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東方~青狼伝~  作者: 白夜
永夜抄編
74/112

Stage4


 異変に気がついた者は他にもいた。

 紅い魔力が二つ、人知れず竹林に入り込んだのを誰も知らない。



 


Stage4


『偽月の下で紅いダンスを』


子の四つ~AM0:30~



◇◇◇◇◇◇




‐桜花Side‐



 迷いの竹林──それは人里から見て、妖怪の山とは反対の位置に広がる広大な竹林である。

 竹林は目印になる様な物が少なく、成長が早い竹によって景色がすぐに変わってしまい、この竹林を熟知した者でなければあっさり迷ってしまうだろう。

 それだけではない。この竹林に住み着く兎達……の中のリーダーである因幡てゐが至る所に罠を仕掛けているのである。

 落とし穴に始まり、紐に足がかかると竹槍が降ってきたり、縄に足をとられて宙吊りになったり……と、様々である。

 とは言え、これらの罠は全て竹林に入り込む人間を追い返す為のものであり、彼女は密かにこの竹林を守り続けているのである。


 さて、そんな竹林を移動中の私達だが、罠には掛かる心配はない。先程話した通り竹林の罠は対人間用であり、私達の様な妖怪や力のある者達には効果がない。それを解っているのか罠は地上にしか仕掛けておらず、空を飛ぶ私達には無意味なのである。



