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東方~青狼伝~  作者: 白夜
萃夢想編
63/112

stage2


 いつの間にかPVが57万を超えていました!!


 応援してくださっている皆様、ありがとうございます。


挿絵(By みてみん)

 


Stage2


『風神少女』


First Day~14:00~


‐博麗神社‐



◇◇◇◇◇



‐桜花Side‐



 昼を過ぎて気温も高くなり、心なしかぽかぽかとしてきた時間帯。そんな中、私は相変わらず神社の縁側に腰掛けて紫が持ってきた書物を読んでいた。


 その書物は藍が書いた物らしく、三途の川の距離を求めた計算式がビッシリと懸かれている。



「三途の川って、人によって長さが違うはずなんだけど…」



 そう呟いた私はまた一つ、頁をめくる。


 複雑な式の羅列は、人間には絶対に理解できない部分も多く、見ただけで嫌気がさす程の雰囲気を醸しだしている。

 私はそんな式を眺めながら団子を一つ口に放り込む。


 ──うん、美味しい。



 それから、ふと顔を上げて爽やかな青空を眺める。

 霊夢は今頃何処を飛び回っているのやら…。


 意気揚々と出発したものの、中々目当ての相手が見つからず、苛々している霊夢の姿を想像して思わず口元が緩む。



 この異変の犯人は簡単には見つからない。

 なぜなら、今の彼女には姿がないから。

 幻想郷に薄く広がる霧──。

 これが彼女の今の姿であり、存在感も薄く、簡単には気付けない。



 私は、次の宴会までに霊夢に見つけられるのか、少しの期待を持ちながら見守る事にしている。



「──と、言いたいところだけど」



 私は立ち上がりながら再び空を見上げる。


 傍観すると決めたばかりなのに、こちらに向かう気配がある。

 しかも、かなり速いスピードだ。

 おそらく幻想郷で三番目くらいに速いだろう。


 ちなみに、一番は私、二番目が真矢だ。


 

「それにしても、この気配、どこかで──真矢?……いや、違う。真矢に似てるけど、少し違う。……これは──」



「あややや、やっと許可をもらえましたよ!!」



 明るい声と共に、空から一人の少女が降りてきた。


 肩にかかるくらいの黒髪、白いブラウスに黒のミニスカート。背中には黒い翼。手には一台のカメラが握られている。


 鴉天狗の少女──射命丸文は、満面の笑みで私の前に立った。




「──なるほど、真矢の親戚の誰かね?」


「あやや?お祖母様を知っているということは、貴女が鈴音桜花さんで間違いないですね?」



 お祖母様──か。


 真矢も、私と会わないうちに幸せな家庭を作っちゃって……。

 私は、彼女がまだ若い頃からの知り合いだし、友人──よりは年下の妹みたいな感じだったから、感慨深いわね。



「真矢をお祖母様と呼ぶということは、貴女が文ちゃんで間違いないわね?

