚しているのを忘れてしまえば───それは現実になる」



 パリン、と硝子の割れる様な音が響く。

 輝夜を閉じ込めていた檻が、砕けた。



「だから、かくれんぼはおしまいよ 」



 一瞬にして空間が歪んだかと思うと、何事も無かったかの様に元の状態に戻る。



「幻想郷に、満月が戻った……」



 チルノが呟き、桜花が笑って頷く。輝夜は苦笑いしながら降参だと言わんばかりに両手を上げる。



「参ったわね。桜花が相手なら勝ち目ないじゃないの」



 しかし、輝夜は窓から外を見てあら、と首を傾げた。



「夜が……進まない? 夜が、止まっている?」



 永遠という力を使う彼女にははっきりわかった。

 今、幻想郷の夜は完全に止まっている。



「桜花……あなた、まさか」


「あぁ、今回の異変の解決には夜中じゃないといけなかったからね。ちょいと夜を止めさせてもらったよ」


「なら早く夜を動かしなさい。このまま満月の魔力を浴び続ければ幻想郷が狂うわよ?」



 桜花は輝夜の言葉に首を振って否定の意を示す。


「それはできないかな。まぁ、私は時間を早めるなんて出来ないしね」



 輝夜は唖然とした顔で桜花を見ていた。

 幻想郷が危機になるとわかっていてこんな事をするなんて、と輝夜は目の前の女性が本当に桜花なのか信じられなかった。



「私じゃ無理だけど、輝夜ならできるでしょう?」


「……え?」



 言われた言葉を理解するのに一瞬の間を要したが、輝夜は自分の能力の事を言われたのだと、漸く理解した。


 彼女の「永遠と須臾を操る程度の能力」は簡単に言えば時間操作にあたる能力だ。

 永遠とは限りなく長い時間であり、変化の起きない非常に遅い時間を意味する。

 反対に須臾とは非常に短い時間を意味し、普通には感知できない程早い時間を示す。

 普段の永遠亭が発見されないのは、輝夜がこの能力を使い、永遠亭の歴史という名の時間を進まない様にしているからなのである。



「でもねぇ……幻想郷の守り神としては、このまま何のお咎め無しというわけにもいかないのよ」


「……罪には罰、当然よ」



 桜花が言う言葉に自嘲気味に輝夜は笑った。蓬莱の薬を飲んだ自分の罪を思い出しているのだろう。



「──と、いう訳で、弾幕ごっこでもしながら貴女を裁くとしますか」



 桜花とチルノは周りに弾幕を配置し始める。



「普通にやるだけじゃ罰にはならない。だから───手加減しないわよ?」



 輝夜が桜花の目が鋭くなったのを見た瞬間、彼女の左腕が宙を舞った。



 ──速い、と輝夜は思った。


 一切の手加減がない桜花の弾幕は容赦無く輝夜の左腕を肩口から吹き飛ばしていた。

 しかし、輝夜は動揺しない。もとより死なない躯なのだ、問題は無い。既に失った左腕は再生を始めている。


 桜花はその場を動かず、チルノが腰に挿していた剣を抜いて輝夜へと向かって来る。


 輝夜は懐からスペルカードを取り出すと、投げつける様にしてチルノの前に出した。




─神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」




 輝夜から眩しい光と共に虹色の弾幕が放たれる。


 鋭い針の様な弾幕は、正に龍の牙の様にチルノをかみ砕こうと左右から挟む様に向かってきた。

 チルノはバスタードチルノソードの両側面からウエハースソードを取り外すと、本体を腰の鞘に戻し短い分軽くなった二本の剣を両手で器用に振るう。

 弾き、流し、斬る。時には体を捻って回避しながらチルノは弾幕を潜り抜けていく。

 追撃とばかりに放たれた虹色の弾幕達もチルノの剣に全て撃ち落とされてしまう。

 輝夜は舌打ちしながら第二射の狙いを付けるが、チルノはそれを待たせてはくれなかった。


 新たな弾幕を放とうとする輝夜へと、チルノはウエハースソードを投げつける。

 真っ直ぐに飛んだ剣は躊躇いも無く輝夜の腹へと突き刺さった。



「──がっ、は」



 腹から伝わる衝撃と、逆流して口から零れる血液に思わず声が漏れる。

 どんな深手を負っても、彼女が死ぬ事は無い。

 ただ、死ぬ程痛いのは確かだ。



「がはっ……このぉぉぉぉぉ!!」



 無理矢理腹に刺さった剣を抜くと、チルノへと投げつける。チルノはそれを黙って受け止め、鞘に戻す。



「今のは異変を起こした罰よ。これで貴女の罪は償われた。後は……この夜を終わらせれば、全ておしまいよ」


「───まだよ」



 輝夜は傷が塞がった腹を摩りながら顔を上げる。



「私にはこの幻想郷を月からの危険に曝した責任と同時に、異変を起こした意地がある。……簡単に、終われないの」



 輝夜は口元に残る血を拭うと新しいスペルカードを取り出す。




─神宝「ブディストダイヤモンド」




 輝夜の周りをダイヤモンドでできた鉢が囲む。

 チルノが弾幕を撃ち込むが、全て弾かれてしまった。それなりに強度は高い様である。



「はぁぁぁぁぁぁ!!」



 輝夜の気合いの入った叫びと同時に鉢からレーザーが放たれる。

 チルノと桜花は軌道をしっかり読んで回避に専念する。



「うりゃぁ!!」



 チルノが腰から剣の本体を抜くと、鉢の一つへ全力で切り掛かる。

 流石に耐え切れなかったのか、鉢は砕けて消えてしまう。


 破壊できるとわかってからのチルノは早かった。

 次々と輝夜の周りに浮かぶ鉢を破壊していく。



「……くっ!!」



 正面を守る鉢が全て破壊され、輝夜は焦る。

 目前には既に剣を構えるチルノの姿があった。あの剣ならば上半身と下半身が一時の間別れを告げる事になりそうだ、とぼんやり考える輝夜に、遂にチルノの剣が振り抜かれ────






