◆チルノの今とこれから
今回はチルノが桜花をどう思っているのかがわかります。
季節は冬…紅葉していた葉も全て落ちてしまい、時々雪も降るようになってきた。
この季節はあたいの一人舞台だ。
あたいは氷の妖精チルノ。霧の湖を縄張りに毎日他の妖精達と遊ぶだけの毎日を過ごしてる。
妖精は大自然そのものであり、それ故に死ぬことはない。だから死を恐れずに無鉄砲な事をやらかす妖精もいる。まぁ、あたいはそんなことしないけど…
そんなわけで毎日湖や人間の街で遊び回る毎日を送っているあたいだけど今日は違う。
久しぶりに桜花が帰ってくるからだ。桜花はここ数百年を人間の街で過ごしているが、たまに帰ってくるのだ。
鈴音桜花…これはあたいがつけた名前だ。あたいが生まれた時から湖にいた狼の妖獣で、毎日湖に来ては景色を眺めて帰るという変わった妖怪だった。
この霧の湖から少し離れた場所に“妖怪の山”がある。山全体が妖力を持っていて妖怪の住家にはもってこいの場所だ。その山の麓から霧の湖まで川が続いているため、たまにだが妖怪が流れてくることがある。と、いってもほとんどが河童で、昼寝をしていたら流された、といった感じなのだが…
彼女も最初は妖怪の山で暮らしていたみたいだったけど、何故かこの湖に入り浸っていた。そんな彼女にあたいは興味がわいて何日も隠れて観察をしていた。
ある時、湖に来た彼女は霧がかかっている湖を眺めながらむう、とつまらなそうに目を細めた。霧がかかっているせいでいつもの景色を見れないからだ。
「ここから見る景色、好きなんだけどなぁ」
その言葉を聞いた時、あたいは彼女に声をかけていた。
「ふ~ん、あんた変わってるわね」
あたいに気がついた彼女は少し驚いた顔をした。振り返った時に彼女がつけている桜の花びらの髪飾りからリンと鈴の音がする。何だか不思議と癒される綺麗な音色だった。
自己紹介をしていて彼女には名前がないことがわかった。名前がないなんてどんな生活をしていたんだろうか、と気にはなったが聞かないことにした。あたいは彼女の名前を考えるためにいろいろと思考するがなかなかいい名前が浮かばなかった。
ふと、彼女が髪をかきあげる時に再びリンと鈴が鳴る。綺麗な鈴の音と桜の花びらの髪飾り、鈴の音…桜の花びら……鈴音…桜花…うん、これにしよう!
こうして彼女は鈴音桜花という名前を気に入り、今もその名前を使っている。そしてたぶん…これからも…
桜花はあたいにとっての最初の友達であり一番長く一緒にいる大切な存在。友達というより姉妹のようだ。
あたいはこの関係が嫌いではない。むしろ好ましいと思っている。でも、あたいは素直じゃないからなかなか言葉じゃ表せない。“大好き”だとか“これからも一緒だよ”と言ってみたいけど、どうしても恥ずかしくて言えないままだった。
そんなある日、彼女から尻尾が二本になったと聞かされた。彼女の尻尾はふかふかしていて触り心地は最高だ。あたいは小柄だから彼女の尻尾一本がちょうどいい抱き枕になる。あたいは普段は素直になれないから、せめて寝る時だけでもと思って彼女の尻尾を抱き枕にして寝ることにした。“いつまでも一緒にいよう”という意味を込めて…
桜花は妖怪の中でも反則的に強い。他の妖怪よりも長生きで、妖力がずば抜けて高いということもそうだが、一番の原因は能力だ。
あたいに『冷気を操る程度の能力』があるように彼女にも能力があった。
それが『ありとあらゆるものを拒絶する程度の能力』だ。
彼女曰く、これは見方を変えれば何でもできるという事であり、反則な力らしい。以前彼女と能力の確認のための模擬戦をしたことがあった。その時、彼女は“攻撃が当たる”ことを拒絶した。するとあたいの攻撃は桜花に当たる直前で突然向きを変えて明後日の方向に飛んでいった。本当に反則的な力である。
ただこの能力、拒絶するものの規模で消費する妖力が違うらしい。最近になって「今なら死んだ人間も生き返らせることができる」と言っていた。ただし、妖力の大半を消費するので数日はまともに動けなくなるらしい。
じゃあ妖力が減るのを拒絶したらいいじゃんとあたいが言ったところ、どうやら妖術等で消費する妖力はなんとかできるが能力で使う妖力はどうにもできないらしい。意外なところで不便な能力だ。
まぁ、桜花が無理するような事はあたいがさせないけど…あ、勘違いしないでね?あたいは桜花が倒れたら看病が面倒だからこう言ってるだけだからね!?べ、別に心配はしてないんだからね!?
…ん?そもそもあたいは誰に話してるんだろ?
そういえば今日は妖怪の山で大きな宴会があるとか…新しい妖怪も増えたから顔を合わせる事も踏まえてるみたいだけど…
まぁ、何でもいいや。桜花や大ちゃん、ルーミアがいるならあたいはどこにいても楽しいから。
それにしても桜花…遅いなぁ。遅れた罰として今日も寝る時は桜花の尻尾を抱き枕にさせてもらおう。わざと甘えてみるのもいいかもしれない。
ああ、これからも彼女と一緒に笑い合えたらいいな…
これはあたいの願い。小さいけど、大切な思いなんだ。
その思いを胸に秘めてあたいはようやくやって来た彼女に手を振るのだった…