 真矢から話は聞いてるわ。可愛い孫だってね」


「そんな、お祖母様ったら……」



 頬を染めながら恥ずかしがる文を改めて眺めてみる。


 髪の長さを変えたら、正に真矢そっくりである。真矢の場合は妖術で身体能力を補ってるから、本当はもうだいぶ歳なのだが──。

 それに、若い頃の真矢よりも更に元気がいい。真矢はどちらかと言えば内気で、趣味の書物作りの情報集め以外は滅多に自分のテリトリーから出なかった。

 しかし、この子は一年中どこかを飛び回っている様な印象を受ける。良く言えば行動的、悪く言えば落ち着きが無いと言える。



「今日はお祖母様の許可を得て、私と手合わせして頂こうかと思いまして…」


「手合わせ?」



 そう言うと、文はポケットから手紙を取り出して私に差し出す。

 中を確認すると、どうやら真矢からの手紙らしい。



『私の孫が一通りの修行を終えたので、前々から会いたいと言っていた貴女に会わせる事にしました。

 修行の成果をみるつもりで相手をしてあげて下さい。


      ~真矢~』



 彼女らしい簡潔な文章だった。でも、それが彼女らしくて、思わず口元が緩んだ。



「わかったわ。手合わせの件、喜んで受けましょう」



 私は背伸びをしつつ、文の頭に手を乗せる。

 文は嬉しそうに笑うと、大きくバックステップで距離を取る。



「では、お相手、お願いします。いきますよ!」



‐Side Out‐



◇◇◇◇◇



BGM「風神少女」





 文の手に握られた紅葉を彷彿とさせる天狗の団扇が、ひらり、と動く。ほんの少し、そよ風程度を起こす程の動きだった。


 しかし、文が目を見開くと同時に空気の塊が撃ち出された。

 微かに目に見える程度の密度に集まった風が桜花に迫る。


 桜花は右腕をゆっくり持ち上げると、煙を払うかの様な様子で横に振り抜く。


 パァン、と何かが破裂する様な音が響き、彼女の青い髪を通り抜ける風が靡かせた。



「──風の圧縮具合は合格。でも、もう少し形を整えた方がいいわね。じゃないと、今みたいに軽く撫でただけであっさり形が崩れるわ」



 文は目を見開いて驚いた。


 今の風は文が小手調べのつもりで放ったとはいえ、それなりに力を篭めた弾幕だった。

 そして、それは呆気なく打ち消され、さらには注意点まで教えてもらった。


 しかも、その内容が祖母の言う文の課題の一つと同じだった。


 文は修行を終えたとはいえ、天狗の中ではまだまだ若い。そんな彼女には当然ながら苦手な事もある。それが風の形を整える事であった。


 彼女は『風を操る程度の能力』を持っている。

 そんな彼女は、風を使った攻撃をする時、無意識に無駄な工程を省いているのだ。


 天狗達が風を使った攻撃をする場合、「風を集める」「圧縮する」「形を作る」という最低でも三つの工程をこなしているのだ。他にも色々とあるのだが、大まかな工程にはこの三つが必ず入る。