「それにしてもこの竹林、昔より広くなってるわね」


「竹の成長は早いからね、千年以上経てばそりゃ広くなるよ」



 私とチルノはそんな他愛のない話をしながら弾幕を放ってくる妖怪兎達を撃ち落としていく。

 その後を慧音がついて来る形で竹林を進んでいるのだが、慧音がいてくれて正直、助かった。

 慧音は迷いの竹林で迷わない数少ない人物の一人である。やはり妹紅とは友人関係にあるらしく、輝夜や永琳とも知り合いだった。

 そのため、何度もこの竹林には足を運んでいるのだとか。


 慧音の案内もあり、比較的短い時間で竹林の奥に進む私達だったが──



「──っ、ストップ!! 誰かいる」



 突然強い気配を感じてチルノと慧音を片手で制す。


 ……数は二つ。感じる力の種類はどちらも魔力。

 真っ直ぐこちらに向かっている。


 しかし、この魔力は……どこかで感じたことがある。

 力強くて禍々しいのに気高い雰囲気を感じる、そんな魔力。

 これは、そう──あの紅霧異変の時のような……。



「おや、誰かと思えば桜花じゃないか」


「あー!! 桜花だー!!」



 ふと頭に浮かんだ二人の姿がそのまま目の前に現れた。

 幻想郷のパワーバランスの一角を担う吸血鬼姉妹──レミリアとフランのスカーレット姉妹だ。



「こんばんわ、レミリア、フラン。お散歩かしら?」



 ニコリと微笑みながら二人へと挨拶。

 レミリアは「ハッ」と呆れた様に鼻で笑うと背中の翼を大きく広げた。



「散歩じゃないよ。……私はね、満月を奪った犯人を探して此処に来たのさ。この先に何かあると、運命に見えたからね」


「私はお姉様について来ただけだよ。久しぶりの外だし、面白そうだったからね」



 レミリアは空に浮かぶ欠けた月を見上げると顔をしかめる。

 その表情からは少し怒りが見える。



「この私から満月を奪うなんて事をしたんだ。当然、それ相応の理由があるのか、それともただの悪戯か……まぁ、どちらにしろ──」



 レミリアは竹林の奥を睨む様に目を細める。



「──潰すけどね」


「まぁ、お姉様ったら。もっと淑女らしくしないとダメだよ。それに、咲夜に何も言わなかったけど、よかったの?」


「あら、フラン。私はただ礼儀知らずの愚か者を躾に行くのよ? 自分でやりたかったから咲夜にも黙って出てきたのだし」



 クスクスと笑いながら物騒な会話を始めた二人に思わず苦笑いが出てしまう。

 あの月の主従とその親友は一筋縄ではいかない程の力を持っている。

 彼女達もまた、幻想郷のパワーバランスの一つなのだから、ここでレミリア達とぶつけるのは正直なところ危険である。

 それに、もう霊夢と紫が先に進んでいる。連続で戦闘すれば間違いなく輝夜達が危険な目に遭うだろう。……死なないけど。


 まぁ、幻想郷のバランスを保つのが仕事の一つである私としては、この姉妹を先に進ませるのは憚られるのであって……



「はい、ストップです。そこの吸血鬼姉妹。この先には行かせません。“Stop the Scarlet Devil.”で、合ってるかな?」



 私は両手を広げて道を塞ぐ様に二人の前に立つ。

 レミリアはそんな私を見て何故か溜め息をついた。



「成る程、貴女だったのね……」


「何のことかしら?」



 首を傾げる私にレミリアは自らの髪をくるくると弄り始める。



「この異変は私が解決しようとすると、大きな壁が立ちはだかるって運命に出てたわ」


「それが、私だと?」


「私の壁となる程の力を持つ奴なんて限られてるからね。大体の予想はしてたよ」



 レミリアはやれやれ、と首を横に振ると一気に魔力を高める。

 彼女の周りに無数の蝙蝠が集まり始め、黒い壁の様に見える。



「お姉様、弾幕ごっこするの?」


「えぇ、そうよフラン。一緒に桜花を倒すわよ」


「任せてよ。桜花にリベンジするんだから!!」



 フランも右手に黒い黒い槍の様な武器を作り出すと構えた。レミリアと同じく紅い魔力が辺りに広がっていく。



「慧音、先に行って!!」


「……なっ!?」



 私は振り返らないまま背後にいる慧音にそう言うと、弾幕を作り出していく。

 このままでは慧音が巻き添えをくらってしまう。その前に、彼女だけでも先に行かせることにした。



「し、しかし……あの二人相手では……」


「大丈夫だよ。チルノもいるし、心配しないで」


「──わかった。気をつけろよ」



 何か言いたそうにした慧音だったが、折れてくれたようだ。これで思う存分戦える。


 慧音の気配が遠ざかるのを確認して、今度こそ完全に意識を目の前の姉妹に向ける。



「さて、始めようかしら」



 私は一斉に弾幕を撃ち出した。



◇◇◇◇◇◇



BGM『亡き王女の為のセプテット』





‐OutSide‐


 鈴音桜花という妖怪は強い。それは間違いない。

 しかし、いくら妖力が多く強大な力を使えるとはいえ、最強の存在などには成りえない。

 桜花にも当然弱点はある。完璧に無敵の存在などいるわけがないのである。


 桜花の弱点──それは集団戦である。


 彼女の縦横無尽に飛び回る戦法は周囲の地形や障害物の有無が大きく影響する。

 周囲に障害物が多ければ多いだけ、彼女は激突を避けるために気を配らなければならないのである。

 つまり、彼女が最も力を発揮できるのは一対一の勝負形式なのだ。


 現在いる場所は竹林。

 周りの竹が彼女の行動力を奪っている。





 迫る紅い弾幕を大きく動くことで回避する。

 背後の竹が爆ぜる音を聞きながら、桜花は新たに竹を蹴って空中へと踊り出た。

 それを追い掛ける様にレミリアの手から新たな弾幕が放たれる。


 再び別の竹を蹴って跳躍した桜花の下を弾幕が通過した。



「えいっ!!」


「……っ!?」



 気配を感じて上を見上げた桜花へと、フランが槍を構えて落ちてくる。

