夢現1
死ぬ事よりも、忘れ去られる事の方が恐ろしい。
──夢。
──私は、夢を見ている。
──それは、とても懐かしい夢。
──人と、妖怪と、魔法使い。
──吸血鬼と、亡霊と、鬼。
──蓬莱人と、死神と、閻魔。
──現人神と、神々と、天人。
──半獣と、妖獣と、神霊。
──人と、人ならざる少女達が、笑っている。
でも、何故──
──私はそこにいないのだろう?
◇◇◇夢現◇◇◇
──私は、見ていた。
──誰にも知られず、誰にも気付かれず。
──臆病な私は
──ただ、見ているしかできなかった。
──滅んでいく世界を
──倒れる者達を
──そして、私の大切な恋人を
──そして、
世界が一つ、拒絶された。
拒絶された世界は0へと還り、新しく1から生み出された。
新しく生まれた世界は限りなく同じ道を辿った。
しかし、決して同じではない未来へ向かって。
私の理想だった未来へ向けて、ゆっくりと、世界は歩き続ける。
闇色の私は光に憧れ、それを掴もうと手を伸ばした。
限りなく広がる空の蒼さに憧れて、必死に、ただ──求め続けた。
そして、私は──限りなく光に近づけた。
今度は、きっと大丈夫。
私は自分を彩れる。
青い、蒼い、もう一人の私と、今度こそ──。
私の夢を──現に変えるために。
◇◇◇◇◇◇
「──ぅ、ん」
襖の隙間から入る光で、私は目を覚ました。
まだ朝日が昇ったばかりで、夏だというのに少しひんやりとした空気が辺りを漂っている。
「……私、は」
はて、さっきまで何か……そう、とても大切な夢を見ていた気がする。
とても大切な筈なのに──思い出せない。
思わず額に手を当てて軽く首を振る。
昨日までと違い、軽くなった髪が首の動きに合わせてサラサラと靡く。
「お~い、姉さん。朝ご飯だよ~」
襖の向こうから自分と同じ声に呼ばれて我に返る。
気がつけば数十分も考え込んでいたらしい。
「えぇ……今行くわ」
布団から起き上がり、襖を開ける。
こちらに振り返るもう一人の私と博麗の少女。
「ほらほら、早く食べないと冷めちゃうよ、彩花!!」
「……えぇ、そうね」
思い出せないなら、無理に思い出さない方がいいのだろう。
とても大切な夢だけど、その夢は──
どこか、私を拒絶している様に感じたから。
~夢現2へ続く。