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東方~青狼伝~  作者: 白夜
萃夢想編
65/112

Stage4


 お待たせしました!!



 


Stage4


『かくれんぼの終幕』


Second Day~2:00~


‐霧の湖‐


◇◇◇◇◇



‐桜花Side‐




 紫との弾幕ごっこを終えた私は、湖の辺で月を見上げていた。

 隣にはスキマに腰掛けた紫と、まだ霧の姿だが伊吹萃香がいる。


 何故こんな事をしているかというと、早い話が時間潰しである。


 妖怪が一番力を発揮できる時間帯。

 所謂“丑三つ時”になるのを待っていたのである。


 相手はあの伊吹萃香である。鬼という種族は個人差はあれど、生粋の戦闘好きである。

 流石に戦闘狂(バトルジャンキー)ではないとは思うけど、腕試しをよく挑んでくるのは間違いない。


 そんな鬼という種族である萃香も、当然ながら腕試しは好きな部類に入る。

 しかも、今回の相手は私だ。手加減などしてくれないだろう。さっきから周りを漂う霧から、早く戦いたい、という気配が漂ってきている。


 やるからには全力で、という意見を認めた私はこうして夜が深まるのを待っているのである。



「そろそろいいかしら?」



 紫の呟きが聞こえた瞬間、辺りを漂っていた霧が一斉に集まりだした。


 すぐに形を成した霧から小柄な少女が飛び出してきた。


 腰まである少しくすんだオレンジの髪を白い紐で括り、頭には赤いリボン。

 少し形が歪な角が二本生えており、左の角には青いリボンがついている。

 スカートを履いているのに、肩から破り取られたシャツの様な服や両腕に付けられた分銅のおかげか、随分と活発な元気娘の様な印象を受ける。


 彼女こそ、鬼の四天王の一角にして“技の萃香”と呼ばれる、伊吹萃香である。



「やあやあ、紫。久しぶりだね。そして、そっちの青いお姉さんははじめましてかな?」



 酒の入った紫色の瓢箪を傾けながら、既に赤い顔をしている萃香は初対面の私にさえ、友人と接する様な態度で笑顔を向けてくる。



「久しぶりね、萃香。元気にしていたかしら?」


「私にそれを聞くのかい? 私はそんなにやわじゃないよ」



 紫に、ニシシ、と笑いかける姿からはとてもじゃないが、彼女が鬼だなんて感じられない。

 しかし、彼女が纏う雰囲気は、正しく歴戦の勇者も逃げ出す程に巨大で力強い。



「さてさて、じゃあそこのお姉さんに自己紹介するとすかねぇ」



 萃香はふらふらとした頼りない歩き方で私に近づく。



「私は伊吹萃香。こんな成りだけど、鬼だよ」


「私は鈴音桜花。幻想郷の守り神なんかをやってるわ」



 萃香は私を上から下までじっくりと観察した後、ニヤリと口元を歪める。



「幻想郷を守るからには相当強いんだろう? どうだい、私と腕試しでもしないかい?」


「私は基本的に戦いは嫌いなんだけど──いいわ。今夜は特別よ。貴女が満足するまで相手しましょう」



 私が笑いかけると、萃香は本当に楽しそうに笑う。


 そして、次の瞬間、萃香が半身の体勢になると同時に彼女から感じる力が一層強くなる。

 ズンッ、と体にかかるプレッシャーが増して、久しく感じていなかった本気の戦いを前にした緊張が体中に駆け巡る。


 私は深呼吸すると、少し前屈みの体勢になりつつ、“十本”ある尻尾を全てさらけ出す。



「──なっ!?」


「へぇ……」



 紫が驚愕した表情をして、萃香は更に笑みを深くする。



「伊吹萃香……」


「鈴音桜花……」



「「いざ、尋常に、勝負!!」」






◇◇◇◇◇



BGM『御伽の国の鬼が島』







 萃香は地面を蹴って真っすぐに私に殴り掛かる。

 一切の無駄がない程の完璧な直線移動だ。ちょっと体をずらしただけで回避できる攻撃である。


 しかし、私はあえて避けずに迎撃する。


 鬼は真っ向勝負を好み、小細工は一切使わない。それが鬼の美徳であり、逆に弱点でもある。


 迫る萃香の拳に私の拳をぶつける。


 腰を若干落とし、両足をしっかりと踏ん張って放った渾身の一撃は、私が押し負けるという結果に終わった。

