Stage2
人間の通り道も、真夜中に出歩くものは獣か妖怪位。
少なくとも人の姿が見える筈も無い。
(※原作、東方永夜抄Stage2より……)
Stage2
『人間の消える道』
BGM「夜雀の歌声~Night Bird」
子の二つ~PM11:30~
◇◇◇◇◇◇
人里へ続く道の一つに、夜中に歩くと人が消えると言われる道がある。
過去にも何度か人里の人間達が行方不明となっているのである。
人里では妖怪の仕業であると言われているが、詳しい情報はない。
しかし、一人だけ命からがら逃げ延びた人間の男性がいた。夜の暗闇とは別の闇を抜け、里まで走り抜けた。
そして、その時の事を説明する時、彼はこう言ったのだという──
“歌が、聞こえたんだ”
◇◇◇◇◇◇
‐桜花Side‐
リグルを倒した私達は再び手を繋ぎながら幻想郷の夜空を飛んでいた。
眼下には細い道が木々の間から見え、その道は真っ直ぐに人里へと通じている。
生い茂る木々よりも高く飛行している私達はゆったりと、散歩をするかの如く気軽に目的地を目指して進んでいく。
「桜花、今回の異変についてどう思う?」
「どう思うって……」
突然のチルノからの質問に一瞬だけ私は戸惑った。
今回の異変は輝夜の従者である永琳が月からの使者から身を護る為に幻想郷を一種の結界で囲み、密室を作り出している、というものだ。
しかし、幻想郷はもとから博麗大結界によって護られており、彼女達の心配は杞憂に終わるのだが……。
「そうね、長い間眠っていたせいで挨拶にも行けなかったから、この機会に彼女達の心配も取り除いてあげましょう」
「ん、了解だよ」
チルノと笑い合ながら先へと進む。
──その時、ふと背後から何者かがついて来る気配を感じた。
私達の背後を一定の間隔を空けてついて来る。
そして、何やら歌の様なメロディーが……ん、歌?
「……桜花」
「ん、わかってる」
チルノと目線を合わせ、同時に左右に別れる。
背後の気配は一瞬戸惑うかの様に動きを止めると、チルノの方へと向かっていく。
もちろん、チルノも黙っている訳もなく、次々と弾幕による攻撃を放った。
「うわわっ!?」
すると、弾幕に驚いた襲撃者は夜の闇に紛れていた姿を現した。
薄い赤紫色の服を着た小柄な体、薄いピンク色の髪に帽子を被り、背中には翼がある。
鳥の妖怪、夜雀のミスティア・ローレライである。
私は成る程、と納得して頷く。
夜雀は地方ごとに伝承が異なるが、その中には山道を歩く人間の前後について来る、というものがある。
夜雀に出会うと犬や狼が現れる前触れであるという話もあれば、反対に出会うと犬や狼が護ってくれるという話もある。
他にも、夜雀は不用意に捕まえると盲目にされてしまうという伝承もある。
更に、このミスティアは『歌で人を惑わす程度の能力』を持っている。
人間を含めた脊椎動物の耳の奥には三半規管という部分があり、体の平行感覚等のバランスを保つ役割を果たしている。
彼女の歌はここを惑わす力があると思われる。
人間は三半規管を狂わされると大抵は姿勢を維持できず、立っていられない。
そのため、激しい頭痛や視界が定まらずに乗り物に酔った様な感覚になってしまう。
生き物にとって、この器官はかなり重要な部分なのである。
私は妖怪、チルノは上位の妖精だ。それなりに人間よりも感覚が敏感であるが、その分頑丈でもある。
ミスティアの力では私達を惑わすには力が足りないようだ。
「うぅ……まさか私の歌で惑わないなんて……」
ミスティアは私達と距離をとって俯きながらぶつぶつと何やら呟き始めた。
「やっぱり、私の歌は幻想郷じゃ理解されないのかなぁ……」
不意に聞こえた呟きに思わず苦笑いする。
彼女の歌は妖怪とは思えない程のノリの良い歌が多い。外の世界よりも文明の発展が遅い幻想郷では一部の若い者にしか人気がないのである。
一部とはいえ、妖怪の人気があるというのもどうかと思うが……。
とりあえず、このままでは先に進めないのでミスティアを正気に戻す事にしよう。
「あら、私は貴女の歌は好きよ? ノリが良くていいじゃないの」
「……え、そ、そうかな」
褒められたのが嬉しかったのか「えへへ…」と笑いながら恥ずかしそうにするミスティアに少しキュンとしながらも、体に妖力を纏う。
「貴女の歌は今度じっくり堪能するとして、今はそこをどいてくださる? 私達、急いでるの」
ミスティアはこちらの様子にビクリと体を震わせたが、気合いを入れ直す様に首を振ると、構えをとる。
