Final Stage
Final Stage
『灯台下暗し』
Second Day~10:00~
‐博麗神社‐
◇◇◇◇◇
‐桜花Side‐
萃香との戦いを終えた私は、神社に帰るとすぐに就寝。体力回復に時間を使っていた。
戦い終わってから気づいたけど、萃香に投げられた時、実は肋骨を二本ほど骨折しかけていた事が判明した。
痛みには耐性があるからそれ程気にしてはいないけれど、怪我をしたのは事実。ここは静かに体を休める事にした。
「……ん……ふぁ~~」
寝起きのぼー、とする頭を左右に揺らしながら洗面台へと向かい、顔を洗う。
スッキリしたところで髪や尻尾を櫛でブラッシングして、いつものように髪をポニーテールにする。
紐に編み込まれた鈴が“凛”と澄んだ音を鳴らすのに満足げに頷くと、少し遅めの朝食を食べに台所へ向かう。
霊夢の姿はないので、犯人を捜して再び幻想郷を飛び回っているんだろう。
朝食を軽く食べ終わると、食器を洗い、縁側でお茶を飲みながら一息入れる。
自分の体を探って怪我の治り具合を見る。
肋骨はもうすっかり治っていた。
妖怪は怪我の治りが早い。一晩寝れば大抵の傷は治ってしまうのだから…。
「ほんと……妖怪って便利よね」
そう呟いて、隣に置いておいた団子へと腕を伸ばして──
咄嗟に体を捻った私のすぐ脇に大量の札が飛来し、大爆発した。
「───ちっ!?」
空中で体勢を立て直した私は、次々に飛来する札を転がって回避すると、体を勢いよく起こして跳躍し、神社の鳥居の上へと移動した。
横目で見た神社の縁側は、多少傷がついているがすぐに直せるレベルだった。
その事に安堵しつつ、目の前にいる少女を睨みつける。
「さて、何故こんな事をしたのか、説明してもらうわよ……」
私は腕を組んで目を細めると、目の前で舌打ちした少女の名前を呼んだ。
「ねぇ?──霊夢?」
「………」
博麗の巫女──博麗霊夢は無言で私を見詰めてくる。
彼女が私に攻撃したという事は、私が今回の異変の犯人だと思われているのだろうか…。
「答えなさい、霊夢。何故、私を狙ったの?」
「……ふっ」
霊夢は皮肉めいた笑みを浮かべると、私を“ビシリッ”と音がするかと思う程の勢いで指差した。
「思えば簡単な事だったのよ……」
「……?」
先程と同じ真剣な顔で語る霊夢を見ながら、私は首を傾げる。
「幻想郷をひたすら捜しても犯人は見つからない。つまり、元々犯人は隠れてなんかいないんじゃないのか……私はそう考えたのよ」
「……はぁ?」
得意げに胸をはって話す霊夢に、つい間抜けな声をあげてしまう私。
「そこで私は考えたのよ。前回も前々回の異変も解決しに動いた桜花が、何故か今回は動かない……なぜかしら?」
いや……昨日の夜から早朝にかけて行動したし……犯人と交戦もした。
肋骨を二本も骨折しかける程の怪我までしたのに……。
「と、いうわけで……桜花が犯人に違いない、という結論に至ったわけよ。正に灯台下暗し!!」
うわ、面倒臭くなって色々と考える要素をすっ飛ばして強引に私へと矛先を向けている様にしか思えない。
元々短気な性格であった霊夢のことだから、犯人が見つからない苛立ちを発散させるつもりかもしれないけど…。
「それでも、自分の神社の神様に手を出すなんて……」
私は痛くなってきたこめかみ辺りを指で揉みながら溜め息をついた。
「さぁ、観念なさい!」
「駄目だこの子、早く何とかしないと……!!」
仕方なく、私は札を構える霊夢に向き直るのだった。
◇◇◇◇◇
BGM「Demystily Feast」
‐SideOut‐
霊夢はすぐさま手に持っていた札を次々と桜花に向けて投げつける。
桜花は鳥居の上から地面へと飛び降りると、すぐに走り出した。
霊夢の投げた札は地面にぶつかる直前に角度を変え、再び桜花へと向かって来る。
霊夢がよく使うホーミングタイプの札である。
「……はっ!!」
桜花は振り向き様に爪を振るい、札を次々と切り刻む。
刻まれた札はただの紙となり、地面へと落ちる。
桜花は全ての札を落としたのを確認すると、霊夢を指差す様に腕を上げる。
それと同時に桜花の周りにも大量の弾幕が現れ、一斉に霊夢へと標準を向ける。
合図はない。
一瞬だけ、全てが静止したかの様な静寂があったかと思えば、次の瞬間には全ての弾幕が霊夢へと撃ち出されていた。