 すぐさま真横に転がって回避すると、目標を失った萃香の腕が地面を砕いた。


 若干痛む拳をひらひらさせながら、私は流石に鬼との力比べは難しいと判断した。

 すぐさま戦闘方法を撹乱を主にしたスピードタイプに切り替える。


 萃香の周りを縦横無尽に駆け回り、跳ね、そしてその合間に攻撃を繰り出す。

 まだまだ本気ではないけど、萃香はぎりぎりで攻撃を避けては辺りを見回しつつ警戒している。


 スピードでは私の方が速い。幻想郷最速の名は伊達ではないのだ。



 しかし、鬼というのは侮れない生き物で、徐々にだが私の動きを見切り始めている。

 これは長期戦は不利になるだろう。


 萃香の真正面から殴り掛かると、萃香も目で追っていたのか私に向かって拳を振るってくる。


 そこで、私は足を踏ん張りスピードを急激に落とした。



「ありゃ?」



 速い速度から急激に減速したことにより、萃香は拳を振るタイミングを見失い、見事に空振った。

 少し間の抜けた声を出しつつ体勢を崩した萃香へと蹴りを放つ。


 萃香は腕を交際させて防ぐが、それなりに勢いをつけた私の蹴りは萃香を難無く吹き飛ばした。



「わひゃ~~!!」



 衝撃により吹き飛んだ萃香は、再び間の抜けた声をあげながら木々を薙ぎ倒して林の中へと消えていった。


 それから少しの間静寂が訪れる。



 あれだけの衝撃を受けても、萃香はまだまだ余裕そうな顔をしていた。

 鬼のタフさに思わず苦笑いする。紫だったら今の一撃で間違いなくダウンなんだけどなぁ…。



「ふぅ、びっくりしたぁ…」



 林の中から出てきた萃香は、服に着いた土や草を払うと、腕を回して再び構える。



「今度は、私からいくよ!!」



 直後、萃香が何もない空間を殴った。


 それだけで、私は腹部に強い衝撃を受け、吹き飛ばされた。



 ──空気を殴って衝撃波を!?



 認識が甘かった。


 彼女程の力と能力があれば、衝撃波を作り出す事など簡単だろう。


 急いで空中で受け身をとり、体勢を立て直す。

 その時、目の前に黒い玉が迫ってくるのが見えた。その向こうには何かを投げた体勢の萃香がいる。


 萃香がニヤリ、と笑う。



「──弾けろ」



 次の瞬間、私の目の前にあった玉がいきなり爆発した。

 火花を周りに散らしながら、まるで花火の様に。


 当然、至近距離にいた私は爆発に巻き込まれた。



「──くっ!?」



 目と鼻の先で起きた爆発により、ふらふらする頭を何とか働かせて、私は大きく後に下がる。


 ここは一旦、距離を開けて──。



「──捕ま~えた!!」


「──っ!?」



 突然右腕を捕まれ、思わず振り返った私の目の前に萃香がいた。


 萃香は、左手で私の右手首を掴んだまま、開いた右手でスカートのポケットから一枚のスペルカードを取り出す。



─鬼符『大江山悉皆殺し』







「──ぁ」





 萃香が使うスペルの一つで、相手を投げる、という珍しいスペルである。


 私がそんな知識を前世の記憶から引っ張り出している間に、私は萃香に腕を捕まれたまま、空へと引っ張り上げられる。



「覚悟しときな、ちょいと痛いよ」



 珍しく真剣な顔で言う萃香に思わず苦笑いする。



「お手柔らかに──」



 そう呟いた瞬間、私の体は地面へと投げつけられた。



「──っぁ──ぅ」



 ゴガンッ、と鈍い音を立てて地面が大きく割れる。

 背中から伝わる衝撃に、思わず言葉にならない悲鳴が口から漏れた。


 流石は鬼といったところか…今、衝撃で一瞬意識が飛んだ。


 地面に埋もれたまま、激痛の走る体の状態を確認する。


 骨折も無し、打撲はあれど、戦闘に影響は無し、額を少し切った様で出血してるけど、問題無し……よし、大丈夫だ。



 埋もれた地面から這い出して服に着いた土を払う。


 投げられた衝撃で至る所がボロボロだけど、私の妖力で修繕できるから大丈夫でしょう。



「ありゃりゃ……割と本気で投げたんだけどねぇ…」



 視線を向けると、少し驚いた顔の萃香がいた。

 確かに、あれだけの力で投げられたくせに、私には目立った外傷はない。


 あ、いや…額を少し切ったくらいかな?