「最近は滅多に人が通らないし、夜になっても力が満たされないし……もう誰でもいいから襲わないと気がすまないの!!」
ミスティアの声と同時に彼女の周りに弾幕が現れる。
そこそこの数があり、避けるのは簡単そうだが油断はできない。
「さぁ、私が鳥目にしてあげる!!」
◇◇◇◇◇◇
BGM「もう歌しか聞こえない」
ミスティアが撃ち出してきた渦の様に散らばる弾幕を避けながらこちらからも弾幕を撃ち込んでいく。
チルノは私の弾幕が途切れた瞬間を狙って剣で切り掛かるが、鳥の妖怪であるミスティアには僅かにスピードで負けているようで、なかなか捕らえる事ができていないようだ。
そもそも、チルノは速く飛ぶ事はできても急に曲がるのが苦手なのである。性格がそのまま現れているようで面白いが、いざという時にはこれが意外と役に立ったり立たなかったり……。
今回は後者であり、鳥であるミスティアの素早くて縦横無尽な飛行を相手に少々手こずっている。
「ああもう、ちょこまかと!!」
チルノは剣の刃部分にあたるスイカソードを外すと、ミスティアへと投げつける。
ミスティアは一瞬目を見開いて驚くが、すぐに回避行動をとる。スイカソードはミスティアの遥か下を通り、彼女には当たらなかった。
「ふふ、どこを──」
狙ってるの、と続けようとしたミスティアの顔が驚愕に変わる。
彼女の目の前にあるのは新たに投げられた二本の剣があった。
慌てて降下する事で剣を回避したミスティアへと、私が切り掛かる。 ──先程チルノが投げたスイカソードを片手に持ちながら。
「え、うわわっ!?」
「せいっ!!」
切り掛かる私に気がついたミスティアが慌てて大きく間合いを離すために後退する。
しかし、残念ながらその方向には逃げられない。
ミスティアが何かに気付いたかの様に後ろを振り返ると、先程チルノが投げた二本の剣が戻ってきていた。
更に、先程とは違い冷気を纏い、周りに氷柱の弾幕を作り出している。
氷柱はまるで網の様に並んでおり、まるでミスティアという獲物を誘い込んでいる様だ。
「──くっ!?」
ミスティアは小さく呻くと後退するのを止めて私と向き合う。
ミスティアは武器等を持っていない。この紫特製の剣を受け止めるのならば爪に妖力を纏わせるだけでは折れてしまうだろう。
それを理解しているのか、ミスティアは回避の構えを見せる。
しかし、私もそれを易々と見逃すつもりは──
『ブラインドナイトバード』
「───っ」
「……桜花?」
私が突然動きを止めたのを訝しむ様なチルノの声が聴こえた。
それもそうだろう。私はミスティアを完全に間合いの中に納めていたのに攻撃しなかったのだから……。
「……参ったわね」
「……え?」
私の呟きにチルノが驚く。
私としたことが、油断した。
「ふふふ、そっちのお姉さんは掛かったみたいだね」
ミスティアの声が聞こえる。私の隣で焦る様な気配のチルノも。しかし、姿は見えない。
視界が極端に悪くなった。
いや、これはもう殆ど見えないと言ってもいい。
「目が見えないならもう勝ったも同然よ!!」
ミスティアの言葉と同時に放たれる高密度の弾幕の気配。
これは確かに目が見えていても避けるのは大変だろう。
──でも、甘いよ。
「え、えぇ!?」
ミスティアの驚く声を聞きながらも弾幕を回避し、一気に肉薄する。
チルノも「おぉ~」なんて声を上げてるけど、貴女もできると思うけどね。
別に難しい事なんてしていない。
ただ目を閉じたまま弾幕を避けているだけなのだから。
「な、何で避けれるの!?」
ミスティアは必死に弾幕を放ちながら私へと疑問を投げかける。
「……貴女、私が何の妖怪か言ってみなさい」
「……え? お、狼で……あ!!」
狼と縁が深い夜雀が狼の事を忘れるなど、平和ボケしているとしか思えない。
狼は犬と同様に人間以上の聴力や危機察知能力……何より、嗅覚が発達している。
妖力から作られている弾幕など、私にとっては目を開けていようが閉じていようが変わらないくらいに判別できる。
嗅覚や聴覚によって場所を判断し、回避が必要な弾幕のみを避ける。
すると、あら不思議。目の前には美味しそうな小鳥ちゃんがいるではないか。
「捕まぁえた!!」
「──ぁ」
にっこり笑いながら「まだやる?」と言う私に、ミスティアはただ両手を上げて首を横に振るばかりであった。
◇◇◇◇◇◇
Stage Clear!!
少女祈祷中……