しかし、霊夢は神社の周りを旋回しつつ、弾幕を全て回避する。
そして、霊夢の周りにも札を使った弾幕がばらまかれ、神社を囲む様に配置された。
地上にいる桜花とは違い、空を飛び回る霊夢の方が圧倒的に移動できる範囲は広く、勝負を始めた時にこっそり仕掛けた神社を囲む結界のせいで桜花は外に逃げられない。
神社の境内を陣取る桜花へと狙いを定めると、霊夢は待機している全ての弾幕へと発射の命令をする。
しかし、霊夢の合図よりも先に、霊夢よりも高い場所から降り注ぐ青い弾幕達が彼女の仕掛けた弾幕を全て撃ち抜いて相殺させる。
「──っ!?」
自らの勘が危険を知らせ、咄嗟に頭上に自分一人を囲める程の結界を張ると、衝撃に備える。
少し遅れてから、霊夢の張った結界にもいくつかの弾幕がぶつかり、結界を揺らしながら消えていく。
桜花が先程放った弾幕が戻ってきたのだと、霊夢が思った時、ハッとして桜花へと視線を向ける。
そこには、既に新たな弾幕を生み出した桜花が霊夢へと視線を向けているところであった。
霊夢は頭上の結界を片手で支えて維持しつつ、足元にも新しい結界を作り出す。
それと同時に、桜花から放たれた弾幕が足元の結界へとぶつかる。
頭上と足元からの同時の攻撃に、結界を維持する霊夢の顔が歪む。
空にいるからといっても決して安全であるわけではない。
『避ける範囲が広い』という事は、それと同じだけ様々な角度から『狙われる可能性』があるという事だからだ。
桜花がいる地面は頭上からくる攻撃に対処するだけでいいので、防御が完璧であれば様々な攻撃を考える時間が取れる。
反対に空を飛んでいる霊夢は上下左右全ての攻撃に対処しなければならず、それだけ集中しなければならない。
戦術を考える隙など有りはしない。
「──封魔陣!!」
このままではマズイと感じたのか、霊夢は封魔陣を発動させると、周りの弾幕を全て消し去る。
すると、それを待っていたかの様に霊夢の体が六つの光の紐に拘束される。
「くっ…これは!?」
光でできた紐はどうやっても外れず、逆に霊夢の自由を奪っていく。
霊夢が光の紐を辿ると、そこにはスペルカードを持つ桜花が立っていた。
─縛符「束縛のグレイプニール」
桜花の宣言と共に六色の弾幕が霊夢を囲む様に展開される。
グレイプニールは北欧神話に登場する狼の姿をした怪物──『フェンリル』を拘束したとされる魔法の紐である。
グレイプニールは六つの素材から出来ており、フェンリルを完璧に拘束したと言われている。
霊夢は何とか抜け出そうとするが、両手両足を縛られているため上手く抜け出せない。
必死にもがく霊夢へと弾幕が迫る。
「くっ……夢想亜空穴!!」
霊夢は咄嗟に一瞬で短距離を移動する技──『夢想亜空穴』を発動させると、弾幕の範囲外へと抜け出した。
霊夢に当たらなかった弾幕達は全て互いにぶつかり合い、相殺されて消えた。
事前にリンとの修行で完璧に修得しておいた事に安堵しつつ、桜花へと視線を向ける。
桜花は再び弾幕を撃ち出すが、霊夢は同じ手を二度も食らう程甘くはない。
空中にいては苦戦すると考えたのか、霊夢は境内に降り立つとお祓い棒を構え、桜花へと走り込む。
しかし、霊夢にとって地上に下りる事は決して有利にはならない。
地上は桜花のテリトリーだ。彼女の能力が完璧に発動するのは間違いなく地上なのだから。
故に、霊夢は真正面から桜花へと向かっていく。
勝てるとは思っていない。
ただ、彼女なりの意地というものがあったのだ。
「(せめて、一撃だけでも入れないと気が済まないじゃないの!!)」
霊夢とて桜花が犯人ではない事はとっくに解っている。
異変解決を急ぐあまりあてもない考えを巡らせ、根拠もない推測から桜花へと喧嘩を吹っ掛けたに過ぎないのだ。
所謂八つ当たりである。
しかし、霊夢にとって気軽に相談できる相手はかなり少ない。
親友と呼べる異変について何も知らない白黒の魔法使いに相談するよりは自分の身内に……そう思っていた。
しかし、前回も前々回の異変でも頼りになった桜花は縁側で一人、お茶を飲んでいるではないか。
自分の手伝いに行くでもなく、自ら異変を解決するでもなく、ただいつも通りに過ごしている桜花を見て、霊夢は一抹の不安を覚える。
──もしかしたら異変に気づいているのは本当に自分だけではないのか?
