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東方~青狼伝~  作者: 白夜
永夜抄編
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舞台の裏側


 桜花とチルノが輝夜達の部屋へと急いでいる頃、霊夢達はというと……。



 



 草木も眠る丑三つ時。


 迷いの竹林の奥深くにある永遠亭では最後の戦いが行われようとしていた。


 しかし、そんな永遠亭の別の場所では他の者達の戦いが続いていた。



◇◇◇◇◇◇



 月の頭脳こと、八意永琳は酷く困惑していた。


───

──



 始まりは桜花と共にこの地へとやって来た時からだった。

 月の追っ手から逃亡して千数百年。この永遠亭に隠れ住んでいたが、月の兎である鈴仙が此処に住み着く様になってからは毎日が不安な日々だった。

 いつまた月の者達が輝夜を連れ戻しに来るかわからない。そんな日々を送っていれば不安も高まるものだ。

 永遠亭があまりにも歴史的な変化を起こさずに尚且つ、毎日が平和だっただけに、芽生えた小さな不安は日に日に大きくなるばかりであった。


 不安に耐え兼ねた永琳は地上の一部を月から隠し、発見されない様にするための術を開発した。

 術の発動により地上から真の満月は隠され、偽の月が輝きだした。


 人間には大した事がない異変かもしれないが、妖怪からすれば一大事である。

 真の満月が訪れない限り、妖怪達の力のバランスは大きく崩れるのである。


 当然、この異変を妖怪の賢者や博麗の巫女が黙っている筈もない。


 永琳は術が完全に完了するまでの間、邪魔されない様に足止めする作戦を考え、実際にそれは成功した。


 ──そう、成功した筈なのだが



「………」



 永琳は目の前の光景に困惑せずにはいられなかった。


 なぜなら、先程まで必死にこちらを追い掛けていた妖怪の賢者と博麗の巫女は、この通路が偽物であり罠であると知った瞬間から一切の構えもとらず、スキマに腰掛けて優雅に仲良くお茶を飲んでいるのである。


 この二人は異変を解決に来た筈なのに、何故こうものんびりとしているのだろうか、まさか何か策があるのか、と永琳は考える。

 そのまま片方は緩んだ空気で、もう片方は張り詰めた空気で睨み合いとなり、かれこれ一刻になろうかというところだ。



「……貴女達」



 ついに痺れを切らした永琳が二人に声をかける。


 お茶を飲んでいた二人は手を止めると、なんだ、とばかりに視線を永琳へと向ける。



「貴女達は異変を解決しに来たのよね?」


「えぇ、そうよ」



 永琳の問いに紫が迷わずに答える。



「なら、こんな所でのんびりしてていいのかしら?」


「えぇ、問題ないわ」


「そうね、“今のところ”何も問題ないわね」



 紫と霊夢の言葉に目を細める永琳。


 霊夢が言った“今のところ”という言葉。それが頭の隅に引っ掛かりを覚える。

 つまり、彼女達が動くのは“今”ではない?


 永琳が更に深い思考に入ろうとした時、背後から二つの気配が現れる。



「あ、いたいた、お師匠様~!!」


「お~、やっと見つけたよ」



 振り返った永琳の視界に現れたのは二匹の兎。鈴仙とてゐだった。



「ウドンゲ……てゐもどうしたの?」


「ありゃ? なんだい、このおかしな雰囲気は……もしかしてまだ戦ってないのかい?」



 突然現れた鈴仙とてゐにも、紫と霊夢はあまり反応しない。

 とりあえず永琳はてゐと鈴仙に現在の状況を教える。


 すると、てゐが納得がいった様に頷いた。



「……成る程ね、確かにこれなら納得さね」


「てゐ、何か思いあたる事があるの?」



 あぁ、と溜め息混じりで答えたてゐは永琳の後ろで疲労が限界に達したのか眠そうにしている鈴仙にちらりと視線を向けると、永琳に向き直る。



「桜花とチルノが来てるよ。しかも、現在姫様のいる部屋に向かって一直線だ」


「──なんですって!?」



 そこで初めて永琳は紫と霊夢が戦わない理由がわかった。

 彼女達はもう“戦う必要がない”のであると。


 桜花とチルノは幻想郷のトップクラスの実力者である。その力は目の前の紫や霊夢をも凌駕する。

 目の前の二人は桜花とチルノが来るのを知っていて、それを知っていたからこそわざと罠に掛かったのである。



「半分正解ね。私達は確かに戦力を分散させる為にこうして罠と知っているにも関わらず飛び込んできた。……でもね、本当の目的はアフターケアなのよ」


「アフターケア、ですって?」


「ええ、そうよ」



 紫の声と同時に周囲の空間が一気に歪む。

 いや、“歪む”というのは間違いだ。これは、歪んでいた空間が“正常”に戻ったのだ。


 幻想郷に真の月が戻った。



「──これは、まさか」



 真の月が戻るということはつまり、桜花達が全ての封印を解いて輝夜のいる部屋までたどり着いたという事だ。

 輝夜の存在を隠していた封印が解かれた今、幻想郷に本物の月が帰ってきた。



「さぁ、仕事を始めなきゃね」



 紫がスキマから立ち上がりながらそう呟いた。


 霊夢も立ち上がるとお祓い棒を手に取る。



「貴女達、何を……」


「言ったでしょ? アフターケアよ」


「今は“桜花が”異変解決の為に夜を止めてるんだけど、そのままだと色々と大変な事になるのよ」



 夜が明けない。それは人間にも妖怪にも大変な騒動となるだろう。


 なにしろ、満月は人を狂わせる。


 このまま夜が明けなければ、やがて月の魔力は妖怪や人間を狂わせる。そして、その力は幻想郷をも狂わせるだろう。



「つまり、この明けない夜をどうにかしないといけないのよ」


「その為にはここの姫様の力を借りるしかないのよ」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」



 説明を聞いていた永琳が二人にストップをかける。



「早く夜を明かしたいなら桜花にそう言えばいいじゃない。何故わざわざ姫様に……」


「……はぁ」



 霊夢は溜め息をつくとお祓い棒を永琳へと向ける。



「いい? あんた達が起こした異変を、あんた達の手で解決させてあげようって言ってるの」


「夜が明けないのは“たまたま、桜花が夜を止めている”のが原因ですもの。逆に被害が拡大しそうだから誰かに助けてほしいのだけど、誰かいないかしらねぇ?」



 永琳は理解した。


 この二人は桜花が止めたままの夜をもとに戻せば異変を起こした事を許す、と言っているのだ。

 わざわざ“夜を止める”という荒業までやってのけたのも、こうするための布石でしかなかったのである。



「貴女達、最初から全て知っていて……」


「さぁ、どうかしらね」



 永琳の言葉に紫はただ、クスリといつもの胡散臭い笑みを見せるだけだった。




◇◇◇◇◇◇




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