Stage3
一本道の先には人間が住む小さな里がある。
だが里があるはずの場所には、何も、無かった。
(原作Stage3より)
Stage3
『歴史喰いの懐郷』
BGM「懐かしいき東方の血~Old World」
子の三つ~AM0:00~
◇◇◇◇◇◇
深夜の闇の中、二つの影が荒野の真ん中に立っていた。
「……何も無いわね」
「……うん」
二人は真っさらな荒野を見てそう呟いた。
振り返ってみれば先程まで辿っていた道がある。
しかし、その道も途中からあきらかに不自然に途切れている。
何より、目の前に広がる荒野が一番不自然である。
なぜなら、ここには人里があった筈だからである。
不自然に途切れた道、そして消えた人里。
こんな事ができる人物を二人は知っていた。
「桜花、これは間違いなく“先生”の仕業だよね」
「そうね、チルノ。間違いなく慧音の仕業でしょう……」
桜花とチルノは躊躇い無く人里であった場所を進んで行く。
しばらく進めば人里の中心にある広場だった場所があり、そこに一人の女性が立っていた。
月の光を反射して輝く長い銀髪。青を基準とした服と頭に乗せてある独特の帽子。
人里の守護者にして歴史を紡ぐハクタクの力を持つ半獣人の女性──上白沢慧音。
月を見上げながら物思いにふける姿は中々に神秘的だった。
「こんばんわ、慧音」
「──ん、あぁ……こんばんわ、桜花」
桜花の声で我に返ったのか、彼女は振り向いて挨拶を返す。
そして、再び月を見上げて小さく溜め息をついた。
桜花とチルノは彼女とは知り合いである。
桜花は幻想郷を守護する役目があるので、一日に数回は幻想郷中を飛び回る。勿論、人里もその範囲に入るため、慧音とは既に何度も顔を合わせているのだ。
チルノは寺子屋で暇な時に何度か授業を受けた事があった。その時に知り合い、時には慧音の代わりに教壇に立つ事もあったくらいである。
慧音は義理堅く真面目で、時に優しく、時に厳しく、人里の子供達に勉強を教えている。
性格が堅物であるのが少し残念であるが、人里では大変な人気を誇る人物である。
特に忘れ物をした生徒に行う頭突きは有名で、かなり痛いらしい。
そんな彼女は後天的な半獣人──所謂ワーハクタクであり、満月の夜にはハクタクに変身し、角と尻尾が生える。
彼女は人間の時に『歴史を食べる程度の能力』を、ハクタクの時に『歴史を創る程度の能力』を使う事ができる。
彼女はこれらの力を使い、満月の夜に歴史の編集等を行うのである。
よって、満月の夜にはとても気が立っており、邪魔が入ると問答無用で頭突きされる。角が生えた状態の頭突きは非常に痛い。
月を見上げる慧音はどこか淋しそうで、そわそわと落ち着かない。
まるでお預けをくらった犬の様だ、と桜花は思った。
「どうしたの、慧音?」
「……どうした、とはどういう意味だ?」
どうやら慧音は自分がどの様な心境なのか理解できていないらしい。
こちらをちらりと横目で見るだけで、すぐに月へと視線を戻す。
「……はぁ、貴女って本当に賢いのか馬鹿なのかわからないわ」
「……む、失礼だな。何だというのだ?」
慧音はむすっ、とした顔で桜花を睨みつける。
桜花はやれやれ、と溜め息をつきながら周りを見渡す。
「人里が無くなったのは貴女の力よね?」
「あぁ、そうだ。一時的に人里を“無かった”事にしている」
「──何故?」
「……は?」
私の問い掛けに慧音は首を傾げる。
「何故、人里を無かった事にしたの?」
「それは……妖怪が此処に向かってくる気配があったからだ」
慧音は一瞬戸惑ったが、理由をしっかりと述べた。
しかし、その間もそわそわと落ち着かない様な態度は変わらない。
「質問を変えましょう。──何故、まだ無かった事になってるの?」
「……どういう意味だ」
「言っておくけど、もう今夜は誰も来ないわよ。安心なさいな」
「………」
慧音は一層落ち着かない様子で人里が在るはずの場所を見渡す。
「……そんな確証はない。大体、今はあいつらが作った偽の月が出ている。だから妖怪が人里を襲わない確証はないんだ」
「やっぱり……知っていたのね」
「……っ!?」
慧音はしまった、という顔で桜花を睨む。
桜花は良くも悪くも、真っ直ぐである慧音に好感を持っている。
心苦しいが今回はそれを利用させてもらう事にした。
「私達はこの異変を止めに行くわ。……当然、彼女達とは戦う事になる。貴女はそれを黙って見てるの?」
「そ、それは……」
本心では心配で堪らないのだろう。