──もしかしたら桜花はもう手伝ってくれないのか。
そう考えてから「…はっ」と自虐的な笑いが漏れた。
「(なんて、私らしくない……)」
いつからこんなに弱々しい考えをする様になったのか、と自分の不甲斐無さに溜め息がもれた。
とにかく、こうしてあてもない苛々を発散させようとした結果、気づけば桜花に攻撃している自分がいた。
攻撃してしまった以上、素直に謝ればいいのに、霊夢は戦うのを止めなかった。
桜花が手伝ってくれないのが悪い。……悪いったら悪い。
そして、走り込んだはいいがあっさりと桜花に足をすくわれ、転倒した霊夢を桜花は馬乗りになる体勢で押さえ込んだ。
「さぁ、捕まえたわよ」
ニヤリと笑う桜花を見ていて自らの行いを情けないと思い、自然と瞳が潤むのを感じつつ、それをごまかすつもりで霊夢は桜花を睨むが、溢れる涙が頬を伝って流れていき失敗に終わる。
「え、ちょ、ちょっと!?何で泣いてるの!?」
霊夢が泣くなど天地がひっくり返っても有り得ないと考えていた桜花は怪我でもさせてしまったのか、と焦った様子で霊夢を抱き起こす。
しかし、霊夢の涙は止まらない。
怪我がない事を確認した桜花は、霊夢が何故泣いているのか解らずあたふたと視線をさ迷わせる。
「あ、あの…霊夢?」
「………」
「え、えっと……ご、ごめんなさい!!」
霊夢の手を握りしめて勢いよく頭を下げた桜花は、恐る恐る顔を上げ、視線だけで霊夢を見上げる。
「あ、あの…その……」
「……桜花の、馬鹿」
「…はぅ!?」
突然そう言われた桜花が落ち込んだ様にヨロヨロと二、三歩後ろに後ずさる。
「桜花が悪いんだから……」
「え、いや、その…」
「…覚悟しなさい」
「…え、えぇ!?」
涙目で睨まれて思わず後ずさる桜花だが、不意に背中が何かにぶつかる。
「…え」
振り返れば、凄くいい笑顔をした紫が立っていた。
「桜花と霊夢が戦ってる気配がしたから来てみれば………一体、ナニヲシテイルノカシラ?」
「…あ、いや、その……」
紫は桜花の肩に手を置くと、笑顔を深めてスキマを開く。
「実は心配したチルノもこの戦闘を見てたのよねぇ……」
桜花の目の前に開いたスキマからチルノが出てくる。こちらも凄くいい笑顔だった。
「…チ、チルノ?」
「……桜花、霊夢を泣かしたの?」
「え!?いや、違っ……え、私が悪いの!?」
チルノは笑顔のまま紫を見ると、紫はウインクしてみせる。
チルノは口パクで紫に「まかせた」と告げると、オロオロする桜花の手を引いてスキマの中へと消えていく。
「さぁて、しばらく会いに来てくれなかったし……お仕置きも含めて、今夜は寝かせてあげないんだから。ねぇ、桜花?」
「な、ちょ、チルノ!?そんな───」
紫はスキマが閉じるのを確認すると、霊夢の頭に手を乗せて撫でる。
「大丈夫よ、霊夢。桜花もちゃんとわかってるし、私も貴女の事をちゃんと見てるから…」
「紫…」
「私が一緒に犯人、探してあげるわ。だから泣かないで?」
「………」
霊夢は無言で頷くと、顔を赤くしながら俯く。
この後、紫の能力で強制的に姿を現した萃香が自らの羞恥と罪悪感、その他諸々で怒り狂った霊夢に一方的にやられてしまうのだが、それはまた別の機会にでも語られるであろう。
◇◇◇◇◇
Stage Clear!!
少女休息中…
原作よりも可愛らしい霊夢を書こうとした結果がこれだよ!!
簡単にまとめると、霊夢は異変解決を手伝ってくれない桜花を見て拗ねてしまったのです。
知らず知らずのうちに家族である桜花を頼りにしていた、という事であり、お母さんに甘える子供の様な感じの霊夢を出そうとした結果……途中から急展開になってしまいました…orz