 とにかく、キツイ一撃をもらったので私もお返しをするとしよう。



「私の本気のスピード……見せてあげる」




‐Side End‐



◇◇◇◇◇




‐紫Side‐



 今、私は桜花と萃香が戦っているのを上空からスキマに腰掛けて眺めている。


 萃香は幻想郷が博麗大結界に覆われる前に知り合った。

 人間に騙され、危うく殺されそうになったところを他の鬼達と命からがら逃げ出してきたらしい。


 鬼という種族は嘘が嫌いで、正々堂々とした勝負を好む。


 しかし、元より力の強い鬼達に人間が勝つ為にはどうしても真正面から挑むのは得策とは言えない。むしろ自殺行為だ。

 そうなると、自然と人間達の戦いは策を巡らせた姑息な戦いが多くなっていった。

 そして、遂に鬼達は人間達に不覚をとり、住んでいた山を追われてしまったのだという。


 鬼達は、最後まで人間達が正々堂々と挑んでくると信じて待っていた。



 その結果が──



 そこまで考えていた時、下から物凄い音が聞こえたので視線を下に向けると、地面が大きく割れており、その中心に僅かに青い色の服が見えた。


 どうやら桜花が萃香に投げ飛ばされたらしい。

 いくら桜花が強いといっても、力の象徴たる鬼と力比べをするのは危うい。

 おそらくスピードで攻めたのだろうが、ああ見えて萃香は動きが速い敵を捕まえるのが上手い。

 周りにあるモノを手当たり次第に萃めて進路の妨害をしたり、萃めたモノを逆に勢いよく散らす事で牽制したりするのだ。

 これが意外と対処に困る攻撃であったりする。

 “技”の萃香とはよく言ったものよね。


 しばらくしてから桜花が這い出してきた。


 額を少し怪我しているが、他に外傷は見当たらない。

 鬼の攻撃を受けてあれだけで済んでいるのが不思議だが、生憎と桜花に常識は通用しない。

 なんと言っても彼女には不可能な事が限りなくないと言える程の強力な能力を持っている。



 非常識の中の非常識──それが彼女、鈴音桜花という妖怪なのだから。



「私の本気のスピード……見せてあげる」



 桜花がそう呟くと、スペルカードを取り出し、宣言する。



─神霊「夢想封印・爪」



 そして、桜花が両手を地面につくと、その姿が変わる。


 瞳の瞳孔は縦に割れて獣特有の鋭さを増し、体は徐々に獣へと変化する。


 ほんの一瞬の様な時間で、桜花は真っ青な狼へと姿を変えた。

 大地を踏み締める前足には、光でできた巨大な爪が輝いていた。


 ──真夜中の湖に、狼の咆哮が響いた。




 萃香が掌を撫でるように動かす。

 すると、そこから手の平サイズの小さい萃香が次々と現れて桜花へと向かっていく。


 桜花はその小さい萃香を尻尾で全て叩き落とした。

 落ちた萃香達は霧の様に霧散して本体へと戻る。


 一見、無駄な行動に見えるが、萃香は桜花が動く前に既に次の攻撃の準備を開始していた。


 右手を掲げ、徐々に大きく振り回し始める。

 すると、彼女の周囲にある小石や砂利が集まり始める。


 回転速度を上げる程、右手に握られた石は大きくなり、遂に普段の桜花の身長を越える程に巨大化した。


 萃香は『密度を操る程度の能力』を持っている。

 これを使い、自分自身の密度を薄くして霧に変えたり、萃香が認識したモノを集めたりする事ができる。


 石や岩を集めて作り上げた巨大な岩盤を、萃香は躊躇なく投げつけた。


 桜花は萃香を見上げ、一瞬姿勢を低くしたかと思うと、次の瞬間には萃香の目の前にいた。

 飛んでくる岩盤を回り込み、萃香のいる高さまで跳躍したようだが、私にもよく見えなかった。



「──っ!?」


『はぁっ!!』



 息を呑んだ萃香を、桜花は妖力で硬化させた尻尾で地面へと叩き落とした。

 更に、落ちる萃香よりも速く地面に着地すると、今度は後ろ足で再び空へと打ち上げる。


 そして、空を仰いだ桜花の前足から光の刃が無数に放たれる。



「う…おおおおおぉぉぉ!!」





─鬼神『ミッシングフルパワー』




 夢想封印が萃香に当たる寸前、突然萃香が巨大化した。


 自らの密度を上げ、体の面積を増やしたのだ。


 巨大化した萃香が腕を振り抜き、迫る刃を全て消し去る。

 萃香の腕には小さな傷があるものの、あの巨体ではかすり傷と同じだろう。



「…っ!? 桜花がいない!?」



 反撃しようとした萃香が桜花を探すが、辺りを探しても姿が見えない。


 私はこの時、夢想封印をめくらましにして姿を隠したのだろうか、と思っていた。


 しかし、桜花はとても近くにいた。




「鬼さん、こっちですよ~」




 桜花がいたのは萃香の肩の上だった。



「いつの間に!?」



 萃香は慌てて桜花を振り落とそうと、左手を桜花に向けるが、最早手遅れだろう。


 あの場所は完全に桜花の間合いであり、スペルで巨体になった故に行動が遅い萃香では間に合わない。



「夢想封印!!」


「ひゃう!?」



 力を込めた桜花の夢想封印が萃香の顔に直撃し、大爆発。萃香は目を回しながら地面へと崩れ落ちた。



「うん、いい勝負だったわ。またやりましょうね」



 人型に戻った桜花は、倒れた萃香の頭に手をおくと、優しく撫でる。


 はたから見れば鬼を子供扱いしている様にも見えるわね。


 やはり、彼女は凄い。


 私は桜花の傍へと歩きながら、そんな事を心の中で呟いた。




◇◇◇◇◇



Stage Clear!!



 少女祈祷中…




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