しかし、無かった事にしているとはいえ人里を離れるのも、という考えなのだろう。
先程からそわそわしていたのはそのせいだ。
「安心しなさい。彩花をここで守り役として待機させるわ」
「しかし……」
「あぁもう、じれったいわね!!」
桜花は慧音を指差すと、そのまま人差し指を上に向けて立てる。
「……一枚よ。スペル一枚で私と勝負なさい。私が勝ったら大人しくついて来ること!!」
「……わかった」
慧音は苦笑いして桜花の提案を受け入れた。
「その堅物の頭、一発殴ってスッキリさせてやるわ」
◇◇◇◇◇◇
BGM「プレインエイジア」
‐桜花Side‐
「チルノ……」
「わかってるよ」
チルノは私から離れた場所へと移動する。
視線を向ければ呆れた様に溜め息をつかれた。
慧音があまりにもほっとけないんだからしょうがない。
……ないったらないのだ。
上空へと移動して慧音と向き合う。
彼女は目を閉じて深呼吸を繰り返していた。
「相変わらず真面目な性格してるわね。そんなにあの子達の心配ばかりじゃ守護者としての力を十分に発揮できないわよ?」
「……そうかもな。しかし、私はこの性格を治すつもりはないよ。それが私なのだからな」
慧音は苦笑いすると構えを取る。
「時には息抜きも必要よ。……と、いうわけで、今夜くらいは私達と一緒に行きましょう?」
慧音はスペルカードを構えると私を真っ直ぐ見つめる。
そして、振り上げると同時に宣言した。
─『日出づる国の天子』
「私を連れて行きたいなら、頑張って避けることだな!!」
慧音を中心として360度全てに赤と青のレーザーが放たれる。
体を捻ってレーザーの間をくぐり抜けようとして……すぐに後ろに下がった。
私が飛び込もうとした場所に赤と青の蝶の弾幕が隙間無く飛び込んできた。
あのまま前に出れば間違いなく被弾していた。
再び放たれるレーザーを回避すればその穴を埋める様に蝶の弾幕が飛んでくる。
さらに、こちらから放つ弾幕も圧倒的な蝶の弾幕によって掻き消されてしまう。
正に慧音らしい真っ直ぐで力強い弾幕である。
しかし、私はそのくらいじゃ止められない。
「……そこだ!!」
弾幕が両方途切れた瞬間を狙って懐に入り込む。
……よし、この間合いなら近接戦闘に持ち込んで爪で──
「かかったな」
ガシッ、と肩を掴まれて慧音の顔が間近にくる。
一瞬呆気に取られた私に、慧音はニヤリと笑みを見せた。
振りかぶる様にのけ反る慧音の姿にハッ、と我に返る。
「し、しまっ──」
──ガゴォン!!
額に感じる強烈な衝撃に目の前が一瞬真っ白になる。
一拍おいて強烈な痛みが全身を駆け巡った。
「──がっ、ぁ」
ふらふらと揺れる頭を押さえて急いで慧音から離れる。
流石に慧音も頭突きの直後は動けないのか、私を追撃してこなかった。
「……い、痛い」
痛みで止まらない涙を必死に拭いながら再び迫る弾幕を避け続ける。
初めて彼女の頭突きを受けたけど、私が前世で学生だった頃にこんな先生がいなくてよかったと、心底安心した。
「夢想封印!!」
強引に夢想封印で道を作り再び慧音の懐に飛び込むと、今度は掴まれる前に素早く蹴りを放つ。
「甘い!!」
「……ッ!!」
しかし、慧音は右手で私の蹴りをいなすと、左手で殴り掛かってきた。
素早く離れて再び体勢を立て直し、弾幕を避ける。
ならば、とまた慧音の懐に飛び込む。
「何度やっても──」
その場でくるりと回転し、同時に尻尾を全て広げる。
モフモフした尻尾が広がり慧音の視界を奪う。
「──なっ!?」
「やあぁ!!」
一瞬視界を奪われて硬直した慧音に向かって渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ぶ慧音を追い掛けてすぐさま追撃する。
「くっ……この!!」
空中で体勢を立て直した慧音は弾幕を放ってくるが密度が明らかに薄い。
持ち前のスピードで全て回避すると、慧音を地面にたたき付けて首筋に爪を突き付ける。
「ふぅ……私の、勝ちだよね?」
「……あぁ、完敗だよ」
慧音は降参とばかりに両手を上げた。
離れて見ていたチルノが傍にやってきた。
「お疲れ様、桜花」
「チルノ……額が凄くズキズキする」
「あらら……赤くなってるよ」
そんな私を見ながら慧音はただ苦笑いをするばかりだった。
◇◇◇◇◇
Stage Clear!!
少女祈祷中……
あけましておめでとうございます!!
今年もどうぞよろしくお願いします!!