 その時、桜花へと触れる寸前の槍が強い衝撃を受けて弾かれた。


 舌打ちしつつフランは衝撃の正体を確認する。

 いつの間にか桜花の隣には大剣を振り抜いた体勢になっているチルノがいた。


 チルノはフランに視線を向けたまま、自らの大剣であるバスタードチルノソードを脇構えに構えると、背中の氷でできた羽を大きく羽ばたかせる。

 飛び出したチルノは正に弾丸だった。

 フランが瞬きをした合間にはもう懐に飛び込んでいた。



「…くっ!!」



 フランは槍を持つ場所を中心部分に瞬時に持ち替えると、避けるのではなく迎撃する体勢に入った。



「……っ、駄目よフラン!! 避けなさい!!」



 レミリアが叫ぶのと二人がぶつかるのは同時だった。


 チルノは剣の質量を生かした薙ぎ払いを繰り出す。

 その攻撃に対して、フランはチルノの頭上を飛び越える様に宙を蹴る。

 すぐさま追撃する様に振り上げられた剣に槍をそえて滑らせる様に受け流す。



「レーヴァテイン!!」



 次の瞬間、チルノの視界は紅い炎で塗り潰された。

 巨大な炎の剣を構えたフランは一気にチルノへと振り下ろす。


 ジュワ、と小さく水が蒸発する様な音が聞こえた。チルノの剣とフランのレーヴァテインが激突したのだ。


 チルノの冷気とフランの炎が生み出す熱気が真正面からぶつかり合い、急激に温度が上下する竹林は霧に包まれ始めた。



「──ふっ」



 その霧の中心へと、レミリアは迷わず突っ込んでいく。狙いは勿論チルノである。

 しかし、目の前に現れたのはチルノではなく桜花であった。



「させない!!」


「……チッ」



 振り下ろされる桜花の爪を回避しながらレミリアは舌打ちする。

 だが、明らかに桜花の移動スピードは遅い。やはり竹林が邪魔で上手く立ち回れないらしい。


 レミリアはニヤリと口元を歪めると、両手を広げる。

 彼女にとって竹林など、何の障害にもならない。

 邪魔なら、破壊してしまえばいい。



─紅符「不夜城レッド」



 スペルの宣言と同時にレミリアの身体から紅いオーラがまるで炎の様に吹き出した。それはまるで、罪人を張り付けにする十字架の様に。


 レミリアのオーラは急速に周りの竹林を破壊していく。 そして、彼女は持ち前の身体能力を使い、チルノへと飛び掛かる。



「──くっ!?」



 レミリアに気付いたチルノはフランを押し返すと、剣の側面にあるウェハースソードを外し、冷気を放出しながらレミリアの突進を受け止める。

 直後に反対側から再び切り掛かってきたフランも剣で受け止める。



「……っ」



 両側から挟まれる様な強力な攻撃にチルノは顔をしかめる。

 レミリアとフランはここぞとばかりに一層力を増してチルノへと迫る。



「────」



 その時、チルノが何やら口をぱくぱくと動かした。

 レミリアは口の動きから何を言っているのかを読み取る。



 “──はなれて、近づいちゃだめ”



 何の事かわからずに、一瞬だけ動きを止めたレミリアは気がついた。

 チルノの体へと冷たい風が流れている。フランのレーヴァテインのせいでわかりにくいが、確かに冷たい風がチルノへと集まっていた。


 まさか、とレミリアは一つの展開を予測する。

 もしそうなら、この場所は最悪のポジションである可能性が高い。


 咄嗟にレミリアが体を捻るのと、フランがチルノを押し切ろうとレーヴァテインの火力を上げるのは同時だった。

 レミリアはチルノに背を向けると、全速力で離脱を開始する。


 フランはレミリアが急に逃げ出した事に一瞬呆気に取られるが、それでもチルノへの攻撃を止めなかった。



「……っ、フラン、逃げなさい!!」


「───え」



 レミリアがフランに急いで声を掛ける。しかし、最早手遅れだった。



「パーフェクトフリーズ~Advent~」




 次の瞬間、空気が止まった。




 チルノから放たれた冷気が周囲の気温を一気に下げた。

 空気中の水分が凍りつき、辺り一面が冬に雪の降った後の様に真っ白な景色に変わる。


 あらゆるものが凍りつき、動きを止めるチルノのスペルは水分だけでなく、目の前に迫っていたフランのレーヴァテインさえ凍らせた。

 その名の如く全てを凍らせる事ができるこのスペルは弾幕や攻撃の密度が高い程効果を発揮する。

 フランの巨大化した炎は逆にフラン自身を凍りつかせ、動きを封じていた。


 巨大な赤い結晶の中でレーヴァテインを構えたまま停止しているフラン。

 レミリアは何とか範囲の外に逃げる事ができたが、最早戦う気力は残っていなかった。


 チルノからの口パクをいち早く理解していた桜花は早々に距離をとっていたらしく、無傷でレミリアの前に戻ってきた。

 状況は二対一。レミリア溜め息をつきながら両手を上げてひらひらと振ってみせる。



「あぁ…もう。私達の負けよ」



 このような負け方をすれば呆れを通り越して逆に清々しいとばかりにレミリアはあっさりと負けを認めた。



「ごめんなさいね」



 レミリアが凍ったままのフランを抱えて飛んでいくのを見送りながら、桜花はチルノへと謝罪した。



「どうしたの、いきなり謝ったりして?」


「今回の戦闘では私は殆ど何もしていないじゃないの……」



 チルノは苦笑いしながら桜花の腕に抱き着いた。



「別に気にしてないよ。ただ、場所と相手が悪かっただけの話だし。それに、勝てたんだから結果オーライでしょ?」


「……うん、そうだね。ありがとう、チルノ」



 桜花がチルノの頭を撫でると、チルノは嬉しそうに目を細める。

 それから二人は手を繋いで竹林の奥に見える古めかしい屋敷へと向かっていった。




◇◇◇◇◇◇




Stage Clear!!



 ……少女祈祷中




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