 ──紅蓮の炎がチルノを吹き飛ばした。



「────?」



 輝夜は呆然と吹き飛ぶチルノを眺める。

 しっかり剣で防いでいたらしく、目立った外傷は無い様だ。


 そんな事を考えつつも後ろを振り返る。


 そこには巨大な炎で出来た鳥がいた。

 輝夜の三倍はあるだろう炎の鳥は生命の塊であるかの様に甲高い声で鳴いた。




「──チッ」



 チルノが舌打ちしながら氷柱の弾幕を次々と打ち出す。


 しかし炎の鳥は輝夜を守る様に翼を動かして盾にする。

 まるで雛を守る親鳥の様に。


 呆然とする輝夜の背後から白い腕が二本現れたかと思うと、輝夜を抱きしめる。

 思わずヒッ、と声を出した輝夜の視界に白い髪が映り、彼女はハッとする。



「──遅くなってごめん。慧音を説得するのに時間がかかったんだ」



 振り返った輝夜へと優しい笑顔を返しながら───藤原妹紅が姿を現した。







「───妹紅?」



 輝夜の乱れた髪を妹紅は優しく直すと小さく笑い、桜花達へと視線を向ける。



「久しぶり、千数百年ぶりかな……桜花」


「そうね、元気だった……って、当たり前か」



 桜花と妹紅は笑顔で笑い合う。

 しかし、お互いに構えは解かない。



「二対一だったものだから輝夜の助けに入ったけど、構わないわよね?」


「えぇ、私も正直可哀相だと思っていたから」



 妹紅は再び輝夜へと視線を戻す。



「……と、いうわけで、私も参加するわ。頑張ってあの二人に勝ちましょう?」


「……え、あ……あれ?」



 輝夜は今だに混乱から抜け出せないのか、あたふたと視線をさ迷わせる。



「ほら、しっかりしなさい輝夜」


「あ、ありがとう妹紅」



 肩をポンポンと叩かれながら深呼吸した輝夜は気持ちを落ち着ける。



「──じゃなくて!? 何で妹紅がいるのよ!? 妹紅はこの異変に関係ないんだから別に戦わなくても……」


「何言ってるのよ。親友が不利な状況で戦ってるのに黙って見てるだけなんて、できるわけないでしょ」



 当然とばかりに笑う妹紅に、輝夜は不覚にも泣きそうになってしまった。

 慌てて顔を逸らして顔を見られない様にする。



「し、仕方ないわね。そんなに手伝いたいなら勝手にしなさいよ」


「あぁ、勝手に手伝うよ」



 きっとこの親友はわかってて何も言わないんだろう、と思いながら輝夜は小さく「……ありがと」と呟くと、妹紅の隣に並ぶ。



「さぁ、本番はここからよ!!」



 永遠の時を生きる少女達は手を取り合って、青い少女達へと向かって飛び出した。



◇◇◇◇◇◇



BGM「月まで届け、不死の煙」




 先に動いたのはチルノだった。


 氷柱の弾幕を無数に撃ち出して輝夜と妹紅の視界を塞ぐ。

 そのまま盾の様に氷の塊を目の前に浮かべると、剣を構えて二人の間へと飛び込んでいく。


 チルノの行動にいち早く反応してみせたのは妹紅であった。

 妹紅は再び自分自身を炎で包むと腕を勢いよく振り抜く。

 それだけで巨大な炎の鳥が現れ、向かって来る氷柱の弾幕を一瞬で蒸発させた。


 その直後、弾幕に隠れて剣と氷の盾を構えたチルノを視界に入れると、両腕に炎を作りだして投げつける。

 炎は直ぐに形を変え、巨大な鳥の形へと姿を変えた。



─不死「火の鳥‐鳳翼天翔‐」



 炎の鳥、鳳凰を模した炎は一直線にチルノへと向かっていく。

 チルノはバスタードチルノソードを一閃し、瞬く間に炎を切り裂いた。

 そしてそのまま剣を下段に構え、冷気を体中から放出する。


 妹紅が慌てて再び炎を身に纏うが、チルノは待っていたとばかりにスペルカードを取り出した。



「パーフェクトフリーズ!!」



 一瞬の静寂の後、その場にある弾幕の全てが凍った。


 そう、妹紅の炎も含めて全てが凍って動きを止めた。



「……っ、妹紅!?」