 文はこの工程のうち、三つ目の「形を作る」という工程を行っていない。

 能力のおかげで形を作らずとも圧縮された風自体が強力で、威力が高いからだ。

 しかし、この方法だと桜花や紫などの力の強い妖怪達には通用しない。少し力を入れて払えば、形の決まっていない風はあっさりと霧散する。

 当然、真矢と友人であり、天狗達とも仲がいい桜花はあっさりとその事を見抜いた。


 文が再び団扇を振るうと、今度は風の刃が現れる。先程よりも空気の密度が高く、はっきりと刃の形が目に見える。


 桜花は再び腕を振るうと、爪による斬撃で風を打ち消す。そしてそのまま地面すれすれの体勢で前へと走り出す。

 一瞬でトップスピードに達した桜花は、文の目の前で急停止する。文には桜花の動きは見えていなかった。

 交際する視線──桜花は笑い、文は驚愕した顔で桜花を見下ろしている。

 腕を振り抜いた体勢で固まっていた文は、ハッ、とすると、急いで腕を戻しながら打撃を行う体勢に入るが、その前に桜花の右手がすでに文の腕を掴んでいた。



「その腕の振り方じゃ間に合わないよ。私を相手にするなら、まずは接近を許しちゃいけない」



 次の瞬間──文は空中に投げ飛ばされていた。



「──ふぇ?」



 一瞬の浮遊感を感じた文は、その後、重力に従い落下する感覚を覚えた。

 ハッ、と我に返った文は空中で素早く体勢を立て直す。


 神社の境内の端に着地した文は、その場から動かない桜花へと視線を向ける。


 桜花が振り返る時、髪を括る紐に付けられた鈴が、凛、と音を奏で、穏やかな笑顔を向けられた。



 ──あぁ、遠い。



 文は心の中でそう呟いた。

 自分には遠すぎて触れることさえできない、と彼女は俯いた。



「──文」



 名前を呼ばれて顔を上げる。


 そこには、先程よりも穏やかな顔をした桜花がいた。



「貴女はまだまだ強くなれる。今はまだ弱くても──貴女は、いつか真矢だって越えられる。だから…今できるだけの全力で、かかって来なさい」



 文は目を見開いた。


「(私が…お祖母様を……越える?)」



 文は立ち上がると、一枚のスペルカードを取り出した。

 そのカードを少し見詰めた後、文は再び顔を上げる。



「桜花さん、私は──本当にお祖母様を越えることができるでしょうか?」



 その質問に、桜花は頷く事で肯定する。


 次の瞬間──文の姿は巨大な竜巻で見えなくなった。



─神風「風神招来」



 同時に聞こえたスペルの宣言に、桜花は目を細める。


 文が使ったスペルは、真矢が使っていたスペルと同じだった。

 風を集める動作をそのまま攻撃として使うスペル、「風神招来」は、攻撃というよりも、次のスペル発動の為の布石として使われる。


 文の周りに集まる風はみるみる大きくなり、遂に目で見える程の密度を持ちはじめる。


 文は懐から新しいスペルカードを取り出す。


 それは、まだ何も描かれていない白紙のカードだった。


 それに力を込め、徐々にその表明に絵が浮かび上がる。



「私は風──幻想郷の風になる!!」




 文の言葉と同時に、スペルカードがふわり、と宙に浮く。



──「幻想風靡」



 次の瞬間──文は飛んだ。


 そのスピードは風も後押しをしているのか、桜花でさえ目で追うのがやっとである程速かった。


 文が通った後には赤い閃光が瞬くのみで、普通の人間であれば一瞬たりとも姿が見えない。




 しかし──空中を縦横無尽に飛ぶ文を、桜花はその青い瞳で捕らえた。


 文がこちらに向き直るのとほぼ同時に、桜花も迎撃の体勢に入っていた。


 文が桜花へと向かう。現在の速度であれば、二人の間など一瞬で埋まってしまうだろう。

 桜花は文が来るタイミングに合わせて腕を振り抜く。

 桜花の放った横に振り抜く攻撃は、上か下に避ける以外に回避する方法がない。しかし、下に回避してしまえば地面に激突してしまうので、大抵の人なら上に回避すると思う攻撃を──文は下に移動する事で避けた。


 文は桜花の腕が通り過ぎたのを確認すると、地面に激突する瞬間、身体を起こし地面を右足で全力で蹴った。

 あまりにも速い速度と風の後押しもあり文の右足がぎしり、と軋むが、文は止まらなかった。


 そのまま、完全にがら空きとなった桜花の胸元へと飛び込む。



 ──しかし






 ──ズキッ


「──あっ!?」



 突然響いた足の痛みにバランスを崩し、前のめりに倒れる様に、文は桜花の胸元へと頭から飛び込んだ。

 桜花は躓いた様に倒れ込んでくる文を抱き留める様に腕を広げ、文がぶつかると同時に胸元に感じる強烈な衝撃にたまらず息を吐いた。



「──ぐっ、はぁ!!」



 そのまま二人は縺れ合いながら地面を二、三回転がると、賽銭箱に桜花が背中を打ち付ける形で停止した。






◇◇◇◇◇




「痛った~。あれ、なんか柔らかい──って、あれ?」



 文が激しい衝撃から目を開けた時、最初に見たものは“青”だった。


 慌てて身体を起こそうとするが、背中を押さえられる感覚から、漸く自分が誰かに抱きしめられているのだと理解した。



「──ぅ」


「──っ!?」



 頭上から聞こえた声に慌てて顔を上げると、苦痛に歪んだ自らが尊敬する大妖怪の顔があった。



「あれ──桜花様?」



 文の声に桜花は目を開くと、腕を離してくれた。



「あ、あの…桜花様、私…ぁ」



 慌てて謝ろうとした文の頭に桜花の手が乗せられた。



「凄いじゃない、文。まさかあそこで下から攻められるとは思わなかったわ」


「え、で、でも…」



 桜花は鳩尾辺りを押さえてニッコリと笑う。



「ふふ、貴女の攻撃……確かに私に届いたわよ」


「──あ」



 躓いたとはいえ、あのタイミングと位置関係からして文の攻撃はどのみち桜花に届いていただろう。

 文は信じられないという気持ちで立ち上がろうとするが、足に響く痛みに再び座り込む。



「痛っ!!」


「あら、腫れてるわね。地面を蹴った時に捻ったのかしら…」



 桜花は文を横抱きに抱き抱える。所謂お姫様抱っこである。



「え…えぇ!?お、桜花様、ちょっと!?」


「ふふ、いつの間にか“さん”づけから“様”になってるわよ?」



 文は顔を真っ赤にしながら俯く。

 しかし、俯くと視線は自然と桜花の首から下──つまり胸元へと向かうわけで……。



「(さっきの柔らかい感触って──まさか…///)」



 遂に限界を超えた文は目を回しながら気を失うのであった。






Stage Clear!!



 少女祈祷中…




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