「おっと、よそ見は危ないわよ?」


「………っ!!」



 妹紅の様子が視界に入った輝夜が助けようとするが、桜花がそれを阻止する。



 そんな輝夜へとチルノが向かおうとした瞬間──




“リザレクション”




 妹紅を覆っていた氷が粉々に砕け散った。

 チルノは急いで剣を構え直すと、迎撃の姿勢をとる。


 次の瞬間、巨大な炎の鳥が三匹現れ、次々とチルノへと襲い掛かる。

 チルノは目の前の一匹を剣で両断するが、残りの二匹に体当たりをくらい、桜花の隣まで吹き飛ばされた。


 妹紅も輝夜の隣へと移動する。



「妹紅、大丈夫?」


「私達にその台詞、意味あるの?」



 輝夜と妹紅はお互いに笑い合うと、桜花達に向かって構えた。



「桜花、何だかあたい達が悪者みたいな雰囲気になってきたよ?」


「あらあら、困ったわね。何でこうなったのかしら?」



 こちらはこちらでマイペースであり、苦笑いしながらも構えは解かないあたり流石と言うべきか……。



─神宝「サラマンダーシールド」


─不滅「フェニックスの尾」



 輝夜と妹紅が同時にスペルを発動させる。

 桜花とチルノもスペルカードを取り出し、宣言する。



─蒼神「夢想封印・蒼」


─剣技「⑨斬り」



 輝夜の弾幕を桜花が相殺し、妹紅の弾幕はチルノが全て切り裂くか、凍らせて無力化していく。

 輝夜は妹紅よりも少し後ろに下がると、小さく舌打ちした。



「……もう時間が少ない。妹紅、少しだけ手伝って」


「どうしたんだ、輝夜?」


「本来なら夜明けの時間なんだけど、桜花の力で夜が止まったままなの。これ以上、月の魔力を浴び続けたら幻想郷が危ないわ

 だから、今から私が時間を早めるスペルを使うから、妹紅は援護をお願い」


「わかった、任せなさい!!」



 お互いのスペルが終わった直後、妹紅が炎の壁で一瞬だけ桜花達の動きを止める。



「輝夜、今よ!!」


「さぁ、長い夜が明けるわ」





─「永夜返し‐望月‐」





「──っ、チルノ!!」


「うぇぇ!?」



 輝夜から放たれた弾幕の数は正に異常だった。

 見渡す限りの弾幕。

 上下左右全ての視界に弾幕以外が映らない程、その密度は高かった。



「……チィ!!」



 チルノは自分の周りを凍らせて全方位形の盾を作り出した。



「貴女達が作った偽物の永遠なんて……」



 ‐寅の刻‐



 弾幕の密度が増していき、桜花も回避だけに専念する。

 チルノは盾の内側から様子を見ながら冷や汗を流していた。



「な、なんて弾幕撃つのよ、あの姫様……」



 その時、チルノは輝夜に更に力が集まるのを感じて驚愕する。



「私達の永遠を操る力が撃ち破る!!」



 輝夜の背中を支える形で妹紅が自らの力を輝夜へと渡していた。



─「永夜返し‐日の出」






「──ぁ」



 チルノがヤバい、と思った時には既に手遅れだった。


 数倍にまで密度を増した弾幕は、あっという間にチルノの盾を破壊した。

 弾幕に飲み込まれる瞬間、チルノは桜花の姿を探して弾幕だらけの視界を動かす。


 そして、見つけた。


 平然と、瞳を閉じたまま弾幕の中に浮かぶ桜花の姿を。


 チルノは視界が暗転する瞬間、確かに聞いた。


 博麗神社の主従しか使うことのできない最強無敵の奥義の名前を──








「 夢 想 天 生 」








 そして、幻想郷の永い夜は終りを告げた。



◇◇◇◇◇◇



Stage All Clear!!


 少女休憩中……





 永夜抄が終りました。長かったです。やっと次に進めます。


 まずはEpilogueを執筆してから、暫くは幕間になるかと思いますので、お楽しみに。



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